七十七話 弓の使い手
王城に到着したゼランとヘルバトスはさっそく暗黒騎士達が待つ王の間へと赴いた。
王の間に繋がる扉を開くと、向こうには四人の暗黒騎士とメイシアが楽し気に会話をしている光景があった。
ゼランはそのほんわかした雰囲気に入り込む勇気が持てず、ヘルバトスの方へ視線を向けるも、どうやらヘルバトスもゼランと同じ状況に陥っていた。
向こうは話に夢中でこちらの存在に気が付いていない。
いつまでもこうしているわけにもいかず、ゼランとヘルバトスは一歩ずつゆっくりと近づくと、十歩進んだ地点で一人がゼランとヘルバトスの存在に気が付いた。
その一人は話の途中にも関わらず、そのほんわかした空気から抜け出し二人の元へと向かって行った。
正確に言うと一人なのだが。
「ヘルにい!」
メイシアの行動により、ようやく二人の存在に気が付く暗黒騎士達。
「あら、お帰りなさい」
「おお、ただいま」
「それで?納品書の確認は取れたの?」
「ああ、問題ない。この納品書の受注と取引に武器ももらってきた」
「えー!ほんとー!」
食いつくようにゼランの元へと向かうサキュラバーニ。
そんなサキュラバーニに対してゼランは、待つように命令をする。
それはまるで犬のように。
賢い犬は指示通りに胸を躍らせながらゼランに期待の目を向ける。
そしてゼランは「武器庫」から武器を取り出した。
大剣ではない、もう一つの武器を。
「ゼラン、これは・・・?」
不思議そうな顔をするグウィルドにゼランは、
「これは弓という武器だ」
「弓・・・これは一体どうやって使うのかな?」
ジェールナがそう聞くと、ゼランではない誰かが弓の使い方を説明した。
そう、エルフミーラだった。
エルフミーラがゼランの代わりに弓という武器の使い方を解説し始めた。
まるで、自身の体験談のように。
「弓はね、本来普通の矢で打つんだけど、魔法矢で打った方が高い火力出るんだよ?」
「へえ、そうなんだ」
サキュラバーニが納得したということは全員が納得したということになる。
そんな暗黒騎士達にゼランは、
「納品書に書かれていたミラボレアの戦いには俺とヘルバトスとこの弓を使える誰かにしようと思うんだがそれでいいか?」
ゼランの提案に首を横に振る者はいない。
そうと決まればやるべきことは一つだった。
「今この場で誰が弓に相応しいか使ってもらおう」
「はいはーい!私から!」
手を挙げて目立とうとするサキュラバーニに、ゼランは弓を差し出した。
サキュラバーニは、王の玉座にめがけて、その魔法矢を放った。
そこそこの火力は出せていたものの、やはり決定打にかける。
それに魔法矢を使用したサキュラバーニは膝から崩れ落ちていった。
こうなってしまったら足手まといになるだけだ。
「サキュラバーニは弓には向いてなさそうだな」
「うぅー、こんなはずじゃ・・・」
悔しがるサキュラバーニに続いてジェールナ、グウィルドが魔法矢を王の玉座に向けて放つもサキュラバーニと同じ結果となってしまった。
この無残な結果にゼランは焦りを感じていた。
それもそのはず。
誰も弓に適していないのだから。
自分が選んだ武器を否定されているようなものだった。
最後にエルフミーラが弓を構えて玉座に向けて魔法矢を放つ。
火力は他の暗黒騎士と同等だが、彼女はその日本の足で立ち続けていた。
頬に一滴の汗が滴れる。
恐らく、魔法矢を放って立っていられるのが限界といったところだろう。
だが、エルフミーラは「強欲」の力で敵から魔法値を吸収できる。
その「強欲」が効かなかった場合は他の暗黒騎士達同様に足手纏いになりかねないが、このような結果になってしまった以上致し方がない。
ゼランが、弓の武器の所有をエルフミーラにすると許可しようとしたところ、一人の少女がゼランの口をはさんで、
「ねえねえ、メイシアにもやらせてよー」
弓の武器を持つエルフミーラの袖をグイグイと引っ張る。
するとエルフミーラはにっこりした笑顔で、
「かなーりの魔法を消費するけど、メイシアちゃん大丈夫?」
「むー、メイシアできるもん!」
「じゃあやってみる?魔法の使い方わかる?」
「むー!わかるもん!」
エルフミーラは意地を張るメイシアに弓の武器を差し出した。
そしてメイシアも同じように王の玉座へ魔法矢を放つ。
はずだった。
「それじゃあ、いくよー?」
メイシアはその掛け声とともに天へと魔法矢を放つ。
その魔法矢は王の間の天井付近で分裂して、それが流星群のように王の間全体に降り注いだ。
「ちょ!」
「これやばくない!」
「僕は一体どうしたら!」
「ヘルバトス!お前の妹だろう!何とかしてくれ!」
「そんな無茶言わないでくださいよ!」
「メイシアちゃん!」
各々が降り注ぐ流星群の感想を述べる中、エルフミーラだけはメイシアを守るようにその付近だけ魔法のシールドを張った。
その光景を見た他の暗黒騎士が文句を口にするのは当然だった。
「え、エルフミーラ!?私たちには!?」
「エルっち!私を!私だけでいいから守ってよ!」
「サキュラバーニ!なんてことを言うんだ!せめて僕もその中に入れて!」
「貴様ら!そんなことをいう暇があったら回避に専念しろ!」
「あの、ゼランさん。せめて俺を守って・・」
ヘルバトスがゼランに向けて自分を守ってほしいと頼み込んだところ、硬くて重い、まるで石のようなげんこつが落ちてきた。
ヘルバトスがげんこつを受けたのを最後に、暗黒騎士とヘルバトスは何とかその流星群を回避し続けた。
そして、ようやく全弾放ち終えた頃には立つ力が残っていなかった。
「何とか回避できたね」
「そうだねー、私もう立てないー」
「僕も同じですー」
無言ではあるが、ゼランもヘルバトスもそれなりに体力の限界は来ていた。
ゼランは喋る気力も残っておらず、ただ片膝を立てて座っている。
一方、ヘルバトスの方は声にならないほど体力の消耗をしていた。
この中で一番損害の少ないゼランがメイシアの方を見てみる。
これほどの魔法を使ったんだ。
きっとヘルバトス以上に酷いことになっているに違いない。
すると、驚くべき事象が発生した。
なんとメイシアは平然とした顔で立っていたのだ。
それに加えて何かいいことでもあったのか、ウサギのようにピョンピョンと跳ね回りながら髪を揺らしている。
その姿に、さすがのエルフミーラでさえも驚きを隠せないでいた。
その証拠に顔面蒼白。驚きというよりも寧ろ恐怖を感じているように見えた。
そんなエルフミーラが、
「メ、メイシアちゃん・・・?大丈夫・・・?」
その問いかけにどんな意味が含まれているのか恐らくわからないのだろう。
メイシアはいつも通りの笑顔で、
「うん!全然平気だよ!」
その満点の笑顔ですら今では恐怖に感じる。
だが、誰が弓に相応しいか明確にして明白。
体力を少しばかり回復させたゼランが、メイシアの方へ近づき肩に手を置いた。
「その弓はメイシアちゃんのものだ。その弓で俺とヘルバトスと一緒にミラボレア戦に挑んでくれるか?」
するとメイシアは意味深なことを口にした。
「うん!任せて!メイシア得意だから!」
何が得意というのだろうか?
弓の話か?それとも別の話なのだろうか?
どちらにせよ、メイシアが遠距離攻撃担当は心強かった。
さっきの攻撃を見せられては、頼りたくなくてもつい頼ってしまう。
こうしてミラボレア戦のパーティーメンバーば無事に揃ったのだ。
次にゼランが起こした行動というのは・・・・
「よし、これから戦いながらミラボレアが現れたとされる山頂の祠に向かうぞ!」
「え」
その命に、一番に耳を疑ったのはヘルバトスだった。
ヘルバトスは恐る恐るゼランに尋ねた。
「あの・・・ゼランさん。俺武器もろくに使ったことがないんですけど・・・」
「ん?俺もそうだが?」
「メイシアも!」
ヘルバトスの言っていることが分からないかのように、首をかしげるゼランとあれほどの魔法矢を放ったのにも関わらず、使ったことがないと嘘っぽいことを述べるメイシア。
ヘルバトスは折れるしかなかった。
この二人に何を言っても伝わらないと思ったからだ。
溜息を一つ吐いて、ゼランの指示に従う意思を見せる。
「分かりました。さっそく向かいましょう」
「おう、俺が留守の間はエルフミーラ。頼んだぞ?」
「ええ、任せて」
「ママ!行ってくるね!」
メイシアがエルフミーラにそう言うと、エルフミーラは小さなメイシアの頭を優しく撫でる。
気持ちよさそうに眼を瞑るメイシア。
そんなメイシアは未だに弓を片手に持っていたので、ヘルバトスはさっそく武器の出し仕舞いの方法を伝授した。
メイシアの頭の悪さには正直焦ったが、何とか出し仕舞いは可能になった。
「それじゃあ、行ってくる」
「行ってきます」
「行ってきまーす!」
ゼラン、ヘルバトス、メイシアの三人は四人の暗黒騎士に背中を見守られながら王城を後にした。
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