六十八話 間接的な復讐
通行人がゼラン達の横を通るたび、様子を窺うようにこちらを覗き見る。
なぜ彼らがゼラン達の方を窺うのか、当の本人達ですら理解できなかった。
「さっきからコソコソ見やがって・・・何なんだ?」
ゼランが思いのまま不満を他の暗黒騎士にぶつけた。
誰でもコソコソ見られては、いい気はしないのは分かる。
その人々が怪しむわけを暗黒騎士達は推測し始めた。
「恐らく、この装備が原因なんじゃないかな?」
確かにジェールナの言うことは一理ある。
この魔界感が醸し出される装備を身に纏っていれば誰だって疑いの目を向けてしまう。
そんなジェールナに対してエルフミーラは、
「違うよ。ここは人種国家だから他種族を珍しく見ているだけなんだよ」
エルフミーラの言う通り、ヘカベルは人種国家だ。
他種族を物珍しく見てしまうのは無理はない。
だが、ゼランは決してそうだとは思わなかった。
「そうだとしたら、奴らが俺達を睨みつける理由にはならないだろう」
結局訳が分からないまま大通りを抜けて王城へと辿り着いた。
無論そこにも護衛の兵士はいるわけで・・・
「おい!貴様ら!何者だ!」
「はい、眠っててね」
襲い掛かろうとする兵士達に容赦なく眠りにつかせるグウィルド。
さっきの兵士達もそうだが、勤務中に怠けるとは大した度胸である。
グウィルドのスキルに抗う仕草も見せずにそのまま眠りにつく。
この兵士達の今後の処罰が楽しみにする暗黒騎士達。
まあ、彼らがこの国を支配すれば国王直々に処罰を下されることはないのだが。
「全く、無駄に兵士が多いな」
一人眠らせれば、王城の奥から兵士達がぞろぞろ出てくる。
まるで蟻の大軍だ。
「このままじゃ僕のスキルが持たないよ?」
眠りのスキルを使いながらも、救援要請を出すグウィルド。
彼に負担をかけさせ過ぎるのは、あまりに危険だった。
この先勇者はいないと言えど、何が起こるかわからないからだ。
「サキュラバーニのスキルも温存しておきたいしどうすれば・・・」
悩み込むゼランの前に一歩踏み出したのは、エルフミーラだった。
「私に任せて!」
エルフミーラはそう言うと、両手を兵士達の方へ向け魔法を放った。
その魔法を食らった兵士達は次々へと倒れて行く。
「これは・・・・?」
「一体どうなったの?」
一瞬の出来事に困惑するゼランとサキュラバーニにエルフミーラはいつもと同じ明るく、眩しい笑顔で、
「眠りの魔法を少し使っただけだよ?」
「おい、エルフミーラ。魔法だけは使い果たすなよ?」
ゼランは心配だったのだ。
魔法を使えば魔法攻撃全般を封じられるとともに、常時発動中の絶対防御壁を解除してしまう。
そうなってしまえば、本末転倒。全ての作戦が水の泡となってしまうのだ。
ゼランの意図を汲み取ったのか、笑顔を崩さずにエルフミーラは、
「大丈夫だよ。「強欲」で魔法値も回復できるから」
「それならいいんだが・・・」
ゼランは皮肉にも思ってしまった。
もしかしたら、俺のスキルが一番劣っているのではないか?
暗黒騎士のトップを滑るのは間違いなくサタルドスだ。
そんなことは誰でもわかっていることだった。
トップが存在するということは同時に底辺も存在する。
ダメだ!そんなことを考えては!
ゼランは必死に邪念を振り払い、暗黒騎士達に指示を出す。
「よし、王城に忍び込むぞ!エルフミーラ。何かあればさっきの魔法を頼むな」
「まかせて」
親指を立てて、オーケーのサインをゼランに向けて繰り出す。
無理に殺してはならない。
そうでもしたらシハルを救い出す情報を失う可能性があるからだ。
そして暗黒騎士達は、ヘカベルの中央にそびえ立つ王城へと足を踏み入れた。
ーーーーーーーーー
ここに来て、兵士を一人操ることができたことが大いに役立ったと実感していた。
ゼラン達は王城を舐めていた。
自分達が身を潜めていた魔界と同じ感覚で来て居たら恐らく、いや確実に迷子になっていただろう。
王城の中の造りは以外にも複雑で、初見の人間には王の間まで辿り着くのは困難を極めた。
だが、この兵士はこの王城のことを知っているようなので王の間まではあっという間だった。
「お疲れ、ご苦労様」
サキュラバーニがそう言うと、兵士に掛けていたスキルを解除した。
すると、兵士は我に戻り、目の前にいる暗黒騎士に剣を引き抜いた。
「貴様ら!一体何者だ!」
「大人しくしててね」
ようやく我に返った兵士は、虚しくもエルフミーラの魔法ですぐさま眠りについた。
今まで役に立っていたのだから、この兵士達には休む時間を与えてあげなくてはな。
暗黒騎士全員の心からのサービスだった。
そんな兵士のことはさておき、王の間に繋がる扉をゼランが勢いよく開いた。
すると、目の前には玉座に座るご老人と、赤いカーペットを挟んで兵士達が一列に整列していた。
そんなことは関係ないと、老人の元まで迷いなく歩み寄る暗黒騎士達。
玉座とカーペットを仕切る階段の前までに来たところで老人から声がかかった。
「貴様らか、侵入者という無礼者は」
「おやおや、もうすでに有名人になっていたとは」
ゼランはこの国の情報伝達能力に感心をしていた。
だが、感心していたのはあくまでその一点。
他はお粗末としか言いようがなかった。
「ふん、貴様らの度胸に免じて要件を聞こうじゃないか。ここへ来たんだ、何か要件があるのだろう?」
「ええ、そうね」
ジェールナが他の暗黒騎士達より一歩先に出た時だった。
「貴様!陛下に対して、なんて口の利き方をするんだ!立場をわきまえろ!」
兵士が怒り心頭、次に口を開いたのはエルフミーラだった。
彼女は笑顔で、
「あら、立場をわきまえるのはあなた方でしょ?」
「貴様!」
「もうよい、これでは話が進まん。さっさと要件を話せ」
呆れ返る国王の発言の後に、今まで統率してきたゼランが国王に向かって、
「速やかにこの国の実権を俺達に譲ってもらおうか」
ゼランがそう言うと、しばらくの沈黙がその場に流れた。
その流れを断ち切ったのは国王の溜息で、国王は憐れみの自然をこちらに向けてきた。
「誰でも国王になりたい気持ちは分かるが、貴様らクソガキ、ましてや人間ではない雑種には到底無理な話だ」
「あら?あなたよりはまともに国を動かせると思いますけど?」
「話にならん、即刻こいつらを極刑に処せ」
国王の命令と共に、カーペットの脇に並んでいた兵士達が手に持っていた槍をこちらに向けて構えてくる。
「なら力づくで奪うしかないな。グウィルド」
「了解」
ゼランの指示を受けたグウィルドがスキルを発動させた。
数多の兵士を無能にさせたあのスキルを。
槍を構えた兵士達は門の前、王城の前に待機していた兵士達と同じようにその場にすぐさま倒れた。
その光景を目の当たりにした国王が自分の側近の兵士に戦うよう強要する。
上下関係がしっかりしているこの国では逆らうことは決して許されない。
うおおおおおおお!
自前の剣を片手に、先頭で待ち構えていたゼランの元へ立ち向かて行った。
兵士は縦切りかと思いきや、ゼランの目の前で剣の持ち方を変えて、ゼランの心臓を貫いた。
ゼランの身体のど真ん中。確実にゼランはいられてしまった。
だが、ゼランは一向に倒れる気配がなかった。
寧ろ余裕の笑みが零れていた。
不気味に感じた兵士は剣をゼランに突き刺したままゆっくり後退。
その無様な兵士に向けてゼランは、
「残念だったな。俺の中に「嫉妬」がある限り死ぬことはないんだわ」
「しっと・・・?」
「ああ、そうだな。この国を支配するそこの国王に嫉妬してるのかもな」
ゼランはそう言うと、兵士の首にチョップを入れた。
よほどの威力だったのだろう。
兵士はすぐに気絶してしまった。
「さて、後は国王。あんただけだけど?」
ゼランは胸に突き刺さった剣を、胸筋だけで粉々に粉砕した。
そんな光景をみれば国王と言えど、恐怖を感じる。
「ど、どうか、命だけは!」
「はー?お前は馬鹿か。先まで雑種だとか馬鹿にしてたくせにか?手のひら返しがすげーな」
「こんなクソオヤジ。さっさと黙らせてあげようよ」
サキュラバーニの意見が世間一般的な意見だろう。
サキュラバーニは、それぐらいのペナルティーがサタルドスの恨みを返済するのに妥当だと考えていた。
だが、ゼランは違っていた。
サタルドスが受けてきた屈辱を自分に置き換えるとしたら、きっとその程度じゃ怒りは収まらない。
サタルドスもきっと・・・
ゼランは国王の方へと歩み寄り、
「ほら、立てよ」
ゼランの命令に従う国王は椅子から腰を離した。
それと同時にゼランは、国王の後に置かれていた椅子を王室の隅っこまで蹴り飛ばした。
国王は身を震わせながらその光景を見ている。
怒っているのか、恐怖で満ちているのかよくわからなかった。
「おい、貴様」
「な、なんだ?」
「そんなに助けて欲しいなら、どうするのが道理なんだ?俺達雑種だから人種の貴様らの常識が分からないんだわ」
ゼランの言葉を胸に、国王は何の迷いもなく頭を深々と下げた。
お辞儀だった。
だが・・・
「おいおいおい、冗談はよしてくれよ?俺の仲間から聞いた話だと、でこを地面に擦り付けるって聞いたんだが?」
怒りが脳まで達したのか、国王の顔はリンゴのように真っ赤だった。
国王は、お辞儀から俗に言う土下座に切り替えようとするがなかなか土下座をしない。
恐らく国王としてのプライドとか尊厳とかが邪魔をしているのだろう。
そんな国王にゼランは、
「サキュラバーニ、「操り人形」こいつに使え」
「え・・・でも・・・」
「やれ、サタルドスのためだろ。あいつがこいつにどれだけ苦しめさせられたか聞いたばっかだろ」
そのゼランの言葉を受けたサキュラバーニは迷うことなく国王に「操り人形」を使った。
そして完成した。
抵抗していたせいか少しずつだったが、土下座の完成だった。
「無様だな?貴様は。雑種の椅子になる気分はどうだ?」
ゼランは国王の頭に座るように腰を掛ける。
その間にもゼランは悩んでいた。
これで許してやるという話だったが、何か物足りない。
何か・・・・
しばらく考えたのちにゼランが国王に命を下した。
その内容は驚くべきものだった。
それは・・・・
「貴様、俺達の奴隷になれ」




