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古書店街の魔女  作者: 田丸 彬禰


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花宴

 東京都国立市にある高級洋菓子店「ソハーグ」店主向山紘一郎に約束の品である日本一有名な物語ともいえる源氏物語の一巻「花宴」のレプリカを届けた帰り。

 信号待ちをしている車の中で、紘一郎から注文品とは別に土産として手渡された「絵合」という名の菓子が入れられた薄い桃色の箱を抱えた助手席に座る後輩蒐書官先崎が運転する先輩の鈴川に話しかける。

「そういえば、『花宴』は夜見子様が最初に手に入れた源氏物語の原書だと以前聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか?」

 後輩の言葉に一瞬だけ間があったものの、彼の顔をチラリと眺め、他意がないことを確認すると彼の先輩はそっけなくこう答えた。

「その話は正しい。あれは随分昔のことになるが、それでもそれを手に取ったときの夜見子様の喜びようは今でも鮮明に覚えている」

 それは予想外の、そして意外すぎる言葉だった。

「もしかして、その場に立ち会ったのですか?」

 その言葉は簡素がゆえに疑問を持つ余地など皆無だったのだが、あまりにも唐突だったために後輩蒐書官は反射的に先輩に聞き返してしまう。

 そのことに気づいた先輩蒐書官は苦笑いを浮かべ、少々の皮肉を込めて答える。

「立ち会った?立ち会ったどころか、それを届けたのが私だよ。正確には私は当時私の教官役だった朝霧さんについていっただけなのだが」

「そうなのですか?」

 もちろん後輩にとっては初耳の事実だった。

 やや上ずった声で彼は再び聞き直すが、それに答える先輩の声は冷静そのものだった。

「ああ。聞きたいか?『花宴』を手に入れた時の話を」

「もちろんです」

「いいだろう。では、今月のコーヒー代をすべて君が出すことで手を打とう。もちろん店は私が指定する」

 そう言ってから、先輩蒐書官は七年前の話を懐かしそうに語り出した。


 京都府綾部市。

 京都府北部にあるこの地方都市の中心部にある一軒の民家を訪ねるためにふたりの蒐書官がやってきたのは春と呼ぶには少々肌寒い日のことだった。

「田舎ですね」

 その街並みを眺め、実に率直な感想を口にしたのは鈴川だった。

「まあ、君がよく知る京都市中心部に比べれば田舎であるのは確かだ。だが、ここは小さいながらもなかなか魅力的な場所ではある」

「そこまで言うということは、朝霧さんはここに来たことがあるのですか?」

「ある。二回ほど」

「仕事ですか?」

「いや、要件は別だ。まあ、それはさておき、この綾部は歴史的な話を除いても、その都市の規模に比して個人オーナーの喫茶店が多い。それだけでも十分に素晴らしい場所だろう」

「そう言われればそうですね。ここもそうですが」

 そう。

 彼らが現在いるのは朝霧の言う個人オーナーの喫茶店。

 いわゆる純喫茶と呼ばれる店のひとつだった。

「『絵砂』というこの店の名が何を意味しているかは知らないし、この店のコーヒーが特別美味しいというわけではないが、それでもすべてがこの店だけのものというのはやはりいい。外観も内装もどこもそっくり。そして、使い捨ての紙カップで供されものはどこで飲んでも同じ味などということを一番の売り物にしているそれのどこがいいのかさっぱりわからないし、わかりたくもない」

「早く安い。そして安心、安定の味。だからそれを求めて人が集まるのでしょう。それに、そう言いながら、朝霧さんも結構行っていますよね。チェーン店」

 後輩の指摘に朝霧は答える。

「近くに望む店がなければ仕方がないだろう。考えをまとめるための一杯のコーヒーは私にとって不可欠なものなのだ」

 大きく頷きながら、彼は心の中でこのような感想を漏らしていた。

 ……それにしても、朝霧さんにかぎらず先輩たちはなぜこうもコーヒーにこだわるのだ?

 一応、彼の疑問に答えておけば、彼らを束ねる鮎原が無類のコーヒー好きであり、彼の影響を受けてコーヒー好きになった先輩から後輩へ蒐書官の能力とともにコーヒー好きが伝播していることがその一番の理由だろう。

 そして、それ以外の理由をもうひとつ挙げるとすれば、その摂取は突然の行動を起こさなければならないことが多い彼らの活動に支障を来たすことから、休暇や職務上の付き合い以外での飲酒は控えるようにと指示されていたため、その代替としてどこに行っても飲むことができるコーヒーを彼らが嗜んでいたということになるのだろう。

 もちろんそのようなことは彼自身も十分承知している。

 ……そうであっても。

 彼は天に向かって、と言っても、心の中でのことなのだが、とりあえず天に向かって彼は叫ぶ。

 ……どこで飲んでもコーヒーの味などたいして変わらないだろう。

 ……それなのに、先輩たちは手軽にコーヒーを楽しめるチェーン店ではなく、注文から出来上がるまでに時間のかかる個人オーナーの喫茶店をわざわざ選ぶ。

 ……その理由が私にはさっぱりわからん。

 この時、彼は心の底からそう思っていた。

 だが、その日から七年が過ぎた今、その彼が先輩蒐書官たちと同様に自らが出会った「凄腕マスターが淹れるこだわりのコーヒーのおいしさ」を後輩蒐書官に語り聞かせているのだから、伝統とは実は恐ろしいものである。


「それで、今回の仕事ですが……」

 コーヒーを半分ほど飲んだところで、鈴川が今回の案件について遠慮気味に訊ねると、先輩蒐書官はコーヒーカップを持ったまま口を開く。

「まあ、表面上はそれほど難しい仕事ではない」

「と言いますと?」

「相手から取引を申し込んできた。我々はそれに応じ、鑑定し値をつけて買い取る。ただ、それだけだからだ」

「では、表面上という言葉は必要ないのではないですか?」

「そこが君の甘いところだよ。私はわざわざその言葉をつけているのだ。君はその意味を訊ねるべきであって、それが必要かどうかを訊ねるのはやや不適切ではないのかね」

 ……なるほど。たしかにそうだ。

「……では、言い直します。表面上とはどのようなことを指しているのでしょうか?」

 彼は先輩の意図を読みそこなったことをすぐに反省し、一瞬の間をおいて言い直すと、先輩の顔に満足そうな表情が浮かぶ。

「よろしい。では、答えよう。まず、そこには罠があるかもしれないということを考えなければならない」

「何かその兆候があるのですか?」

「まったくない。だが、これまでつきあいのない者がわざわざ売り込みに来るのだ。最悪の事態を想定して十分な準備はしておくべきだろう」

「なるほど。それで、先ほど『まず』と言ったからにはまだあるのですか?」

「そのとおり。まあ、そちらについてはどちらかといえば、商売に関するものだ。我々の専門を知っていて、『蒐書官の方々に買ってもらいたいものがある』と言ってきたからには、少なくても見かけはそれなりのものだろう。偽物であればそこまでだが、もしそれが売り手の言うようなものであった場合には、ただ差し出されたものに金を払って購入し帰るのではもったいないだろうという話だ」

「商品の出所を聞き出すということですか?」

「それもある。だが、まずやらなければならないのは売り手が持っているものはその品だけなのかを確認する。そして、まだ持っているようであればそのすべて手に入れるということだよ」

「なるほど」

「そのためには、相手がさらに商品を見せたくなるように最初の品はどのようなものでも多少色をつけて買い取りをしなければならない。交渉は私がおこなうわけだが、君はこの前のように隣で声を荒立てて取引を壊すようなことをしないように念を押しておく」

「わかりました」

「では、次に売り主の話をしようか」


 畠山俊次。

 先輩蒐書官が差し出したファイルに載る四十歳半ばのこの男が闇市場関係者を通じて蒐書官に取引を持ち掛けている人物となる。

「下調べは終わっているわけですよね」

「もちろんだ。もっとも、それはこの男が敵対組織の関係者かどうかというところがその中心だったのだが」

「つまり、そちらはシロということですか」

「シロというよりクロではないというほうが正しい」

「と言いますと?」

「言っただろう。この男と我々の敵対組織が接触しているかを調べたのだと。それ結果だけでいえばシロなのだが、この男の場合は不明な点が多いので、純粋な意味での完全なシロとは言い切れない。もっとも、我々が相手する者たちに完全なシロなど存在しないのだが」

「まあ、それはそうですね。それで、不明な点とは?」

「この男は旧家や名家のような特別な家などの出ではなく、また就いている仕事も普通だ。それなのに、どうやって我々に差し出せるような商品を所有できるのだ。さらにいえば、平均よりも少ない彼の収入に比して生活が少々優雅に思える」

「家族は?」

「結婚して子供が三人いる。もちろん職場結婚している妻も金持ちの娘というわけではない」

「つまり、商品を持っていない?それとも偽物?」

「一見すると、そう考えることが正しいように思えるが、彼は闇市場で商品を売っているといる重要な事実が存在する。人一倍まがい物に敏感な闇の世界の商人たちが彼との取引に応じているということは彼が売る商品は信頼できるということではないかな」

「なるほど。ということは今回も本物の可能性が高いということですか?」

「そう考えたいものだ。だが、そうなると、なぜ彼がそのようなものを持っているのかという疑問はそのまま残ることになる。君はそれについてどのような理由を考えるかね」

「人には言えない副業を営んでいるとか」

 彼の言葉に先輩蒐書官の顔がほころぶ。

「『人には言えない副業』というのは実によい表現だ。だが、それが一番納得のいく理由でもある。そうでなければ、闇市場に商品を流して金を手に入れるなどということはしないだろうから」

「家族はそれを知っているのでしょうか?」

「知らないだろうな」

「もしかして、それをネタに脅すのですか?」

「彼と同じ妻子持ちである私は鈴川君と違って平和な家庭を壊して喜ぶ無粋な趣味はない。なるべくそれに触れないように進めたい。それに、相手だって我々がその程度の知識を入れてくることくらい承知のことだろう。というか、我々を取引相手に選んだのもその辺が理由かもしれないな」

「……蒐書官は交渉に素直に応じる相手に対しては足元を見るような行為はおこなわない」

 それは闇市場の商人たちの格言のひとつであり、重要な処世術として広がっているものだ。

 先輩蒐書官は、後輩が口にしたその言葉に頷く。

「そうだ。そして、それは相手の本気度にも繋がっているとも取れる」

「では、期待はできると」

「少なくても京都に来て調べるだけの価値くらいは……いや」

「どうかしましたか?」

「……たいしたことではない。ただ……」

 彼の言葉が途切れたのを不審に思った後輩蒐書官の言葉に彼は苦みが帯びた笑みで応じる。

「京都市中心部で育った人間の前で綾部を京都などと言ったら笑われるので、言い直そうと思っただけだ」

「……なるほど。ですが、私ももう長いこと東京に住んでいるので、有名な自称『純京都人』の選民意識からはすっかり脱却していますからお気遣いなく。綾部も、それから朝霧さんが以前住んでいた宇治も京都の一部ですよ。自称『純京都人』以外には」

「まあ、当事者である君がそう言うのなら構わないか。では、コーヒーも飲み終えたことだし、そろそろ依頼者のもとに行こうか」


 さて、喫茶店からそう離れていない場所だったため、カートを引きずりながらふたりが徒歩でやってきたそこは、周辺と比べても取り立てて立派というわけでもないきわめて一般的な二階建ての家だった。

「これまでの経験でいえば、大物を抱えていたコレクターはたいてい警備が整った屋敷に住んでいました」

「そうだな。見たところ防犯装置はない。庭にいる犬もとても番犬とは呼べそうなものではないな」

「心配ですね」

「ただし、人は見かけによらないというからな。住む家の外見だけを見て軽々に組みやすしと判断すべきではない」

 後輩をそう戒めた朝霧だったが、自分たちを出迎えた畠山俊次の冴えない姿を見た瞬間、彼自身も前言を撤回したくなる衝動に駆られていた。

 案内されながらきれいに整頓はされているものの質素そのものという室内を眺めると、彼のその思いはとさらに深まる。

 だが、東京で買ってきた菓子を差し出しながら「奥さんやお子さんはどうされましたか?」と訊ねた彼に対して、男が即座に返した言葉によってその認識は改められる。

「あなたがたとの商談を邪魔されたくなかったので、外出させてあります。二時間は帰ってきませんのでご安心を」

 ……つまり、本気で交渉するというわけだ。

 その言葉を聞いて一気に心を引き締めた彼は男が不器用に淹れたコーヒーを一口だけ含んで言葉を紡ぐ。

「では、さっそく始めましょうか」


「あなたがたに買っていただきたいものとはこれになります」

「……ほう」

 飲みかけだったコーヒーは片付けられ、きれいになったテーブルに置かれたのは古い書であった。

 その表紙を眺めながら彼はそこに書かれたその書のタイトルを口にする。

「……竹取物語ですか」

「そのとおりです。いかがですか?」

「たしかに年代物に見えますね。中身を確認してもよろしいですか?」

「もちろんです。どうぞ」

「では」

 所有者の許可を得てから、まず先輩である朝霧、その後に鈴川がそれを確かめるが、触れた時点ふたりの年代測定と真贋判定は終わり、続いて商品評価もすぐに終了する。

 ……江戸時代中期の名の知れぬ写本。

 ……見た目以上に保存状態が悪いうえに、誤字も多く、出来はあまりよくない。

 ……しかも、三巻のうちの上巻のみ。

 ……そうであっても、貴重な品であることは変わりないのだから、ここに来た価値は十分にあったということになる。

 ……買いだ。

 だが、交渉を担当する朝霧が口にしたのは、彼の能力と知識から導かれたその細かな評価とは別のものだった。

「なかなか貴重なもののようですね。それで、畠山様はこれをいくらで売りたいと思っているのですか?」

 希望価格の確認。

 いわゆる単刀直入であるのだが、彼がこのやり方をするのは何度も取引している信用できる相手のときだけであり、それを知る後輩蒐書官にとって初めての相手に対してのこの言葉は少々驚くものと言えた。

 そして、それに対する男の答えはこれである。

「できれば、二億円」

 朝霧も、そして鈴川も畠山が示したその金額に思わず苦笑いを浮かべる。

 ……吹っ掛けた金額がこれか。

 ……自分が手にしている商品の価値がまったくわかっていない典型的な素人の言葉。

 ……これでは海千山千の猛者どもの巣窟である闇市場では食い物にされていただろうな。

 もちろんそう言う彼らだってその気になれば、この十分の一の金額がこれを買い取ることなど容易い。

 ……おそらくこの男の希望価格は言い値の三分の一から半分の値。

 目の前の男の腹積もりを読み切った後輩蒐書官は心の中で交渉を始める。

 だが、本当の交渉役である朝霧はそのようなことを言葉どころか表情のどこにも出さない。

 そう。

 のちに彼自身の口からそれは語られるのだが、彼はこの時、この交渉のほんの先のことだけを考える後輩よりももっと遠くを見ていたのだ。

「なるほど」

 それだけ言うと彼は沈黙する。

「……やはり高いですか?」

 しばらく待ったものの、それでも黙ったままの彼にたまらずその男がこのような交渉では絶対に使ってはいけない禁断の言葉を口にする。

 ……さすが素人。

 後輩蒐書官はほんの少しだけだが、その思いをのせた笑みを浮かべるが、望み通りの言葉を引き出した彼の先輩は心のうちでの喜びを微塵も見せることはなく、ただ重々しく頷くと、男にこう語りかけた。

「……もしかして、何かご入用なものでもあるのですか?ご相談になれるかもしれませんのでそれについてお話してはいかがですか?」

 ……うまい。

 後輩蒐書官は思わず口に出しそうになったその言葉を心の中で叫んだ。

 ……言動の端々に漂う空気からこの男はまとまった金が必要なのは間違いない。

 ……普通なら乗ってくることはないこの程度の誘い文句でも……。

 ……今のこの男なら乗る。

 ……いや。金払いがいいという噂が立っている我々からの申し出ならどんなに怪しいと思っても乗らざるを得ない。

 そして、彼の予想は当たっていた。

 少しだけ顔を赤らめた男が口を開く。

「実は……」

 そう言って彼の胸の内を語り出した。

 もちろんすべてを頷きながら聞いた彼は最後にもう一度大きく頷く。

「……つまり、家が手狭になったので建て直したい。だが、家を購入したときの借金もかなり残っている。最低でもその借金を返済したうえ改築費用は手に入れたい。さらに子供たちが大きくなりこれからさらに出費が多くなるのでそのための蓄えも欲しい。そういうことですね」

「恥ずかしながらそのとおりです」

 ……それでは二億円どころかはその半分でも多すぎるだろう。

 後輩蒐書官は心の中でそう思ったが、その言葉を引き出した彼の先輩にとっては中身などどうでもいいことだった。

 彼にとって重要なこと。

 それは交渉の材料となるその男が自らの稼ぎでは到底手に入れることができない大金を必要としているという事実を言葉にさせること。

 それだけだ。

 彼が口を開く。

「もしかしたら、あなたがお望みの金額を用意できるかもしれません」

「あ、ありがとうございます」

「ただし、それにはいくつか条件があります」

「何でしょうか?」

「さすがこれだけでは気前の良いと言われる我々でもその額を出すのは無理というものです。我々がその金額を支払うかどうかは、まずあなたがお持ちの品のすべてをみせていただかなければなりません。そうすることで、あなたは必要な資金が手に入り、もちろん我々もより多くの書が手にできることになります。悪くない提案だと思うのですがいかがでしょうか?」

 もちろんこれは明確な根拠などないいわゆるカマかけであり、言ってしまえば、彼は切り札ともいえるその言葉を交渉の序盤で捨て駒的に使うような賭けに出たのである。

 そして、言うまでもないことだが、もしここで「ない」と言われれば、別の方法を考えるか、それとも深追いを諦めるのかの選択しなければならない状況に彼は追い込まれることになる。

 ……さすがに確率が五分五分以下というこの段階でそのカードを切るのは早すぎる。

 後輩蒐書官は言葉にはしなかったものの、先輩の交渉方法を拙速とみなし、この交渉は失敗もあると覚悟した。

 そして、おそらくこの状況に立ち会えば彼と同じ若手蒐書官の多くも彼と同じ側にベットするだろう。

 だが、ここでそう思った彼にとっては「真実は小説より奇なり」を地でいくかのようなことが起こる。

 一瞬、いや、三瞬ほどは間があったものの、男は「本当に素晴らしい」という小さな言葉とともに頷き、あっけないくらいにあっさりとそれを認めたのだ。

 続けて、男は目の前の男に問いかける。

「知っていたのですか?」

「具体的なものまではわかりませんでしたが」

 存在自体は知っていた。

 たしかに彼はそう言った。

 ……いや、そう聞こえるように言っただけであり、偶然金鉱を辿り着いた事実とは大きく異なる。

 少なくても後輩蒐書官にはそう思えた。

 だが、彼の言葉と、何よりも実はすべてを知っているかのような自信に満ちたその表情を確かめると男は降参という大げさなジェスチャーとともに苦笑いを浮かべる。

「さすがです。ですが、最初の取引がうまくいったところで、こちらからそう切り出すつもりだったのですが、どのようにそこまで話を進めていいのか困っていたところでしたので、あなたのほうからそう言ってもらえてたいへん助かりました。少々お待ちください」

 そう言って一度部屋を出た男が戻ってきたとき、抱えてきたのは古い書が入った段ボール箱だった。

「本の類は本当にこれがすべてです」

 そして、その中にそれはあった。


「……これは」

 男が竹取物語以外にもいくつかの書を懐に忍ばせているとは思ったものの、さすがにそこに竹取物語以上のものが含まれているなどとは思ってもいなかった彼は、いくつかの書の間に紛れて込んでいたそれを見つけた瞬間、思わず唸る。

「畠山さん。これが何かわかりますか?」

 もちろんそれを手に取った彼にはその正体が何かということはすぐにわかったのだが、訊ねられた男は返答に困ったようになんとも言えぬ表情を浮かべた。

「いいえ。おそらく表紙に書かれたそれがタイトルなのでしょうが、達筆で読めませんでした。それに、もともとこのようなものに興味があるわけではなかったもので。つまらぬものであったのならすいません」

「いいえ。お気にされずに」

 ……つまり、知らない。まあ、そうだろうな。

 彼は男の言葉を聞きながら納得していた。

 いや、わかっていたと言った方がよいだろう。

 ……この男に我々を騙すくらいの演技力があるのでなければそれしかない。

 ……この男は本当にわかっていない。

 ……これが竹取物語の出来の悪い写本などとは比べようもないものだということを。

 ……それにしても……。

 彼は口に出すことのない言葉を何度も繰り返していた。

 ……まさかこのようなものに出会えるとは。

 本心を吐露すれば、この感動の余韻をもう少し楽しみたいと彼は思っていた。

 だが、残念ながら彼には感動に浸っている時間はなかった。

 そう。

 このときの彼にはすぐにでもやらなければならないことがあったのだ。

 ……本来ならこれをいくらで手に入れるかということを第一に考えるべきなのだろうが、今回に限りまずやらなければいけないことといえば……。

 彼は口には出さない言葉で自分にそう言い聞かせると口を開く。

「鈴川君。顔色が変わっているようだが、気分でも悪いのかね」

 彼はそれが何かがわかった興奮で爆発しそうな後輩蒐書官を落ち着かせる。

 それこそが、彼がまずすべきことだった。

「ですが、朝霧さん。これは……」

「君に言われなくてもそのようなことはわかっている」

 ……まったく。心のなかで思っていることを表情に出すなといつも言っているだろう。

 ……相手が人の良いこの男でなければこの書の価値を悟られ面倒なことになるところだった。

 ……やはり、まだまだ修行不足だ。

「君は私がここに来る直前に言ったことを思い出したまえ」

 彼は盛大に舌打ちをしたい気持ちを抑えながら最低限の言葉だけを口にして、後輩を黙らせた。

 ……さて、鈴川君の方はこれでいい。

 ……では、いよいよ本題だ。

 彼はもう一度その古びた一冊の書を手に取る。

 ……これは源氏物語の一巻「花宴」。

 ……紙は平安時代中期。

 ……つまり、最初期の写本。

 ……と言いたいところだが、そうではない。

 ……この筆跡には見覚えがある。

 ……そう。

 ……立花家歴代当主たちがかき集め、現在は夜見子様が保管している、世間では存在しないとされている紫式部の肉筆だ。

 ……それと瓜二つ。

 ……疑いようがない。

 ……つまり、紫式部が自ら写本をつくったなどということがなければ、これは「花宴」の原本。

 ……それどころか、源氏物語の唯一の原本でもある。

 ……さて、君ならこれをどう評価するかな。鈴川君。

 彼は隣に座る後輩蒐書官を眺める。

 そして、目の前にいる現在の所有者には事の重大さながわからないように訊ねる。

「鈴川君。君はこれを写本だと思うかね」

「疑いようがありません」

「……そうか」

 自信満々に答える後輩のそれは彼にとってまったく意外な、いや、どちらといえば期待外れなものだった。

 ……もしかして、気づいていないのか?

 ……これほどのものがわからぬとは君には本当にがっかりしたよ。鈴川君。

 彼は思わず眉間に皺を寄せてしまう。

 だが、一瞬後、後輩蒐書官が紫式部の実筆を見たことがないことを思い出す。

 ……あれを見ることができたのは教官クラスの一部の蒐書官のみ。

 ……つまり、あれを見ていない彼にわかるのは最初期の写本というところまでで、式部の手によるものというところまでは永遠に辿り着かないのは当然のことというわけか。

 彼は恐縮しながら隣に座る後輩を眺める。

 ……彼に対する先ほどの評価は少々厳しすぎたな。

 ……ここでコッソリ謝っておこう。

 珍しく仕事中にもかかわらず彼は表情を緩めた。

 ……だが、そうなるとすべてを私ひとりで考えなければなくなるわけだ。

 ……まあ、相談したところで私の方針に変更はないが。

 彼の方針。

 それは……。

 これが源氏物語唯一の原書であることを伝えずに買い取るというものだった。

 もちろんそれはこの貴重な書を安く買い取るためではない。

 彼はこれまで知るべきではないことを知ったために欲を掻き、哀れな末路を迎えた売り手を何度も見ている。

 ……この男にとってはそれを知らないほうが幸せに生きられる。

 ……その代わりに、希望した売値どおりに金額を支払ってやろう。

 だが、一方で身分不相応な大金を手にして身を持ち崩した者も彼は多く知っている。

 だから、実を言うとこれはこれで他人の不幸に手を貸したようであまり気分のいいものではないのだ。

 ……所詮他人事なのだが、私自身の気持ちのためにももっと良い案はないものだろうか。

 あれこれと考え続けたところで、ついに彼の心に妙案が浮かぶ。


「畠山さん。残念ながら、さすがにこれではあなたが希望する金額を支払うことはできません。ですが、約束は約束です。その穴埋めとして今よりも収入も環境もよい職場を紹介しますが、これで手を打ってもらえないでしょうか」


「あれで本当によかったのですか?」

 先ほどとは違う古風な喫茶店「紗原」でコーヒーを味わい始めた彼に少しだけ語気を強めて後輩が問うと、そのコーヒーの味に満足したと顔に書かれた彼が口を開く。

「完璧とは言わないが、ほぼそれに近い成果だと私は思うのだが、君はどこが不満なのかね」

「もちろん成果だけなら何も言うことはありません。ですが、過程は……」

「構わん。言いたいことがあるのならハッキリと言いたまえ」

 後輩蒐書官が歯に物が挟まったような言い方をしているのは内容が自分に対する非難であるからなのはあきらかだったのだが、彼は自らの不都合な言葉に耳を塞ぎ、部下を黙らせるような男ではない。

 彼の許可を得た後、小さく頭を下げた後輩が言葉を続ける。

「では、言わせていただきます。まず、あの男を橘花グループのホテルに就職させるという話です。許可は取ってあるのですか?」

「いや」

「……では、すべてを白状させるために騙したのですか?」

「まさか。これからここから近い橘花が所有している京都市内のホテルの支配人に頼むつもりだ」

「ですが、あそこは身内とはいえ曲がりなりにも五つ星ホテルですよ。盗人風情を受け入れますか?」

「受け入れるだろうよ。私が頼むのだから」

「そうなのですか?」

「もちろん。ホテルの支配人である湯川にはこれまでたっぷりと貸しがある。これくらいのことでは返しきれないくらいの。だから心配ない。それに、本人も二度と盗みはやらないと約束しただろう」

「守れますかね」

「守れるだろう。好きでやっていたわけではないのだし。それに、あそこでは厳しい目がある。万が一、あのホテル内でやればあっという間にこの世から消させる。心配はいらない」

「朝霧さんがそこまで言うならわかりました。もうひとつ。今回の交渉についてどうしても聞いて置きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「もちろん」

「あの男に手持ちの本をすべて差し出すように要求した場面です」

「……なるほど。君の言いたいことはわかった。つまり、君は私が根拠なしであの言葉を振ったと言いたいのだろう」

「違うのですか?」

「君だって彼の副業に言及していただろう。そのような仕事をしている者なら他にも手に入れたものがあるのではないかと考えなかったのであれば君は蒐書官に必要な思慮がだいぶ足りないと言わざるをえない。それに、我々をわざわざ呼び、本の価値から考えればつつましい額ではあるがあれだけの大金を要求するくらいだ。彼にだってそれなりの勝算があったに違いない。それを踏まえて考えてみよう。我々から見れば竹取物語はたしかに悪いものではなかったものの、彼自身はこの商品の本当の価値がわからない。交渉相手のことも考えればやはり不安は残ったはずだ。確実に我々から欲しい額の現金を引き出すためには、保険のために二の矢、三の矢まで用意していることは十分に考えられる。もっとも、それについて何か具体的な根拠を手に入れていたわけではなく、いわば状況証拠だけで話を進めたのは間違いないのだが」

「状況証拠?」

「今話したことに加えて、彼が大金を欲しがっていたのは君もわかったと思う。実は交渉中に私はその根拠にするだけのものをもうひとつ手に入れたのだが、君にはそれがわかったかね?」

「いいえ。まったく気がつきませんでした。何ですか?」

「大金を要求したにもかかわらず、私が黙ると、すぐに値引きに応じるかのような声をかけてきた。単に待ちきれなかったようにも見えたが、あの時私は彼がまだ手札を隠し持っていると確信したよ」

「それだけでなぜそう思えたのですか?」

「もし君が売り手だったとして、手札が竹取物語だけで、買い手が自分の希望する値を渋ったらどうする?」

「最大限に値を上げる手段を講じます」

「では、逃がしたくない相手が提示するものが自らの欲しい額に達しておらず、自分の懐に手札がまだ残っていたら?」

「相手の様子を見ながら交渉終了の宣言を出され手遅れになる前に手早くカードを切ります」

「そうだ。それが常人の行動だ。そして、彼の雰囲気はあきらかに後者だった。だから、試しに相手が乗りそうな言葉で誘ってみたというわけだ」

「つまり、勝算は十分にあったということですか」

「当然だろう。ただし、そこであれが出てくるなどとは全く予想していなかったのだが」


 そして、ふたりの話はいよいよ今回手に入れたあれに及ぶ。

「それにしても、あの状況で『花宴』が出てくるとは思いませんでした」

 内容が内容だけに周辺に人がいないことがわかっていても、そう言う後輩蒐書官の声は一段と低くなる。

「それに、あれほど古い源氏物語の写本があるとも思いませんでした」

 ……そろそろ種明かしをしてやるか。

 いまだあれを古い写本だと信じている後輩蒐書官を人の悪そうな表情で眺めながら心の中で呟いた彼が口を開く。

「ひとつ訂正してもいいかな」

「何でしょうか?」

「もちろん、その『花宴』のことだ。君はあれを最古の写本だと思っているようだがそれは大きな間違いだ」

「ということは、あれよりも古い写本があるのですか?」

「いや、ない。絶対に」

「……どういうことですか?」

 禅問答のような先輩蒐書官の言葉に透けて見えるある可能性を予感しながら彼の後輩はもうひとつの可能性であるその言葉を口にする。

「もしかして、あれは偽物なのですか?」

「まさか。言っただろう。あれよりも古い写本はないと」

 ……やはり。

 もちろん後輩蒐書官もすでにその言葉の先にあるものに辿り着いてはいた。

 ……だが、それはありえない。

 ……ありえないことだが、朝霧さんが指し示すのはそれしかない。

 ……とりあえず……。

 彼は間接的な表現でそれを訊ねる。

「……朝霧さんはどうやってあれが式部本人の手によるものだと判断したのですか?」

「彼女の筆跡を見たことがあるから。それ以外にはないだろう」

 恐る恐る訊ねる彼に答える先輩蒐書官の言葉は実に明快だった。

 ……ということは、間違いないということか。

「つまり、あれは原書ということですか?」

「それ以外のことだったら、それこそ驚きだ」

「ですが、私の記憶では、『花宴』にかぎらず源氏物語の原書は見つかっていないと思うのですがいかがでしょうか?」

「君の記憶は間違っていない。しかも、それは世間一般の話だけでなく、夜見子様の書庫を含めてもということだ。だから、今回の発見は非常に大きなものだといえるだろう」

 彼はこともなげにそう言ったものの、言うまでなく、それは「非常に大きな発見」という言葉がつつましく思えるくらいの驚くべきものだった。

 ……信じられない。

 ……そのような場面に立ち会えるとは蒐書官になって僅かの時間しか経っていない自分にとっては望外の喜びであるのだが……。

 ことの重大さがわかった瞬間、後輩蒐書官の意識が遠くなる。

「……今になって震えがきました」

「そうだろうな。表情がすぐに顔に出る君のことだ。あの場でそれを明かしたらどうなるか心配だったので今まで黙っていた」

 ……忘れたころに聞かされた自分でさえこうなるのだ。あの瞬間、それに気づいた朝霧さんの驚きはどれほどのものだったのだろう。

 ……それに対しても平然としていられる精神力。さすがです。

 先輩蒐書官と自分の差を実感しながら、かろうじて自分を立て直した彼は懸命に言葉を吐きだす。

「ですが、そうなると、あの男はそのような貴重な品をとんでもないバーゲンプライスで手放したことになりますね」

 ……一瞬で持ち直したか。

 もちろん後輩蒐書官のそれが表面上だけのことであることは彼には手に取るようにわかった。

 ……それでも、できないよりは遥かにマシだ。

 強がりともいえる後輩のそれを少しだけ微笑ましく眺め、薄皮にはっきりと透ける部分に気づかぬふりをした彼が応える。

「そうだな。それでも、彼にとっては身の丈に合っていない大金ではある」

 彼のその言葉にはすぐさま後輩の言葉が返ってくる。

「そうですね。それはそれとして、そういうことならなおさらこのままでよろしいのですか?」

「何のことかな?」

「あの男をもっと問い詰めなくてもということです。荒らした屋敷や蔵の詳しい場所を聞き出せば今後の仕事に役に立つと思うのですが」

「まあな。だが、よく覚えていないという彼の言葉には嘘ではないだろう。現に彼のとっての本命である竹取物語については詳しい場所をあれほど詳しく話したのだ。まあ、もしかしたらそのうち思い出すかもしれない。そのためもあって目の届くところに置いておくことにしたのだよ。それに、凡そでも彼の仕事場所がわかればそれだけも我々にとっては十分な情報だろう」

「……そうですね」

「まあ、これで今回の仕事は終了だ。いや、これを夜見子様の手に渡すまでが仕事だった。あともう少しだ。気を抜かずにやり抜こうではないか」

 そう言ってから、彼は先ほどまで詰め込まれていた現金の代わりに今回の戦果となるそれを含む多数の古い書が入る金属製のカートを眺めた。


「……以上が、私の深い洞察力にもとづいた完璧な考察によって再現された素晴らしい出来事の一部始終だ」

「……まあ、当時の鈴川さんがいかにポンコツだったかはよく理解できました」

「言ってくれるな。ちなみに、君は蒐書官になってどれくらいになる?」

「半年と少しですね」

「なるほど。当時の私はアプレンティスから上がってやっと一か月というところだったのだが、さすがに今の君よりは出来がよかったと思うぞ」

「自己評価にしてもさすがにそれは高すぎではありませんか?」

「いやいや、これは完璧なまでの正当な評価だよ。納得しないのであれば、君が過去数か月におこなったアレやコレについての検証を……」

「い、いいですよ。まあ、今はそういうことにしておきます。……ところで、ひとつ聞いていいですか?」

「何かな」

「『花宴』を見つけ出した盗人のことです。彼は今どうなっているのですか?」

「無事お勤めに励んでいるよ」

「……その言い方は元の職業に戻ったようですよ。それとも、そのお勤めとは塀のなかでの仕事ですか?」

「まあ、似たようなものだ。彼はその後ホテルマンをしながら朝霧さんの下で京都周辺の情報収集をおこなっているのだから」

「そうなのですか?」

「ああ。どうやら朝霧さんは彼を気が利く人物だと気に入り交渉の早い段階から足ぬけさせて配下にいれるつもりだったようだな。だが、その朝霧さんでさえ想像できなかったこともあった」

「何ですか?」

「彼の奥さんだ」

「盗人の奥さん?もしかして、その女も盗人だったのですか?」

「いや、違う。実は、彼が妻もホテル務めをさせたいと言うので、朝霧さんが夫婦まとめてホテルに押し込んだのだが、この奥さんがとんでもない逸材だったのだよ。なにしろ経験などなかったにもかかわらず働き始めるとあっという間に頭角を現し、物凄いスピードで昇進を繰り返した。そして、半年前にあのホテルに宿泊した橘花のホテル群を管轄している橘花経済部門のトップである一の谷氏の目に留まり、大阪に新築されるホテルの経営を任せられるまでになったのだ」

「……それはなんというかすごいですね」

「まあ、それもこれも極端なまでの実力主義である橘花グループだからというところはあるのだが、ちょっとしたシンデレラストーリーではあるだろう」

「そうですね。ですが、それもすべてその男が引き当てた『花宴』のおかげではありますが」

「そういうことになるな。たしかに」

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