八十六話 三者会議
「ここが会議室だ。さあ入ってくれ」
ゼランに案内された会議室は、いつも暗黒騎士達が話し合いの場として設けていた会議室だった。
ゼランにとっては見慣れた光景で思うところは何もなかったが、ヘルバトスにとってはそうではなさそうだ。
天井にはうっすらと光り輝くシャンデリアに、何人の人が使えるかわからない長々としたテーブル。
そして何より、声が反響しないように作られた完全防音個室。
よほど、話の内容を聞かれたくないのだろう。
そのぐらい重大で、一人一人が自覚しなくてはならない話を今からするというわけだ。
ヘルバトスが会議室へ入ろうとするとメイシアが不思議そうな顔で、
「ヘルにい、来たことないの?」
「え、メイシアは来たことあるの?」
「うん?」
疑問形で言葉を返すメイシア。
メイシアからしたら見覚えのある会議室で、ヘルバトスのように見とれたりはしないのだ。
そんなメイシアを見てしまったら、当然ヘルバトスは取り乱してしまう。
メイシアが知っていてヘルバトスが知らないと言うことは、仲間外れにされた可能性があるとネガティブ思考をもつヘルバトスはつい考えてしまう。
そんなヘルバトスにゼランは、ヘルバトスの肩を優しく叩き、先に会議室へと入っていった。
「単純な話、メイシアちゃんがここに来たときには、ヘルバトスはまだ仲間じゃなかっただけだ」
「え、じゃあ仲間外れとかは・・・」
「そんなことする訳ないだろ。ほら、さっさと話し合いを始めるぞ」
入口付近で立ち止まるヘルバトスを置いて、先に会議室の中へと入り、その後をつけるかのようにメイシアも駆けて入っていく。
取り残されたヘルバトスを最後に会議室の扉が、ガチャンと重い音を立て完全な密閉状態となった。
隔離されれば、機密情報が洩れる心配はない。
適当な位置にヘルバトスとメイシアが着き、ゼランは双方の顔が見れるようにと長々としたテーブルの最前に着いた。
「さて、最初に話し合うのはヘカベル消失についてと他の暗黒騎士達についてだ」
ゼラン一行が、ミラボレアの尻尾の入手のために北の山脈に訪れていた間に、それは起こった。
大国であったヘカベルの王国が綺麗さっぱりその姿を消すのは明らかにおかしかった。
消失にさせるとしてもあの大規模だと一ヶ月は余裕で超える。
だが、北の山脈へ赴いていた期間は、決して一ヶ月を超えていないと断言できる。
だとしたら、この短期間で何があったのか。
この問題の仮説を立てるのが今回の目的である。
「お前達がサタルドス達の容態を見に行っている間に、俺は一度下界に降りて痕跡がないか調べたんだ」
「それで、何か見つかったんですか?」
「残念だが、何一つ残っちゃいなかった。残魔法も何も残っちゃいない」
ヘカベルを消し去るということは膨大な魔法が必要になると考えられるのだが、その魔法の残骸すら残っていない。
本来なら、魔法を使用した後なら残骸のような残り香がするのだが、今回の件に関してはそれすらも匂わせなかった。
誰かが綺麗に回収したとでもいうのだろうか。
そうだとしたら、前々から計画されていた可能性は高い。
しかし、サキュラバーニのスキルで情報は洩れないように細工してあった。
それに、エルフミーラの絶対防御壁も完璧だった。
魔法でそう簡単に壊せる代物ではない。
それをも無にしてしまう存在は六純天使の他にいるだろうか。
ゼランの仮説はこうだった。
「俺の憶測では、六純天使の力を宿した六宝剣の勇者が何かしらのアクションを起こしたんだと思うんだが、二人はどう思う?」
ヘルバトスはドレイニーから六純天使の呪いについて教えてもらったばかりだ。
サタルドスのこともあり、六純天使の力にはそのような力があってもおかしくない。
「六純天使の呪い・・・ってことですか?」
「そうだ。他にも根拠はある。ヘルバトス、武器屋のおっちゃんにつけられたリングは今どうなっている?」
契約の証として外れないようになってしまったリングは、ヘルバトスの指から消えずに残っている。
このリングが存在しているということは少なからずまだ契約は続いているということになる。
ゼランの言いたいことは分かる。だが・・・
「あの人が他の町に出かけったって可能性もあるのでは?」
ヘカベルから出ていれば、消失せずに済む。
そうなればリングは当然消えることはない。
ヘルバトスがそれらしい理屈を並べると、ゼランは一枚の紙を差し出した。
「これって・・・」
「納品書だ。そこに書かれている納品期日をよく見てみろ」
ヘルバトスはゼランの言われる通りに納品期日に目を向ける。
確かに期日が設けられ、その期間はというと・・・
「俺達がミラボレアの尻尾を取りに行っていた期間と被りますね」
「そうだ。だからあのおっちゃんがどこかへ出かけたという線は薄い」
顧客を待たせるような行為は営業マンにはあってはならないことだ。
ゼランが事の全てを話さずとも、各々の頭でよく理解していた。
「だから、六純天使の呪いの力で完全に消去せずに、一時的に消している可能性が高いんだが、なぜその手法を取ったのかがよくわからない」
ゼランの言う通り、消し去りたい衝動があるとするならなぜ一時的に消しているのか。
それともそうするだけの力がないのか。
どちらにせよ、消失させた張本人でないことにはわからない問題だった。
ヘルバトス達が立てようとしているのはあくまで仮説。
結論に持っていく必要はない。
だとしたら、やはり六純天使の線が一番濃厚だろうか。
六純天使が怪しいのには変わりないが、ヘルバトスは他の筋も探ってみることに。
すると、その単語は突然脳内に現れた。
偶然かそれとも必然か。
その線も間違いなく考えられたのだ。
ヘルバトスはゼランにその思い付きの仮説を提示した。
「大賢者の仕業の線もあるんじゃないですか?」
大賢者は誰からも嫌われる存在。
その恨み晴らしにヘカベルを襲ったという仮説も立てることができる。
暗黒騎士を狙った犯行ではなく、気まぐれでヘカベルを消したということも言えなくはない。
それが一番質が悪いといえるが、その可能性とゼランに示すと、ゼランは驚いた様子でヘルバトスのことを窺っていた。
恐らく、ゼランも大賢者の存在は知っているだろう。
だからこそ、ヘルバトスの口から嫌われ者の名前が出されて驚いているのだ。
そう思ったが、どうやら現状というものは少しばかりか、大きく違っているらしい。
ゼランは重そうなその口を開き、
「ヘルバトス、お前は何を言ってるんだ・・・?大賢者は・・・」
ゼランはそう言いかけたまま自身の時を止めた。
大賢者が、一体どうしたのか。
無言のゼランにヘルバトスとメイシアが呼びかけるも、ゼランの様子が明らかにおかしかった。
心拍が荒れていることが目に見えてわかった。
それに加えて額から少しばかり汗がにじみ出ている。
「ゼランさん・・・?」
ヘルバトスが再び呼びかけると、どうやらゼランは自分の世界から脱したらしい。
肩を大きく反応させ、深呼吸で心拍を整える。
そして・・・・
「ヘルバトス、その仮説だがそれはあり得ないんだ」
「え、なんでですか?」
「その理由は今は言えない」
思い詰めたような顔でそう言うゼランに何も言い出せなくなってしまう。
こうして、大賢者の仕業という仮説はここで打ち切られた。
今のところ、残っている仮説は六純天使の力という仮説のみだった。
「どう考えても、六純天使の加護を受けた勇者の仕業以外ありえないんだよな・・・」
「そうですね・・・」
「他にないかなー?」
三人で頭をフル回転させるも、一向にそれらしい仮説が成り立たない。
こうしている時間も勿体ない。そう考えたゼランは、
「とりあえず六純天使の加護を受けた勇者の仕業という方向で行動しよう」
「そうなれば・・・」
「ああ、呪いをかけている対象を殺すしかない」
「そうなりますよね・・・」
「メイシアは、みんながハッピーになるならやるよ!」
フンス、フンスとやる気満々のメイシア。
この中で一番幼稚と思われている女の子がやる気になっているのだ。
ここで手を挙げてしまえば、それこそ男が廃る。
メイシアがやる以上、男共の意思も当然決まってくる。
「殺さなきゃ大切な仲間は取り戻せない」
「ですね、殺すしかないですね・・・」
表向きはそう言うヘルバトス。
だが、裏では恐怖で怯えていた。
モンスターしか殺したことがないヘルバトスに、人間を殺すと言うイメージが全く湧かなかった。
それを悟られないように、ヘルバトスは嘘の仮面を被り続けた。
そんなヘルバトスに何かしらの違和感を覚えたのか、メイシアが何も語ることなくジッと見つめる。
メイシアに悟られてしまったのか?
しかし、普段ならお喋りのメイシアでさえも今日は少し様子がおかしかった。
そんな違和感を覚えつつも、メイシアから終始、その時間だけ話しかけられることはなかった。
そして、ゼランがヘカベル消失と他の暗黒騎士達の行方不明の件に関して仮説をまとめると、次に話されたのはヘルバトスとメイシアだけが知らない機密事項だった。
「そういえば、シハルの話を聞きたかったんだよな?俺もエルフミーラから聞いた話だから詳しくは話せないんだがいいか?」
「もちろんです、知る限りの話で平気なので教えてください」
「メイシアも知りたい!」
初見であの姿を見てしまっては気になるのも無理はないだろう。
そのぐらい衝撃的だったのだから。
ゼランは一つずつ、二人にわかりやすいようにゆっくりと説明をした。
シハルが鬼人族として作られた改造鬼人だと言うこと。
そして、何者かに魂を抜かれ、操られていること。
そんなシハルにも、魂が心のどこかでまだ存在していたこと。
シハルの魂はどこかにあると踏んだサタルドスを中心に探し求めていたが、その間の六純天使戦でサタルドスが戦闘不能になってしまったこと。
ゼランは、シハルに関連する情報を惜しみなく二人に提供した。
こんな残酷な話を聞いて、ヘルバトスはまたしても口を開けなくなる。
ドレイニーの時だってそうだった。
他人の話になると何も言えなくなってしまう。
ヘルバトスという男は、もしかしたら他人を思いやるあまり、言葉が出てこなくなる優しい人間なのかもしれない。
だが、何も言わなければ相手に気を遣わせるということをヘルバトスは知らない。
ドレイニーも気を遣って帰してくれたのにも関わらず、ヘルバトスにはその優しさを全く感じ取っていなかった。
何も喋らないヘルバトスに気を遣ったゼランは、
「この話はここまでにしよう。数時間後に作戦会議をするから。ヘルバトス、一旦サタルドスに挨拶したらどうだ?数日ぶりの再会だろ?挨拶ぐらいはしとけよ」
「あ、はい・・・」
そう言い残し、ゼランは会議室から姿を消す。
そして、会議室にはメイシアと二人きりになり、微動だにしないヘルバトスの腕を掴んだメイシアは、
「いこ?」
「うん・・・」
メイシアに引っ張られ、ヘルバトス達はサタルドスの元へと向かっていった。
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