五十七話 「災い」の前に・・・
辺り一面が黒で覆いつくされている。
ここは・・・・夢の中か・・・?
俺はまだ夢の中にいるのか・・・?
現実と夢の区別が全くつかない。
ここは現実なのか?それとも夢の世界なのか?
どちらにせよ俺はこの後どうすればいい?
黒一面のこの世界で何をしていいのかわからない。
夢の世界だとしたら、勝手にストーリーが進んでいく。
だとしたら、この世界は現実なのか・・・?
だが、明かりのない世界なんて見たことがないし聞いたことがない。
この世界には一体何があるのだろうか。
そうだ!暗黒騎士たちは!メイシアは!シハルは!みんなどこにいるんだ!
サタルドスは叫んで呼びかけるも、誰一人反応がない。
俺は・・・また一人ぼっちになってしまったのか・・・?
現実を受け止めきれないサタルドスの目の前にシハルと顔もわからない金髪の美少女が突然現れた。
なんだよ、シハル。いたなら返事くらいよこしてくれよ。
そう語りかけるも、シハルの様子がおかしい。
いつもならうざいくらいにペラペラ喋りかけてくると言うのに一言も喋ろうとしない。
このシハルはどこか変だ。
おい、シハル!何か言えよ!それに誰だ!この女は!
するとシハルはその金髪美少女と共に姿を消そうと踵を返し、その場を去ろうとする。
おい!待てよ!話は終わってないぞ!おい!
サタルドスがいくら語り掛けても彼女たちが振り返ることはない。
おい!待ってくれ!頼むから!おい!
必死に頼み込むも、やはり振り返ろうとしない。
クソ、このままではまた遠くにシハルがいってしまう。
そんな気がしてならない。
だからサタルドスは、気が付けば彼女たちの元へ駆けていた。
待ってくれ・・・・待ってくれよ・・・・
シハルはサタルドスより足が速かっただろうか。
いくらサタルドスが追い付こうと彼女たちに接近しても、それに比例するかのように離れて行く。
まるで運命がもう関わるのをやめろと忠告しているかのように。
ふざけるな・・・ふざけんなよ・・・・
途中で追いかけるのをやめてその場に立ち尽くすサタルドス。
ふざけんな・・・・ふざけんじゃねーよ・・・
段々と口調が荒れて行く。そして、
クソがああああああああ!
「うわ!」
突然視界がクリアになり、辺りが眩しい。
サタルドスが自分に置かれていた状況を理解するまでに時間はかからなかった。
なんだ・・・夢だったのか・・・
額に手をあて、荒ぶっていた心を静める。
そして落ちつた頃に辺りを見渡すと、驚きを隠せていないエルフミーアの姿が。
この部屋俺の部屋だよな?なんでエルフミーラがここにいるんだ?
サタルドスの寝込みを狙って何かを企んでいたのだろうか。
だとしたら、この状況を見過ごすわけにはいかない。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「え、なんでって・・・」
エルフミーラが頬を赤らめて恥ずかしがる。
マジで何しようとしてたんだ!こいつは!
まさか夜這いか!夜這いなのか!
そんなことを考えるサタルドスだったが、エルフミーラの一言で考えを改めなければならなかった。
「ここ、私の部屋・・・」
「は?」
「ここ私の部屋なんだけど・・・」
「いやいや、ここは俺の部屋だってエルフミーラ言ってたよな?」
エルフミーラはこの部屋がサタルドスの部屋だと言っていた。
サタルドスは、断じて聞き間違いはしていなかった。
エルフミーラの思考が全く読み取れない。
一体何を考えこの部屋に入り込んだのか。
今一度確認を取らなければならなかった。
「なあ、ここがエルフミーラの部屋だと言ったが、なんで俺の部屋がここだと言ったんだ?」
「えー、そんなの一緒に居たいからに決まってるじゃん!」
「は!?」
いや、こいつ何言ってんだ!?
一緒に居たいってそんなの告白も同然じゃないか!
エルフミーラは俺のことを好きだったのか・・・
とても信じがたいが、彼女の気持ちにはしっかり答えないといけない。
はっきり言うんだ!俺にはシハルという心に決めた人がいると。
だが、今まで女の子を振ったことがないサタルドスにはレベルが高すぎる。
戸惑うサタルドスにエルフミーラが微笑みながらこう言った。
「勘違いしてるけど、一緒に居たいのはメイシアだよ?」
「は?分かってたし!」
「本当に?」
「本当だ!」
それならそうとさっさと言え!
しかし、エルフミーラの言うことは一理ある。
サタルドスの隣で蹲るように静かに寝ているメイシアは、この世の生き物とは思えないほど愛おしい。
そんな天使のようなメイシアをそろそろ起こさないといけない。
「災い」が始まる前に、ドラゴンのようなモンスターこと、ごんちゃんの元へ届けなければいけないからだ。
最初はエルフミーラに面倒を見てもらおうと思ったが、「災い」の最中に予期せぬ事態が発生した時のために待機していないといけないらしい。
メイシアは他の暗黒騎士にはまだ心を開いていないだろう。
そうなれば必然的にごんちゃんといるのが妥当だ。
さっそくメイシアを起こそうとしたが、なかなか起きない。
「おい、メイシア。起きろ」
「・・・・・」
メイシアの反応がない。
まさか死んでいるのか・・・?
一応呼吸しているか確認したところ、呼吸はしているようだ。
起きないとなれば仕方がない。
サタルドスはメイシアをお姫様抱っこし、ごんちゃんの元へと向かった。
もちろん、エルフミーラを連れて。
「ちゃんと覚えてね?」
「覚えられたらな。俺は記憶力がない方なんで」
「ちゃんと覚える努力した?」
「まあな」
嘘である。
サタルドスは部屋を覚える努力など全くしていなかった。
誰かに付き添ってもらえればそれでいいと思っていた。
だが、サタルドスは忘れていた。
なぜかエルフミーラが心を読めることを。
「嘘ついたね」
「いや、ついてないけど?」
「今、言ってたじゃん。誰かに付き添ってもらえればそれでいいって」
「それ心の中で思ってたことなんだけど?」
「あ、やっぱり思ってたんだ」
「・・・・」
このピンチをチャンスに変える糸口が見つからず黙り込んでしまうサタルドス。
黙り込んでしまうということは、つまりそう思ってたことを認めたということになる。
そんなことは無論分かっているのだが、返す言葉が見つからない。
黙り込んでいると、ごんちゃんがいる部屋はすぐそこに。
「ほら、早く行こうぜ」
「あ、話逸らした」
なんとでも言うがいい。
中に入るなりごんちゃんが飼育されている籠の元まで歩いて行く。
すると、メイシアの気配を感じ取ったのか、ごんちゃんがいきなり騒ぎ出す。
ゴア!ゴア!ゴア!
部屋の中はごんちゃんの声で他のモンスターの声をかき消してしまう。
さすがにいくら起こしても起きなかったメイシアも瞼を開いた。
メイシアは辺りをきょろきょろ見るなり、自分が今いるところに気が付いた。
「あ!ごんちゃん!パパ!早く降ろして!」
「分かったよ」
メイシアの指示通りに彼女を降ろすサタルドス。
メイシアは降ろすなりすぐさまごんちゃんの元へと駆けて行った。
エルフミーラが籠の扉の施錠を解除し、メイシアはすぐさま籠の中へ。
「ごんちゃーん!あいたかったよー」
「がう!がう!」
嬉しそうにごんちゃんに抱きつくメイシアと、メイシアが来てくれたことに興奮するごんちゃん。
この二人の仲睦まじい姿を見ていると、心がほっこりする。
まあそんなことはさておき。
「メイシア。しばらくここでお留守番できるか?」
「うん!できる!」
手を高く上げて返事を返すメイシア。
まあ、ごんちゃんがいれば大丈夫だろう。
「ごんちゃんにも他のモンスターにも迷惑をかけるなよ?」
「はーい!」
「それじゃあ、エルフミーラ」
「はい」
エルフミーラはごんちゃんとメイシアが入っている籠の施錠を閉じた。
これでメイシアは大丈夫だろう。
「さて、この後俺はどうすればいいんだ?」
「とりあえず他の暗黒騎士の元へと行きましょう」
二人はモンスター部屋を後にして、他の暗黒騎士が集っているだろう広間へ向かったのだった。
広間に着くと案の定、彼らはそこにいた。
サタルドスの入室に一番最初に気が付いたのはゼランだった。
「やあ、やっと来たね」
ゼランの呼びかけと共に他の暗黒騎士がサタルドスの存在に気が付き、迷うことなくサタルドスの方へ向かってくる。
一体何なんだ・・・?
事の状況が理解できないでいると、最初に口を開いたのはジェールナで、
「昨日はごめんなさい!頭がこんがらがっちゃって・・・」
「僕もすみません。気が動転しちゃって」
「サタッチごめんね?」
次々に謝罪の文を述べる暗黒騎士達。
何か謝られることしたっけな?
サタルドスはすっかり忘れていた。
昨日の会談で何があったかを。
「謝ることじゃないから別にいいぞ?それより俺が「災い」に赴くのはゼランから聞いてるか?」
「うん、聞いてる」
するとジェールナはサタルドスの手をぎゅっと握りしめ、
「必ず無事で戻ってきてね?」
「ああ」
「サタッチ!気を付けてね!」
「僕も影ながら見守ってるから」
ジェールナ、サキュラバーニ、グウィルドが次々に一言づつ言葉を発していく。
なんかこれから転校するみたいな雰囲気だ。
すると、後ろに控えていたゼランが前に出てきてサタルドスの両肩を自身の両手を乗せた。
「サタルドス、お前が頼りだ。どうか頼んだぞ?」
「言われなくても分かってるよ」
すぐにゼランの手を振り払う。
気恥ずかしいだろうが。
これで最後かと思いきや、一人忘れられている人物がいた。
その人物はサタルドスの耳元で囁いた。
「シハルの記憶。取り返せるといいね・・・」
「うお!耳元はやめろ!びっくりするだろうが!」
「ふふふ」
こいつ・・・絶対わざとだろ・・・
だが、まあ・・・・そうだな・・・
これはエルフミーラなりの励ましの言葉なんだろう。
それか、他の暗黒騎士がシハルのことを知らないのを利用した、タダの悪戯なのか。
どちらにせよ、エルフミーラに怒る要素はなかった。
それにエルフミーラ達には感謝をしても仕切れない恩がある。
人間から裏切られた俺に拠り所を与えてくれた暗黒騎士達。
彼らに答えるためにも、サタルドスはこの「災い」で少しでも多くの人間を処理しないといけない。
そしてシハルの記憶を・・・
その決意を胸に、サタルドスは他の暗黒騎士達に告げた。
「それじゃあ、行ってくる」
こうして、サタルドスは地上世界へと降り立ったのだった。




