鋼鎧甲冑科の訓練兵
格納庫から飛び出すと既に他の機体が集まり始めていた。
暗いモスグリーンの塗装がされた教官機が見える。
訓練にはギリギリ間に合ったようだ。
『全機集まったか?それではこれから訓練を開始する。今回は鋼鎧甲冑の通信の仕方を説明する』
すると教官は左前腕部の内側を指さす。
『ここにパネルがある筈だ。ここで通信系統の操作を行う』
操作してみろ、と教官は通信で言った。
パネルに触れると画面が起動し、「付近」の枠に友軍と表示された機体の型番と搭乗者の名前が出ている。
『全員付近の枠にクラスメイトの機体が表示されているか?それをタッチして通信ができる。試しにやってみろ』
パネルを操作しているとクルスとエリスから通信が入った。
『もしもーし?タクヤくん?きこえるー?』
『もしもし?タクヤ?』
『おう、聞こえてる』
『あれ?この声は…?』
『僕はクルスです』
『わたしはエリス!』
どうやら同時に2人と通信すると3人の回線になるらしい。
『そういえばタクヤ、その機体どうしたの?』
『ねー!白くてかっこいいね!それにわたしたちのより大きい!』
2人の機体がフリューゲルに寄ってくる。
『これはヴァイサーフリューゲルって言う俺専用のシンギュラー級なんだ』
『シンギュラー級かぁ!いいなー!』
『よく専用機なんて貰えたね』
『運が良かっただけだ』
2人と話していると上官回線と書かれた枠に教官機が表示され、通信が入った。
『上手く使えているようだな。そのパネルは付近の鋼鎧甲冑を捕捉し表示するレーダーとして使用できる。敵機には敵軍と表示される。識別不明機は識別不明だ』
『次に火器の使用について教える。本日は全機の背面に短機関銃が装備されている。訓練の為、電磁投射砲では無い。だから鋼鎧甲冑には傷一つ付かないから安心しろ。取り出すには音声指令で装備:短機関銃と入力する。じゃあ、実際にやってみろ』
「装備:短機関銃」
…
何も起きない。もしかして短機関銃を積んでいない?
俺はすぐに教官に通信を入れる。
『教官、取り出せないです』
『む?お前のは自動小銃、しかも突撃銃だな。大丈夫だ。さっきと同じようにやれ』
シンギュラー級は汎用性が高いため、狙撃銃や大型超電磁投射砲でなければ殆どが装備できる。しかしタイタン級は逆に通常、短機関銃しか使えない。近距離を想定して設計されたものだから仕方が無いが、中距離~長距離仕様でも自動小銃が限度。軽機関銃などは装備できない。
そのためかシンギュラー級が短機関銃を装備することは稀なのだ。
「装備:突撃銃」
指令を入力すると左背面にある銃のロックの片方が解除され肩の上を回って前に移動する。
銃把に手をかけると銃のロックが全て解除され胸部から外れる。
銃把を握ると人差し指以外がロックされるのが分かる。
『それでいい。銃をしまう時は胸の付いていた所に付け直せば自動で背面に移動する。一旦全員銃をしまえ』
教官の指示で全員が大人しく銃をしまう。
『次は近接戦闘用の武器についてだが、腰に付いているのが分かるだろう。柄を持てば自動でロックが解除される。よし、これで以上だ。次は射撃訓練に移る。全機私についてこい!』
教官に着いていくと射撃練習場に到着した。
『ここではそこのラインから向こうに見える標的を撃ってもらう。全機、自分の番号の射場に入れ!クロミネはシンギュラー級用の射場だ。急げ!』
俺はタイタン級用の射場の奥にあるシンギュラー級用の射場へと向かう。
『リロードは通常の銃と同じだ。マガジンは腰にある』
『全機火器装備!』
「装備:突撃銃!」
『時間は10分間!射撃訓練開始!』
バララララララ!!!!
教官の掛け声を機に一斉に撃ち始める。
標的はタイタン級・シンギュラー級・アント級の3種類。
倒せば倒すほど標的は出現する。
タイタン級の射場は比較的近距離に標的が現れるが、シンギュラー級の射場では中距離が中心だった。
1つ1つ頭部を的確に狙って撃っていく。
しかし、耐久性が高いアント級の標的は頭部でさえ一撃ではいかない。
弾切れすると素早くリロードを挟み、撃つ。
10分経つ頃には標的を全て的確に貫いていた。
『これで射撃訓練は終了だ。点数は機体に送信される。これより3時間自主練習の時間とする。サボることは禁ずる。また、模擬戦闘も許可する。模擬戦闘モードへの切り替え方は座学で教えた通りだ』
教官の話が終わると1機がフリューゲルの方へと飛んできた。
クルスの機体だ。
『タクヤ、射撃訓練はどうだった?』
『こんな感じだ』
俺はクルスの鋼鎧甲冑に先程の射撃訓練の結果を転送する。
『僕のも送るよ。…中距離だったのに凄いじゃないか!』
俺の方にもクルスのが送られてくる。命中率は98%と書かれている。
『いや、俺よりクルスの方が凄いじゃないか』
『いやいや!中距離で95%ってだけで僕より凄いよ!』
実際、距離はそこまで重要ではない。タイタン級とシンギュラー級。お互いに得意な間合いがあるからだ。
すると突然、話したことの無いクラスメイトから通信が入った。
『何の用だ?』
『私はマリーシャ・オヴェール。君に模擬戦闘を申し込みたい』
彼女はとても澄み渡った、よく通る声だった。
今回も読んでくださってありがとうございます!
白い六角柱です!
今回はずっと訓練訓練でした。少し設定が増えましたが、いかがだったでしょうか?
訓練がメインとなる回は今回が最後だと思います。基本的な設定はもう全て出ましたから。
次回は初の鋼鎧甲冑同士の闘いです!模擬戦闘ですが、鋼鎧甲冑がまともに戦うのは初ですね。
遅くなってすいません!
上手く書けるか微妙なところではありますが、次回もお付き合い頂けると幸いです。
ありがとうございました。