七十一話 贈り物
次にヘルバトスが目を開いた時には現実世界だった。
目の前には吐息を立てずに眠っているサタルドスの姿があり、横を見るとエルフミーラとメイシアの姿があった。
どうやら現実世界で間違いないらしい。
お兄ちゃん、プレゼントって言ってたけど・・・
見たところプレゼントらしきものも置いてないし、手にもそれらしいものは持っていない。
単なる自分の聞き間違えかと耳を疑ったが、プレゼントと言う単語を他にどう聞き間違えると言うのか。
だとしたら、プレゼントはどこにあるのだろうか。
ヘルバトスが不自然に辺りを見渡す光景が引っ掛かったのかゼランは、
「ヘルバトス、どうした?」
「いや、お兄ちゃんがプレゼントがあるって言ってたんだけど・・・」
「プレゼント?」
ゼランもヘルバトスと一緒にそのプレゼントやらを探すも、そんなものはどこにもなかった。
一体サタルドスから送られたプレゼントとは一体何だろうか。
答えを導き出せないヘルバトスに対してゼランは、
「もしかしたら、装備ステータスの所に入ってるんじゃないか?」
「装備ステータス?」
この世界の戦闘において、必要不可欠となる装備ステータス。
ヘルバトスはギルシュインの奴隷だったために、世の常識が身についていなかったのだ。
無知なヘルバトスにはこれから沢山のことを覚えてもらわないといけない。
これから暗黒騎士の一員として仲間になるのだから。
ゼランはヘルバトスに装備ステータスの使い方を優しく教授した。
「いいか?視界の右端に何かアイコンあるだろ?」
「あ、はい。あります」
「それを押してみてくれ」
「分かりました」
ヘルバトスは恐れながらも装備ステータスのアイコンをタップした。
すると、ヘルバトスの視界は装備ステータスの情報で埋め尽くされていた。
もちろんそこにはヘルバトス自身のパラメータも書かれていた。
攻撃:350
防御:200
素早さ:450
魔法値:670
テクニック:250
この数値が良いものなのか悪いものなのかヘルバトスには良くわからなかった。
そんなヘルバトスにゼランは、
「サタルドスは魔法値以外のパラメータが一万を確か超えていたな」
「一万・・・」
改めて突きつけられるサタルドスとヘルバトスとの格差。
サタルドスは本当に凄い人だったんだと。
そんなヘルバトスが果たしてサタルドスを助けることができるのか。
本当に俺に出来るのかな・・・
弱腰なヘルバトスにゼランは励ましの言葉をヘルバトスに送った。
まるで自分にも言い聞かせているかのように。
「サタルドスが異常なだけさ。まあヘルバトスも努力すればこのぐらいは強くなると思うぞ?」
「そう・・・・ですよね」
「そんなことより、「道具」に何かしらのマークがついてないか?」
ゼランの指示通りに「道具」アイコンに視線を持っていくと、そこにはNEWマークがついていた。
元奴隷だったヘルバトスに「道具」ストレージは縁のなかった場所。
そこに新たに追加されたものがあるとするならば、それは間違いなくサタルドスからのプレゼントで間違いなかった。
ヘルバトスは躊躇なくその「道具」アイコンをタップした。
すると、またしても画面一面に「道具」に収納されているアイテムがずらりと表示された。
なんだ・・・?これ・・・・?
恐らく全てを取り出すには多大な時間を有するだろう。
そのため、ヘルバトスは一つのアイテムだけ、「道具」ストレージからアイテムを取り出した。
そのアイテムのタップと同時にそのサタルドスからの贈り物だと思われるアイテムが形を成して姿を現した。
そのアイテムはと言うと・・・
「・・・・・・・本?」
アイテム名だけでは理解できなかったが、姿を現したのは「武器図鑑」と表記された一冊の本だった。
ヘルバトスはさっそくその本をパラパラと通し読みすると、そこには数多に渡る武器が紹介されていた。
その武器に興味を示したのか、ゼランはヘルバトスの後ろから覗き見るようにその本を拝見した。
「世にはいろんな武器があるんだなー」
ゼランが関心していると、ヘルバトスはゼランに向けて疑問に思ったことをぶつけた。
「ゼランさんは武器とかって・・・」
ヘルバトスの問いかけに対してゼランはニッコリとした通常スマイルでこう告げた。
「俺達は魔人族だからねー。王国とかに武器屋とかあるだろうけど入る勇気がなかったからな」
「そうですか・・・」
要するにゼラン達魔人族は武器を所有していないということだ。
ゼラン達は一体どうやって敵と戦ってきたのか。
ゼラン達の戦闘スタイルを知らないヘルバトスにゼランは、
「まあ今回王国を手に入れたわけだし、この武器図鑑の中から作るってのも悪くはないかもな」
「それじゃあ、これ使います?」
「え、良いのか?」
「え、使わないんですか?」
ヘルバトスとゼランの思考が平行線のまま交わらなかった。
そして、何とかして交わろうとゼランは行動を起こした。
「これはサタルドスからヘルバトスへのプレゼントだろ?」
この武器図鑑はサタルドスからヘルバトスへの贈り物。
贈り物をヘルバトスから取り上げているようでゼランは気が引けていたのだ。
「はい、でもみんなで使った方がみんなのためになりますよね?」
「まあ、そんなんだがな・・・」
「いいですよ?俺は。この本がみんなのためになるのならぜひ使って欲しいです」
「ヘルバトス・・・」
「それにお兄ちゃんはそれを望んでいると思います」
「サタルドスが・・・?」
ゼランは眠っているサタルドスの方を向いてみると、ピクリとも顔面を動かさないサタルドス。
本当にそんなことを思ってるのか・・・?
これまでのサタルドスの言動から推測するにサタルドスがそんなことを言うとは思えなかった。
だが、サタルドスがヘルバトスにプレゼントしたのだから、今この本はヘルバトスの所有物になる。
そのヘルバトスが良いと言うんだから大丈夫だろうと自分に言い聞かせるゼランは、
「それじゃあ、ヘカベルに戻ったらみんなで本を片っ端から調べ尽くそう」
「そうですね、俺もその方が良いと思います」
「二人だけの話は終わったかな?」
「終わったー?」
ヘルバトスとゼランの会話に決着がついたところでエルフミーラとメイシアが二人に確認を取る。
どうやらしばらくの間待たせてしまっていたらしい。
「すまない、エルフミーラ」
「大丈夫だよ。それよりサタルドスとシハルはどうする?ヘカベルに連れて行く?」
ゼランの中でもその案件が大きな問題となっていた。
正直、連れて行きたい気持ちはあるのだが、もし王国が襲われた時にサタルドスとシハルを守るだけの力がゼランを含めた暗黒騎士達にはない。
かといって、魔界に置いていったとしても安全だとは言い切れない。
二人の体調に変化が起こるかもしれないからだ。
ヘカベルに戻れば、勇者達がゼラン達を殺しにかかってくるに違いない。
そうなってしまえばゼラン達が、魔界に顔を出すことは困難になる。
ゼランの中では究極の選択だった。
魔界に置いていくか、それともヘカベルに連れて行くか・・・
自分ではなかなか決められないゼランに救いの手が差し伸べられた。
今は大した戦力にはならないが、サタルドスと約束を交わした少年、ヘルバトスだった。
ヘルバトスは、まだ成長途中のその小さな手でゼランの服を引っ張った。
「俺はお兄ちゃん達はここに残しておくのが良いと思う。ヘカベルで何が起こるかわからないし」
「そうだね、サタルドス達にとって魔界が一番安全かもね」
ヘルバトスの提案に、エルフミーラが賛同する。
迷ってるくらいならヘルバトスの意見に乗っかった方が良い。
ゼランはヘルバトスとエルフミーラに指示を出した。
「それじゃあ、サタルドスとシハルは魔界に残しておく」
「それが良いね。それよりゼラン?」
「なんだ?」
エルフミーラがゼランに忘れ去られていることを思い出させるように告げた。
「私達、ヘルバトス達にシハルのこと話したっけ?」
「・・・・・・・・そういえば話してなかったな」
勝手にシハルの名前ばかり取り上げていたが、ヘルバトスとメイシアはシハルのことを何も知らない。
ゼランは今更ながらシハルのことをヘルバトス達に話そうとしたが、なぜかヘルバトスはそれを聞きたがらないようにゼランの会話を遮った。
その意味がゼランとエルフミーラには理解できなかった。
すると、話を遮ったヘルバトスからその真相が明かされた。
「聞かなくてもわかりますよ。お兄ちゃんの大事な人なんですよね?」
「ヘルバトス、なぜそれを?」
「エルフミーラさん」
「はい?何ですか?」
そして、その謎もヘルバトスの一言で全て話が繋がった。
ヘルバトスはエルフミーラに告げた。
サタルドスとした約束の伝言を。
「お兄ちゃんからの伝言です。シハルのことをよろしく頼む・・・と」
「はは、なんだそう言うことか・・・」
「ええ、どうやって知ったかと思ったら・・・」
もうすでにサタルドスの口から告げられていたのだ。
いや、サタルドスは決してシハルは大事な人だとヘルバトスには告げていない。
だとしたら、シハルを思うサタルドスの真剣な表情の中にあるシハルを思う気持ちが伝わってきたと言ったほうが適切だろうか。
相手の心を読み解くスキルを会得していないヘルバトスに伝わるぐらいだ。
そのぐらいサタルドスにとってシハルがどれだけ大事なのかは、他人の口から告げられなくてもわかり切っていたことだった。
だが、それはヘルバトスが会話を遮る理由の紐づけでしかなかった。
ヘルバトスが言いたかったこと。
それは・・・
「大事な人のことはちゃんと本人の口から聞きたいんだ。誰かの口からじゃなくて・・・ダメ・・・ですか?」
そんなことを言われては話せなくなってしまう。
ゼランもエルフミーラもヘルバトスの気持ちを踏みにじるほど性根は腐ってなかった。
「わかった。ちゃんとサタルドスの口から聞けるように奴を助けてやってくれ」
「ええ、シハルのことは任せてください。ヘルバトスはサタルドスを救い出すために何ができるかを考えてくださいね?」
「はい!必ずお兄ちゃんを救って見せます!」
意気込みは立派だが、それがいつまで続くかわからない。
ただ、ゼラン達はヘルバトスに託すしかなかった。
サタルドスがヘルバトスにプレゼントとしてこの世の知恵を与えた。
それはつまり、サタルドスが復活するまでヘルバトスに希望を託したということになる。
だとしたら、ゼラン達は自分達の中の英雄であったサタルドスが託したヘルバトスを力の限りサポートしなければならない義務がある。
そして、ゼランはヘルバトスに、
「ヘカベルに戻ったら、本を調べたのちに武器を作りに行くぞ。そしてそこからは特訓だ!」
「は、はい!」
「エルフミーラ、この二人を連れ帰れば問題ないよな?」
「ええ、仮にあったとしたらまた取りに戻ってくれば大丈夫でしょう?」
「それもそうだな。それじゃあ、戻るか」
「今からりょこー?」
「まあ、軽い旅行だね」
「わーい!ママ大好き!」
メイシアの言葉を最後に、サタルドスの部屋に静寂が戻っていった。
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