03‼
「ヤバいな……」
あの後、空腹と渇きのせいでチョコウェハースをスライムと半分ずつ一袋、あとは買っておいたお茶のペットボトルはスライムはいらなかったようで、こちらは自分だけ慎重に2,3口を飲んだ。
しかし、一息はつけたが状況が全く改善されていない。せめて水が手に入る川、可能であれば人のいるところが良いんだが……
「異世界、しかも何の情報もなしだからなぁ……」
神様に会った記憶はないし、この世界に親もいない。せめて……
「ステータス?」
………………。うん、変化なし。せめて何らかの情報源があれば、どうにか……ん?んん?
「なぁ、お前この近くに川か、道か、人のいるとこって知らないか?」
先ほどのチョコウェハース争奪戦からの仲良く半分こ協定を思い出すと、こいつは言葉が分かっている気がする。ただ、当人?に思い当たる場所などがあるかが問題なんだけど……
「ム!」
「しゃべった⁉え?お前しゃべれんの⁉」
「ムム‼」
「えと……じゃぁ、連れて行ってもらってもいいですか?」
「ム!」
おぉ、マジか。情けは人の為ならず、まさかスライムにも適用されるとは思わなかったな。
いや、異世界使用の可能性もあるのか……?ん~……うん、期待しない方がいいな。スライムの気まぐれってことにしておこう。
あれから1時間ほど歩いただろうか。変わらない景色にだんだん不安になり始め、スライムさん(昇格)に大丈夫なのか確認を取ろうとしたところ、遠くの方でなにやら甲高い音?金属音のようなものが聞こえ始めた。まさかとは思うが、これは……?
薄暗くなってきた足元に注意しながら、音のする方に足を進めると金属音の他に怒鳴り声も聞こえ始める。
ある程度の状況が判別できる距離まで近づくと、馬車を背にして鎧を着たザ.騎士‼という側と、真っ黒な装束で出ているのは目だけのザ.不審者‼という分かりやすい構図が出来ていた。
一概に不審者が悪いとは言わないが、もし道を尋ねるとしたら…………うん騎士の人だよね。だって今現在、剣で切り合ってる不審者が、丁寧に道を教えてくれる方に賭けるのはちょっとないだろ。
ただ……圧倒的ではないが騎士側の方が劣勢なんだよな。
さっさと足手まといの馬車を逃がせばどうにか、ん?あれ?あの馬車、馬がいないぞ?あぁ、だから迎え撃つしかないのか。
どうにかして巻き返してほしいんだけど……。
「ム?」
「ん?あぁ、あの中に割って入って道を聞くのはちょっとなぁ」
「ム~ムム」
「いやいや、俺は戦いなんか出来ないぞ。むしろ一山いくらの一般人だ」
「ムム~」
「そうは言われても見捨てるのもアレだしな……」
「ム~」
「…………うん、前もよく優柔不断て言われたな…………」
などとウダウダしていると唐突に馬車の中から「キャ――‼」という女の子の叫び声が聞こえた。
「はぁ⁉襲われてんの女の人なのか⁉」
思わず馬車に向かって走り出し、ちょうど騎士が声に気を取られ不審者が騎士をけん制している隙に、開いたドアから中に入りかけている剣を持った不審者に掴みかかる!
「がっ⁉っんの放すか~‼」
幸いというか、どうにか不審者の服を掴み引きずり出そうとしたが、逆に蹴られて転げ落ちそうになる。なのでいっその事、蹴られた勢いも利用して服を掴んだまま自分の体ごと外に…………、投げ出す‼
「ッ⁉~~~~ッ‼」
「~~~っ‼っぐへっ!」
「ちょっ⁉だ、大丈夫ですか⁉」
「お嬢様⁉外に出ては危険です‼」
高校生くらいの女の子と、もう一人中にいたらしい同い年くらいの侍女?メイドさん?の声が聞こえたので、どうにか危機一髪、襲撃を食い止めたようだ。
だが、馬車から転げ落ちたせいで背中を打ち、一瞬息が止まる。しかし、今の状態が殺し合いのド真ん中、さらにアドレナリンも出ているのかすぐに身を起こし、むしろ息を止めることで周囲の確認に集中する。
「おい‼貴様何者だ⁉」
「貴様も、こいつらの仲間か⁉」
「ゴホッ‼ア、アホか‼いま女の子助けたじゃねぇか‼」
運良く俺が引きずり出した襲撃者は一度後ろに下がっていたので、即追撃ということはなかったが、逆に騎士たちから襲撃者扱いされかけてる。
きっとコイツらは恩返しの出来るスライム以下の価値観なんだな。
「おい‼お前は馬車を動かせるか⁉」
他の騎士よりも身なりの良い騎士が、唐突に質問してきた。
「出来る出来ないの前に馬がいねぇだろ‼」
「ちっ‼なすすべ無しか……‼」
正直、女の子を助けるのに必死で突っ込んで来たけど、今となっては俺も守ってほしい立ち位置だ。ところが、そこに近づく黒い塊。
「ム~~~‼」
「「「「スライム⁉」」」」
「「「「っ⁉」」」」
「スライムさん⁉ど、どうした⁉」
「ム~ムム!ム‼」
「えっ⁉マジで⁉行けんの⁉」
「ム‼」
「わ、わかった!騎士さん!とりあえず馬車を走らせるからすぐに追いついて来てくれ‼」
「くっ、背に腹は代えられんが、どうやって走らせるのだ⁉」
それに返事をする間もなくスライムさんは馬車を引く位置に。そして俺は馭者席に座る。その瞬間……
『ピロリン♪
オリジナルスキル:馭者(極)を起動しました』