01‼
「おぉ~…、お前キレイだなぁ~…」
気づいたら見知らぬ森の中にいた。
周囲を見ても思い当たるものもなく、ここはどこなのか?どうすればいいのか?
全く分からないので、とりあえず適当に歩いてみることにした。
いや、遭難した場合、その場から動かない程度の知識はあるよ?でも、そもそも自分が遭難しているのか、そして自分がここにいることを知っている人間がいるのか、全く分からなかったのだ。
しかも持っていたスマホも圏外でまともにアプリも使えず、そのまま電池の温存のために電源オフ。
……一応ね……、コンパスのアプリが動いて喜んだんだけどね……、方角が分かっても現在地が分からないとね……。
ということで、この先どうなるか分からないのだ。なにしろ、俺はいつものスーパーで食料品を買いに行き、会計を済ませて、店を出て………。
そこで何故か記憶がなくなっていたのだから。
なので、とりあえず無理のない範囲で歩き、川や目印になりそうなものがないかを探すことにした。
服装が革のスニーカーに厚手のカジュアルなスラックス、上がシャツにライトなダウンジャケットで動きやすかったのが幸いだったな。
しかし、あるのは鬱蒼と茂る膝丈くらいに伸びた草と、今までの人生で見たことのない葉の形の巨大な樹木。
一瞬、屋久島に来たのかと思ったが、千年杉が森になっているなんて話は聞いたことがない。
流れで外国の森か?と考えたが、そうなるといよいよ手に負えなくなる。なにせ国によっては北海道がすっぽり収まるような森もザラにあるからだ。
そして、この時点でもう一つの可能性についても頭にあったが、なるべく考えないようにしていた。もし現実にそうだったら、どうすればいいのか想像もつかないのだから…。
しばらく森の中を歩き続けると小さな物音が聞こえた。
場所が森、根が類を問わない動物好きだったため、音がした木の裏側をそ~っと覗いてみると、中型犬くらいのカピバラさんがいた。
その数、5。ただ、このカピバラさん、目が血のように赤く、なぜか犬歯が長く飛び出し、さらにお食事中だったのか口の周りを緑色にして小さな人型の何かを貪っていたのだ。
いろんな意味でヤバいと感じた俺は、再びそ~っとその場を離れようと後ろに足を下ろしたが、そのときパキッという音、それとともに振り向くワイルドカピバラさん達。
一瞬、目と目が合ったがトキメキなど生まれる訳もなく、回り右して全力疾走‼
いや、もしかしたらワイルドカピバラさん達はトキめいていたかもしれない。なぜなら全力で走る俺を「GYA――――――――――‼」という叫びとともに追いかけてきたのだから。
必死に走りながら後ろを振り返ってみると、どうやらこのワイルドカピバラさん、足はそんなに早くないらしい。とはいえ、すぐに引き離せるわけでもなく、もう少し走れば数も減……。おい‼なんで増えてんだよ‼
どれくらい引き離したか確認しようとしただけなのに、なぜか2,30匹くらいに増えていた。
その後も木々を縫うように走ってみたり、草むらの中をかがんで走ったり、走った先で違うカピバラさんにエンカウントしたりしていると徐々にだが数が減ってきた。
「(だぁ――――――‼もう来るんじゃねぇ――――――‼っていうか、なんで前歯が発達してねぇんだよ‼)」
という心の声が届いたのか、カピバラさんはそれほど長く速く走れなかったのか、徐々にお互いの差が開き、見えなくってしばらくしたところで木の陰に転がり込んだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
その場でどうにか息を整えていると、視界の端で何かが動いた。
「(ん?今度はなんだ…?)」
と呟くと、少し先5メートル程のところにソレがいた。大きさは腰あたり、黒くてツヤツヤ、ぷるぷるの丸っこい存在に思わず声が出た。
「おぉ~…、お前キレイだなぁ~…」
そこには直径1m超の黒いスライムがいた。