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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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九十三話 家族

 暑い・・・苦しい・・・死ぬ・・・・

 

 バルカンが引きこもるようになってから二か月が経過しようとしていた。

 季節感覚がずれそうになると思われたが、季節の虫のおかげでバルカンの感覚は常に正常に保たれていた。

 壊れてしまった心は修復していない。

 心の回復には他人からの信頼・信用・理解が必要不可欠だった。

 理解者が一人でもいれば気が少し楽になるのだが、それすら満足に叶えることができない。

 このバルカンに施された「呪い」によって。

 人と人を繋げるのは、決して大賢者による龍王の虐殺の話だけに限った話ではない。

 他にも色々な話題を見つけ、自分なりの社会ネットワークを築くことが大切だった。

 この社会ネットワークというのが、俗に言う「コミュニケーション」に値する。

 しかし、バルカンは社会交流に恐れを成していた。

 別に他の竜人と話がしたくないわけではない。

 ただ、他人とのコミュニケーションを取るということは、つまり外に出るということになる。

 外に出れば大賢者に襲われるかもしれない。

 その考えが脳裏をちらつかせていたのだ。

 こうネガティブ思考に陥ってしまえば、心の修復に時間がかかってしまう。

 そんなバルカンの部屋に三回のノックが響き渡る。

 律義にノックをするのは恐らくエナだろう。

 バルカンは自室の扉をゆっくり開いた。

 するとそこには青髪をツインテールにしている少女の姿が。


 「リアラ・・・・一体どうしたんだ・・・・?」

 「ちょっとお父さん。大丈夫?かなりやつれてるけど・・・」


 食事はしっかり摂っていたから恐らくは過度のストレスといったところだろう。

 リアラとはあの日以来、顔を合わせていなかったので父のその姿に少々驚いたのだ。

 娘に心配される中、バルカンは優しい口調で、


 「俺なら大丈夫だよ。それより何のようだ?」

 「あ、そうそう。これ」


 リアラはバルカンに一枚の紙きれを差し出した。

 バルカンは迷うことなくその紙に書かれた内容に眼を通した。


 「これは・・・・?」


 バルカンがその内容に困惑するのも無理はない。

 その紙きれには、激しくも繊細に、そして大胆に「龍王戦!」と書かれていたのだ。

 なぜリアラがこの手紙をわざわざバルカンに見せるのかわからない。

 するとリアラが真剣な眼差しをバルカンに向けた。


 「私、この大会にエントリーするんだけど・・・お父さんにも来て欲しい」

 「俺が・・・?」

 

 ますます訳が分からない。

 あの日、確かにリアラはバルカンのことを拒絶したはずだ。

 そんな彼女がいきなり自身の大会を見に来て欲しいと言う理由が思い浮かばない。

 だが、リアラの目は嘘偽りのない真っ直ぐな目をしていた。

 

 「私の成長した姿を見て欲しいの。「氷」龍王バルカンの後継者は私しかいないって感じて欲しいの。だから・・・・」


 その後の言葉を述べる前に、リアラは深々と頭を下げた。


 「お願いします。見に来てください」


 正直、バルカンは断りを入れようと思っていた。

 もし、この大会に赴いた際に大賢者に襲われては今まで引きこもっていた意味がなくなってしまうからだ。

 しかし、リアラが本当の娘にしても娘じゃないにしても、女の子に頭を下げられては断るものも断れなくなってしまう。


 「わかった。お母さんと一緒に見に行くよ」

 「ほんと!?」

 「ああ、その大会はいつなんだ?」

 「え・・と。それが・・・」


 突然、歯切れが悪くなるリアラの口からなかなか大会の日付が出されない。

 そして一分が経った頃に大会の日付が発表された。


 「実は、今日なんだ・・・・」

 「なんだ、今日か・・・・・・・今日!?」


 その告知には正直肝を抜かれた。

 なぜリアラは当日になって手紙を渡したのだろうか。

 恐らく、迷いに迷った末の出された答えと言ったところだろうが、そんなことはどうでも良い。

 今すべきことは、


 「リアラ、準備はもうできてるのか?」

 「あ、うん。私はできてるよ?」

 「そうか、遅れないようにしろよ?すぐに俺達も向かうから」

 「わ、わかった」


 自分でもよくわからない。

 壊れてしまったと思っていた心が復活したような気がした。

 いや、本当は分かっていた。

 だが、それをどうしても受け止めたくなかったのだ。

 受け止めてしまえば、恥ずかしい父親になってしまう気がしたから。

 リアラは遅れないようにとバルカンの部屋から離れていくが、バルカンは未だに扉の前に立ち尽くしていた。


 「くよくよしてても仕方がないってか?」


 死ぬことは誰だって怖い。

 しかし、縮こまってても何も解決されないことは、この二か月の引きこもり生活で実感していた。

 バルカンは震える足でリビングへと向かって行った。


ーーーーーーーーーー


 リビングには、可愛く腰を振りながら料理をするエナの姿があった。


 「お、おはよう・・・」


 二か月も引きこもってたんだ。

 どういう顔をされようと心の準備は出来ていた。

 そして、エナがこちらを振り返ると、


 「あら、おはよう。もう大丈夫なの?」

 「ああ、もう大丈夫だよ」

 「そっか、良かったよ」


 エナは怒るどころか、いつしかの優しい笑顔で話しかけてきた。

 いや、そうじゃない。

 バルカンが目を逸らしていたのだ。

 信頼されない恐怖に抗えずにひたすら目を背けてきたのだ。

 そんなバルカンに、エナは顔一つ変えずに接してきてくれたというのに。

 バルカンの負担にならないようにと毎日部屋の前に食事を置いてくれていたのに。

 

 バカだ・・・俺はバカだ・・・エナはずっと向き合ってくれてたのに・・・バカだ・・・っ!俺は本当にバカだ・・・っ!


 気が付けばバルカンの瞳からは大粒の涙が流れていた。


 「ごめん・・っ!ごめんなざい・・・っ!ごめ・・・・っ!ごめん・・・っ!」

 「いいんだよ。バルカンが元気になってくれただけでそれだけでいいんだよ」

 

 リビングの前で涙を拭うバルカンに、エナは優しく抱擁しながら頭をいつものように撫でる。

 そして、泣き止んだバルカンは、


 「そういえば、今日リアラの「龍王戦」があるんだけど行かないか?」

 「私はもともと行く予定だったよ?そっか・・・リアラちゃんと話せたんだ・・・」

 「何をだ?」

 「ふふ、秘密だよ」


 そのエナの笑顔を見てバルカンは思いついた。


 そうか・・・!そうだよな。あの話を理解されなくても別にいいじゃないか!理解されないのなら、自分で何とかすればいいんだ・・・!そうだよ。何簡単なことを忘れてんだ!


 こんなバルカンでも、龍王と呼ばれるほどの力を有している。

 意識がヘルバトスなので、完全に忘れていたのだ。

 それはさておき、先ほどリアラがバルカンのことを「氷」龍王と呼んでいた。

 千年後の世界で聞いた話だと、龍種には四つの種類があり、炎龍に氷龍、雷龍に古龍に分けることができる。

 その中の氷を操る氷龍の頂点で間違いないだろう。

 だが、念のためにステータスを確認してみることに。

 バルカンはテーブルに着き、生前と同じようにステータスを確認してみる。

 どの時代でもステータスの出し方と表記は一緒なのだろう。

 氷龍の龍王、バルカンのステータスは次のようなものだった。


 攻撃:15000

 防御:14050

 素早さ:8670

 魔法:17600

 テクニック:12090


 生前のヘルバトスのステータスを大きく上回っていた。

 そして装備クラスはと言うと、


 「「氷龍槍」ってことは槍なのか・・・?」


 試しに「氷龍槍」を「武具庫」から装備しようとしたところ、その手際を見ていたエナが全力で止めに入った。


 「ちょ!ここで「氷龍槍」を出しちゃダメ!」

 「え?なんで?」

 「なんでって、引きこもり過ぎて「氷龍槍」の竜神効果を忘れたの?」

 「竜神効果・・・?」


 バルカンはすぐさま「氷龍槍」に記された内容に目を通した。

 確かに竜神効果と記されている場所があり、そこには次のように記されていた。

 

 <竜神効果:氷龍神>

 この武器から常時発せられる冷気に触れたものは絶対零度の力で崩壊する。

 ※但し、所有者はその冷気の効力を受けない。


 エナがすぐさま止めに入った理由がよくわかった。

 こんな武器をここで出してしまったら、間違いなくエナは死んでしまう。

 ステータス画面を閉じ、いつの間にか置かれていた食事に手を付けながらバルカンは、


 「エナを殺さずにすんでよかった・・・」

 「本当だよー」


 バルカンの食べる姿を見ながらクスクスと笑うエナ。

 そしてエナの手作りを美味しく頂いた後には、リアラの龍王戦を見に行くための支度を始める。

  

 「エナー、準備はできたかー?」

 「もーちょっとまってー」


 エナのその発言から十五分後。彼女はようやく支度が整ったようだ。

 おめかししたエナは大変美しく、バルカンは見惚れてしまっていた。


 「バルカン・・・?大丈夫・・・?」


 微動だにしないバルカンに異変を感じたのだろう。

 エナは前かがみになり、バルカンを見上げるように窺った。


 「あ、ああ、問題ない。それじゃあそろそろ行こうか?」

 「そうだね」


 玄関を抜けると、そこには眩い光の世界が。

 コンクリートでできた地面には蜃気楼ができ、近くに住む子供は水遊びをしてはしゃいでいた。

 バルカンは地面に降り注ぐ太陽の光に手を当てながら、


 大賢者に遭遇しないといいな・・・・


 そんなことを思いながら、エナと一緒に龍王戦の会場へと向かって行った。

 

本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

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