八十四話 帰還
ドレグリニアを抜けるためのワープゲートをくぐると、そこに広がっていたのはあまりよくない景色だった。
曇り空で辺り一面が何も見えない。
ヘルバトス達は、現実世界へと帰ってきたのだ。
さっそくゼランと合流を図ろうとするが、先ほどにも増して霧が濃くなっていた。
「これじゃあ、何も見えないな」
「でも涼しいね!」
手で直接触ることができない霧を仰ぐように体感する。
確かに冷たくて気持ちがいい。
ヘルバトスの手は、熱がこもっていたためこの温度がちょうどよかった。
だが、本来の目的は霧を体感することではない。
ヘルバトスは辺りを目を凝らして見渡すも、ゼランの生存確認はやはりできなかった。
この霧の深さでは足元を確認するのも困難だ。
下手に動いて、足を踏み外そうものなら大惨事になる。
ヘルバトスが動けずにいると、メイシアが突然走り出す。
「おい!ちょっと待て!」
この霧で考えなしの行動はあまりに危険だ。
ヘルバトスがメイシアの後をすぐに追いかけると、メイシアはある地点に辿り着くなりピタリと動きを止めた。
ヘルバトスはメイシアの背中越しから何があるのか覗いてみると、そこには寝ているゼランの姿が。
「・・・・何で寝てるんだ?」
「さあー?」
ゼランがなぜこんな場所で寝ているかはさておき、ヘルバトスはゼランの体をさすって起こした。
「ゼランさん、ゼランさん」
「ん~?」
いかにも眠たそうな声を出して、細目でヘルバトス達の方を窺う。
ゼランはしばらくの間を置いた後、ヘルバトス達だと認識した途端、飛び上がって起きた。
そしてゼランはヘルバトスの肩をがっちり掴み、
「お前達!無事だったんだな!どこに行ってたんだ!」
ゼランからするとヘルバトス達が神隠しにでもあったかのような感覚だったのだろう。
突然姿を消せば心配にもなる。
ゼランに申し訳なさを覚えつつも、ヘルバトスは自分達の身に何が起こったのか全てを打ち明けた。
ドラゴンと関係を持てないと入れないドラゴンの聖域に足を踏み入れたこと。
そこでドラゴン令嬢と出会い、大賢者のことや六純天使のことを聞いたこと。
そしてミラボレアの尻尾を手に入れたこと。
包み隠さず全てをさらけ出した。
すると、ゼランはいつも通りのニッコリした顔で、
「まあ、お前達が無事ならそれでいい。本当にミラボレアの尻尾を手に入れたんだよな?」
「はい、今アイテムボックスに入ってます」
「そうか、それならもうここに用はないな。ヘカベルに戻るぞ」
「はーい!」
深い霧の中、ゼランとメイシアは迷うことなく先に進んでいき、その後について行くヘルバトス。
ふとヘルバトスの意識は、元居た自分の場所へと注がれた。
理由は言うまでもなく、ドレイニーの件だ。
後悔だろうか。それとも罪悪感だろうか。
どちらにせよ、ヘルバトスは自分自身に掛けられている感情の正体がいまいちよく分かっていなかった。
「おい、ヘルバトス何してんだ?」
「置いていっちゃうよー?」
そして二人の方へと再び歩みを始める。
ヘルバトスが今まさに感じている感情に名前を付けるとするなら・・・・
「臆病・・・か」
晴れない気持ちのまま、ヘルバトスは北の山脈を下山し、下山すれば再び戦武人がヘルバトス達を待ち構えていた。
「チッ、さっさと帰りたいのによー」
「私に任せて!」
メイシアは弓を取り出し、戦武人に向かって魔法矢を放つ。
正直メイシアがいてくれて助かった。
ヘルバトスは、なぜか戦闘態勢にうまく気持ちを切り替えることができなかった。
そんなヘルバトスを守ろうとするゼランは、呪いの効果によって恐らくやられてしまうだろう。
だから、呪いの効果を受け付けないメイシアがいてくれて助かった。
メイシアは、相変わらずのオールステータス0のおかげで呪いにかかることはなく、その場を凌ぎ切った。
「ねーねー、美味しいものの話、忘れてないよね?」
「ああ、忘れてないとも、戻ったら美味しいもの食べようか!」
「わーい!」
メイシアに対して、相変わらずの甘さを見せつけるゼラン。
その光景をみて、本来何かしらのことを思うはずが、今は何も思いつかない。
一体どうしてしまったのだろうか。
臆病者というだけでここまでダメな存在になってしまうものなのだろうか。
答えが導き出せないまま、ヘカベルへと帰還する。
はずだったのに・・・。
「おい、おいおいおいおい」
ゼランの言語能力が低下してしまうのも無理はない。
メイシアですら、口を開けて間抜け面をしているのだから。
確かに、ここは北の山脈から見て南に位置する場所だ。
風景も、なんの変りもない綺麗なライトグリーンの草原が広がっていた。
しかし、そのライトグリーンの草原に吹く風を遮断する弊害物が存在してない。
それが意味する事象は、つまり・・・
「おい!ここで間違いないよな?」
「はい、ここで間違いないと思います・・・」
「おい、まじかよ。それじゃあヘカベルは・・・」
少しの沈黙の後にゼランは、
「消されたっていうのかよ」
ゼランの言葉をまるで流すように、風が何もない草原に吹き付けた。
だが、明らかにおかしい。
ヘカベルがあったとされるこの場所に瓦礫などの破片が飛び散っていない。
誰かが持ち帰ったとでもいうのだろうか。
いや、それはない。
わざわざ、瓦礫を持ち帰って何の得がある?
不可解な点はそれだけではない。
まず気づくべきポイント。
それは・・・
「なんで地面が見えないんだ?」
どうやら、ゼランもそこに気が付いたようだ。
もともとそこに建物があるとするなら、地が見えてないとおかしな話だ。
しかし、ヘカベルが存在していたこの場所は、地面が見えていないどころか草原の緑草しかない。
誰かが緑草を植えたにせよ、成長速度が尋常じゃないほどに速すぎる。
とてもじゃないが、考えられる話ではなかった。
まるで、存在していなかったような光景を目にしたゼランは大きく取り乱した。
「あいつらは!あいつらはどうしたんだ!」
ヘカベルの国を任せた暗黒騎士達。
ヘカベルという国が消えた以上、彼らの生存確認をする術はあるはずがない。
「テリトリー!いったん魔界に戻るぞ」
「わかりました!」
「わかった!」
ゼランを先頭に、ヘルバトス達は魔界へと姿を消した。
魔界--------
「おーい!お前ら!帰ってきてるのかー!」
魔界に戻るなり、ゼランはヘルバトス達を置いて魔界の中を探し回る。
「メイシア、俺達も探そう」
「う、うん!」
事の重大さをよく理解しているのだろう。
ヘルバトスとメイシアは、魔界にいるかどうかもわからない暗黒騎士達を必死に探し回った。
そして結果は・・・
「どうだ?いたか?」
「いえ、どこにもいません!」
「ったく、どうしてこうなったんだ?」
頭をこれでもかというぐらい掻きむしる。
一体何が起こっているのか。
当然ながら、ゼラン達はわからなかった。
しかし、思い当たる節があるとするならばゼランは、
「まさか、勇者が天元加護を使ったとでもいうのか?」
「で、でもそんなことができるんですか?そんな存在自体を消失させることなんて・・・」
存在を消すということは、今までに刻まれていたその国の歴史を消去するということ。
だからこそ、天元加護以外に考えられなかったのだ。
「この地を作ったのはあの天使達だ。存在の抹消ぐらい朝飯前だろう」
「そんな・・・」
「ヘルバトスとメイシアはサタルドスの容態を確認してくれ」
「あの、シハルさんは・・・」
シハルは鬼人族の紫色の髪をした女の子。そしてサタルドスの大事な人である。
ヘルバトスの問いに対して、ゼランは、
「サタルドスから直接紹介されたかったんじゃないのか?」
「今はそんなこと言ってられません」
「そうか、だったらシハルの容態も確認してくれ。部屋はサタルドスの部屋のすぐ隣だから」
「わかりました、メイシア行くよ」
「あ、待ってヘルにい!」
ヘルバトスの後を追うように、メイシアはその背中を目掛けて駆けていく。
そんな二人を見向きもせずに、ゼランは再び下界へと降りていく。
その間、ゼラン達に敵意を向ける奴らが着々と動き出し始めていた。
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