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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: 陽巻
三章 ヘルバトス編
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七十八話 謎の少女メイシア

 王城を抜け出したゼラン一行は、北の山頂にある祠へと足を向けていた。

 しかし、不慣れな武器のまま「古龍種」であるミラボレアに挑むことは、殺してくださいと言っているようなものだ。

 もちろんゼラン達に死ぬ意思はこれっぽっちもない。

 だからゼランとヘルバトスは、北に位置する草原に発生するゴブリンと戦いながら北の山脈へと向かって行った。

 メイシアはというと、弓の攻撃を一度も使用せずにただ二人の後をついていく。

 正確にはヘルバトスの後なんだが。


 「くらえ!」

 グゴゴゴゴ・・・


 青年のような声とは裏腹に、一撃一撃に重みがある攻撃を繰り出すゼラン。

 ゼランは、見た目に似合わず筋力が人並以上かそれ以上あるのだろう。

 見ただけでも重々しいその大剣を片手で軽々と振り回していた。

 その一撃をストレートに食らったゴブリンは、虚しくも一撃でおさらばしてしまう。

 元々のステータス分にプラスして武器のステータスが追加されるのだから、サタルドスまでとはいかないが、六宝剣の勇者と互角以上に戦えるだけの力は十分に得ていた。


 「さて、ヘルバトスの方は・・・」


 ふと気になったゼランはゴブリンと戦うヘルバトスの方を窺う。

 どうやら大丈夫そうだった。

 偶然かそれとも何かしらの特殊能力なのかヘルバトスのステータスが、ゴブリンを倒すにつれて止まることなく上がり続けている。

 まるで、成長規制がかけられていないように。

 気が付けばヘルバトスのステータスは、武器を持たない暗黒騎士と同等の力になっていた。

 そんなヘルバトスの額から汗が頬を伝っているのが目に見えてわかる。

 その原因は言うまでもなくメイシアだった。

 ヘルバトスは、メイシアをかばいながら複数に渡るゴブリンと戦っているのだ。

 ヘルバトスは戦闘に慣れてはいないため、人一倍に体力を消耗する。

 そんなヘルバトスを助けてやりたいゼランだったが、心を鬼にしてその戦いっぷりを観察する。

 ゼランが手助けしないのは、ヘルバトスの成長の妨げになると判断したからだ。

 今後の戦力になるヘルバトスには、いかなる状況にも対応できる判断力とそれをすぐさま行動に移す迅速力を身に着けて欲しい。

 そう願い、今は黙ってヘルバトスの姿だけを目にするゼラン。

 そして、あらかたゴブリンを排除したヘルバトスはその場に倒れ込んだ。

 遠くまで聞こえるヘルバトスの喘息。

 そんなヘルバトスにゼランは、


 「よくやったな。これぐらいの力があればいけるよな?」


 息苦しむヘルバトスに、ゼランはそう聞くも返事をするのに時間がそれなりにかかった。

 そして、ヘルバトスがようやく話せるだけの体力を回復した頃に数十体に渡るゴブリン達がヘルバトスに目掛けて襲い掛かってきた。

 

 このままでは話が進まない。


 そう考えたゼランはメイシアに指示を出した。


 「メイシアちゃん。悪いけどゴブリン倒してくれるかな?」

 「えー、メイシアがー?」


 何のために弓の武器を与えたのだろうか。

 戦闘を嫌がるメイシアにゼランはある方法を取った。

 それは幼子に良く使う手段であった。

 メイシアはそこまで幼い少女ではないが、精神年齢は六歳ぐらいだろう。

 だからこの手段に掛ける価値はあった。


 「もしこの納品依頼中に沢山活躍出来たらおいしいものを沢山食べさせてあげよう」


 すると、メイシアの目から光がだんだんと溢れ出し、最終的には宝石のようにキラキラ輝かせていた。


 「ほんとに!?」

 「本当だとも」

 「じゃあがんばる!」


 見事に物で釣られてしまった少女は自身の手に弓を召喚する。

 そして弓を構えて炎炎とたぎる魔法矢を放った。

 一つではなく三つを同時に。


 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


 ヘルバトスに目掛けて走ってきたゴブリン数十体が、一瞬でその魔法矢によって燃やし尽くされた。

 そんな光景を見てしまったら嫌でも目を離せなくなってしまう。

 その自然の摂理にヘルバトスとゼランは抗うことはできなかった。

 信じがたいその状況の他にも未だ解明されていない謎がやはりあった。

 それは魔法矢を放った後のメイシアの状態だ。

 魔法矢は魔法を凝縮して放つもの。

 流星群といい、今の三本打ちといい、そう簡単に乱発できるものではない。

 なのにメイシアは平然と立っている。

 その謎を解明するためにゼランは、


 「メイシアちゃん。ステータスを見せてくれないか?」


 他人のステータスは相手の同意の元、見ることが許されている。

 ゼランの問いかけに対して、メイシアは隠すことなく自分のステータスをゼランに公開した。

 メイシアによって見せられるステータスを隅から隅まで確認しようと思ったゼランだったが、最初に目から入った情報を受けて完全にフリーズしてしまう。

 メイシアのステータスはと言うと・・・


 攻撃:0

 防御:0

 素早さ:0

 魔法:0

 テクニック:0


 オールステータスが0だったのだ。

 さすがのゼランも腰を抜かした。

 

 一体どういうことなんだ?

 ステータス・オール0だったらゴブリンですら一撃で倒せないだろ!

 それを活かす何かしらの特殊能力が備わっているのか?


 ゼランはメイシアのステータス・特殊能力・スキルなど、メイシアに関わる全てを調べ尽くした。

 だが、メイシアが攻撃力0で敵を一撃で倒す意味と魔法値が0で魔法を使う意味を見出すことはできなかった。

 メイシアは謎に包まれた少女であった。

 メイシアを見る目が少しばかり変わるゼランに対してメイシアは、


 「ねえねえ!今のは何ポイント?」

 「何ポイント?」


 ゼランの頭の中の思考が複雑に絡み合う。

 そのポイントがメイシアのステータスなどに何か関りがあるのか。

 メイシアが言うこと全てが何か含まれているように感じ取ってしまう。

 そんなゼランに対してメイシアは頬をフグのように膨らませて、


 「むぅー、ポイントはポイントだよ!ポイントつけないとどれだけがんばったかわからないでしょ!」

 

 理不尽にも説教されるゼラン。

 そのやり取りを目にしていたヘルバトスが、


 「ポイントつけたら食べる物に限りが出ちゃうよ?」


 ポイント制度を導入してしまうと食べれる物と食べれない物がはっきり区別されてしまう。

 おいしいもの全てを食したいメイシアはヘルバトスが言いたいことをすぐさま理解した。

 自分の利になる時のみに頭が良く回るのがメイシアという少女なのである。

 メイシアは説教していたはずのゼランの袖を優しく引っ張り、


 「今のはノーカンね?」

 「お、おう・・・」


 その上目遣いの可愛さゆえに親のようにダメとは言えなくなってしまう。

 ゼランはもしかしたら幼女好きなのかもしれない・・・

 そんなことはさておき、ある程度の力が三人とも身に着いたところでさっそく本会議に入る。


 「さて、俺はそろそろミラボレアの元へ向かっても良いと思うんだが、二人はどう思う?」


 ゼランの問いかけにヘルバトスは深刻そうな顔で、


 「まだ俺的には特訓を重ねたいところですが」

 「まあ、道中にもモンスターはいるだろうからそれらのモンスターの討伐で特訓するってのはどうだ?」

 「まあ、それでもいいですけど・・・」


 そう口にするヘルバトスだったが、顔からまだ納得していないのが伺える。

 そんなヘルバトスにゼランは一言謝罪を入れてから、自分達が置かれている現状況を説明した。


 「悪いなヘルバトス、俺達には時間がないんだ。勇者がヘカベルを襲ってきたときに対等に戦えるのは武器を持つ俺達だけなんだ」


 勇者と対等に戦える暗黒騎士と言えど、それはあくまで勇者が天元加護を使っていなかったらの話。

 もし、使われようものならゼランを含めた武器を所有する三人しか生き残ることができない。

 だから、今は早く事を済ませてヘカベルへと帰還せねばならなかったのだ。

 ゼランがヘルバトスを必死に説得するとヘルバトスは、


 「俺は良いですけど、メイシアは?」


 ヘルバトスの了承だけ得ても仕方がない。

 パーティーメンバーは三人で、メイシアにも自身の考えを述べる権利はあった。

 だが、その権利を行使することなくメイシアは大きく縦に首を振った。

 まるで、異論が一切ないかのように。

 ヘルバトス、メイシアの意思の確認も取れたところで、ゼランはまだ遥か遠くにある北の山脈を指さした。


 「目的地まではかなりの距離がある。さっさと移動しよう」

 「はい、わかりました」

 「早く終わらせておいしいものたべる~」


 なぜか言葉の箇所に韻を踏むメイシア。

 それほどまでにおいしいものに飢えているのだろう。

 先頭を行くメイシアの上機嫌な背中を見て、ゼランとヘルバトスは微笑みながら、メイシアが向かっているであろう北の山脈へと向かって行った。

 

 

 

 

本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

そして、ブックマークを付けてくださった読者様、本当にありがとうございます!

読者の皆様の期待に答えられるようにこれからも執筆を頑張っていきますので応援の程よろしくお願いします!

次の更新は、29日の0時になります!

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