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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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八十話 ドラゴンの聖域

 困難を乗り越えて辿り着いた北の山脈の山頂の景色はというと、それはもう今までの苦労とイコールで結びつけることはできないほどに何も見えなかった。

 どうやら山頂付近の天気は曇りらしい。

 雲という弊害物のせいで綺麗であろう景色を堪能することができなかった。

 まあ、本来の目的は観光ではないのだが・・・


 「よし、山頂に着いたな。さっそく祠を探そうか」


 ゼランがヘルバトスとメイシアに探索指示を出すと、二人は言われるがままに祠の探索を開始する。

 そして、それに習うようにゼランも探索を始めた。

 探索範囲は、山頂の全範囲。

 山々が長く帯状に連なっているため、いちいち下山することなく流れで探索することができた。

 だが、問題なのは探索規模であった。

 北の山脈は四に渡る山の集まりである。

 山の数自体は大した数ではないのだが、一つ一つの面積が通常の山よりも大きかったのだ。

 感覚的には、山八つ分の探索をしている感じだろう。

 そして、探索慣れをしていないゼラン達は、山八つ分に要する探索時間以上の時間が経過してしまったのは言うまでもない話だった。

 

 「これで最後か?」


 ようやく最後の山の山頂探索を終えた三人の中で、ゼランがヘルバトスとメイシアに確認を取り、ヘルバトスとメイシアは迷いもなく首を縦に振った。

 次の瞬間、ゼランは頭をポリポリ掻きながら浮かない顔をして、


 「おかしいな、祠がないんだが・・・」


 そう、この山々を隅から隅まで探索したのにも関わらず、祠らしい造形物は見つからなかったのだ。


 どこかで見落としたのか・・・?


 だが、ゼランには隅々まで見たという確信があった。

 だとしたら、一体どこに祠があるのか。

 そもそも、依頼人であるあのマッスル男が勘違いを働いていたという可能性だってある。

 一度ヘカベルに帰還し、問いたださなければならなかった。


 「ヘルバトス、メイシア。一旦ヘカベルに・・・」


 ゼランが二人の方へ視線を向ける。

 だが、そこにいるはずの二人の姿がない。

 先ほどまでそこにいたはずなのに・・・


 「あいつら!一体どこに・・・!」


 探しに行こうとするゼランに突然の睡魔が容赦なく襲い掛かる。

 そして、ゼランの意識はそこで途切れたのだった。


------------------


 カラン・・・カラン・・・


 ヘルバトスとメイシアが音の鳴る方へと視線を向けると、そこには古びた祠が佇んでいた。

 この祠が立てられてからどのくらいの時間が経過したのだろうか。

 それほどまでに祠全体に苔が回っていた。

 そんなことよりも、ようやく祠を見つけたのだ。

 ヘルバトスが、さっそくゼランに祠の発見を伝達しようと思うがそこにいたはずのゼランの姿がない。


 「ゼランさん・・・?」

 

 辺りを見渡すが、ゼランらしき姿がどこにもない。

 それどころか、先ほどまで曇っていた山頂の景色が嘘のように、空一面に快晴が広がていた。

 天に広く行き渡る青空に、地を覆う美しい雲。

 そんな夢にまで見たその光景を目の当たりにしても、ちっとも心が安らぐことはなかった。

 寧ろその逆で、不安でしかなかったのだ。

 ヘルバトスが必死にゼランを呼び掛けるも、返ってくるのは自身の木霊だけ。

 そんなヘルバトスの不安がメイシアにも伝わったのだろう。

 メイシアの震える手は、必死にヘルバトスの袖口を掴んでいる。

 言葉は、一切その綺麗な口から発せられることはなかった。

 奴が現れるまでは・・・


 全く・・・また来訪者か・・・


 その女々しい声と共に現れたのは、一匹のドラゴンだった。

 ドラゴンは、太陽の逆光を巧みに利用して天高くから降臨した。

 その逆光のせいで一瞬だけ、ヘルバトスとメイシアの反応が遅れ、ドラゴンから発せられているであろうその煙に飲み込まれてしまった。

 そうなってしまえばドラゴンの確認が当然できなくなってしまう。

 煙の中、警戒態勢を取るヘルバトス。

 姿が見えない以上、迂闊な行動は許されない。


 やつは今どこにいるんだ・・・?


 目を凝らし、耳を澄ませてドラゴンの動きを確かめるが、ドラゴンは一歩たりとも動いてはいなかった。

 煙が次第に晴れて行き、そのドラゴンの姿を再確認すると、その姿は魔界で飼われているごんちゃんよりも凶悪な目つきをしていて、スケールが全く違う。

 まさに真のドラゴンだった。

 今にも逃げだしたい気持ちを抑えて、ドラゴンと対峙をするヘルバトス。

 そんなヘルバトスにドラゴンは、


 貴様、私を前にして良い度胸してるじゃないか。

 「まあな、これしきの事でビビってたらお兄ちゃんを助けられないからな」


 ヘルバトスの兄であるサタルドスは、このドラゴン以上の力を持つ六純天使にその身を蝕む呪いをかけられたのだ。

 このドラゴンにビビッているようじゃ、サタルドスを助けることなど夢のまた夢。

 六純天使より目の前のモンスターを下に見下して横柄な態度を取るヘルバトスは、傲慢であろう。

 だが、そうでもしないと凶悪な目をしたドラゴンと対峙するのは難しかった。

 

 兄を慕うその心意気は大変立派だが、もう少し現実を見た方が良い・・・。

 「なんだと・・・?」

 貴様は明らかに力不足だ。だからこの私が鍛えてやろうというのだ。この令嬢であるこの私が!


 その言葉を最後に、ドラゴンはいきなりヘルバトスに飛び掛かり、正直ヘルバトスは危なかった。

 ドラゴンがこの地に舞い降りてきてから武器を取り出していたので、その短刀でなんとか攻撃を受け止め切れたのだ。

 もし武器を出していなかったら即死ものだっただろう。

 だが・・・


 「・・・チッ!この野郎・・・!」

 どうした?このままでは押し潰されてしまうぞ?


 ドラゴンの言う通り、このままではじり貧もいいところだった。

 

 このままではメイシアを巻き込みかねない・・・


 かといって、ドラゴンの攻撃が弱まる気配はなく、ヘルバトスが足つく地面は次第に沈みつつある。


 クソ!このままじゃ・・・!


 必死にメイシアを守ろうと、腹に力を入れるも状況は何も改善されない。

 ヘルバトスは自暴自棄になり、雄叫びをあげながらドラゴンの攻撃を受け止めている短刀を振るった。

 突然の出来事に対処できなかったのか、ドラゴンはあっさりと後ろへ後退し、そして・・・・


 なるほど・・・これが貴様がここに呼ばれた理由か。


 一人で納得しているドラゴンだったが、当然ヘルバトスとメイシアには分からなかった。


 「ここに呼ばれた?ここは北の山脈の頂上じゃないのか?」

 んー、半分正解で半分不正解ってところかな?

 「俺達が納得できるように説明しろ」


 するとドラゴンはゆっくりとヘルバトスとメイシアの身に起こったことを語りだした。


 確かにここは北の山脈の山頂だが、山頂ではない。

 「どういうことだ?」

 要するに別次元にいるってことさ。


 ドラゴンから別次元の世界にいると言われてもあまり驚きはしなかった。

 ヘルバトスはすでに魔界という別次元に招待されていたからだ。

 だが、仮に別次元にいたとして、なぜこの場にヘルバトスとメイシアしかいないのか。

 ゼランは一体どうしたのか。

 その答えはすぐさまドラゴンの口から話された。


 貴様達は何かしらの形でこのドラゴンの聖域に足を踏み入れたというわけさ。

 「何かしらの形だと?」

 そう、貴様達は私達龍種と何かしらの関連性を持ち、無事にリンクしたわけだ。

 「その関連性って言うのは・・・」


 ヘルバトスが最後まで言う前に、ドラゴンは口を挟んできた。

 ヘルバトスの胸元を見つめながら・・・


 荒ぶる憤怒に激しい憎悪。ドラゴンたる象徴に相応しいそれ相応の力をその身に宿している。


 荒ぶる憤怒?激しい憎悪?

 

 ヘルバトスにそのような類の感情に心当たりはなかった。

 ドラゴンの何かの感じ間違えを疑ったが、そもそもドラゴンの象徴がないとこの聖域には入れないわけだから、恐らくは間違えていないのだろう。

 無自覚にそのような感情が心の底から湧き出ているのだろうか。

 答えが一向に出せないヘルバトスにメイシアは、


 「ねえねえ、それじゃあなんでメイシアはここにいるの?」


 ヘルバトスの袖口をクイクイと引っ張るメイシア。

 メイシアもドラゴンの聖域にいると言うことは、ドラゴンに関りがあるということだ。

 この件に関してはドラゴンに問い詰めなければならなかった。


 「おい、メイシアはなんでここに呼ばれたんだ?」


 するとドラゴンはメイシアを十分以上見つめる。

 そして出た答えは・・・


 弓・・・ステータス・・・感情・・・どれをとってもドラゴンには関連していない。

 「だったらなんでなんだ!」

 そんなものこちらが聞きたい!だが、この場に呼ばれた以上、何かしらの関連があると言うこと。羽がまだ生えていないただの子供の可能性がある・・・


 ドラゴンのその発言に罵倒を浴びせる少女が一人。

 少女はタコのように顔を赤くして、フグのように頬を膨らませながら、


 「メイシアは子供じゃないもん!!!」


 その光景を見たドラゴンは、


 あなたはどう見たって子供じゃ・・・

 「子供じゃないもん!!!!!!」


 怒りが先ほどに増して膨れ上がるメイシア。

 その魂の叫びだけがドラゴンの聖域に響き渡った。


 

 

 

  

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