百一話 真実と秘密
ここは・・・どこだろう・・・?俺は確か・・・・
バルカンは、自分の身に何が起こったかを必死に考えた。
俺は・・・エナとリアラを探すために・・・血だらけで・・・家中を探し回って・・・それで・・・エナが無事に帰ってきて・・・
その後の記憶が一切なかった。
記憶が一切ないということは、何らかの問題が自分の身に起こったことになるが、話は簡単だ。
頭を打ち付けて、血を滝のように流していてもやるべきことは明確に覚えていたので、記憶喪失の可能性はかなり低い。
だとすればやはり、
気を失っただけか・・・ここは俺の夢の中なのか・・・?
辺りは霧に包まれているかのように、世界がぼやけて良く見えなかった。
バルカンは必死にその霧をかき分けるが、状況改善には至らない。
夢は一体どうすれば覚めるというのか。
頬をつねったとしても目覚める気配はないし、高い所から落ちれる場所もない。
とりあえず、覚めるまで待つしかないのか・・・?
そんなバルカンが自然に目を覚ますことを待とうとした、その時だった。
ここはボクと君の世界だよ・・・
バルカンの背中に、一人と思われる女性が話しかけてきた。
その女性に覚えが、いや忘れるわけがない。
ヘルバトスをこの世界にバルカンとして召喚し、試練を与えた者。
バルカンはゆっくりと後ろを振り返った。
すると、やはりそこには彼女の姿が。
サファイアのような輝く瞳をし、誰もが見惚れてしまうような透き通る銀髪。
見間違えるわけがない。
バルカンは腹の底から声を出すように、
「テ―レーナ―シーア!!!!!」
テレナシアへの怒りが最頂点まで達し、気が付けば彼女に向かって殴りかかっていた。
本来、女の子に手を上げるのはどうかと思うが、それだけのことを彼女はバルカンに施したのだ。
だが、バルカンはテレナシアを殴ることができなかった。
女の子を殴るのはどうかと、我に返ったからか?
そんな簡単な言葉で説明が効くようなことじゃない。
バルカンの放った渾身の拳は、テレナシアの頬を擦り抜けたのだ。
それを幾度となく繰り返すが、テレナシアに一撃たりとも与えることができなかった。
ダメージはないものの、何度も殴られているテレナシアにとっては驚くべき光景だろう。
テレナシアはその驚いた調子のまま、バルカンに問いかけた。
「君はどうして女の子の・・・それも顔面を狙い続けるのかな?女の子にとって顔は大事な生命線なんだよ?」
「黙れ!!!!!」
テレナシアの話に耳を傾けようともせずに、殴り続けることをやめない。
何百回、何千回と繰り返すも、テレナシアにその拳が当たることはなかった。
それだけの回数を殴り続けていれば、体力がなくなるのも時間の問題。
そして、とうとうバルカンは膝を地に着けてしまった。
クソ・・・っ!なんで当たらないんだ・・・っ!
あれこれ考えをまとめてみるも、テレナシアにダメージを与えるそれらしい答えは見つからなかった。
膝を曲げるバルカンにテレナシアはゆっくりと近づいた。
「いくら攻撃しても当たるわけがないよ。だってここは君の夢の中なのだから」
「コロス・・・殺してやる・・・っ!!!」
「まあ、お遊びはこの辺にしてさっそく本題に入るとしよう」
そう言うテレナシアは、右手を膝をつくバルカンの頭にかざしながら、
「ステイト」
そう一言言い放った時だった。
グハ・・っ!
突然、全身を締め付けられているような感覚に襲われた。
締め付ける力は相当なもので、抜け出すことはまず不可能だった。
これは上級魔法なのだろうか?
バルカンは締め付けられながらもテレナシアに、
「おい・・っ!これは上級魔法か!」
「ん?ボクが君に説明する必要あるのかな?」
「大ありだ!お前は俺に嘘を吐いたんだからな!」
「ウソ・・・?」
その表情から察するに、どうやらテレナシアは嘘を吐いた覚えは微塵もなさそうだった。
だが、バルカンは忘れもしない。
あの意識の中でテレナシアが放った最初の言葉を。
バルカンは、とぼけているテレナシアに向けて言い放った。
「お前は堕天使なんかじゃないんだろ?」
「ん?堕天使?誰が?」
「お前が」
「ボクが?」
「そうだ、お前はあの日堕天使だと言っていたが、本当はそうじゃないんだろ!」
テレナシアは必死に思い当たる節を探したが、見つかることはなかった。
いや、そもそも見つかるはずもないのだ。
そのわけは、テレナシアの口から直接告げられた。
「なるほど、これでようやく謎が解けたよ」
「なんの謎だ?」
「君の中にある「呪い」さ」
「謎も何もお前が俺に掛けたんだろうが」
「まあ、半分正解で半分不正解ってところだね」
テレナシアの言っている意味が分からない。
テレナシアがバルカンの体に「呪い」をかけたとすれば、半分正解じゃなく満点だろう。
何の要素が半分不正解だったのか。
テレナシアは無防備なバルカンの耳元で小さく囁いた。
「君・・・中身は別次元からきたんだね・・・?」
寒気が、バルカンの背中から体全体にかけて駆け巡った。
テレナシアはバルカンから身を離し、バルカンの目を見つめながら、
「君に掛けられた「呪い」は恐らく、別次元のボクってことだね。君のボクへの怒り具合を窺う限りそんな感じだと思ったんだけど、違ったかな?」
テレナシアがバルカンに問いかけているというのに、答える言葉が全く見つかっていなかった。
ピンポイントで当てているからこそ、余計なことを言えないのだ。
だが、黙っていても良いことなど一つもない。
まずは、黙ることで、その推論が当たっているという肯定をしてしまっているということ。
他には、黙ってしまうことで、他にも隠しているのではないかという興味心を作り出してしまうこと。
テレナシアもその例外ではなかった。
テレナシアはバルカンの胸をツンツンと優しく突き刺すように、
「他に何かないのかなー?あるのなら聞かせて欲しーなー?」
「誰がお前に教えるか!それより俺の質問に答えてないだろ!」
「ああ、忘れていたよ。この魔法が上級魔法かということと、ボクが堕天使なのかってことだよね?」
「嘘偽りなく、全部話せ」
「まあ、ボクは嘘を吐こうなんて思ってないけどね」
テレナシアはこういうが、本当のことかどうかは分からない。
だが、聞いて損することはまずない。
真剣に聞こうとするバルカンにテレナシアは胸一直線に突き刺し、ニコニコとした笑顔で、
「これ、だたの詠唱魔法だよ?誰でも使える簡単なやつ」
「は?嘘つくんじゃねーよ。これほどまでに強力な魔法が誰でも使える詠唱魔法なわけないだろ!」
「ハァー、君は人の話を信用しないタイプのようだね?」
「お前に限っての話だけどな」
「え!それって!特別扱いとかそういう?」
「んなわけないだろ」
「可愛くない龍王さんだこと」
「そんなことはどうでも良い!早く本当のことをはなせ!」
「だから、詠唱魔法だってば。君達竜人は良い物ばかりを欲しているから、こんな簡単なことも理解できないのかな?」
「なんだと!?」
自分はともかく、他の竜人が悪く言われることに腹が立つバルカン。
その怒りの根源を全身に行き渡るように力を注ぎ、テレナシアに掛けられた魔法を解こうとするが、ビクともしない。
こんなものが最下級魔法である詠唱魔法であるはずがない。
バルカンは屈することなくテレナシアに聞き続けた。
「さっさと本当の事を話せよ!」
「本当のことだったのに、しょうがないな。「ステイト」の上級魔法を受けてもらえば信じてもらえるかな?」
「は?お前は何を言って・・・」
バルカンはそう言いかけた時だった。
先ほどまでの締め付けとは明らかにレベルが違う。
喉は潰され、呼吸もままならない。
まるで雑巾で絞られているような感覚だった。
どう・・・して・・!夢のはず・・・なのに・・!や・・ば・・い!こ・・の・・ま・・・・・ま・・・じゃ・・・!
バルカンが窒息仕掛けたところで、どうやらテレナシアは元の詠唱魔法に戻したようだった。
明らかにレベルが違う。
バルカンは咳をしながらも、心拍を安定させることに専念する。
そんなバルカンに対してテレナシアは、
「これでわかったかな?この魔法がいかに弱いのか」
「お前・・・一体何者なんだ?」
上級魔法を使っていたドレイニーとは、比べ物にならないくらいの魔法力。
まさに、神に等しい存在ともいえるだろう。
テレナシアは再び、素敵な笑顔を見せながら、
「会議室でも言ったけど、ボクはただのか弱い女の子さ」
「おい!質問の答えになってねーぞ!」
「そろそろ君とお別れの時間かな?」
「おい!話はまだ・・・」
まともな答えを聞けずにいるバルカンの胸に手を置きながら、テレナシアは見上げるように、
「答えが知りたいのなら、自分で探すべきだよ?恐らく、別次元のボクもきっと同じことを言うと思うな?」
「お前・・・何を言って・・・」
「だから、ボクの口からはこれ以上のことは言わない。知りたいなら自分の耳で聞いて、目で確かめるしか方法はないよ」
「おい・・・っ!俺の話を・・・っ!」
「だから、これでお別れ」
次の瞬間、正常な心臓に電気ショックが与えられたような激しい衝撃が体中に走り、バルカンが無気力に倒れようとする間にテレナシアが最後に口から発したのは、
「君のその「呪い」が解けることを願っているよ・・・」
その言葉を最後に、バルカンの意識は再び失われたのだった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
そして、ブックマークを付けてくださった読者様、本当にありがとうございます!
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今後とも「六宝剣の落ちこぼれ異端者」をよろしくお願いします!




