七十九話 気配と人格
北の山脈に近づくにつれて、モンスターの強さは比例して強くなっていった。
下級モンスターであるゴブリンしか倒してこなかったヘルバトス達は、当然足止めを食らっていた。
ヘルバトス達が相手していたモンスターは「戦武人」という上級モンスター。
鎧を身に纏った、落ち武者みたいなモンスターだった。
戦武人は下級モンスターや中級モンスターとは違い、モンスター固有のスキルを所持している。
戦武人の固有スキルは「呪い」。
自身を倒した敵のステータスを十パーセント下げると言ったものだった。
その固有スキル単体では大したものではなかったが、敵を倒すごとに呪いが重複していく。
重複すればそれだけがステータスが下がり、敵の掃滅は困難を極める。
固有スキルの効果時間は、おおよそ十分。
その間にも戦武人はヘルバトス達に容赦なく襲い掛かる。
まさにヘルバトス達は窮地に追い込まれていた。
「クソ・・・切りがねーな」
「ゼランさん、どうします?」
ヘルバトスとゼランがこのピンチをチャンスに変える手段を考えている間にも、戦武人はゆっくりではあるが襲い掛かってくる。
死ぬことを回避するためには殺すしか方法がない。
逃げ出しでもしたら、立ち止まった時に逃げてきた分の戦武人が一斉に襲い掛かってくるのだから。
だが、戦武人を殺せばステータスを下げる呪いが、十分間ではあるが自身の首を絞め続ける。
しかもそれが重複して襲い掛かってくるのだから、どちらをとっても俗に言う詰みであった。
「一斉に処理できればいいのだが・・・」
そんな都合が良いスキルをゼランもヘルバトスも持ち合わせていなかった。
だが、一人の少女が全体攻撃のスキルを使えたことを、ゼランはこの瞬間になぜかふと思い出したのだ。
あれほどのインパクトを与えた攻撃だったというのに今の今までなぜ忘れていたのか。
ゼランはすぐさまメイシアに、
「メイシアちゃん!王城で見せたあの攻撃を出してくれないか?」
「おうじょう?」
弓で戦武人と対抗するメイシアには呪いの固有スキルは皆無であった。
メイシアはステータスオール0であるがゆえにそれ以上にもそれ以下にもならなかった。
全く問題はないと思われていたメイシアだったが、一つだけそれを全て無に帰す大きな問題が存在していたことにゼランもヘルバトスも忘れていた。
ゼランの指示を聞いたメイシアの頭の上には、?マークが山ほど浮かんでいるように見えた。
メイシアの謎のステータスの裏に隠されていた、大きな癌とも呼べる問題の正体。
それは、致命的な頭の悪さだった。
頭が悪いという言葉の選択は少しばかり違う気がするが、要するに身も蓋もなく言ってしまえば天然馬鹿なのである。
その天然馬鹿さがこの戦況を大きく狂わす。
ゼランの指示にあった、王城で見せたあの攻撃というのが一体何なのか。
メイシアは、脳内にインプットされた記憶を一から辿る。
一度に二つの事ができないメイシアはその間、戦武人への攻撃の手をやめてしまう。
その後の展開は言うまでもなく・・・
「おい!攻撃の手をやめるな!攻撃しながら考えてくれ!」
「えー、メイシアにそんな高度なテクニックを要求されてもむりだよー」
「ゼランさん!メイシアの背中任せます!」
メイシアを背に、ヘルバトスは襲い来る戦武人の殲滅を謀る。
だが、その姿勢も数十分もすれば朽ち果てるだろう。
だからこそ、いち早くメイシアに思い出してもらわなければいけなかった。
ゼランはゼランで、メイシアの背中から迫り来る戦武人の処理でメイシアにまで意識が回らない。
そして、メイシアが悩み込んでいる間にも二人のステータスは徐々に削られていき、そして・・・・
カン!!!
とうとう刃が、戦武人の柔らかい鎧を通さなくなった。
弾かれる金属音の後に、戦武人達は一斉に殺しにかかろうと二人を襲撃する。
二人が死を覚悟したその時、それは起きた。
邪魔だ!消え失せろ!
どこか若々しい女の声と共に、百はいた戦武人達は風船が破裂したように一瞬にして、全て消え去った。
この危機的状況の打開策を持ち合わせていたのはメイシアただ一人だった。
だが、メイシアではないのは確かだ。
先ほどの声の主とメイシアでは声の音程、音質が全く異なる。
それにメイシアは今も尚、必死に思い出そうと眉間にシワを寄せ、顳顬に人差し指を当てている。
だから、この戦況をひっくり返したのはメイシアではない。
だとしたら、一体誰なのか?
ゼランとヘルバトスは辺りに怪しげな存在がいないか見える範囲で探すもそんな存在はどこにもない。
戦武人を一掃した後も誰かの気配は感じなかった。
もうわけがわからなかった。
だが、九死に一生を得るとはまさにこのことだ。
見ず知らずの恩人には心の中で感謝を申し、この件については深く考えるのはこれきりにした。
考えるだけで、背筋がゾッとするから。
とりあえず、重複に重複を重ねたゼランとヘルバトスは休憩が欲しかった。
ゼランとヘルバトスでとりあえず相談をして、意見が一致したところでメイシアの元へと二人で向かう。
するとメイシアは、
「あ、思い出した!」
「いや、もう遅いよ」
冷静なつっこみを入れるゼランにメイシアは、
「ねえねえ、今のポイント下がった?」
「もともとポイント制度はなかっただろう?」
「あ、今のもノーカンで・・・だめ?」
ダメだとなんとしてでも言いたいゼラン。
大事な場面で活躍できない子にはおいしいものを食べさせられない。
がんばれ・・・!負けるな・・・!俺!
ゼランは自分にそう言い聞かすも、少し滲んだ上目遣いでゼランを見つめるメイシアに勝てるはずもなく、結局は途中で折れてしまう。
そしてゼランは、メイシアの綺麗な髪を優しく撫でながら、
「次頑張ればいいさ。まだまだ活躍できるチャンスはあるからな」
「わーい!ノーカン!ノーカン!」
はしゃぎ回るメイシアを目の保養にするゼラン。
そんなゼランをヘルバトスはダメな大人を見るような目で一人言を呟いた。
「ダメだ、完全にキャラ崩壊してしまっている・・・」
ヘルバトスの中で、ゼランは頭が切れて戦い方が上手い、かっこいいお兄さんだったのだが、今となってはただの幼女好きなお兄さんになってしまっていた。
ヘルバトス自身もそんなゼランに対する邪念を振り払いと思っている。
だが、メイシアに向けるゼランの笑顔を見てしまっては、その邪念を綺麗に振り払うことはできないのだ。
ヘルバトスの中でゼランのイメージが崩壊していく中、ヘルバトスはゼランに、
「そういえば大事なこと忘れてますよ」
「ああ、そうだった」
メイシアに夢中で本来の目的を忘れていたのだろう。
ゼランは喜び回るメイシアに一言。
「俺達疲れちゃったから休んでもいいか?」
戦闘を放棄したメイシアのために戦ったんだ。
少しばかりの休憩は許してくれるだろう。
そんなことを考えていたヘルバトスは浅はかだったと言う他ない。
メイシアという少女が、いつも何かしらの予想外を起こすことを考えてもいなかったのだから。
メイシアは頬を風船のように膨らませて、
「えー、休んでたら早くおいしいものが食べられないよー」
「ちょ!メイシア!?」
ヘルバトスが慌ててその馬鹿な発言をするメイシアの口を抑えつけた。
だが、全てを言い終えてからだったので・・・すでに遅かった。
さすがのゼランでも、問題発言をしたメイシアを咎めるだろう。
ゼランの表情が読み取れないヘルバトスが誰よりも先に謝ろうとした時だった。
ゼランがいつにも増してだらしない顔で、
「しょうがないなー。俺は休憩なしでもいいよ?」
「ちょ!正気ですか!」
ヘルバトスのステータスは、呪いの固有スキルで未だフル回復していなかった。
恐らくゼランも・・・
そんな状況でもメイシアの駄々こねにあっさりと敗北するゼラン。
ゼランが何を考えているのか、ヘルバトスにはもうわからなかった。
ゼランとメイシアがこちらを見つめる中、ヘルバトスもメイシアに敗北せざるを得なかった。
「仕方がないですね、いいですけど何かあっても知らないですからね?」
「大丈夫だって」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
そして二人が歩みを始める中、ヘルバトスの心の中では・・・
もうこの二人がパーティーにいる時は参加するのやめよ・・・
こんな無謀なことで命を落としたくなかった。
サタルドスに救われたこの命。
そんな貴重な命をこんな結末で終えたくなかったのだ。
何かあれば二人を置いて戦線離脱するつもりのヘルバトスだったが、二人の言う通り、ステータスがフル回復するまで、モンスターに一度も襲われることはなかった。
先ほどまで大量に発生していた戦武人との戦いがまるで嘘のように・・・
三人は、奇妙な雰囲気を漂わせるその静寂の道をひたすら歩き続けるのだった。
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