四十六話 最悪の展開
「よし、ここにしよう」
「はーい」
ようやく川を発見したサタルドスとシハルはさっそく魚を釣ってみることに。
すると、シハルはいきなり右手の平をこちらに差し出してきた。
シハルは何がしたいのだろうか。
困惑するサタルドスにシハルはこう告げた。
「はい、釣り竿貸して?」
「は?そんなのあるわけないだろ」
釣り竿何て持っているわけがない。
素手で取るんだ。
主な狩猟方法を説明していると、彼女は突如と俺を馬鹿にしてきたのだ。
「え!そんな原始人みたいな方法で捕まえるの!?」
それ以外に方法はないだろう。
あるならその方法をご教授願いたいものだ。
すると、彼女は装備ステータスから魔剣を取り出した。
初めて魔剣を見たが、大きさ的には俺の刀とあまり変わらない。
その魔剣を手に、シハルは川の中へと入っていった。
そして・・・
「えい!」
シハルは川の中に魔剣を突き立てた。
こいつ・・・まさか・・・・
「ほら、こうやって捕まえれば早いよ?」
「突き刺したら魚が傷むだろうが」
「そんなことないよ?尻尾の方を狙えば」
「そっちの方が難しいだろ」
「手で取るより簡単だと思うよ?」
手で取るより簡単って・・・・
シハルは以外にも剣の扱いが上手いのかもしれない。
てか、モンスターは可哀そうとか言っておきながら、魚は刺すのか?
シハルの基準がいまいちわからないな。
その後も可愛らしい声を挙げながら、魚を一匹、二匹と数を重ねて行く。
魚の捕獲は彼女に任せて大丈夫だろう。
サタルドスが焚火を起こそうとした時だった。
「その捕まえ方。良いですよね」
シハルではない誰かの声がした。
どこだ。どこにいる。
暗くてよく見えないが、近くの大岩に誰かが腰かけているのが分かった。
「誰だ?お前は」
「私はヒトリアって言います。あなた達にお話が合ってここに来ました」
俺達に話だ?
悪いがお前らと関わっている時間はないんだ。
さっさと消え去ってくれ。
するとヒトリアは明かりを周りに灯した。
何かの魔法か?
なら、殺すのにもってこいだ。
「ここはペランが所有する私有地です。どうか移動の方を・・・」
「証拠を出せ」
「え?」
「証拠を出せって言ってるんだ」
証拠がなければここがペランという国の物だと証明できない。
というか、この子は俺の夢に出てきた子に似てるな。
でも俺にとって全くの無関係だろう。
証拠がなく、戸惑うヒトリア。
すると、森の奥から何人かの兵を連れた装備がきちんとされた人物が現れた。
「ヒトリア、どうした?」
「勇者様、証拠を出せと言われまして・・・」
「もう、クツェルでいいって言ってるのに。俺のパートナーだろ?」
「いえ、パートナーにはなっていません。私にはすでにパートナーがいるので」
なんだ?この気持ちは。
心が異常にざわつく。
この二人を見ていると何か・・・思い・・・
「グ、アアアア!!!」
突然激しい頭痛に襲われた。
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ
立つことすらままならない。
様子がおかしいこと気が付いたシハルは川から上がり、すぐさまサタルドスの元へ駆けつけた。
「サタルドス!」
「おい、どうしたんだ?あいつ」
「分かりませんけど、助けないと!」
「いや、放っておけ。それよりあの子が持ってるのって魔剣か?戦力も欲しかったところだ。ちょうどいい」
するとクツェルはシハルの元へと歩き出した。
こっちに来るな。また俺から大事な物を奪うのか!
いや、俺は何を言ってるんだ?大事な物なんて取られたこと・・・
お前だけは許さない!
こいつはシハルを奪おうとしてるのか?
お前のしたことだけは絶対に許さない!
俺の邪魔をしようとしてんのか?
だから俺はお前を・・・
邪魔をするなら・・・
殺す
二つの意識がリンクした途端、ドス黒い感情が心の底から脳を目掛けて湧き上がってくる。
そして、感情は瞬く間に全身へと広がっていった。
「グアアアアアアアアアア!!!!」
サタルドスから発生した暴風は周囲をも巻き込み、一番近くにいたシハルと勇者、そしてヒトリア以外を吹き飛ばした。
「サタルドス、お願い。落ち着いて!」
シハルがなだめるも魔人化したサタルドスは彼女の言葉を無視した。
「おいおい、なんだ?勇者の俺とやるってか?」
「ふん、おこがましい。その舐めた口を斬り飛ばしてやる」
お互いはお互いを睨み合い、そしてお互いは武器を具現させた。
クツェルはエストックソードを、サタルドスは刀を取り出した。
サタルドスの武器を見たヒトリアが急に声を上げた。
「その武器・・・剣二様!剣二様なんですか!?」
容姿が全く違うというのに、剣二だと言い当てたヒトリア。
だが、今のサタルドスには剣二の記憶がなかった。
「剣二?誰のことだ」
「だってその武器は・・・」
「雑魚は口と閉じておけ」
「そうだぞ?ヒトリア。こいつは坊主なんかじゃないからな」
クツェルは剣二が所有していた刀の装備が目の前にありながら、サタルドスが剣二であることが分からなかった。
本当に俺には興味がなかったんだな。
だが、復讐はこの時を持って遂行される。
「行くぞ!」
先に動き出したのはクツェルだった。
エストックソードの最大の利点である鎧をも貫通させる特徴を生かした攻撃がサタルドスを襲う。
だが、それはあくまで敵に触れられればの話。
相手が強いほどそれは困難になる。
その良い例がサタルドスだった。
サタルドスは刀の先を使ってクツェルの攻撃を弾き返したのだ。
波以下の雑魚なら今ので武器を手放すのだが、この男は勇者だけあって武器を手放すことはなかった。
これなら楽しめそうだ。
サタルドスは奴の攻撃が最大限に引き出せるようにあえて挑発した。
「粋がってた割には随分と惨めだな?醜態をさらす前に死んだ方がマシだぞ?」
「お前こそ随分と余裕だな?その子を抱えながらよ?」
そう、先ほどからサタルドスはシハルを片手に抱きかかえながら戦っているのだ。
要するに、片手だけで勇者クラスの奴と戦っているのだ。
クツェルがそう感じるのも無理はない。
だが、余裕なのは事実だ。
まさか勇者であろう者がここまでの雑魚だったとは・・・
「シハルは俺が守る。それにお前相手だとこれぐらいが良いだろう?」
「何?」
クツェルの目からは燃えたぎる怒りを感じる。
そうだ、それでいい。
もっと怒り狂え。
そして俺の糧となれ。
怒りの象徴たる「憤怒」の暗黒騎士、サタルドスに隙はなかった。
だが・・・・
「勇者様!魔法の流れを感じます!精神状態を正常に保ってください!」
チッ、邪魔が入ったか。
単細胞を倒す前にまずは邪魔なあいつから殺すか。
ターゲットをヒトリアに変えた瞬間、またしても邪魔が。
エストックソードで斬りかかるクツェルの一撃を刀で受け止める。
全く、一撃一撃が貧弱すぎる。
「ヒトリアはやらせねーぞ?」
「雑魚のお前が言ってもかっこ悪いだけだ」
「それはどうかな?」
クツェルは肉眼では見えないほどの速さでサタルドスに斬りかかった。
こいつはこの程度で俺に勝てると思ってるのか?
攻撃の型が一定すぎる。
こいつは学習しないタイプだな。
そんな中、腕の中にいるシハルがサタルドスの服をクイクイと引っ張った。
「どうした?シハル」
「ねえ、もうやめて?」
シハルの悲痛が身に染みるように伝わってくる。
だが・・・・
「それはできない・・・シハルは俺が守る。安心しろ」
「う、うん・・・」
「よそ見すんな!」
クツェルが最後の一撃に刺突攻撃を繰り出したが、刀で弾き飛ばした。
先ほどの倍の力で。
武器は手放さなかったものの、数メートルにまで吹っ飛んでいった。
全く、話にならないな。
「シハル、怪我はないか?」
「うん、大丈夫。サタルドスは?」
「俺も大丈夫だ」
二人が抱き合いながらお互いの安否の確認を取っていると、それに割り込む者が一人。
「おい、まだ終わってねーぞ」
「ったく、しつこい奴だな。全身ボロボロのお前に何ができる?」
「まだ、切り札を見せてねーからな」
ほう、それじゃあ見せてもらおうじゃないか。
雑魚なりの切り札ってやつを。
「おい、そこのお前、こいつの回復をしろ」
「え・・・」
「いいから早くしろ」
「は、はい」
ヒトリアは急いでクツェルの回復に当たった。
これで少しは、楽しみながらやつを殺せるだろう。
そんなサタルドスとは対照に腕の中のシハルは肩を震わせて怯えていた。
「大丈夫だ。何があってもお前を守る」
「で、でも・・・」
「ったく、俺が信用ならないか?」
「そうじゃないけど・・・」
そんなシハルにサタルドスは最大級のプレゼントを贈った。
それは・・・
ちゅっ
「え!サタルドス!?今何を!?」
「頭にキスしたんだが?」
「何してるの!!!」
怒ってるのか喜んでるのかよくわからないシハルはサタルドスの腕の中で、ポコポコと体を殴り始める。
そして、気が済んだ頃に彼女は言った。
「本当に信じていいんだね?前みたいに暴走しないよね?私を殺そうとしないよね?」
「さっきのキスで俺がお前を殺すと思うか?大丈夫だ、俺が守る」
そうこうしている間に、クツェルの回復はどうやら終わったようだ。
「それじゃあ、始めるか」
「俺の切り札を見せてやる」
こうして、二人の真のデスマッチが幕を開けたのだった。




