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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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九十二話 孤独

 ふふふ・・・・君は現実を受け止められるかな・・・・?


 聞き覚えのある声が、反響してバルカンの耳へと入ってくる。

 その聞き覚えのある声の正体も、すでに分かり切っていることだった。


 テレナシア・・・お前一体何を考えてる・・・っ!お前、大賢者なんだろ・・・?お前がなぜここまでのことをするのか俺にはわからない・・・・


 大賢者は他種族から嫌われる存在だとドレイニ―の口から知った隠しようもない真実だ。

 そんな大賢者は竜人族の敵で間違いない。

 そんな彼女が、竜人の誇りをかけて生きたバルカンに一体何を求めているのか。

 いや、「試練」という形でヘルバトスに自身の過去を見せている理由は、一体何だというのか。

 どうしても自分の存在を思い出して欲しいという自己満足にしか今は受け取れない。

 テレナシアはヘルバトスの弱い部分を改心させると言っていたが、このような「呪い」をかけられてしまっては改心どころかさらに心が弱くなってしまう。

 見た目は大人でも中身は十代のガキだ。

 そんな若くにして孤独を味合わせることは逆効果だとテレナシアは考えもしなかったのか。

 様々の意味を込めたその言葉達に、テレナシアは何も答えることなく、ただニッコリとだけして姿を消そうとする。


 おい・・・!待てよ・・・!ちゃんと答えろよ・・・・!こんな世界で変われるわけないだろ・・・・!


 そのまま無言で消え去ると思われたが、完全に消え去る前にテレナシアは、


 君には期待しているよ・・・ボク自身も・・・・そして、彼も・・・・


 おい・・・・・!


 その言葉を最後にテレナシアはその姿を消し、気が付けばバルカンの視界の先には年季の入った天井が辺り一面に広がっていた。


 「なんだ・・・寝落ちしたのか・・・」


 一体どのくらいの時間眠っていたのだろうか。

 床で長時間眠っていたせいか腰が悲鳴を上げていた。

 バルカンは痛みに耐えながら、上体を起こし辺りを見渡す。


 「そうか・・・エナの部屋でそのまま・・・」


 この部屋で取り乱し、挙句には醜態まで晒してしまった。

 あの時のエナの顔を思い出すことができない。

 それほど、バルカンの心の中には余裕がなかった。

 一体どんな顔でバルカンの顔を見ていたのだろう。

 どうせなら突っ放してくれた方が、バルカンの気持ち的には楽だった。

 この悲しい過去にエナを巻き込まずに済むのだから。


 「どうせなら、全部夢だったらいいのに・・・」


 未だに震える手を頬に持っていき、力の限り引っ張った。


 痛い・・・っ!まだ夢から覚めないのか・・・っ!


 頬が取れてしまうのではないかというぐらい思い切り引っ張った。

 だが、景色は今のまま。エナの部屋のままだった。


 ハハハ・・・・終わったな・・・・


 覇気のないバルカンの心は、もう壊れていたのかもしれない。

 龍王が大賢者に殺されるという運命に抗うことなく、ただ無気力感だけがバルカンの体を支配していた。

 心がバラバラに砕かれ、修復は困難だと思われた矢先、エナの部屋に客人がノックもせずに入ってきた。


 「なんだ、お前か」

 「私がここに来ちゃ悪いわけ?」 

 「そんなこと言ってないだろ?それより何の用だ?リアラ」


 ここはエナの部屋で間違いないというのに、この部屋に入ってきたのはエナではなく青い髪をツインテールに結んでいるリアラだった。

 そんなリアラがこの部屋に訪れるということは恐らくエナに何か用事でもあるのだろう。


 「エナはここにはいないぞ?」

 「そんなこと見ればすぐにわかるわよ。それにお母さんは下で晩御飯作ってたし」

 「ああ、そうか・・・」


 だとしたらリアラは、バルカンに用があるのだろうか。

 リアラの用件を聞こうとする前に、リアラは小馬鹿にするような顔で、


 「そんなことよりも、へぇ~?二人の時は名前で呼び合ってるんだ~?」


 エナが二人の時は名前で呼び合っていると言っていた記憶が、頭の片隅で自然と蘇る。

 完全に墓穴を掘ったが、今のバルカンには全く持ってどうでも良いことだった。

 バルカンは取り乱すことなく、リアラに冷静な態度で応じた。


 「それよりもここに何の用だ?」

 「・・・・」

 

 バルカンに何かしらの違和感を感じたのだろう。

 リアラは何も言わずにバルカンの横に体操座りし、どこか遠くを見つめている。

 その視線の先にバルカンが目を向けると、そこにはバルカンに抱っこされた、小さい時のリアラと思われる少女の写真が飾られていた。

 この部屋に入ってきてから周りを気にしていなかったせいもあり、写真の存在に気が付けなかった。

 その写真を見つめながらリアラがゆっくりと口を開く。


 「今朝はごめんね・・・?いきなり顔面を殴ったりして・・・」

 「あ、ああ。俺なら大丈夫だよ。それよりあの攻撃力をどこで手に入れたんだ?」


 リアラの拳は相当なものだった。

 そこらの男のグーパンチなど比べ物にならないぐらい。

 その攻撃力の根源を知ろうとバルカンがリアラに尋ねると、リアラは悲しそうな顔で、


 「私、龍王学級の序列二位なんだよ・・・?一位の子なんて一般竜人から来た子で、私じゃとても敵わないんだ・・・ハハハ・・・、情けない娘だよね・・・」


 リアラは今にも消えそうな笑顔で悔しさをごまかそうとしていた。

 龍王の娘というだけで、それなりのプレッシャーが重く圧し掛かるのだろう。

 だが、諦めていないだけバルカンよりマシな方だった。

 バルカンは全てを投げ出してしまったのだから、リアラを叱りつけるどころか、馬鹿にする資格すらない。

 落ち込むリアラにバルカンは、


 「いや、凄いよ、よく頑張ってるんだね。俺はリアラを誇りに思うよ」


 それがバルカンが心の底から思った正真正銘の本音だった。

 弱さに立ち向かうその姿勢は、お父さんとは関係なく尊敬に値する。

 龍王であるバルカンの口から、そんな言葉が出たことがよほど珍しかったのか、リアラはエナと似たような丸い目をしていた。


 「どうした?」

 「いや、ちょっと驚いただけ・・・お父さんがそんなこと言うなんて・・・」

 「リアラの中の俺って酷い竜人なのか?」

 「だってそうでしょ・・・っ!!!」


 リアラは、いきなり立ち上がりバルカンを睨みつける。

 その眼はうっすらと輝やいていた。

 窓から照り付ける太陽がリアラの目を輝かせているのだろうか。

 リアラの頬から涙が零れ落ちた時には、太陽が彼女の眼を輝かせているのではないことにようやく気が付いた。

 リアラは涙を零しながらもバルカンを睨みつけ、


 「私が・・・っ!私がどんな気持ちで練習してるかも知らないで・・・・っ!!!知らないくせに叱りつけるだけ叱りつけて・・・っ!良い成績を残せても褒めてくれないで・・・っ!どうしたら・・・っ!どうしたら私は・・・っ!どうしたら私は報われるの・・・っ!!!ねえ・・・っ!教えてよ・・・っ!

教えてよ・・・っ!!!」


 不満を全て言い切ったのかそれ以降、リアラが口を開くことはなかった。

 息を切らしながら鬼の形相をする彼女に、掛ける言葉を完全に見失ってしまう。

 そもそも、娘を突き放すように接してきたのは今のバルカンではない本当のバルカンであり、リアラからそのようなことを言われても返す言葉がない。

 真実を話そうとしても、この口が手がそれを許さない。

 だから、バルカンはこんなことしか言えなかった。


 「ごめん・・・・・ごめんな・・・・」


 謝り通すバルカンをその場に置いて、リアラは部屋の扉付近にへと向かって行く。

 そして、リアラが背中で語るように一言だけ言い残し部屋を出て行った。


 「信じられない・・・・・・」


 扉は大きな音を立てながら勢いよく閉まり、その対極にある静寂さだけが部屋一体に広がる。

 大事なことは何も言えず、誰からも信用も信頼も理解もしてもらえない。

 バルカンの心はもう修復することはないだろう。

 そのぐらい深く、大きく傷跡が残ってしまったのだ。

 バルカンの目からは光がだんだんと消え、周りをよく見ることができなくなっていた。

 俯くバルカンがいる部屋に、律義にドアノックされエナが顔を出す。


 「ご飯できたよー。一緒に食べよう?」


 通常通りのスマイルをバルカンに投げかけるも、バルカンにそれは見えていなかった。

 重い腰をゆっくりと上げ、覚束ない足取りでエナの元へと向かって行く。

 そしてドア付近で待つエナの横に着いたと同時にバルカンは、


 「ごめん・・・・」

 「・・・・・バルカン?」


 バルカンはエナにそれ以上の干渉をすることなく、彼女の元から立ち去ろうとする。

 エナもエナなりに、よく考えたのだろう。

 バルカンの気持ちを優先したエナはバルカンの背中を追うことなく、リビングへと向かて行った。

 そしてバルカンは、フラフラしながらも自室へと向かい、無残にも荒らされた部屋の中心で倒れ込み、そのまま一ヶ月近くは部屋から一歩も出ることはなかったのだった。

 

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