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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: 陽巻
二章 暗黒騎士編
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四十九話 記憶障害

 意識が朦朧とする・・・

 ここは・・・どこだ・・・?

 俺は一体・・・どうなったんだ・・・?


 自分の身に何が起こったのかよく覚えていない。

 だが、クツェルと闘って致命傷を負った所までは覚えている。


 その後はどうなったんだっけ・・・?


 何かとんでもないことがあったような。

 いくら記憶を掘り返しても思い出せない。


 そうだ!シハル!

 シハルはどうなったんだ!


 ふと閉じていた目が開き、サタルドスは辺りを見渡す。

 だが、シハルの姿が見当たらない。

 それどころか、心当たりのない部屋のベッドの上にサタルドスは寝ていたのだ。


 「ここはどこだ?イッ・・・」


 突然、脇腹に激痛が走った。

 一体何事かと、サタルドスは自身の脇腹を確認してみると脇腹は包帯でこれでもかというくらい多重に渡って巻かれていた。


 誰かが治療してくれたのか・・・?


 だとしたら、シハル以外に考えられない。


 シハルがここへ運び込んできたのか?

 そういえば、シハルはどこだ?

 シハルはどこかに出かけているのか?


 気を失っていたせいで、シハルがどこにいるのかがわからなかった。

 そんなサタルドスの部屋をノックする音が響き渡る。


 シハルか・・・?


 「どうぞ」

 「失礼しまーす」


 そう言って扉を開けて入ってきたのは、金髪が特徴のお姉さんらしい美貌と容姿を兼ね備えたエルフミーラだった。

 

 「傷の具合はどう?」

 「まあまあってところだな」


 俺に傷があることを知っている・・・

 そうか、シハルがここに連れて来てくれた時にエルフミーラにも迷惑をかけたってことか。

 貸しを作ってしまったな・・・

 

 「悪かったな、迷惑かけて」

 「迷惑だなんて思ってないよ?」


 にっこりと微笑むエルフミーラは、あまりにも良い人すぎる。

 だが、その優しさに今回は助けられた。

 そんな善人エルフミーラだったが、突然話はシリアスな方へ流れていった。


 「一体何があったの?」

 

 この傷を見たら何があったのか聞きたくなるのも無理はないだろう。

 そのエルフミーラの質問にサタルドスは最初から最後まで話した。

 最初は、エルフミーラに話すのはどうかと考えたが、すでに彼女には借りがある。

 だから、ありのまま全てを話すことにしたのだ。


 「長くなるけど、いいか?」

 「もちろん、大丈夫だよー?」

 

 そこからは過去の振り返り作業だった。

 サタルドス達は野宿するために川の近くまで歩いていったこと。

 そして無事に川を発見し、魚を取っていると、エストックソードの勇者であるクツェルが現れたこと。

 それでサタルドスの中にある得体の知れない感情が爆発して魔人化し、勇者クツェル相手にシハルを庇いながら一騎討ちで戦い、ホーリーストライクという技をくらい、致命傷を負って、そして・・・あれ?


 その後、どうなったんだっけ?


 そこからサタルドスの記憶が失われていた。


 何が大事なことがあった気がするんだが・・・


 しかし、いくら考えようとしても失われた記憶は蘇ることはなかった。


 「すまない。そこからは記憶がない。何か大事なことはあった気がするんだが・・・」

 「そっか、やっぱり記憶を消されたんだね」

 

 エルフミーラ、それは一体どういうことだ?

 記憶を消された?

 一体誰に?

 何のために?

 人の記憶を消すなど、許されざる行為だぞ?

 エルフミーラは、なぜそんな平然としてられるんだ?

 それに、やっぱりってどういうことだ?


 数々の疑問がサタルドスの脳内を埋め尽くした。

 そんなサタルドスに、真実を突きつけたのは紛れもないエルフミーラだった。


 「怪我の方は平気?」

 「ああ、問題ない」

 「それじゃあついて来て」

 「ついていくってどこへいくんだ?」

 「サタルドスの記憶を消した張本人のところ。本当は会わせたくないけど、いつまでも騙せるとは思えないから」


 さっきまでの口調とは打って変わって、声のトーンを低くするエルフミーラ。


 そんなに俺と会わせたくない奴なのか?


 会わせたくないと言ったらクツェルとかだろうか。


 怒りに満ちた俺が奴を殺すと思っているのか?


 全くのその通りだが、自分の信用の薄さには正直笑い出しそうになる。

 だが、今は笑う所ではないとどう考えたってわかる。


 「それじゃあ、案内を頼む」

 「これだけは約束して」


 いつもおっとりしているエルフミーラだったが、今回に限っては違う。

 その真剣な眼差しを受けて、サタルドスは理解した。

 サタルドスが暴走すると思っているのだろう。

 本当に信用がない。

 案の定、サタルドスの解は正しかった。


 「何があっても、暴れないと約束して」

 「するわけないだろ?」

 「言質とったからね?暴れたらこれからずっと言うこと聞いてもらうから」

 「別に構わないぜ?」


 前もって暴れるなと言われて暴れる奴はいないだろう。

 これで暴れる奴は、相当なアホか大変なバカに他ならない。

 そして、その称号をダブルで獲得するとはこの時のサタルドスは思っても見なかった。

 こうして二人は、サタルドスの記憶を消し去った張本人の元へと歩み始めたのだった。



ーーーーーーーーー


 「ここにいるのか?」

 「ええ、この部屋に」


 以外にも、サタルドスの記憶を消した張本人はすぐ隣の部屋にいたのだ。

 まさか歩いて一分も経たずにお会いできるとは。


 さて、見物してやろうじゃねーか。

 俺の記憶を消した奴の顔をよ。

 

 「それじゃあ開けるよ」


 エルフミーラはゆっくりとその扉を開けた。

 歩いてきた廊下が暗すぎたせいで、部屋の光が眩しく輝いている。


 眩しい!


 だが、その逆光現象は一瞬の出来事で、すぐに目が慣れた。

 そして部屋の中に一人寝ている者をじっくり観察する。

 それと同時に鳥肌が全身に立った。


 え・・・・・・・


 どうしよう、鳥肌が止まらない。

 だってそこに眠る者は、見間違えることのないシハル本人だったからだ。

 紫色の髪に綺麗な肌。

 それだけでは断言できないのは分かっている。

 だが、確たる証拠を挙げるとするならば、彼女の左脹脛にあるドラゴンの入れ墨だ。

 これだけの条件が揃っているのは恐らくシハルだけだろう。


 「おい、どういうことだ!なんでシハルがここにいるんだ!」

 「そんなの決まってるじゃない。シハルが記憶を消した張本人なんだから」


 いや・・・ちょっと待ってくれよ・・・

 なあ・・・・シハル・・・・

 お前なんでそんなことをしたんだ?

 俺とお前はパートナーじゃなかったのか?

 俺はまた仲間に裏切られたのか?

 なあ?答えてくれよ・・・


 負の感情が、サタルドスの体を蝕む。


 もう仲間なんて・・・


 サタルドスが我を忘れそうになったその時だった。


 「はーい。暴走するのは、なしって約束だよね?」

 「この状況を目の当たりにして感情を抑えろってか?冗談はやめてくれよ」


 もうこんな気持ちになりたくない。

 サタルドスは誰からも信用されず、そして誰も信用してはいけない運命なんだとこの時悟った。

 ということは、今こうして優しく接しているエルフミーラも恐らくサタルドスを裏切る。

 だとしたら、やることは一つだった。


 「なんで刀を取り出すのかな?」

 「どうせみんな裏切るんだ・・・」

 「誰も裏切ってなんか・・・」

 「黙れ!」

 

 誰の言葉も聞きたくない。

 信じられるのは自分だけだ。


 サタルドスは刀を構えて、エルフミーラに斬りかかろうとした。


 だが・・・なぜだ・・・?

 力が全く入らないだと?


 刀を何度も取ろうとしても、結果は同じ。

 取ることができなかった。


 エルフミーラの仕業か?


 彼女は右手の平をサタルドスに向けていた。

 魔法攻撃か?それとも弱体化か?

 どちらにせよ、エルフミーラに仕業で間違いなかった。


 「貴様ー!!!!」

 「暴走したから君の負けだね」

 「うるさい!口を閉じとけ!」

 「最後まで話を聞けば勝ち目あったのになー」


 何?勝ち目?

 一体どういうことだ?


 黙り込んだ隙をみて、エルフミーラは真相を語りだした。


 「シハルの意思で記憶を消したわけじゃないよ?」

 

 は・・・?ちょっと待て。

 シハルの意思で記憶を消したわけじゃないということは、つまり無意識で記憶を消したということか?

 そもそも無意識で記憶の消去が可能なのか?


 謎はさらに深まるばかりだ。


 「エルフミーラ、詳しく説明しろ」

 「それじゃあ例の件はサタルドスの負けってことでいい?」

 「・・・・わかった」


 勝負なんかよりも真実のことを知りたい。

 裏切ったと思っていたシハルが本当は裏切ってなかったとするなら、サタルドスはシハルのことをもっと知らなければならない。

 そして、エルフミーラは真剣な顔でこう告げた。


 「シハルは記憶障害を起こしている。恐らく、その記憶障害が周りに伝播しているの」

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