七十六話 龍種について
マッスル男が「ミラボレア」というモンスターについて話す前に、一冊の本をゼラン達に差し出し、ゆっくりとそのページを開いた。
「これは・・・・」
そこに書かれていたのは、五種に渡るドラゴンについての解説だった。
目の疑いようがなく、それがドラゴンについて書かれた図鑑だとすぐに理解した。
「まずはここから話さないとな」
するとマッスル男が、まず初めに赤く描かれたドラゴンについて語りだした。
「ドラゴンが一種「炎龍」。全てを燃やし尽くす火炎の持ち主で、その火炎から生存したものはいないと言われている。次にドラゴンが一種「氷龍」。その大気に触れたものは絶対零度で凍え死ぬと言われている。次にドラゴンが一種「雷龍」。怒り狂う雷龍に近づく奴は、百万ボルトで塵にすると言われている。次にドラゴンが一種「地龍」。この大地を作ったとされ、奴を刺激するとこの大地に災いがもたらされると言われている」
そして最後にマッスル男は灰色で描かれたドラゴンを指さし、
「最後にドラゴンが一種「古龍」。時間操作ができる龍種と噂され、その異次元の強さから龍種でも簡単に近づくものはいないと言われている」
他にも各種ドラゴンについて記載されているが、恐らくわかりやすいようにマッスル男なりにまとめてくれたのだろう。
どんなドラゴンの種類があるのか知ったところでさっそく話の本題に入る。
「俺達に依頼した「ミラボレア」は一体どのドラゴン種なんでしょうか?」
ゼランがマッスル男に尋ねると、その本に描かれた一種のドラゴンを指さした。
そのドラゴンは灰色の胴体を身に纏い、分かりやすいようにドラゴンの後ろに時計の絵が刻まれていた。
有ろうことか、一番当たりたくないドラゴンに当たってしまったのだ。
「おいおいおい、マジかよ」
「大マジだ」
「こんな大物。俺達には敵いっこないですよ」
弱気なヘルバトスにマッスル男は、
「納品書を受け取った以上、引き受けてもらうからな?」
「もし引き受けなかったら?」
「裁判でも何でも受けて立つぜ?」
裁判というものをゼランは知らなかったが、それが自分達に不利になるようなことだけは理解できた。
こうなってしまった以上、致し方がない。
だが、ゼランはふと疑問に思った。
こんな化け物の一部の納品書を、なぜ勇者のいないこの国の元国王に送り付けたのか。
ゼランはマッスル男に尋ねた。
「この国には勇者はいませんよね?一体なぜこれを元国王に?」
「そんなの決まってるだろ」
マッスル男はその無駄に多い、腕についた筋肉を強調させるように腕を組み、
「欲しいものは上の者に送り付ける。当然だろ?」
この受け答えに対してゼランとヘルバトスは偶然にも同じことを考えていた。
マッスル男の脳は恐らく筋肉でできていると。
そう思ってしまうのも無理はない。
無理なのを承知の上で納品書を国に送り付けているのだから。
この一件から元国王が相手にされなかったことも解決された。
国王で無くなった以上、元国王に言う価値がないと判断したからだろう。
まあ、この国を牛耳るゼランが命令したのだが。
溜息をつくゼランの横で、ヘルバトスはマッスル男に、
「あの、俺達武器持ってないのですが・・・」
ヘルバトスがそう言うと、マッスル男は驚いた顔をしていた。
「おいおい、マジかよ。武器なしでこの国を乗っ取っちゃったわけか?」
「まあ、そう言うことだな」
驚いた顔をするマッスル男だが、恐らくマッスル男は知らない。
この国の兵士がどれほどの実力なのか。
勇者と渡り合える実力を持つゼラン達では相手にならないことに。
だが、ここではその真実をマッスル男に伏せておく。
もう一押しなのだから。
「でも、やっぱり古龍のミラボレアとなると武器は必要になりますよね?」
「ああ、そうだな」
「俺達お金持ってないんです。一体どうしたら・・・」
ゼランの策略に勘づいたヘルバトスがその策略に迷うことなく乗っかる。
するとマッスル男は手に顎を乗せ深く考える。
そして、マッスル男が出した答えは・・・
「そこそこ値を張るものになるが、「ミラボレアの尻尾」とその武器二つで取引でどうだ?」
マッスル男が、取引を二人に持ち掛けるもゼランは納得いかない様子だった。
そしてゼランは指を三本立てて、
「三つだ。相手は古龍だろ?二つじゃ性に合わなくないか?」
「・・・・確かに」
ゼランに言いくるめられてしまったマッスル男は両手いっぱいに広げた。
「この中で三つだ。好きなのもってけ!」
「それじゃあ遠慮なく」
「ありがとうございます」
ゼランとヘルバトスはさっそく武器を選ぶ。
といっても、二人は最初から決まっていた。
この店に入って、武器を拝見して一番に目が入った武器。
それは・・・
「「短刀」と「大剣」か・・・二人揃って良い趣味してんな!」
ヘルバトスとゼランはそれぞれ意図があってこの武器を選んでいた。
まずヘルバトスの方から言うと、その「短刀」が兄であるサタルドスの武器に似ていたから。
ただそれだけなのである。
憧れる兄と同じような武器を持って、少しでも兄に近づきたいと思うのは、誰もが通る弟の道である。
そんなヘルバトスと同様に、ゼランも大した理由もなく「大剣」を選んでいた。
理由は、剣を振るう彼がカッコいいと思ってしまったから。
彼というのは紛れもなくサタルドスだった。
だが、同じような武器を使ってしまったら、自身を見失ってしまうと思った。
だからゼランは「大剣」を選んだのだ。
要するに二人は、「剣」という魅力を教えてくれたサタルドスと同じ武器種を使いたかったのだ。
そんな二人にマッスル男は、
「あともう一つ武器はどうするんだ?」
「そうですねー・・・・」
ゼランは悩み込みながら店の中を見渡す。
ミラボレア戦に出向くのは俺とヘルバトスと誰か。
二人とも近距離攻撃となるとやはり・・・
悩んだ末にゼランが手にしたのは、アーチ状に一本の糸がピンと張られていた武器。
「これを頂こう」
「弓・・・か。二人とも近距離武器だから遠距離攻撃があってもいいかもな」
武器を選び終えた二人に、AUTOでできる武器の仕舞い方と出した方を一通り説明したマッスル男が一枚の紙きれを二人に差し出した。
そこには誓約書の三文字が大きく記されていた。
「これにサインすればいいのか?」
「ああ、そうだ。万が一逃げられた時にな」
「別に逃げるつもりはないんだが」
「少年もサインよろしくな?」
「あ、はい」
誓約書にヘルバトスとゼランがサインすると、その誓約書は赤く光りだしそのまま消えて無くなった。
何が起こったか理解できていない二人の人差し指に赤い指輪が現れ、それを見たマッスル男が、
「これで取引完了だ」
「なんだ?これは?」
さっきから不可解な事象ばかりで頭がついて行けないのは当然だろう。
ゼランの問いかけに対してマッスル男は、
「それは取引の証だ」
「これが証?」
「そうだ、このリングは取引が無事に完了しないかぎり外れることはない。滞納し続けると痛い目に合うぞ?」
「・・・脅しはやめてくれ」
ゼランがそう言うわけは、隣でヘルバトスがガタガタ震えているからだ。
そんな二人にマッスル男は大きな口を開けて笑い出した。
「ガッハハハハ!!!すまんすまん。肉体的に痛い目にあうことはないぞ?」
「精神的にはあるってことか?」
「お!察しが良いな?取引を無事に達成できない焦りってところか?ガッハハハハ!!!」
マッスル男の誰にでも打ち解けるその対応に気が付けばゼランもヘルバトスも打ち解けていた。
その証拠に気が付けばゼランはため口に、人見知りのヘルバトスは普通に話ができている。
これが仕事をしていくうちに身に着けたスキルと言うやつなのだろうか。
ゼランが先ほどまで読んでいた書物の中でそのようなことが書かれていた本があった気がする。
そんなことはさておき、取引が成立したところで肝心のミラボレアがどこにいるのかそれを確認しなくてはならなかった。
「ミラボレアがどこにいるのか分かっているのか?」
するとマッスル男は申し訳なさそうな顔をして、
「最後に確認されたのは、北に位置する山頂付近にある祠だ。昔はドラゴンの住処で有名だったからな。もしかしたらまだそこに住み着いているかもしれない」
「要するに居場所の断言はできないと」
マッスル男は小さく溜息をつきながら、こくりと一回頷く。
申し訳なさそうにしているが、目撃情報があるだけマシな方だった。
「とりあえず、情報ありがとうな。その山の山頂に向かってみるよ」
店を出るようにゼランが踵を返すと、ヘルバトス同じように動く。
その二人を呼び止めたマッスル男は、
「二人とも気を付けてな?」
「依頼人がそれを言うか?」
マッスル男とゼランはお互いに微笑み合っていた。
ヘルバトスも同時に微笑んでいる。
そして、ゼランのその言葉を最後に武器屋を去っていった。
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