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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
二章 暗黒騎士編
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四十話 凶悪な敵

 一体いつまで落ち続けるのだろうか。

 そろそろ地面の感触が恋しくなってきたのだが?

 重力に逆らうことなく、自由落下をし続けるサタルドスとシハル。

 というか、ここで振り出しに戻るとかないよな?

 振り出しに戻りでもしたら気が動転してしまうぞ?

 そんな情けない姿をシハルだけには絶対見られたくない。

 だが、可能性は無きにしも非ず。

 戻らないことだけを祈るしかなかった。


 「大丈夫か?シハル」

 「私なら大丈夫」

 

 とか言っている割には、思いっきりサタルドスの装備を握りしめていた。

 怖いなら怖いとはっきり言ってしまえばいいのに。

 それか、恐怖という単語を認識しないようにしているだけなのか?

 どちらにせよ、これはサタルドスが起こした問題だ。

 しっかりシハルを守らなくてはならなかった。

 

 「ちゃんと掴まってろよ」

 「うん」

 

 漆黒の羽を微調整しながらバランス感覚を保ち、羽の角度によってスピードを調節した。

 それから間もなくだった。

 地面の感触を取り戻したのは。


 「やっと落ち切ったな」

 「そうだね、はーあ怖かった」


 無事に足を地につけ、安堵の息を漏らすシハル。


 なんだ、やっぱり怖かったんじゃねーか。


 だが、サタルドスの問題故に彼女にこのようなつっこみを入れることができなかった。

 

 「てか、ここは奈落のどん底だよな?」

 「そうみたいだけど・・・」

 

 二人は奈落のどん底にいるはずなのに、ある違和感が浮上した。

 それは・・・


 「なんでこんなに明るいんだ?」

 

 どん底と言えば真っ暗な暗黒世界を想像するだろう。

 だが、サタルドス達が踏み入った世界は白昼のように明るく輝いていた。

 違和感はこれだけに留まらない。


 何だこの空間は・・・


 よく見れば、人間に鳥のような羽が生えた人像が正面に佇み、色細工を使ったガラスが部屋を囲むように散りばめられていた。

 眩い光に目がやられそうだった。

 

 「ここは教会か何かなのか?」

 「いや、違うと思うけど・・・」

 「それじゃあ、何の用途があってこの部屋を作ったんだ?」

 「わかんない・・・」


 まあ知らなくて当然か。

 ずっと生け捕り状態にされていたのだから。

 何か手掛かりが欲しいが、この部屋には人像と色細工を用いたガラスしかない。

 情報を得ようにも、得ることは困難を極めた。

 シハルが囚われていた部屋のそばに戻らなかったものの、これはこれで厄介だった。


 「とりあえず、脱出の手掛かりがないか調べるしかないな」

 「そうだね」


 二人が手掛かりを探し始めようとしたその時だった。


 シャアアアアアア


 ネコの類が威嚇するときに発する声が部屋一体に広がった。


 「サタルドス」

 「シハル、俺のそばから離れるなよ」

  

 シハルは指示通りにサタルドスにピッタリくっついた。


 クソ、最悪だ。

 モンスターか?

 だったらやばいな。

 シハルは戦えないというのに。

 だが、やるしかない。


 そして奴は現れた。

 羽をつけた人像の正面にワープゲートが出現し、ゆっくりとその姿を顕現させる。


 「こいつは・・・!」


 サタルドスの眼に映し出されたモンスター像は、一つの胴体から三つの首が備わっていた。

 右からヤギ、ライオン、ドラゴンの順で、奴の尻尾はどうやら蛇でできているらしい。

 サタルドスはこいつを知っている。

 こいつは・・・


 「キメラか!」


 よくボスキャラなどでゲームに取り上げられる上位モンスター。

 そんな強敵を目の前にしても、なぜか冷静でいられた。

 自分に自信があるから?それとも見えを張っているのか?

 どちらにせよ都合がいい。


 「ここのとこ、雑魚モンスターしか倒してこなかったんだ。せいぜい楽しませてくれよ?」

 「ゴオオオオオオオオ!!!」


 真ん中に凛々しく、そして気高く位置するライオンが返事をしたみたいだ。

 

 「シハル、俺にしっかり捕まっとけ!」

 「うん!」


 シハルはサタルドスの背中に飛び乗り、足を腰に絡ませ、落ちないようにその場所でキープする。

 そしてサタルドスは刀を取り出した。


 「いくぜ!」

 「ゴオオオオオオオオ!」


 キマイラが雄叫びをあげたと同時に、漆黒の翼を使って奴に接近する。

 その脅威のスピードについて行けないキメラは、サタルドスに隙を作ってしまう。


 「くらえ」


 サタルドスの渾身の一撃がキメラに直撃する。

 はずだった・・・

 キメラに入るはずだった刃は、寸前で動きを止めた。

 まるでバリアに引っ掛かったように。


 「こいつ!近距離攻撃耐性を持ってるのか!」

 「ギャアアアアア!」

 

 獅子顔の隣で威嚇するドラゴンはサタルドスが止まった隙を見て噛みつき攻撃を仕掛ける。

 サタルドスは強制的にキメラから離れざるを得なかった。

 そして、サタルドスが離れた隙を使って、ドラゴンがさらなる攻撃に出た。


 「ギャアアアアアア!」

 

 ドラゴンの口から赤いレーザビームのようなものが数本に渡ってサタルドスを襲った。

 レーザの放射速度が異常に早い。

 このままではシハルを振り落としてしまう。

 サタルドスは刀を持っていない手で、シハルを支えた。

 そして幾度となく繰り出されるレーザービームをできる限りの速度で回避し続けた。

 

 「奴に近距離攻撃は通用しないし、レーザービームで近づくこともできない・・・どうすれば・・・」


 回避しながら策略を考えていると、キメラの攻撃は急に止まった。


 今がチャンスだ!


 だが、時間にして僅か数秒。

 再びドラゴンのレーザービームの嵐が始まった。

 それだけで済めばよかったのだが、何やら獅子顔が準備を始めている。

 口を大きく開け、白い輝く塊が徐々に大きくなっている。

 

 「まさか!」


 大技が来ると察知した。

 だが、ドラゴンのレーザービームが邪魔で奴の攻撃の阻止すら敵わない。

 このままではもろに直撃だ。


 俺はともかくシハルも・・・


 やることは一つだった。

 

 「シハルごめん」

 「え?」


 サタルドスは力の限りシハルを引き離した。

 無論、シハルは状況を理解できなかった。

 そして・・・・


 「ゴオオオオオオオオ!!!」


 気高い雄叫びと共に光のレーザは一直線にサタルドスに向かっていった。

 ドラゴンのレーザービームで逃げ場はない。

 ここまでなのか・・・・

 サタルドスの目の前は白一色の世界に包まれ、サタルドスは・・・・・・・意識を失った。




 「サタルドス!!!!!!」


 シハルが呼びかけるとともにサタルドスは白一色に包まれ、見えなくなってしまう。

 そして空中から放り投げられたシハルは重い音を立てて地面に叩きつけられる。


 「ガハ・・・!ゴホゴホゴホ」


 うまく呼吸ができない。

 あばらの一本か二本は逝っただろう。

 シハルはうつ伏せになることしかできなかった。


 ドスン・・・・


 彼女が地面に着く数分後にサタルドスが降ってきた。

 無論サタルドスに意識はない。

 

 「サタ・・ル・・・ドス・・・」

 

 シハルが呼びかけても返答がない。

 死んでしまっただろうか?


 ガルルルルルルルル・・・・


 キメラがゆっくりとシハルに近づく。


 やだ・・・・こないで・・・・・


 シハルはサファイア・ミネラルも殺せない小心者の女の子。

 こんな凶悪なモンスターに立ち向かえるはずもない。

 ただ怯えることしかできなかった。


 こないで・・・・・

 ガルルルルルルル・・・・・ 


 シハルの思いはモンスターに届くわけがない。

 そしてキメラはシハルに攻撃を仕掛けた。


 「ゴオオオオオオオ!」

 「や!助けて!サタルドス!」

 

 目を必死につむり、彼に助けを求めるが、彼に悲痛の声は届かない。

 そう思われたが、どうやら違うようだ。

 シハルを一撃で仕留めようと襲い掛かる三体の首の内、獅子顔とドラゴンの顔がなくなっていた。

 それにシハルが気が付いたのは、なかなか襲い掛からない攻撃にうっすらと目を開けた時だった。

 そこにあったのは、残るヤギの顔を片手で防ぐ男の姿。

 間違いない、サタルドスだった。

 だが・・・・


 「サタルドス・・・?」


 シハルはサタルドスの異変に気が付いた。

 いや、気が付かない方がおかしい。

 体格がムキムキになっている。

 それに刀が変色して赤と黒の禍々しい色になっていた。

 

 「本当にサタルドスなの・・・?」


 先ほどまでサタルドスが倒れていた場所を確認してみると、そこに彼の姿はない。


 やっぱりサタルドスなの・・・?

 メエエエエエエエ・・・・!


 不利と感じたのか、キメラは素早く後退し、潰された顔の再生を始めた。

 それと同時にサタルドスらしき人物がシハルの方を振り返える。

 だが、サタルドスの面影が微塵もなかった。


 「あなたは・・・・」

 

 彼の瞳は真紅の如く真っ赤に覆われ、悩んでいた見せ胸筋もバキバキになっていた。

 そして彼は言った。


 「邪魔だ」

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