空への羨望
「…」
俺は反省文を書いていた。
俺は鋼鎧甲冑を乗りこなすのは最も早かった。
しかし、校庭から出たり校舎のギリギリを飛んだりとやりたい放題。
挙句の果てにバッテリーの充電が切れるまで延々と飛び続け、校庭の地面に墜落したのだった。
鋼鎧繊維戦闘着のおかげで怪我こそなかったものの、初日から鋼鎧甲冑を修理送りにしたのは初なのだそうだ。
正直寮に戻って寝たいのだが、教官が張り込んで反省文を書かせるため逃げられない。
心の中で絶望しながら書いていると、白衣に身を包んだ男が現れた。
軍部の科学者の場合は白衣の襟章で階級が分かる。
その男は…大佐だった。
途方もない反省文を何とか書き終えた俺は、無事に寮に着いた。
部屋に入ってベッドに飛び込むと、俺はついさっきの出来事について考えていた。
俺が反省文を書いている時にやってきた男はロクビリー・インバーカーと名乗った。
インバーカー大佐は元々この学校に教育方法の調査として来ていたらしい。その時にたまたま校庭でやっていた訓練を目にしたらしい。
彼曰く短期であそこまで乗りこなせたものは非常に珍しいと言う。
彼が俺に会いに来たのは、俺に試作機を預けたいからだという。
試作機の名は、
《シンギュラー級試作F型T仕様 名称:ヴァイサーフリューゲル》
機体色は白で完全な新型の鋼鎧甲冑だった。
最初俺は断るつもりだった。シンギュラー級には乗ったことがないし、何より俺は飛べない機体に興味が無かったからだ。
しかし、フリューゲルは設計思想が従来のシンギュラー級と全く違っていた。
側面には多数の制御翼やバーニア、背面には大型のノズル。
フリューゲルは飛べるように基礎から開発されたシンギュラー級だったのだ。
そして何よりも興味を引いたのが、活動限界の突破だった。
元々タイタン級は地上戦が目的であり、「空も飛べる機体」に過ぎなかった。
そのため長期の飛行にはバッテリーが耐えられない。
何よりD仕様はバッテリー容量が低いものが使われている。
訓練機だからたかが知れた性能だったのだ。
だが、大佐に見せられたフリューゲルの動力源はバッテリーでは無かった。
この機体の動力は超小型核融合炉…稼働時間は理論上無限だった。
この世界では核融合炉の実用化はされているが、小型化に成功している国は無かったはずだ。しかし、そうでも無いらしい。
もちろんこの機体の動力源に関しては軍事機密だった。と言うより、核融合炉の小型化の成功は国家機密なのだ。
しかし、断ったらどうなるか分からないと言う恐怖以上に無限に空を飛ぶ事を可能としたこの機体が俺は欲しくてたまらなくなってしまった。
明日の昼頃にフリューゲルは到着するらしいので、明日の訓練に間に合ってしまう。
他の皆がタイタン級なのに1人だけシンギュラー級は目立ちそうだと憂鬱な気分になるのだった。
次の日、クルスと昼食をとっていると校内放送で呼び出しがかかった。
『鋼鎧甲冑科1年C組タクヤ・クロミネ訓練生、即座に教官室に出頭せよ。繰り返す、即座に教官室に出頭せよ』
「タクヤ呼び出されてるけど、何かあったの?」
「いや、そこまで大した事じゃないと思うんだが…悪い、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
校内放送の通り教官室にすぐ行くと扉の前で俺達のクラスの担任教官、アンダーソン軍曹が立っていた。
「クロミネ、今日付でお前は専用機が当てられる。今から格納庫の場所に案内する」
教官は歩き出し、俺もそれに続く。
「俺の機体は通常の格納庫には入れられないんですか?」
「それはいまから行く格納庫に居る方に聞け」
そう言われて着いていくと、俺達が昨日の訓練で使用した格納庫に着いた。
「ここは通常の格納庫ですよね?」
「ああ。お前の格納庫はこっちだ」
そう言うと教官は格納庫の入口付近の壁に直接取り付けられたキーカードリーダーに軍服の内ポケットから取り出したカードキーを噛ませた。
すると壁が開き、エレベーターが現れた。
「これに乗るぞ。ちなみにこっちがお前のカードキーだ。」
軍曹はもう1枚取り出したカードキーの方を俺へ渡し、俺達はエレベーターに乗り込んだ。
操作盤が用意されていないエレベーターは地下へと降りているようだった。
今回もお読み頂き、本当にありがとうございました!白い六角柱でございます!
今回で遂に主人公専用機が出てきました。
専用機と言っても試験用機ですし、チート級に高性能設定にはしません。軍学校編では専用機をこれ以上増やすつもりはあまりありません。
と言ってももう1機出そうか迷っているのですが…
それでは、次回も読んで頂けると幸いです!
ありがとうございました!