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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
二章 暗黒騎士編
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六十六話 信頼

 ゼランには分からなかった。

 エルフミーラは、ヘカベルが勇者と関りがない王国だとなぜ断言できる?


 「なぜ私がそう断言できるかって?」

 「だから、人の心を勝手に読むなよ。それで?なんでそう言い切れるんだ?」


 すると、エルフミーラはその行いに何も悪いと感じていないように、最高の笑顔で、


 「この前サタルドスが倒れた時に、記憶を覗かせてもらったの」

 「「「「・・・・・・は?」」」」」


 エルフミーラ以外の暗黒騎士達が、声を合わせて驚きの声を上げた。

 エルフミーラが悪びれもなくの行為に至ったことに驚きを隠せないのもあるだろうが、恐らくそれだけではない。

 エルフミーラが人の記憶を覗くことができるという技術を持っていることに驚いた、という成分が少なからず含まれている。

 動揺している四人に対してエルフミーラは、


 「確かに人の記憶を勝手に覗くことは絶対にしてはならないことだと分かっている」

 「そしたら・・・なんで・・・?」


 ジェールナにはわからなかった。

 エルフミーラがそこまでわかった上でなぜそんなことをしたのか。

 ジェールナだけではない。

 顔を見る限り、エルフミーラ以外の暗黒騎士達もわかっていない様子だった。

 そんな彼女たちにエルフミーラは懐かしそうに昔話を始めた。

 そう、サタルドスが「憤怒」の暗黒騎士になったあの日を。


 「サタルドスが初めてここに来た日のことを覚えてる?」

 「忘れるわけないだろ。いきなり俺達に斬りかかってきたんだからな」

 「そうだよ。ゼランがいなければ僕は死んでいたわけだし」

 「そうそう、あの時のサタっち怖かったよね」

 「エルフミーラ、それと何か関係があるの?」

 「もちろん関係あるよ」


 エルフミーラは今まで隠してきたサタルドスの過去をジェールナを含めた暗黒騎士に話した。

 

 「あの日のサタルドスを見た時に何かあったんじゃないかって思ったの。最初はただの好奇心だったんだけど・・・」

 「だけど?」

 「見なきゃよかったって後悔した」

 「一体何があったんだ?」


 他の暗黒騎士がエルフミーラの話に釘付けだった。

 それもそうだろう。

 好奇心で動いた奴がいきなり見なきゃよかったなどと後悔の弁を述べたのだから。

 嫌でも気になってしまう。

 そしてエルフミーラは口を開いた。


 「サタルドスの悲しい過去」

 「悲しい・・・過去?」

 「そうだよ。サタルドスは二度も国から迫害されてたの。そして会う人に幾度となく裏切られて・・・」


 このエルフミーラの言葉を聞いて、誰一人にして一言も言葉が出なかった。

 驚きのカミングアウトに言葉が出なくなってしまうのは当たり前だ。

 だが、それが数分間に渡るのはさすがにおかしかった。


 「私達に敵意を向けるのも当たり前だよ。二度も裏切られたら不信にもなる」

 「エルフミーラ・・・」


 悲しそうな顔をするエルフミーラに掛ける言葉を失ってしまう。

 そんな空気を壊す様に入ってきたのはゼランだった。


 「サタルドスを裏切った国と人は分かっているのか?」

 「ええ、もちろん」

 「まさかだと思うが、ヘカベルとか言わないよな?」


 さすがはゼランだった。

 手の内を見透かされている気分だった。

 しかし、理解が追い付いてくれていることは正直ありがたいことだった。


 「だから、私はこの作戦でヘカベルという国を奪い取ると同時にサタルドスの代わりに復讐したかった」

 「それならもう一つの国でもよかったんじゃ・・・?」


 グウィルドの問いに対して、エルフミーラが答えるより先にゼランが動いた。

 それは、間違いなくエルフミーラが言いたかったことで、


 「勇者がいるんだろう。そうだろ?エルフミーラ」

 「ええ、ゼランの言う通り。それで、裏切った人はヘカベルの王様、それにエストックソードの勇者にパートナーだった女の子みたいだった」

 「確かにそれは心が折れそうになるね」


 ジェールナの言葉に何かしっくりくるものがあるのだろうか。

 みんな揃って険しい顔をして下を向いている。

 そんな中、口を開いたのは情報提供者であるエルフミーラだった。


 「だから、私はサタルドスの理解者になってあげたかった・・・居場所を作ってあげたかった・・・」

 「なるほどな。最近世話焼きが過ぎると思ってたが、そういうことだったんだな?」


 全てを承知の上で、エルフミーラはサタルドスに対して寂しい思いをさせないように付き添っていたわけだ。

 綺麗な雫を落とし続けるエルフミーラにジェールナとサキュラバーニは彼女に寄り添った。

 その光景を見ているだけで心が締め付けられる男二人。

 おい、サタルドス。この状況を何とかしろ!

 ゼランがサタルドスに対して思念を送るも、無論サタルドスには届かない。


 「だから・・・そんなサタルドスを変えてくれたシハルも私は助けてあげたい・・・」

 「・・・誰のことだ?」

 「あ・・・」


 気が付いた時には全てが遅かった。

 ゼラン達には内緒にしていたことを漏らしてしまったのだ。

 どう考えてもごまかすことはできない。

 下手にごまかせば怪しまれるのは明白だったから。

 それにヘカベルの強奪兼復讐作戦に協力してくれるのならシハルの存在は隠さない方が良いだろう。

 サタルドスの代わりに情報収集となると、時間が掛かると思ったからだ。

 要するに、何においても彼らの協力は必要不可欠だから。

 エルフミーラは隠すことなく全てを打ち明けた。

 サタルドスが鬼人族の女の子と出会い、少しずつ変わっていったこと。

 そして勇者との戦いでシハルが暴走し、エルフミーラが止めに入った際に一時的に意識が戻らなくなってしまったこと。

 鬼人族の情報を得るためにサタルドスが町へ下りたこと。

 鬼人族の女の子が今もこの魔界で眠り続けていること。

 何もかも全て話した。

 当然、罵倒されるのも覚悟している。

 相談もなしに魔人族以外の子を連れ込んだのだ。

 むしろ、どれだけでは済まないだろう。

 エルフミーラは他の暗黒騎士の顔を伺うと、目が痛むほどの荒んだ光景だった。

 ある人は号泣しながらエルフミーラの服で涙をぬぐい、またある人は鼻水をエルフミーラの服でぬぐう。

 さらにまたある人は、泣きたいのか泣きたくないのか微妙なラインの末、生まれた奇跡的な顔をし、そしてまたある人は声が漏れないように必死に声を殺し、涙を滝のように流している。

 ・・・・・どうしたんだろう?

 エルフミーラが疑問に思っていると、奇跡の顔を生み出したゼランが、


 「悲しすぎる!悲しすぎんだろー・・・」

 「サタっちまじでかわいそー・・・」

 「うぇーーーーーん」

 「ズ・・・・・グス・・・」


 どうやらゼラン達にも思うところはあるようだった。

 その証拠にこの後どうすればいいのかわからなくなっているではないか。

 その暗黒騎士の中で、すぐに立ち直ったゼランがエルフミーラに確認を取った。


 「つまりエルフミーラが言いたいのは、復讐のためにヘカベルに赴き、それと同時にシハルちゃんの情報を入手したいってことでいいのか?」

 「え、ええ。そうなんだけど・・・どうかな・・・?」


 エルフミーラがそう暗黒騎士達に尋ねると、みんな揃いも揃って同じ顔をしていた。

 優しい春のような柔らかい顔で、


 「サタルドスの仇は俺達の仇。そんでもってサタルドスの大事なパートナーは俺達も大事にしなきゃいけないからな」

 「そうだね、僕も全面的に協力するよ。まあ足手纏いになるかもしれないけど・・・」

 「困った時は助け合わないとね」

 「そうそう、サタっちに恩返しする番だよね!」

 「みんな・・・」

 「だが、とりあえずはヘカベル強奪が最優先だ。シハルの情報収集はその後だな」

 「ええ、それで構わないわ」


 みんなが心優しい人達でよかった。

 人に恵まれているって本当に素晴らしいことだと改めて実感した。


 「よし、そうと決まればさっそく行動開始だ!」

 「「「「おー!」」」」


 この瞬間に、魔界を滑る暗黒騎士達の反撃の狼煙が上がったのだった。

 

 

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