百三十五話 メイシア発見
ペランに辿り着いたヘルバトスたちは、王国の雰囲気に圧倒されていた。
賑やかな街並みに行き交う人々の数々。
その光景に見慣れていないヘルバトスたちは、酷い頭痛に襲われていた。
「見てるだけでチカチカするな・・・」
「そうだね・・・とりあえず、人通りの少ないところへ行かない?」
「それもそうだな・・・」
人混みから逃げるように、ヘルバトスたちは路地裏へと身を潜めることにした。
吸い込む空気は美味しい物とは言えないが、落ち着いていられる場所だった。
先ほどの人通りでは、商売繁盛のための宣伝に何度も絡まれたこともあり、気が休まらない。
だから、この日陰はヘルバトスたちにとって絶好の場所だったのだ。
「--にしても、本当にメイシアがここに一人で来てるのか?とてもじゃないけど信じられないな」
ヘルバトスがそう思うのも無理はない。
なんせこの自分でさえ街の空気にやられ、憔悴しているというのに、知力が著しく低いメイシアがこの街の空気に耐えられるわけがないからだ。
そもそも知能が低いから、好奇心に身を任せ毎度気を張っていることがないから平気なのかもしれないが。
「何もやらかしてないといいけど・・・」
「ふふ、ヘルバトスは本当に心配性だね?」
逆に心配しない奴はいるのだろうか。
メイシアの行動は低学年と同等のレベルだ。
もしかしたら、もうすでに何かをやらかしているかもしれない。
可愛い顔をするミーレシアはまだ知らないのだ。
メイシアがどんな女の子なのかを。
「ミーレシアが想像してる以上に危なっかしい子なんだ。だから早く見つけないと」
「そうなんだ、それは早く見つけないとだね」
いてもたってもいられなくなったヘルバトスが行動を開始しようとすると、人通りの方から声が掛けられた。
その声は聞き覚えのある声で、
「あれ!?ヘルにい?ここで何してるの!?」
「メイシア!お前、何もやらかしてないよな?」
「うん!第一声でその質問はどうかと思うけど!」
仕方がない、それだけメイシアの信用度が低いのだから。
ヘルバトスの元へ駆け寄ってくるメイシアは、彼の背後に見知らぬ女性が立っていることに気が付き、首を傾げながら不思議そうな顔をしていた。
「ヘルにい?この人はー?」
「ああ、この人は・・・」
ヘルバトスが紹介する前に、ミーレシアはヘルバトスの背中から飛び出し簡潔に自己紹介をした。
「初めまして、ミーレシアと言います。よろしくお願いします」
ミーレシアは、メイシア相手でも礼儀正しく振舞っていた。
メイシア相手なら、もう少し気を抜いた挨拶でも良い気はするのだが、彼女が自らの意思で決めたことなら問題はないだろう。
頭をぺこりと下げるミーレシアに、メイシアは口を開けて驚いていた。
そして、はっと我に返ったメイシアもミーレシアにお辞儀で返す。
「メイシアと言います。うちの兄がいつも大変お世話になってます。ふつつかな兄ですが、今後ともよろしくお願いします」
「ふつつかはお前だろうが」
礼をしながら何を言い出すかと思えば、とんでもないことを口走ったメイシア。
ヘルバトスは聞き流すことなく、メイシアの認識の誤りを正すようにつっこみを入れる。
まあ、当の本人は言葉の意味を理解していないのにも関わらずに使っていたようだが。
そんな二人のやり取りが微笑ましく思えたのかミーレシアはニッコリと笑っていた。
「二人とも仲がいいんだね?」
「そうでもないさ、メイシアの面倒を見ているからそう見えるだけだよ。なあ?メイシ・・・」
ヘルバトスはメイシアの方に目を送るが、そこにいるはずのメイシアの姿がない。
どこに行ったのかと思った矢先、ミーレシアの方からメイシアの声が聞こえた。
それはなんとも甘ったるい声で、
「ふぁ~、お姉ちゃん良いにおーい」
ミーレシアの方を窺うと、そこには彼女に全力で抱きつくメイシアの姿が。
顔をミーレシアの服に擦り付けて、匂いを堪能していた。
--メイシアのやつ・・・俺でもそれはしたことないのに・・・!
ヘルバトスはメイシアに嫉妬を覚えるもの、同性だから嫉妬するものではないと自分に言い聞かせていた。
--というか、俺はなんでメイシアに嫉妬を・・・?
嫉妬心を抱いたということは、つまりミーレシアを取られたくなかったことに他ならない。
その事実は、決して捻じ曲げることができない些細な愛ではないことに、この時にようやく気が付いた。
まあ女の子に嫉妬して気が付くようでは、カッコ悪いものではあるが。
--俺、やっぱりミーレシアのことが・・・・・・好きだ。
その答えにたどり着いたヘルバトスはどんな顔をしていたのだろう?
ミーレシアとメイシアは、じっとヘルバトスのほうを見つめていた。
「ヘルにい?お顔が大変なことになってるよ?」
「ええ、顔が真っ赤。もしかして、熱があるんじゃ・・・」
メイシアを引きはがしたミーレシアはゆっくりとヘルバトスに近づく。
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
「そんなに顔を赤くしてたら、その言葉も信用できないよ」
そんなことを言いながら、ミーレシアはぎこちない動きをするヘルバトスの額に手を当てた。
確かに、メイシアの言う通りでミーレシアからは良い匂いが漂っていた。
こんなにも良い匂いを漂わせている美女が、自分の額に手を当てていると考えているだけで、さらに顔が沸騰してしまいそうだ。
そして案の定、ヘルバトスの顔は沸騰した。
「ヘルバトス?さらに熱くなってるよ?今日はゆっくり休む?」
「あ、いや、これは、しばらくすれば何とかなるというか・・・」
「あははは、ヘルにい顔真っ赤ー!かーわいいー!」
メイシアの言葉を聞き届けたと同時に、ヘルバトスの顔から血の気が引いていくのがわかった。
ヘルバトスはあるものを見てしまったからだ。
幽霊だとか実体が曖昧なものではなく、もっとちゃんとした現実だった。
ヘルバトスは恐る恐るメイシアに問いただした。
「メ、メイシア・・・?それどうしたんだ・・・?」
大事そうに口に運びながら、ゆっくり舐める『りんご飴』に似たその食べ物。
メイシアはおいしいものを食べたいとゼランにねだることから、金は持っていないと思われた。
その食べ物をそれなりの代金を払ったのなら問題ないのだが、ヘルバトスは嫌な予感がしていた。
「これ?さっきからずっと持ってたけど?」
「違う!それをどうしたんだって聞いてるんだ」
きょとんとしているメイシアは、自分の行いに過ちが一切ないような態度で購入経由を説明した。
「これは、お店のおじちゃんが一本どうだい?って言ってきたからもらったんだよ?」
ーーもらった?
その言葉に酷く引っかかるものがあった。
それは、購入したのなら、買ったという簡単な単語で説明ができるからだ。
さすがの天然バカのメイシアでも、もらうと買ったの区別ぐらいはわかるはずだ。
心臓の鼓動を酷く打ち付けながら、ヘルバトスは最後の質問に出た。
「それ、買ったんだよな・・・?」
するとメイシアは首を傾げながら告げた。
「・・・?もらったんだよ?」
「バッカ、それじゃあ万引きじゃねーかよ!」
「万引き・・・?」
万引きの単語を知らないとは、この地に送り出したゼランも驚くだろう。
そんなことはどうでもいい、早く代金を支払わなければ。
そしてこの時、ヘルバトスはようやく気が付いた。
自分自身も一文たりとも持っていないことに。
「ミーレシア!金、金を持ってないか!?」
最後の希望はミーレシアに託されたのだが、どうもミーレシアの動作がおかしい。
目を真ん丸を見開き、メイシアと同じように首をかしげている。
嫌な予感がした。
「な、なあ、ミーレシア?お前・・・まさか・・・」
嫌な予感が的中しないことを切実に願ったのだが、どうやらこの地には神は存在しないらしい。
「金・・・って一体何?それがあったほうがいいの?」
「万引き以前の問題だった!」
巨人族にはお金という通貨概念は存在しないのだろう。
でなければ、五百年生き続けているミーレシアが金という言葉を知らないはずないのだから。
--どうする、謝りに行くか?でも行ったところで金はないし・・・返品も不可能だよな・・・
メイシアの手元に視線を向けると、そこには跡形もない飴の姿が。
--マジでどうすんだよ!このままじゃあ・・・
両手で頭を掻くヘルバトスにミーレシアは、
「ねえ、どうしたの?何かまずいことにでもなったの?」
こんな姿を見せていたら、何かあったと思うのは自然な流れだ。
だからこそ、このタイミングでヘルバトスは、問題が生じた事件の流れを話し始めた。
「落ち着いて聞いてくれ、実は・・・」
これも一つのお約束なのだろう。
俺が事件の全貌を話し始めようとしたその時、人通りの中からこちらを覗く一人の兵士が「いたぞ!盗人の仲間も一緒だ!」と仲間に知らせるように大声を放ったのだ。
ーークソったれ・・・!
気が付けばヘルバトスは二人の手を引き、逃走を図っていた。
こんなことをすれば、罪は重くなることはわかっていたのに。
「逃げたぞ!追え!」
そしてこの日を境に、ヘルバトスたちは『盗人三人衆』として指名手配犯にされたのだった。
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「竜人族最強の異端者“四大龍王の力、全てを行使し蹂躙する”の方もよろしくお願いします!




