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古書店街の魔女  作者: 田丸 彬禰


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 After story 影の支配者

「天野川夜見子」の後日談的話となります

 彼らが「バグダッドの宴」と呼ぶあの出来事が起こってから二十年近くが経ったある日の東京のとある場所。


 とても都心にあるとは思えない木々に覆われた広大な敷地に建つ黒レンガ造りの洋館から数人の随行員とともに白髪の男が現れ、玄関に止まった黒塗りの高級車に乗り込んだ。

 そして、その様子を建物の二階の窓から冷ややかに眺めるふたつの人影があった。


「不満タラタラという表情だったな。だから政治家というのは度し難い生き物だと言うのだ。立派なことを言ってはいたが、要は首相の首を挿げ替えて副首相である自分を権力の頂上に押し上げてくれということだろう。聖人君主というならともかく同じ穴の狢であるあの男の個人的な利益と名誉欲を満たすためだけのために、なぜ我々がそこまでやらなければならないのだ」


 あのときはまだその一族の次期当主だったふたりのうち年長である男のため息交じりの言葉に彼の息子であるもうひとりも応える。


「確かにその代わりになる者がついさっきまでその隣で甘い蜜を吸っていた奴だったのではジョークにしても出来が悪すぎるとは思うが、手にした権力を私利私欲のためだけ行使するあの人間のクズが国を動かしているというのは世も末というものだろう。いっそのこと、我々が直接治めたほうがいいのではないのか」


 本音が垣間見えたその言葉に、父親である現当主は大きいため息に続いて口を動かした。


「だから、おまえは愚かなのだ。博子が小学生のときには理解していたことをおまえはいまだにわかっていない。おまえに今一度問う。我が一族の使命は何だ?」


 一瞬だけ父親に視線をやった息子が口を開く。


「この世の調和を保つことだろう。調和ではなく混沌を維持するという表現のほうが正しいのだろうが」

「皮肉か。だが、そのとおり。我らはこの世界の調和を司るために存在する者。その我らがこの国を直接統治した場合には我らは当然この国の民に対して義務を負う。この世の調和と統治した日本の利益が相反した場合におまえはどうするつもりだ」

「それは……」

「我らが本当の力を振るうのは、同一思想でこの世を統一しようとする勢力が現れたときだ。だいたい、かの者が統治者としてふさわしくないと思えば排除する手段をこの国の民は与えられている。それを行使しないということであれば、それがこの国の民の選択だ。それがどれほど愚かなものでもだ」


「だが、あの男は『自分こそがこの国で一番偉い』と吹聴しているそうではないか。その考えは我々にとっても危険ではないのか」

「……この国で一番の権力者は奴だ」

「それは建前上であろう」

「自分を大きく見せようと言っているだけだ。あの男が何を言おうが小物の戯言と聞き流しておけばいいのだ。もちろん実際に手出ししてきたときには相応の措置はとるが。もっともあの男にそれをやるほどの度胸があるとは思えないし、奴はあれで存外計算高い。あり得んな」

「なるほど。たしかにそうだ」


「だが、奴をそそのかして手駒にしようとする者がいないとは限らんし、我らの首を土産にして奴に取り入ろうとする愚か者もいるかもしれん。常に監視することは必要だ。ところで博子はどうしている?四月に入学した高校では楽しくやっているのか?」

「それはもちろん」

「それは結構だ。権力者とその後継者が同じ場所にいてはいけないという我々のような者のリスクヘッジの鉄則とはいえ、小学生のときから親元から離れて暮らしをさせているのだ。博子にはできるだけ快適な生活をさせるようにしなければならん。高校生生活を楽しむために必要だと博子が言うものは金に糸目を付けずすべて与えよ」

「そこまで甘やかす必要はないだろう」


「笑わせるな。博子は父親であるおまえを差し置いて立花家の次期当主に指名された者。その程度の分別は当然ある」

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