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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
四章 巨人族の小娘
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百三十三話 初めての言い争い

 魔界に足をつけたヘルバトスとミーレシアの間には気まずい空気が漂っていた。

 それもそのはず、まるで愛の告白のようなことをお互いに口にしたのだ。

 相手の顔を見ることができなくなってしまうのは当然と言える。


 --やっぱり話さないといけないよな・・・?でも・・・


 ミーレシアの方をおそるおそる窺うと、彼女は未だ頬を紅潮させていた。

 

 --よく見ると、ミーレシアって可愛いよな・・・

 

 透き通る白い肌に、天使のリングが映し出された綺麗な水色の髪。

 少年ながら、その美貌についドキドキしてしまう。


 --お、俺は何を考えてるんだ!?そうじゃないだろ!


 意を決したヘルバトスは、気まずい空気を断ち切った。


 「それじゃあ、食料探しに行こうか?」

 「ひ、ひゃい!」

 

 緊張のあまり、ミーレシアは思い切り噛んだ。

 今までの恥ずかしさに、噛んだことが加算されてさらに赤みが増す。


 --何この生き物・・・、めっちゃ可愛いんだけど・・・

 

 ヘルバトスはドギマギしながらも、全力で彼女をエスコートした。

 だが、ヘルバトスは凄く大事なことを忘れていた。

 彼の行いは、忘却の罪に値する。


 「あ、ごめん・・・俺、この魔界の事全然知らないんだった・・・」


 ヘルバトスが特定している部屋の場所は、「サタルドスとシハルが眠っている部屋」と「会議室」だけだった。

 ヘルバトスは、つい最近魔人族の仲間に加わった新米騎士。

 無論、その短期間で魔界を全て知り得ているはずがない。

 そもそも、ヘルバトスは魔界の極端をまだ知らないのだ。

 

 「えー!それじゃあご飯の場所わからないのー?」

 「面目ない・・・」


 魔界に行けばご飯にありつけると言ったのにも関わらず、この無能さ。

 こんな可愛い女の子に情けない姿を見せてしまい、ヘルバトスの心はズタボロだった。


 --穴があるなら入りたい・・・


 落ち込むヘルバトスにミーレシアは優しく声をかけた。

 女神なのではないかと錯覚を起こしそうなほどに、彼女がキラキラと輝いて見えた。

 

 「大丈夫だよ?知らないなら、一から探したら良いんじゃないかな?そしたら部屋の場所も覚えられて、食にもありつけるから一石二鳥だよ!」


 微笑むミーレシアが本当に眩しかった。

 ウジウジしている自分が情けなく感じてしまう。

 

 --本当に優しいな・・・なんで力のためだけにこの子が殺されないといけないんだ?


 思い返すだけで、ヘルバトスの中で怒りが込み上げてくる。

 目先の事だけしか考えていない無能の手から、ミーレシアを何としてでも守らなければならない。

 ヘルバトスは、改めて決意を固めた。


 「ミーレシア、俺はお前を守る。ミーレシアに指一本も触れさせないから」

 「ん?あ、ありがとう?」


 困惑するミーレシアの手を取り、ヘルバトスはある一室へと足早に向かって行った。

 その部屋はヘルバトスにとって思い出の場所であり、初めて人のために行動しようと思えた場所。

 その部屋に眠る彼に、一言礼がいいたかったのだ。

 そして、その一室の前に辿り着くと、隣にいたミーレシアはなぜかヘルバトスの後ろへと隠れてしまう。

 ミーレシアはこの扉の先にどんな光景が広がっているのか知らないわけだから、警戒してしまうのも無理はないだろう。

 だからヘルバトスは、この扉の向こうにいる人が自分にとってどれだけ大切な人なのかをミーレシアに説明した。


 「この部屋には俺のお兄ちゃんがいるんだ・・・」

 「ヘルバトス、お兄ちゃんがいたの?」

 「いや、血縁関係はないんだけど、奴隷だった俺を弟分のように扱ってくれる優しい人なんだ」

 

 いつの日にか、貴族の奴隷生活に終止符を強制的に打ったヘルバトスの憧れの存在。

 どんなに惨めなやつにでも救いの手を差し伸べてくれる、まさにヒーローのような存在だった。


 ーーいつか彼のようになりたい。


 憧れを抱くヘルバトスの目からそんな本音が漏れているように感じ取ったのか、ミーレシアはまるで自分の事かのように嬉しそうに頷いていた。


 「そんなに優しい人なんだ。ヘルバトスがそう言うんだったらそうなんだろうね?でも驚いたなー、あんなに強いヘルバトスが実は奴隷だったなんて」

 「自分でもこれほどまでの力を手に入れて腰を抜かしそうだよ。だけど腰も足も曲げない。今はまだ」

 「今はまだ?」

 

 ミーレシアは知る由もなかった。

 ヘルバトスの憧れである彼に掛けられた『呪い』が、六純天使のものだということを。

 彼の部屋の前で、包み隠すことなく全てを共有しようと思っていたのだが、突然になって言葉が出てこなくなる。

 ヘルバトス自身も、なぜ言葉が出てこなくなってしまったのか、おおよその見当はついていた。


 --ミーレシアに六純天使のことを話してもいいのだろうか?


 敵対する者からミーレシアを守るとは言ったものの、六純天使との闘いに巻き込んでいいのだろうか。

 ミーレシアは完全に死を恐れてる。

 だからこそ、この大戦争に加担させたくないのがヘルバトスの正直な気持ちだった。

 そんなヘルバトスの心配そうにする面構えに、ミーレシアはいつもの優しい笑顔を彼に送った。


 「もしかして、私のこと考えてる?」

 「何かあれな感じがするけど、まあ考えてたよ」

 「そうなんだー、ふーん」

 「--なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

 「いーや?別にー?」


 くるりと後ろを向き、背中を見せるミーレシアはどこかご機嫌な様子に見えた。

 なんでミーレシアが突然ご機嫌になったのかは不明だが、六純天使とは関係なく彼女に話さなければならないとヘルバトスはこの瞬間に思った。

 ミーレシアの死がどうとか考えていたが、ユニークスキル『根性』を持っていたとて、ヘルバトスにも本当の死が訪れる時が来るだろう。

 だからーーーー


 「ミーレシア、落ち着いて聞いてくれ。今から俺に課せられた役目を・・・いや、そうじゃないな。なんで俺が自分の意思で戦う道を選んだのか話そうと思う」

 

 そしてヘルバトスは洗いざらい全てを話した。

 憧れの兄が六純天使の『呪い』によって戦闘不能になってしまったこと。

 兄が大切にしているシハルという女性の記憶が何者かに盗まれていること。

 ヘルバトスたちの仲間である暗黒騎士がある日を起点に行方を眩ませたこと。

 最後に、兄の『呪い』の解除と共にシハルの記憶を取り戻す手がかりを掴むため、敵対する連中と戦う道を選んだこと。

 全てを打ち明けると、ミーレシアは何も言うことなく呆然としていた。

 それもそうだろう、六純天使に歯向かうということは『六宝剣』の勇者に歯向かうと同意だ。

 そんな無謀な挑戦をするヘルバトスに、誰が好き好んでついて行くだろうか。

 一緒に居てくれという約束も取り消される覚悟で、ヘルバトスは言った。

 そんな過酷な道に、ミーレシアを連れて行きたくないから。

  

 「それが俺の戦う目的だ。わがままかもしれないけど、離れてほしくないし、死んでもほしくないんだ。だから事が済むまで、ミーレシアはやっぱりこの魔界で待機しててほしい」

 「・・・いやだよ・・・」

 「え・・・?」

 「そんなの嫌だよ・・・一人だけ危ない世界に行こうとしないでよ・・・」


 ミーレシアはボソボソと呟きながら、ヘルバトスをぎゅっと抱きしめた。

 女の子特有の甘い香りで頭がどうにかなりそうだったが、今はそういう状況じゃない。

 しばらく堪能していたかったが、ヘルバトスはミーレシアを優しく引きはがし、


 「俺もよくわからないんだ・・・、この気持ちの正体が・・・。でもミーレシアが殺されるのは耐え難い苦痛なんだ。わかってくれ・・・」

 「分かるわけないよ、私だってヘルバトスがいない世界で生きていけない・・・。だからお願いだよ・・・、私を一人にしないで・・・。私をずっとヘルバトスのそばに置いてよ・・・」


 ヘルバトスとミーレシアの発言は、もはや愛の告白と言えよう。

 だが、必死さが羞恥心を上回っていたせいで、二人はその失言に気が付かない。

 

 「俺についてきたら、確実にミーレシアは狙われる。死ぬかもしれないんだぞ?俺はそれが嫌なんだ」

 「ヘルバトス、さっきから自分のことしか考えてない。私の気持ちも考えてよ・・・ヘルバトスがいなくなった世界で私はどう生きて行けばいいの?辛いの・・・もう大切な人を失いたくないの」

 「大切な人・・・?」

 「私のお父さんとお母さんは、私を逃がした罪で仲間に殺されたの・・・私の記憶は死んでも引き継がれる物なの・・・だからたくさんの両親を亡くしてきたの・・・数えきれないほどに・・・だから、もう大切な人を失いたくないの・・・お願い・・・一緒に行かせてよ・・・」


 ヘルバトスは、ミーレシアの両親が巨人族の仲間に殺されていたことに驚きを隠せなかった。

 まあ普通に考えてみれば、彼らがミーレシアの両親を殺しにかかるのも納得がいく。

 計り知れない力を体現したミーレシアを逃がしたのだ。

 巨人族全体にとっては大問題でしかない。

 

 --ミーレシアに悪いことしちゃったな・・・


 ミーレシアが思う大切な人を失いたくない気持ちは、ヘルバトスなんかよりも遥かに大きく、そして重かった。

 ヘルバトスは泣き崩れるミーレシアの頭を優しく撫でた。


 「そんな辛い過去があったんだね・・・気が使えなくてごめんね・・・?」

 「ヘルバトスは悪くないよ、思いは口に出さないと伝わらない物だから・・・」

 「そうだね・・・、でもいいのか?この戦いで、もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」

 「大丈夫、ヘルバトスと一緒なら・・・」

 「俺が死ぬ可能性だってあるんだぞ?」

 「大丈夫、ヘルバトスと一緒なら・・・」

 

 それ以降、ミーレシアはその言葉だけしかリピートしなかった。

 だが、ミーレシアの泣き止んだ目つきからは、迷いが一切感じない。

 どうやら、死から逃げることを止め、立ち向かう決意をしたようだった。


 --ミーレシアがやる気なのに、俺がそれをへし折るのも野暮だよな・・・


 そしてミーレシアに見習い、ヘルバトスも決断する。


 「わかった、それじゃあ今後ともよろしく頼むよ。ミーレシア」

 「うん、で、でも私戦い方わからないや・・・」

 「そうだよね・・・そしたらご飯食べた後に特訓に励むとしよう」

 「ラジャー!それより、私にお兄さんを紹介してくれるんじゃないの?」

 「そうだった」


 話が込み合っていたせいで、本来の目的をすっかり忘れていた。

 そして、ヘルバトスは重い音を立てる扉をゆっくりと開くのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

ブックマークを付けて下さった読者様、本当にありがとうございます!

今後とも更新の方、頑張っていきますので応援よろしくお願いします!


よろしければ、「竜人族の異端者<<四大龍王の力、全てを行使し蹂躙する>>」が全七部まで投稿してありますのでそちらの方も読んでみてください!

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