六十話 弟分
「この後どこに行けば情報を得られるんだ?」
自分の失態で敵兵を全滅してしまったサタルドス。
行き場をなくした、野良猫状態だった。
そんなサタルドスにも、情報を得られそうな場所には心当たりがある。
まずは王城だ。
この国を仕切っている以上、知らないことなどほとんどないだろう。
だが、問題なのはあの国王だ。
仮に情報を得られたとしても、何かを見返りされるに決まっている。
それに奴には会いたくなかった。
王城はないとして、次に心当たりがあるのはギルシュインの家だ。
奴は数多くの奴隷がいると話していた。
シハルも記憶がない操り人形だとすると、恐らくその分類にあるだろう。
奴隷商人ともいえるギルシュインが記憶の情報を持っている可能性は高い。
もし仮に喋らなかったら脅せば何とかなるだろう。
国王ではない以上、都合がかなりいい。
だが、この件に関しても問題があった。
それは、まずどこに家があるからだ。
この広い敷地内を探し回るのはあまりに効率が悪い。
ギルシュインの家に行くには情報を集めなければならなかった。
クソ、こんなことになるなら剣二時代から情報を集めておくんだった。
だが、過去を振り返っても戻ることはない。
王国が却下ならギルシュインの家を探すしかない。
「まずは情報収集からだな」
すると、正門に向かって走っていく兵士の姿が。
「おい、そこのお前」
「あ、お、お前は!」
どうやらこの短時間で俺も有名人になったらしい。
まあ、あの数の軍隊を壊滅させれば嫌でも有名になる。
そんなことよりも・・・
「ギルシュインの家の場所を教えろ」
「誰が・・・お前なんかに・・・」
剣を抜刀して剣先をサタルドスに向ける。
おいおい、手が震えてるじゃねーか。
そんなんで俺に勝てるとでも?
しかしここの兵士は無駄に正義感が強いよな。
ここは少し教えてやるべきか。
無謀な戦いからは身を引くべきだと。
威勢が良い声でサタルドスに斬りかかり、それは見事に命中した。
命中したんだが・・・
「そんな・・・!」
「お前ごときの雑魚にやられるわけないだろ?」
兵士が振るった剣を素手で止めたのだ。
そしてサタルドスはその剣を握力だけで粉々にしてしまった。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこへ行ったんだ?」
兵士は戦意が損失したのかその場に座り込んでしまった。
まあ自分の攻撃を素手で止められたのにも関わらず、粉砕されたんだからな。
だが、このシチュエーションは絶好の機会だった。
ギルシュインの家についての情報を。
「ギルシュインの家の在りかを教えてくれるならお前を見逃してやる」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、嘘が発覚すれば殺すがな」
そう、見逃すと言って嘘を吐かれてはたまったものじゃない。
顔をしっかり覚え、嘘を吐かれた時に備える。
だが、殺さないでやるのだから普通は正直に話すとは思うが、この国は前科があり過ぎて信用ない。
あまり期待しないサタルドスは、
「さあ、さっさと教えろ」
すると兵士は、ある方向を指さした。
そこは王城の近くにそびえ立つ立派な屋敷だった。
「あそこなんだな?礼を言うぜ」
するとサタルドスは空を飛んで屋敷へと向かった。
その兵士がこの後どのような動きを見せていたかも知らないで・・・
何事もなく、無事にギルシュインの家だと思われる屋敷へたどり着いたサタルドス。
まずは玄関をノックしてから入るのが常識だが、サタルドスはノックもせずにぞの玄関の扉を破壊した。
それはもう跡形もなく。
さっそく中へ入ってみると、電気は消されて中は真っ暗だった。
まるで抜け殻のように。
あの貴族のことだから、ここから逃げたとは考えにくい。
だとしたら、今は外出中なのか?
外出だとしても、奴隷を全員連れて行くことはないだろう。
もしここに奴隷がいれば、奴はまだここに住み着いているということになる。
考えろ、こういう時に奴隷が良そうな場所は・・・
するとサタルドスはある場所を思いついた。
隔離に最も適した場所。それは・・・
「地下か?」
さっそくその拳で地面に穴を空けると、そこには空洞があった。
地面が破壊しやすかったのは、この空洞があったからかもしれない。
サタルドスは迷うことなく飛び降りると、どうやら降りた先は牢屋の一室みたいだった。
「ったく、陰気くせー場所だな」
牢屋の辺りを見渡してみると、牢屋の隅っこで縮こまっている男の子が一人。
年はメイシアと変わらないだろう。
暗くて特徴がよくつかめないが、黒髪の男の子で、鋭い目つきをしている。
その眼光はまるで夜の猫のようだった。
癖っ毛なのかそれとも風呂に入れさせてもらえてないのかあちこちに毛が撥ねていた。
「おい、おまえ」
「ひい!」
サタルドスが語り掛けると、一段と警戒して身を小さくする。
さて、困ったものだ。
ギルシュインがどこにいるのか聞こうと思ったんだが。
とりあえず、緊張をほぐすためにサタルドスは男の子の近くに座り、昔話をすることに。
「全く、あの貴族は本当にむかつくよな?マジで人間のゴミだと思うよな?」
「・・・・・いえ・・・俺は・・」
「何だ?奴は心の優しい人間だとでも言いたいのか?」
「違う!」
暗い表情が消え、やっとサタルドスの目を見た。
意外と単純なやつなんだな。
「俺もさ、あいつにひどい目に合ったわけよ。奴に濡れ衣を着せられてよ。それで俺は奴を殺そうと考えたわけ。お前はそんなこと考えたことないか?」
「それは・・・」
「何だ?復讐したいとは思わないのか?」
「いや!復讐したい!だけど・・・」
奴には逆らえないってか・・・
年頃の男の子にも色々と事情があるのかもしれない。
だが、それを全てひっくるめた上である案を思いついた。
サタルドスのパーティーメンバーはメイシアしか今はいない。
それに、こいつの復讐心は本物だ。
鋭い眼光から放たれる殺意は、敵にしておくのが惜しいぐらいに輝いて見えた。
こいつはなんとしてでも手に入れなくては。
「なあ?提案なんだが、俺のところに来ないか?そうすればお前の復讐も叶うし、理想の世界を作れるぞ?」
「でも・・・」
よほどあの貴族が怖いのだろう。
怯える男の子にサタルドスは頭を優しく撫でた。
「あのな?よく聞いとけよ?今の状況を変えたいと思うならまずは行動しないといけない。相手がどんなに怖くてもだ。俺はお前にその覚悟があると思ったから誘ってるんだぞ?」
「そっか・・・」
男の子はゆっくりと顔をサタルドスの目線まで上げて、そして・・・
「俺ついて行っていいかな?」
「おう、それじゃあお前にはさっそく移動してもらうんだが、名前だけ聞いていいか?」
「ヘルバトス・・・」
「ヘルバトスか、良い名前だな」
さっそくヘルバトスを安全な所へ連れて行くことに。
そうだな、見守っていると言ったぐらいだ。
呼べば誰かが応じてくれるだろう。
「おい、誰か来てくれ」
「???」
ヘルバトスがサタルドスの突然の謎の行動に困惑していると、一人だけその姿を現した。
金髪のお世話になったお姉さんこと、エルフミーラだった。
「どうしたのかな?」
「俺の仲間にした。さっそく魔界へ連れて行ってくれ」
「え?魔界?」
魔界と聞けば、誰もが悪魔だとか魔人とか怖いイメージを想像するだろう。
ヘルバトスも例外ではなかった。
怖がるヘルバトスにサタルドスは、
「心配することはない、優しい奴らしかいないからな。俺が保証する」
「そうですよ?さあおいで?」
優しい口調でヘルバトスを呼ぶエルフミーラ。
こいつは本当に子ども慣れしているというか、完全にお姉さんだった。
そのエルフミーラの様子をみてか、それとも俺を信じたのかヘルバトスはエルフミーラの元へ。
「お、お兄ちゃんは?」
「ああ、俺か?俺はまだやることあるからさっきに言っててくれ。大丈夫だ。ちゃんと戻るから」
心配がるヘルバトスの頭を撫でまわすサタルドス。
なんだか、弟分ができたみたいだった。
「それじゃあ、エルフミーラ。丁重に頼むな?」
「はい、わかりました」
「気を付けてね?」
ヘルバトスのその言葉と同時に姿を消した。
さて、人員を一人確保したところでこの牢屋から出るか・・・
出ようとしたその時だった。
何者かが空いた天井から振ってきたのだ。
誰かがドジって落っこちてきたのか?
いや、そんな感じの落ち方じゃなかった。
まるでこちらの存在に気が付き、狙って入ってきたような・・・
砂埃の中、がれきの山の上で立つ人影が。
「誰だ!」
「お前に名乗る名はない」
そう言って現れたのは、金色の髪の碧眼美少女。まるで光の化身のような姿。
間違いない、こいつは勇者だ。
いくら六宝剣の勇者の情報が無知であっても、彼女が勇者であることはすぐにわかった。
こうして出会った二人はしばらくの間、一歩も動くことなく睨み合っているのだった。




