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古書店街の魔女  作者: 田丸 彬禰


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 After story Ⅲ 裏の裏も裏 

「メンドーサ絵文書」の後日談的話となります

実際は、前日談的話ですが

 ニューヨーク。

 その日、世界の中心と言ってよいこの都市にある多くの美術館のひとつに普段はカイロで活動するその男の姿があった。

 スコット・ジェームス。

 蒐書官とはライバル関係にある組織に属し、エジプトを中心とした地域を管轄する主席交渉官の地位にあるアメリカ人である。

 久しぶりにその美術館にやってきた彼は自らが手に入れた品を見つけると立ち止まって感慨深げにそれを眺める。

 そうやって時間をかけて展示物を見ながら建物の端までやってくると、彼は美術館関係者でも特別な人間しか使用しない専用の入り口からそこに向かう。

 二回のボディチェックといくつものセキュリティ装置に守られた廊下の突き当りにある部屋。

 そこが彼の目的の場所となる。

「お久しぶりです。ドクターウェラー」

 顔を合わせるなり彼がそう呼んだ相手。

 部屋の主であるその男こそ彼をこの地に呼び寄せた者であり、その男に会うことがここに彼がやってきた理由でもある。

 ちなみに、彼が口にしたドクターとは博士という意味であり、その言葉通りその男はその資格を有していた。

「本当に久しぶりだな。スコット」

 その男は親愛を込めて彼の言葉に応える。

 だが、儀礼的な挨拶はそこまでであり、ふたりの話はすぐに実務的なものに移る。

「さて、カイロの主席交渉官である君にニューヨークまで来てもらったのには当然それなりの理由がある」

 その男の言葉に彼は頷く。

「もしかしてその要件とは転勤命令ですか?」

 転勤。

 それは十分に考えられるものだった。

 なにしろ彼がかの地に赴任してからすでに七年。

 前任者たちが数年で離任していたことを考えれば、これは異例ともいえる長さである。

 そのうえ彼はその間に無駄飯食いとは程遠い赫赫たる戦果を挙げていた。

 その彼を報いるために人事権を握る目の前の男が彼をニューヨークに呼び戻し、革張りの椅子が置かれた一室を与えると言ってもおかしくはないことだった。

 だが……。

「いや。君はもう少しカイロで頑張ってもらう」

 申しわけなさそうな顔でかぶりを振りながら男はその言葉を口にした。

「不満かね」

「そのようなことはありませんが」

「家族を残してカイロで活動している君の気持ちはわかる。だが、先日マクニールをお払い箱にした私が言うのもおかしいのだが、実際のところ、主席交渉官の地位に就ける人材が大幅に不足しているのだ。まして、カイロにはやつらのボスクラスがいる。そう簡単に君を呼び戻すことができない事情も理解してくれ」

 ……ここまで言われては仕方がない。

 先手を打たれてしまったため、山ほどあった言いたいことの大半を飲み込んだ彼が口にしたのは元ライバルについてだった。

「マクニールはそれだけのことをしたわけですからドクターウェラーの処置は問題ないと思いますが。それにお払い箱と言っても閑職に追いやったというだけであの男が高給取りであることは変わらないでしょう」

「まあ、それはそうだ」

 当事者にとっては慰めにもならない彼の言葉に形ばかりの頷きはしたものの、それで気分が晴れることも、まして山積する問題が解決するわけではない。

 彼の上司は渋い表情を崩すことなく溜まる一方の書類の山を顎で指し示す。

「だが、その結果がこのありさまだ」

 ……ご愁傷さまです。

 彼は心の中で上司の小さな不幸を憐れみ、それからそれとは遠く離れた実に実務的な言葉を口にした。

「とにかくわかりました。それで、肝心の私がやるべき仕事とは?」

 もちろんそれは、このままではその山の整理を手伝わされると感じたためなのだが、実際にそうしようと考えていたその上司は少々残念そうにしてから彼の言葉に応じてそれを伝える。

「蒐書官を我々の仕事に引き込んでもらいたい」

 だが、それはあまりにも唐突かつ抽象的だったので、彼はその言葉の意味をすぐには理解しかねた。

「それは蒐書官をリクルートするということですか?」

「いや。組織として我々の仕事を手伝わせるという意味だ」

 彼が口にしたいくつかの選択肢のなかでもっとも無難な言葉を否定した彼の上司は彼の問いに少しだけ言葉を付け加えた後にこう訊ねた。

「君はマクファーソンが降格した件を知っているか?」

「闇オークションに部下を送り込んで大金を支払って行方不明の絵画を手に入れたものの、そのすべてが贋作だったというものでしたね」

「二億ドルもの大損をした責任者としてあの男を降格させて一応あの一件にはケリはつけたが、売りつけた相手に対しての落とし前はまだつけていない。君は蒐書官たちとそれをおこなってもらいたい」

「つまり報復」

「そういうことだ」

「ですが、そういうことであれば、わざわざ蒐書官に協力を求めなくても我々単独でおこなえるでしょう。というか、わざわざ私を呼びつけなくてもできる仕事だと思いますが」

「ここまでのことであればそのとおりだ。だが、ことはそれほど簡単ではないのだ」

「と言いますと?」

「蒐書官のやつらが主催者と繋がっている可能性がある」

 上司の言葉に彼は唸る。

 ……日の当たる場所で活動しているといっても基本は闇の生き物である蒐書官ならその可能性は確かにないとは言えない。

「ちなみに根拠があるのですか?」

「具体的なものは何もない。だが、闇とはいえ、あの規模のオークションにやつらがまったく姿を現さないというのはどうもおかしい。疑い始めると繋がっているどころか、実は陰でやつらが糸を引いているのではないかとさえ思えてくる。実際にマクファーソンはそう主張していた」

 ……根拠もなく失態の責任を擦り付けられた蒐書官もいい迷惑だな。

 彼は心の中で苦笑いを浮かべる。

 ……だが……。

「つまり、本当の目的はその調査」

「そういうことだ。それに、主催者と一体というわけではなくても、裏取引で気に入った商品を受け取るかわりに用心棒役を引き受けている可能性だってある。それについてはやつらには前科がある」

 もちろん彼の上司が言外に示しているのは彼の組織の虎の子だったエリート武装組織が壊滅した「ナポレオンの自叙伝」の一件についてである。

 言われるまでもなく彼もそれについては重々承知している。

「それで、実際に関与していた場合の措置は?」

「もちろんその場はやり過ごす」

 ……当然だ。

 そうでなければ、彼は単独で蒐書官相手に戦いを挑むこととなり、その結果は火を見るより明らかなのだから、彼が安堵するのは当然のことである。

「その後は?」

「その深さにもよるが、制裁は必要だろう。彼我の戦力差を考えたらさすがにやつらとの全面対決は避ける必要があるが、見せしめのために運営者を全員抹殺するくらいはおこなう」

「ない場合には?」

「我々の仕事を手伝ってもらえばよいだろう」

「わかりました。ですが、パリでの仕事を私が出向いておこなったのでは現地スタッフから不満が出るのではないですか?」

「それについては気にする必要はない」

「どういうことでしょうか?」

「理由はふたつある。まず、パリの連中があてにならないことだ。最近たて続けに三件蒐書官に出し抜かれた。しかも、それらはすべて完全にこちらの不注意が原因だ。それだけではない。そのひとつはパリの主席交渉官であるクライブ本人がやらかしたものだ。そのような輩に繊細な仕事は任せられない。すでにそのことは私からパリに通知しているので君が気にすることは何も起きない」

「なるほど。それで、もうひとつの理由とは」

「そのオークションは入場制限が厳しい。どれだけ金をかけてアンダーカバーを施しても顔が割れているパリのやつらでは無駄な努力に終わる可能性が高い。その点君はパリでは知られていないので安心だ。しかも、君はカイロの蒐書官たちと交流を持っているので我々のなかでは蒐書官にもっとも信用されている者だといえる。そのような理由で君に白羽の矢が立ったというわけだ。よろしく頼むよ。スコット」

 ……若干盛った気もするが、将来のためにもここはやるしかなさそうだな。

 彼は心の中で決心しその言葉を口にする。

「わかりました。その仕事、やらせていただきます」


 それからだいぶ時間は進み、そのオークションが終わり、カイロに戻った彼はニューヨークで吉報を待つ上司に連絡をする。

「では、結果を聞かせてもらおうか。スコット」

「まず、調査結果ですが、彼らはすべての点でシロです」

 彼はそれからあの場所で起こったことを詳細に説明した。

「……つまり、すべての点で蒐書官とオークションは無関係だったと言いたいのだな」

「そのとおりです。ドクターウェラー」

「不審な点はなかったのかね」

「唯一不審と思われたのは、私が競り落としたゴッホの絵画を彼らが買い取ったことなのですが、よく考えれば、今さら証拠隠滅をおこなう意味がないどころか、かえって怪しまれることを彼らがわざわざやる必要はないでしょう。それに……」

「構わん。言ってみたまえ」

 さすがに踏み込み過ぎだと一度出かかった言葉を止めた彼だったが、上司に促されその言葉を口にする。

「彼らの言葉の端々から、彼らは我々がオークションに仕掛けをして自分たちを罠に嵌めようとしていると疑っているのを感じました。彼らが主催者と繋がっているのならそれはあり得ないことです」

「では、二億三千万ユーロを支払ってまで君が落とした贋作を彼らが買い取った理由は何だと思う?」

「我々に恩を売るつもりなのか、あの絵を本物だと偽って闇画商にでも高額で売るつもりなのか、そうでなければ……」

「そうでなければ?」

「あの絵は実は本物であり、それに気づいた彼らが私に恩を売るフリをして買い取った」

「……最後の話はまったく笑えないな。だが、そのつもりで買い取って失敗したのなら、それだけでも彼らを引き入れた価値はあったというものだ」

「そのとおりです」

 彼は大きく頷き、言葉を添える。

「もし、あの場での言動が演技であれば、彼らには転職をおすすめしますね。すぐにでも一流の俳優になれます」

「なるほど。その件については了解した。もうひとつ。贋作出品者については?」

「蒐書官たちは出品者と主催者は同一組織か少なくても非常に密接な関係があると思っているようです。それについては私も同意見です」

「彼らは処理作業についても参加するかな」

「持ち帰った品を検査し、一週間以内に返事が来ることになっています」

「そこで彼らが贋作を掴んだのかどうかがわかるわけだ。贋作を掴まされ怒り狂った彼らが単独で主催者一党をこの世から消してくれるかもしれない。そうなれば、我々は手を汚すことなく目的を果たせる。悪くないシナリオだ」

「さすがにそこまで都合よく彼らが動くとは思えませんが」

 捕らぬ狸の皮算用よろしく一方的な希望を語る上司をたしなめるようにそう言ったものの、実は彼自身もそうなることを願い、そして、その可能性は十分にあると思っていた。


 それから三日後。

 ニューヨークからカイロに戻ってきた直後の彼にひとりの蒐書官から連絡が入る。

「ミスタージェームス。少々お話があります」

「何でしょうか?ミスター飛田」

「彼らの処理は我々に任せてもらえませんか?」

 その申し出ではまさにあの日彼が上司から聞かされた希望そのものだった。

 ……電話でよかった。

 ……そうでなければ、隠し切れない表情から私が彼らの失態を喜んでいることが丸わかりになるところだったのだから。

 ……とにかく落ち着け。

 だが、彼が平静を装うためにはやはり時間が必要だった。

「ミスタージェームス?」

「すいません。どうやら回線の調子が悪かったようですね。……それで、その理由をお聞かせいただけますか?」

「理由?そのようなもの聞かなくてもわかるのではないですか?」

「……もしかして、手に入れた商品に問題があったのですか?」

「そのとおりです。まさかあれが偽物だったとは……」

「やはりそうでしたか。三点も手に入れていたので本当に大丈夫なのかと心配していました」

「素直にあなたの意見に従うべきだったと今さらながらに後悔しています。実を言いますと、あなたは贋作だと言っていたものの、私はあれを本物だと思っており、あなたの言葉を鼻で笑っておりました。申しわけありません」

「それは構いません。ちなみに、どれが贋作だったのですか?」

「すべて。そう。すべてなのです」

「我々の友人と同じ轍を踏んだわけですね。それで、たいへんお聞きしにくいことなのですが、贋作を掴まされ大金を支払ったあなたがたに対して下された処分はどのようなものになったのですか?」

「……やつらを自らの手で措置することでその罪を相殺する」

「……それだけですか?」

「はい」

「それは随分と寛大なものですね」

「まったくです。そのためにも彼らに対する措置は我々にお任せいただきたいのです」

「承知しました。我々も彼らに対しては少なからぬ恨みがあり、私の手で彼らをセーヌ川に沈めたい気持ちはあるのですが、そういうことであれば、あなたがたに彼らの処分はすべてお任せいたします」

「感謝します。ミスタージェームス」

 功をすべて譲るかのように親切な言葉を並べながら、彼は心の中でほくそ笑んでいた。

 ……まさに我々の計画通りではないか。

 だが、ここから彼は遭遇するのは、想像を絶する事態。

 まさにその言葉どおりのものだった。


 彼がそれを知ったのはそれから三週間後だった。

 その一週間前。

「何も変化がない?」

 戦果を確認するためにパリに派遣していた部下の報告に彼は驚く。

「……あの程度の相手に随分手間取っているのだな。いや。彼らに限ってそのようなことがあるはずがない。それはつまり彼らでも容易に解決できないやっかいな出来事に遭遇しているということだ」

 それは根拠などまったくない思い込みと希望が練りこまれただけのとても分析などとは呼べない代物であり、彼自身もそれを十分承知していた。

 ……早く現状を把握したい。

 それは彼でなくてもその状況に置かれれば誰しも思うことであろう。

 だが、残念ながら彼が持つ手札は結果を待つという選択肢だけだった。

 もちろん蒐書官に直接確認するという手もあるにはある。

「だが、そんなことをして揉め事に巻き込まれてはやっかいだ。仕方がない。もう少し待つか。いや、待つしかない」

 どうなったのか早く知りたいという気持ちをどうにか抑え、彼が待つことさらに一週間。

 ようやく待望の情報がたらされた。

 しかし、それは彼にとってまったくの予想外のものだった。


「オークション主催者だけでなく贋作をつくっていたグループもすでに蒐書官の軍門に下っているようです」


「なんだと」

 あまりの声の大きさに周りにいたスタッフが驚くが、今の彼にはそのようなことに構っている余裕はない。

 やや早口になった彼が速報を伝えてきた電話口の相手に訊ねる。

「それは間違いないことなのか?」

「はい。状況を見るかぎりそれ以外は考えられません」

「つまり、やつらはやはりグルだったということか?」

 最悪の結論を滲ませながら絞り出すように口にした彼の問いに部下から不愉快なくらいに明快な言葉を返ってくる。

「いいえ。それは違います」

「……では、どういうことなのだ」

「彼らが蒐書官に脅しに屈して配下になったのはつい最近。正確にはオークション終了後ということになります」

「……何だと」

 苦り切った表情で報告を聞き終えた彼はあの時交わした蒐書官飛田との会話を思い出す。


 ……彼らに対する措置は我々にお任せいただきたい。

 ……承知しました。あなたがたに彼らの処分はすべてお任せいたします。


「くそっ」

 そこで、彼はすべてを悟った。

 ……両者の関係を疑った我々の手引きによってオークション会場に初めてやってきた彼らはその有用性に気づき、彼らを自らの手足となるように画策したのだ。

 ……ということは、あの時の困り果てたような言葉はすべてまやかしか……罠に誘引したつもりで実は罠にかかっていたのはこちらだったとは。


「これでは皿洗いをさせるつもりでパーティーに招いたはずが手違いで主賓席に座らせ最高級のもてなしをしてしまったようなものではないか」


 絞り出すようにその言葉を口にした彼だったが、悔しがってばかりはいられない。

 ……どうする?

 彼は目まぐるしく計算を始める。

 彼ほどの権限があれば緘口令を敷いて不都合な真実を隠蔽することはたしかに可能だ。

 だが、それはいずれ露見する。

 そして、そうなれば……。

 そう。

 失敗が確定したからには潔くそれを甘受し、被害を最小限度に留める努力をすることこそが肝要なのだ。

 だが、耳元で囁く悪魔の誘惑に勝てずに道を踏み外し、人生そのものを台無しにするもの者は驚くほど多い。

 しかし、幸か不幸か蒐書官に煮え湯を飲まされ続けていた彼は敗者が歩むべき道を知っていた。

 ……迷うことなど何もない。何をするかなど最初から決まっている。

 甘く豪華に着飾ったその選択をきっぱりと捨て去った彼は命じる。


「ニューヨークへ至急連絡を……」


 同じ頃。

「そろそろ気づきましたかね」

「彼が放ったネズミがあの屋敷の周辺を嗅ぎまわっていたそうだから、すでに情報はカイロにも届いているだろう」

「ということは、今頃地団駄を踏んで悔しがっているでしょうね。それで、彼は今回の件を隠蔽しますかね」

「いや。新池谷さんの言葉を信じればあの男はそこまで馬鹿ではない。失敗を失敗として受け止めるのではないか。だが、これで彼らは今回の贋作騒動の真の姿を完全に見失う」

「朱雀さんの言う真の姿とは彼らが単に贋作製作者というだけではなく、つくられたその贋作にはオリジナルがあり、それをオークション主催者が持っていたということですか?」

「そうだ。もっとも、今はすべて我々のものではあるのだが。それはそれとして我々にはまずやるべきことがある」

「彼らに対する警告ですか?」

「そうだ。処理をおこなわせるつもりだった我々がオークション関係者を保護するとわかったのなら、彼らは腹いせも兼ねて間違いなく自らの手でカタをつけにくる。だが、それは我々に対する直接攻撃とみなすと言っておけば容易に手は出せない。つまり、その鶏はこれからも金の卵を産み続けられるということだ。まあ、私としては血迷った彼らがオークション関係者を害してくれればヨーロッパから彼らを一掃できる理由が手に入るのだからそちらのほうがありがたいのだが」

「今の話はまったく笑えないですよ。朱雀さん」

「それはそうだろうな。なにしろ私は冗談を言ったつもりはないのだから」

 ……つまり朱雀さんは本気ということか。

 彼はそれに気づくと、上司にあたるその男の主張の共犯者になることを避けるためいち早く撤退を決意し、話を早々に終わらせようとすばやく結論を口にする。

「とにかく、朱雀さんの名でパリとカイロの主席交渉官に警告を出しておきます」

 ……相変わらず逃げ足だけは速いな。

 男はその清々しいまでの潔さに苦笑いを浮かべる。

「では、そうしてくれ。頼んだよ。飛田君」

 それはコーヒーの香りが漂うベルリンのホテルの一室の会話だった。

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