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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: 陽巻
二章 暗黒騎士編
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六十五話 魔人軍始動!

 シュトルミエルとの闘いから無事に魔界に帰還したサタルドス達を受け入れてくれたのは、他の暗黒騎士達だった。

 その中でも、サタルドスの姿を目にしたエルフミーラが顔を青くしてこちらに寄って来る。


 「サタルドス!大丈夫!?」

 「問題はないだろう。今眠っているだけだからな」

 「そっか・・・よかった・・・」

 

 サタルドスに置かれている状態をゼランが説明すると、エルフミーラは安堵の息を吐いた。

 エルフミーラが心配するのも無理はないだろう。

 なぜなら、サタルドスはエルフミーラを含んだ他の暗黒騎士よりも圧倒的に飛び抜けた戦闘能力を持っている。

 そんな彼がこんな状態になっているのだから心配にもなる。

 だからこそ、わからなかったのだ。

 サタルドスをここまで追い詰めた敵の存在が。

 

 「ゼラン、一体何があったの?」

 「それが・・・」


 歯切れの悪いゼランの代わりに隣に控えていたジェールナが口を動かした。


 「それは後で話すよ。それよりサタルドスの手当てが先でしょ?」

 

 正論過ぎるジェールナの発言に誰一人反論する者はいなかった。

 暗黒騎士達はサタルドスをベッドまで運び込み、前回と同様にエルフミーラの治療で傷を治した。

 傷の手当てが終えると、他の暗黒騎士は「災い」会議で使われた部屋へ移動を開始。

 そして、部屋に着くなりジェールナの口から本日の議題が挙げられた。

 それは・・・


 「今後の方針について話し合っていくんだけど、その前にサタルドスの身に何があったか教えるね」


 ゼラン以外の暗黒騎士達が相槌を打つ。

 気になっているのはエルフミーラだけではないということだ。

 ジェールナの後に言葉を発したのはジェールナ本人ではなく、ゼランだった。

 ゼランは重い口どりで事の真相を語りだした。

 

 「サタルドスは六純天使と戦ったんだ。あの傷は恐らく奴の攻撃によるものだろう」

 「それじゃあ、サタっちは・・・」

 「恐らくそれで間違いないだろうね」


 グウィルドはサキュラバーニの思考を読み取ったように彼女に賛同する。

 グウィルドのその発言で会議場は、重たくどんよりした空気が漂っていた。

 そんな中、口を真っ先に開いたのはエルフミーラだった。


 「そんな!ありえない。サタルドスが負けるなんて」

 「現実を見ろ。こうしてサタルドスが怪我を負って帰ってきたということはそういうことだろ?」

 「そんな、それじゃあサタルドスは・・・」


 エルフミーラは声を振り絞るように告げた。


 「もう戦えないというの・・・?」



ーーーーーーーー


 「残念ながら、そういうことだな」

 「で、でもクツェル戦の時もサタルドスは「天元」の攻撃を受けたよ?」

 「そんなどこの馬の骨とも知れない奴の攻撃と一緒にするなよ。サタルドスが受けたのは純粋な天使の力だ。憔悴しきっているのがその証拠だ」


 エルフミーラの反論に容赦なく反論し返すゼラン。

 一体サタルドスの身に何が起こったのか。

 この場にいるエルフミーラ以外の暗黒騎士たちは分かっていた。

 エルフミーラは現実から目を背けているだけだったのだ。

 そんな彼女にゼランは怒鳴るように、


 「いい加減にしろ!俺たちが今やるべきことは力なきサタルドスを惜しむことか?違うだろ!」


 ゼランのニコニコフェイスが消え去り、怒りの感情がヒシヒシと伝わってくる。

 そうだ、暗黒騎士がやるべきことはただ一つ。

 サタルドスをどうにかしてでも復活させることだった。

 偶然から生まれた必然だろうか?

 サタルドスを除いた他の暗黒騎士の意見が完全に一致していた。

 だが、六純天使の攻撃に秘められた力は強力。

 その力を打ち消す手段はエルフミーラ達にはなかった。

 ただ、一人ゼランという男を除いて。


 「本当かどうかわからないが、一つだけ天使共の力を打ち消す手段を耳にしたことがある」

 「それはどんな手段なんだ?」


 グウィルドがゼランにそう尋ねるとゼランの口からはシンプルとしか言いようがない内容が発せられた。


 「六純天使の恵みを得た種族を殺すのさ」

 「六純天使の恵みって?」

 「俺もそこまでは分からないが、恐らくは六宝剣の勇者だと俺は見込んでいる。「天元加護」というのはつまり、天からの恵みってことじゃないのか?」

 「なるほどね」


 ジェールナがゼランの解釈に同感する。

 そもそもゼラン以外の暗黒騎士は聞いたこともなかったので、断じて違うとは言いようがない。

 他の方法も知らないわけだから、このゼランの作戦に乗るしかなかった。

 それで、もし違うのなら他の作戦に切り替えればいい話だ。

 だが、この作戦にサキュラバーニが気付くべき場所に気が付いた。


 「六宝剣の勇者と私達ってほぼ互角の力だよね?倒せるのかなー?」


 そう、暗黒騎士全員はサタルドスのステータスとほぼ同等の力を兼ね備えていない。

 もしかしたら勇者に負ける可能性だってある。

 そのためにはやるべきことは一つだった。


 「特訓あるのみでしょうね」

 「エルっち、本気で言ってる?」

 「サタルドスを取り戻すためには手段を選んでいられない」

 「確かにエルフミーラの意見には僕も賛成だね。ただ・・・」

 「ああ、特訓にしろ、修練にしろ、ここでは限界がある。向こうの世界へ行くのがいいのだが・・・」


 ゼランがそう言いかけたまま止まってしまった。

 この場の暗黒騎士達もそれに気が付いていた。

 ゼランが何を言いたかったのかを。

 その代弁としてジェールナが口を開いた。


 「魔人族の存在を知られてしまった以上、下手に行動できないからね」

 「ああ、全くその通りだ。クソ!全て俺の失態だ!」

 「ゼランの失態ではないですよ?それにまだ希望は残っています」

 「希望?」


 希望が残されているのか?

 サキュラバーニを始めとした暗黒騎士達が疑問の顔をしている。

 それもそうだろう。

 絶望的この状況に打開策はないと思われていたのだから。

 案を持つエルフミーラの口からは、その綺麗な口から発せられたとは思えないほどの残虐非道な言葉が飛び出した。


 「下界の国一つを奪い取ればいいんです」


 エルフミーラはふざけてなどいない。

 この提案を踏まえて、どう捉えようと個人の自由だし人それぞれだ。

 だがらこそ、その偶然が生み出した奇跡的な光景に目を疑ったのだ。

 エルフミーラ以外の暗黒騎士達がため息をついことに。

 理由は明白だった。


 「あのなエルフミーラ。それはどう考えても自殺行為だぞ?」

 「いいえ。決して自殺行為じゃないです」

 「エルっち、それはやばいって」

 「何がやばいの?」


 エルフミーラの考えていることと、彼らの考えていることはどうやら一致していないようだ。

 そんな彼らを説得するためにエルフミーラは、自身の考える理想をみんなに告げた。

 これからどうするべきかを。


 「確かに勇者がいる以上国を奪い取ることは困難を極めます」

 「それなら・・・」

 「しかし、それはあくまで勇者がいる国に限ります」

 「・・・そういうことか」


 ゼランは他の暗黒騎士とは別格に頭が切れるがたまに理解が疎い時がある。

 まさに今がその場面であった。

 だからこそ彼の理解を得るためにもわかるように言わなければならない。

 まあ、大抵の場合はすぐに理解してくれるのだが。


 「大体わかった。だが、問題なのは俺たちが襲っている間に勇者に伝達されたらどうするかじゃないか?」

 「それも問題ないよ」

 

 急に入ってきたジェールナがある一人の女性のほうを向く。

 どうやらジェールナも理解したそうだ。


 「サキュラバー二、あなた情報阻害スキルを持っていたよね?」

 「う、うん。持ってるけど」

 「どういうことだ?」


 この空間で理解していないのは恐らくゼランとグウィルドの男二人だった。

 こう言う機会でないとあまり男女の交流がないため、女性陣がどんなスキルを持っているのか知らなかった。

 そんな二人を差し置いて女性陣だけで話が勝手に進んでいく。


 「サキュラバー二の情報阻害スキルを使った後に、エルフミーラの魔法で防御壁を作るんだよ?」

 「ああーなるほど!エルっち頭いいー」

 「そんなことないよー」

 「待て待て待て」

 「どうしたの?ゼラン」

 「俺たちにもわかるように説明してくれ」


 今後の作戦実行のためにも男二人に女性陣は一から説明をした。

 サキュラバー二のスキルである「情報阻害」は一定範囲内の情報をシャットダウンするといったスキルで指定範囲は無限ということ。

 つまり、王国全域に阻害壁を張ることができる。

 そして、エルフミーラの魔法「絶対防御壁」は上位魔法であり勇者でさえ破るのに時間がかかるという。

  

 「要するにサキュラバー二で情報を漏れないようにして、エルフミーラで内外の人の行き来を封じるという解釈で間違いないか?」

 「ええ、それでいいよ」

 

 何とも安直な作戦だと思うが、要するにスピードが大事だということか。

 そもそも、そんな勇者とほとんど関りがない国など存在するのか?


 「はい、ありますよ」

 「人の心を勝手に読むなよ・・・。それで?それは一体どこなんだ?」


 ゼランの問いかけにエルフミーラはこう答えた。

 

 「ヘカベルという王国です」

 

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