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天野川夜見子

 西暦二千三年、イラクの首都バグダッド。

 アメリカを中心とした多国籍軍の侵攻が避けられない状況になり、この国に滞在していた外国人が脱出を始める一方で、その流れに逆らうように報道関係者や工作員に混じり入国する者たちがいた。

 彼らがこの時期にこの国にやってきた目的。

 もちろん、それはこれから起こることに乗じて博物館や図書館に納められた貴重な品々を奪い取ること。

 そして、すべて日本人で構成されているその中のひとつが、現在の蒐書官の前身である蒐集官たちとなる。


 各国の報道陣がたむろする高級ホテルから少し離れた邸宅。

 それが彼らのアジトであった。

「結局、鮎原さんはどれくらいの人間をイラクに入れたのですか?」

 この場にはいない男の名を出したバクダッドにやってきたばかりの若い男の問いに、その男から現場指揮を任せられた金属製カップに入ったぬるいコーヒーを啜る新池谷が答える。

「ここにいる者を含めて蒐集官だけでも十五人。現地スタッフや諸々合わせれば三桁近いチームになる」

「なるほど。これだけの面子を揃えれば相当な戦果が期待できそうですね」

「まあ、西野君の言葉は間違ってはいないが、それについてはあまり自慢できないだろうな。なにしろこれは火事場泥棒の類なのだから」

「火事場泥棒。確かに言い得て妙」

「誇り高き蒐集官も随分落ちぶれたものですな」


「だが、我々以外に確認されているだけでも同業者が三つイラクに入っているのだ。我々がやらなくても博物館の展示品の運命は変わらない。そうであれば、我々がそれをおこなうのは当然のことであろう」


 新池谷の言葉に呼応するかのように周辺の男たちは次々に自慢の自虐ネタを披露し始めるが、彼と同格の男がその言葉で全員の意見を撥ねつける。


 ……さすがは長谷川君。


 心の中で感謝した新池谷はその言葉に頷くと、さらに言葉を続ける。

「まあ、そういうことだ。それに盗られるならともかく放火されて焼失したのでは目も当てられない」

 その会話を締めくくるような彼の言葉に全員が頷く。


「ここまで来て言うのもおかしいのですが、侵攻が回避されることはないのですか?」


 それは将来を嘱望されている永戸という名の少年からのものだった。

 コーヒーを再び含み、それから新池谷が答える。

「残念ながらそれはない。なにしろ今回の件はすべてアメリカの都合だからな。つまり大統領のメンツと利権。もう少しハッキリ言えば、今回のことは事前情報を得ながら二年前の同時多発テロを防ぐことができなかった汚名を払拭することと、この国の石油利権の独占が根本にある。だから、傲慢でプライドの高い独裁者が絶対に受け入れることができない条件を提示して、彼が暴発、最低でも拒否をしたところで即攻め込むことになるだろう。しかも、これは決定事項。つまり戦争は不可避なのだよ」

「強者が弱者に強引に喧嘩を売りつける。いや、買わせる感がありますね」

「そのとおりだ」

 少年の言葉に同意する彼にもうひとりの年長者が言葉を添える。

「だが、それが世界の理。米墨戦争しかり。アヘン戦争しかり。この世は昔からそのような理不尽がまかり通っている」

 その言葉を聞き終えた新池谷が再び口を開く。


「そして、驚くべきことに二十一世紀になってもそれが変わらない。人間は存外進歩しない生き物らしい。さて、それとは別に戦争という行動についてはもうひとつ大事なことがある。もちろんやるからには勝たなければならないのは当然なのだが、特に先に手を上げた者にとって戦争というものは絶対勝利しなければならない。万が一にも負ける可能性がある戦争は絶対に始めてはならないものなのだ。それを踏まえて問う。絶対に勝つ戦争のやりかたを知っているか?」


「情報収集と入念な準備。そして相手を圧倒する兵力の集中投入」


 彼の問いに永戸と湯木というふたりの年少組よりは少しだけ年上の先ほどの若い男が自身満々に答える。

 だが……。


 ……それは戦争屋の理論だ。今君に訊ねているのはもっと大きなものだよ。


 心の中でそう呟いた新池谷はやれやれと言わなんばかりの表情を浮かべ、言葉を吐きだす。

「西野君の答えは一見当たっているように思えるが、実はハズレだ。神林君はわかるかね」

「もちろんです」

「言ってみたまえ」


「はい。それは絶対に勝てる相手としか戦争をしないことです」


 西野の同期であるその男の答えにそのグループを率いる男は正解であることを示すように頷き、それから補足するように言葉を加える。

「しかも、今は昔と違いパーフェクトな勝利が求められている。つまりアメリカが戦争をしようとしている時点でイラクが戦闘で使用できる生物化学兵器など持っていないことをアメリカ自身が証明しているようなものだ」

「ということは、アメリカの圧勝ですか?」

「当然だ。だが、それで終わらない」

「というと?」

「独裁政権が崩壊するときに起こるもの」

「暴動と混乱だな」

「そのとおり」

「今回はその隙に博物館にあるものを頂くわけですね」

「まあ、事実としてはそういうことだが、西野君の言い方は上品さに欠ける。我々にとっての一番の競争相手はもっとスマートな言い方をしていたぞ」

「それは何と?」

「文化財の保護。または救出」

 その瞬間多くの失笑が起こる。

 もちろんそれはその言葉を口にした彼に対するものではなく、この場にいない彼らの競争相手に対するものである。

「笑わせてくれますね。その気取った仮面を被ったそのコソ泥の鼻を是非明かしてやりましょう」

「当然だ。というか、実はその準備はすでに整っている。これからそれを実行に移すわけだが、念のためにつけ加えておく。邪魔がする者がいれば容赦なく排除せよ」

 そう言ってから彼は黒い笑みを浮かべる。

「もっとも、我々の仕事中にやってくるほど気が利く者がいるとは思えんが」


「では、諸君。仕事の時間だ」


 そして、それからしばらく経ってやってきた独裁政権が崩壊した日のバグダッド。

 首都にある多くの施設が略奪と破壊の対象となったのだが、群衆に紛れてプロのハンターたちが施設に入り込んだ。

 そして、この博物館にも。

 だが……。


「どうした?」

 苦虫を盛大に嚙み潰したような表情をする同行させていた美術品の専門家である男に声をかけた彼は思ってもみない言葉を聞かされる。

「どうやら先を越されたようです」


 ……こいつは目の前にあるお宝が目に入らないのか。


 そう怒鳴りつけたい衝動を抑えて彼はもう一度口を開く。

「どういうことだ?」

「どうやら我々は現在タチの悪いペテンに立ち会っているようです」

 男はたった今ガラスケースを叩き割って手に入れたその品を彼に見せる。

 それをひとしきり眺めてから、不機嫌そのものと言う表情で彼が答える。

「これこそ我々の第一ターゲットだ。それがどうした?」

 男がもう一度口を開く。

「一見するとそのとおり。ですが、これはあきらかに偽物です。しかし、私のような専門家でなければそう簡単には見抜けないような非常に精巧なものでもあります」

 彼は男からそれを奪い取り睨みつけるように眺めるが外見、質感どれをとっても本物にしか見えない。


 ……冗談か?

 ……だが、学者肌のこの男がここでそのようなつまらぬジョークを言うはずがない。

 ……つまり、事実ということなのか。


「本当か?」

 絞り出すように訊ねた彼の言葉に男は頷く。

「間違いないです。それにしても、誰がいつこのようなものを……」

「それはこっちのセリフだ」


 だが、彼の悲劇はこれで終わらない。

 問題はここだけで起こっていたわけではなかったのだ。

「こちらB班。ミッション失敗」

「C班。こちらも失敗」

「どうした?状況を詳しく説明せよ」

「そっくりやられています。我々が一番乗りだったはずなのですが、メインターゲットに指定されたものどころか主だった品物はまったく残っていません」

「同じく」

 次々と届く聞きたくもない報告に隣の男以上に苦虫を噛みつぶしたい気持ちの彼だったが、それを後回しにしてでも今は次善の策を講じなければならない。

 このミッション成功の先に約束されている組織内の名誉と地位、それに多額の報酬を手に入れるために。


 ……手ぶらで帰るわけにはいかない以上、どのような手段を使ってもターゲット見つけ手に入れなければならない。


「博物館の関係者がどこかに隠しているかもしれない。知っていそうな者を捕まえて隠し場所を吐かせろ。痛い思いをさせても構わん」

 そのグループのリーダーである彼ダニエル・ジョンソンは部下に一段階踏み込んだ捜索を指示し、自らも探索に乗り出し始めるが、少しだけ冷静になるとあることに気がつく。

 あるべきもの、いや、いるべき者がいないのだ。


 ……まさか。


 彼はつき従う副官役の男に訊ねる。

「エリック。確認できた同業者は何グループだ?」

「地元の盗賊団を含めれば五グループ」

 彼の問いに男の声は即座に答える。

 彼の問いは続く。

「そこにアレは入っているか?」

「あれとは?」

「忌々しい例のジャップどもだ」

「いいえ。館内では確認されておりません」


 ……やはり。


 嫌な予感が現実になりつつあることを感じながら、彼は同行している他のスタッフにも声をかける。

「誰か建物内でジャップを見たか?」

「いや」

「私も見ていない」

「そういえばいないな。どうせ意気地なしのジャップのことだ。恐れをなしてやってこなかったのだろう?ラッキーだったな。そのおかげで空振りしなくて済んだのだから」

「まったくだ」


「……間違いない」


 部下たちの呑気な言葉に付き合うことなく苦悩と怒りを混ぜ合わせたような表情を見せたジョンソンを不審に思った部下のひとりが訊ねる。

「ボスはやつらがこの情報を掴んでやってこなかったと考えているのですか?」

「いや、違う。状況はさらに悪い」

「では、どういうことでしょうか?」

「わかるだろう?この手際の良さを。それを考えれば答えはひとつだけだ。これは奴らのしわざだ。全部持っていかれた。しかも、とっくの昔に。くそっ」


 そう。

 そのグループとこれまで何度も渡り合っていた彼は現在の状況をすべて理解していた。

 そして、悟った。

 今回も自分たちの負けであることを。


 ……すでに彼らはすべての仕事を終わらせている。

 ……つまり、チェックメイト。

 ……そうなれば長居は無用。


「全員に通達。目の前にあるものをポケットに突っ込んだら至急撤収しろ。このままここに留まっていたら何も収穫がないままジャップどもに博物館襲撃の汚名を着せられて断罪されるぞ。急げ」


「了解。至急撤収します」


「撤収」

「撤収」


「……くそっ。このままでは絶対終わらせない。いつ盗ったのかは知らないが戦闘が続いているこの状況ではまだ国外に運び出してはいないだろう。逆転のチャンスはある。イラクから持ち出す前に必ず見つけて俺たちの獲物を奪い返してみせるぞ。ついでに身体中を穴だらけにしたうえで木に吊るしてやる。コソ泥どもが」


 自らも一目散に逃走しながら、自分たちを出し抜いた日本人の同業者グループを彼は言葉のかぎり罵った。


 あの日から三日後のイラク南部の交通の要衝ナーシリーヤ郊外。

 バクダッドの博物館での失敗を取り返すためにダニエルの作戦。

 それは国外に持ち出すために運搬中の品物の強奪である。


「通りますかね?ボス」

「やつらはかなりの荷物を抱えている。船で運ぶのは確実だ。もちろんここを迂回してもバスラ付近にもトーマスたちを待機させている」

「西に向かい我々が網を張っていないヨルダンやシリアに抜けられたら厄介ですね」

「心配ない。向こうは我々の代わりに軍や民兵が大規模な敗残兵狩りがおこなっている。暗闇に紛れても荷物を抱えて移動していたら逆に格好の獲物になる。いくら奴らが有能でも数が圧倒的に違う。そんなことは奴らだって知っている」

「なるほど。北と東も同じ理由ですか?」

「そのとおり。今までの行動パターンを考えれば意気地なしのやつらがそのような危険なルートを選ぶはずがない。やつらは必ずここを通る」

「なるほど」

「しかも、やつらはこのイラクでは目立つ。戦闘地域をフラフラと移動しているジャップなど奴ら以外考えられないからな」

「そこを一網打尽。お宝を頂き、お代としてたっぷりと鉛弾を食わせるわけですか。あとは地元の武装集団に襲撃されたことにすればいいわけですね」

「楽しみだろう」


 ……ついにこれまでの借りを一気に返せる時が来た。


 その言葉は口に出さず、彼はニヤリと笑った。


 だが、彼の予想に反して、一週間経っても目的の集団は現れなかった。

「……どういうことか」

「我々がここに来る前にここを通り過ぎたのでしょうか?」

「だが、港で聞き込みしてもそれらしい船はなかったとのことでした。それどころか日本人も見ていないとのことでした」

「バスラやモスルでもやつらは大掛かりな仕事をしていたらしいが、そいつらも翌日には姿を消しているそうだ。ということは、どこかに潜伏してほとぼりが冷めるのを待っているに違いない」

「まさか、コネのあるイランに逃げたのでは?」

「可能性はないわけではないが、我々の情報網にも引っ掛からないで行動することなどありえないだろう」

「たしかに」

「とにかく、バグダッドから捜索しながら南下してくるトムたちの情報を待とうではないか。それまでは見張りを厳に」

 混乱する部下たちの言葉を聞き流しながら彼の胸に嫌な予感が広がっていく。


 ……あれだけ周到な準備をしていたのだ。

 ……実は逃亡ルートも用意されていたのではないか。

 ……だが、これだけ綿密な包囲から逃げることは無理だ。

 ……たしかにある。彼らが我々の包囲を掻い潜って逃げ出す方法が。

 ……しかし、それは非現実な方法だ。


 上空を飛び交う軍用ヘリを眺めながら彼が自らの意思で止めた思考の先にあったもの。

 それは空路。

  ……だが、自衛隊が戦闘地域にやってこない以上、奴らが使える手段はイラクには存在しない。


 しかし、彼が捨て去ったその推理は実を言うとほぼ当たっていた。


 同じころ。

 男たちが探し求めていた者たちの姿は南下する船上にあった。


「まもなく本船はホルムズ海峡を抜けます」

 デッキで海を眺めながら船内に響きわたるその連絡を聞いた若い男が一緒にいる年長の男ふたりのうちのひとりに話しかける。

「とりあえず一安心ですか?新池谷さん」

「油断はできないが、とりあえずはそうと言える」

「連絡要員として残してきた現地スタッフによれば、あの博物館直属のコソ泥たちは我々がまだイラク国内に留まっているはずだとバグダッドの路地裏まで探しているそうです。昨日は手配書を配っていたと」

 先ほど手に入れたその情報を披露する若い男に視線を向けた新池谷が口を開く。

「それはまさにコソ泥にふさわしいおこないだ」

「まったくです」

「それにしても我々の移動手段が地面を這うだけだと思っているとは、やつらの思考はかなり硬直しているな」

 現場の指揮をとった彼の言葉にもうひとりの男が答える。

「……だが、まさか我々が自分たちの同胞である米軍ヘリでイラクを脱出したとは思うまい」


「……ところで、新池谷さん」

 年長のふたりとともにその場にいない者たちをひとしきり嘲笑した若い男が持ち出したのは彼が見た港での不思議な光景についてだった。

「かなりの数のコンテナを港に放置してきましたが、あれの中身はどうしたのですか?」

 彼の問いにその男が答える。

 人が悪そうな笑みとともに。

「ん?それは気がつかなかったな。どうやら積み忘れてしまったようだ。だが、積み忘れたからといって今さら戻るわけにはいかないので、その荷は諦めるしかないだろう。君はどう思うかね?長谷川君」

「まったく君の言うとおりだよ。それは諦めるしかないな。アハハ」

 もちろんふたりは冗談のつもりでそれを口にしていた。

 だが、目の前にいるもうひとりの人物には言外の意味が通じなかったことに気づくと、少しだけ申しわけなさそうな表情を浮かべる。

 あくまで表面上のことだけなのだが。

「……もしかして、西野君は本当に心配していたのか。では、言い直そう。あれのことは一切気にしなくてよい。忘れてきてしまった以上、積み荷は我々の手から離れてしまったのだから。その後にあの積み荷の中身がどうなろうが我々の預かり知らぬことだ」

 彼の言葉にもうひとりの年長者が続く。

「まったくそのとおり。つまり、どこの王宮に何が届こうが我々には関係のないことなのだよ。この意味がわかるかね。西野君」


 ……なるほど。そういうことですか。


 若い男はようやく理解した。

 ふたりがせっかく手に入れた商品を港に置き去りにし、それについてまったく気にしていない理由を。


「……湾岸諸国の関係者が多数見送りに来ていたのはそういうことだったのですか」


「私個人としては、君と同様苦労して手に入れたものを他人にタダでくれてやるのはもったいと思うのだが、これは当主様の決定と鮎原さんの差配だ。異義を唱えるわけにはいかないのだよ」


 彼らが乗る船がホルムズ海峡を通る十日前。


 イラクとも、そこに多くの兵士を送り込んでいた国とも違う国の首都。


 そこに佇む屋敷の書斎からイラクに侵攻していた多国籍軍を主導している男に国際電話かけていたその屋敷の主が電話を置くと、その場に控えていた彼の息子である男が声をかける。

「話はつきましたか?」

 息子の問いに父が答える。

「当然だ。まあ、相当渋っていたが」

「そうでしょうね。貴重なヘリを使って戦闘には無関係な者たちを前線とは反対方向に運ぶのですから」

「それなら、そう言えばいいだろう。もっとも、そうなれば別の者に頼めばいいだけの話だし、結果も同じになるのだが」

「彼もそれがわかっていたから渋々でもOKしたのではないですか」

「まあ、そうだろうな」

 一瞬の間ののち、息子の口が開き、呟くようにその言葉を紡ぐ。

「全員無事に帰ってくるといいのですが……」

 その言葉に頷いた父も同じ思いが籠った言葉を吐きだす。

「そうなるように計画し準備もしている。必要があったとはいえ、世界の頂点に立つ自分たちは何をしても許され、そして自分たちは常に勝者であるなどと思いあがっている奴らに、その上の存在があることを警告するためだけの今回の仕事で将来の橘花グループを担う貴重な人材を失うわけにはいかないからな」

「……まったくです」


 少しだけ微妙な空気を破ったのは父だった。

「ところで、話は変わるがおまえは和歌山の天才少女のことを知っているか?」

 もちろんその話は息子も知っていた。

 父の言葉に頷いた息子が口を開く。

「噂だけですが。なんでも小学生ながらすでに世界中の言語が理解できるとか。一部では現代のシャンポリオンなどともてはやされているようですが、なんとも信じられない話です。眉唾ものではないのですか?」

「私もそう思って調べさせた」

「結果はどうでしたか?」

「信じられないことだがほぼ正しい。いや、違うな。噂以上だ。戦場まで出かけた蒐集官たちには悪いが、私は今回手に入れるイラクの文化財よりもその少女を方がはるかに気になる。そして、断言する。その少女は間違いなく橘花の一員となるべき特別な才を持った存在である。そこでおまえに命じる。将来橘花の至宝となるその少女天野川夜見子を橘花の一員に加えるべく工作を始めろ」

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