動き出す甲冑
気の遠くなるような座学の後、午後は実技の授業だった。
生徒は格納庫に集合し、装着の仕方や基本操作などを習う。
「それでは授業を始める!」
開始の合図と同時に全ての格納庫のシャッターが開き、鋼鎧甲冑が姿を現した。
この学校にはタイタン級が50機、シンギュラー級が30機、アント級が20機の合計100機が用意されている。予備も含めれば120機である。全ての機体がD仕様なので戦闘はできない。
D仕様とは電磁投射砲や超振動ブレードなどの対鋼鎧甲冑兵装は装備できない、訓練仕様の機体だ。
訓練用の鋼鎧甲冑用ARやSMG、そして訓練用ブレードが装備されている。
実践投入されているF仕様と同じなのは装甲の厚さと機動力のみ。
正に教育のための派生型なのだ。
「諸君にはまずタイタン級を装着してもらう。1クラス40人ならば足りるだろう。整備科の生徒もサポートしてくれる。装着の仕方は後で説明するから、まずは自分の出席番号の書かれた格納庫の整備科生徒に挨拶をしてくるように」
俺は自分の出席番号の格納庫に移動すると、自分の担当であろう整備科の生徒に挨拶をした。
「どうも、この機体を装着するタクヤ・クロミネです。」
「おっ…ウチは整備科2年のラーナ・ブレーカーや。ラーナって気安く呼んでや!」
訛りがすごい人だな…腕は良さそうだ。
「挨拶が済んだか?お前達が3年になるまではその生徒がお前達の専属整備士だ。仲良くしろとは言わんが、問題は起こさないように」
この人が2年間も俺の装着に付き合ってくれるのか。悪くは出来ないな。
「それでは早速装着の仕方を説明する!早速支給した鋼鎧繊維戦闘着に着替えるように。時間は10分だ」
そう言われ端にある小さい更衣室に入って制服を脱ぎ、鋼鎧繊維戦闘着を着る。
水着のような生地だがこれでも銃弾程度なら弾けるらしい。
頭以外は肌とぴっちりと密着しているのに、肌寒くはなくむしろ少し温かい。
これはこのスーツの機能の一つ、生命維持の一環である。
体温調節を自動でしてくれるため、どこにいても快適なのだ。
「全員着替え終わったな。それでは装着の手順を説明する!1度しか言わないので、よく聞いておくように!」
そう言うと教官は教官用にモスグリーンでペイントされたタイタン級に歩み寄り装着を始めた。
「まず整備科生徒がキーを入力すると装甲が開いて搭乗出来るようになる。乗り込むと体が1度スキャンされる。スキャンが完了すると装甲が閉じてメインシステムが起動する。起動し終えたら整備科生徒が充電プラグを外し、機体のロックを解除するので、整備科生徒が機体から離れたのを確認した上で音声指令で発進を入力しろ。整備科生徒が近くにいたら吹き飛ぶから注意しろよ。それでは総員装着開始!」
掛け声がかかるとにプシューと空気が入る音と共に機体の装甲が上に開き、人が1人綺麗に収まるスペースが現れる。
乗り込むと赤いスキャナの光が足から頭まで通過してスキャン完了の通知音がして装甲が降りる。前が一瞬真っ暗になった後、顔の目の前にある画面が光り、
『装着者がオンライン、メインシステムを起動中』
の文字が表示され、頭部等の各フレームが体に密着するように調整される。
調整が終わると画面が切り替わり、頭が自由に動くようになる。
『システム起動完了、フレームの適正化完了、充電率100%、機体ロック中』
と表示される。
ガコン…と何かが外れる音がするとロックが解除される。
後ろを確認してラーナさんが機体から充分離れたのを確認して音声指令を実行する。
「指令:発進」
『指令:発進を受諾 発進します』
機体から応答が来たと同時に、機体背面のスラスターにエネルギーが音を立てて集まり始める。
エネルギーの充填が完了すると格納庫の中の景色が後方へと吹き飛ぶ。
Gは感じない。戦闘着が引き受けてくれている。
まるで背中に羽が生えたように感じた。
まだ加速の仕方などの基本操作を習っていない俺達は、発進後はその勢いでしばらく飛んでいたものの、すぐに減速して校庭に着陸した。
そこに教官機から通信が入る。
『全機成功したようだな。それでは基本操作を教える。まず鋼鎧甲冑は強化外骨格の1種であり、体の動きをより速く、そして強くしている。装着している状態で、人に接触したりするのはオススメできない。ジェットエンジンのオンオフは音声指令だ。加速と減速はイメージが重要になってくる。前に意識を集中すれば加速、後方に集中すれば減速だ。加速減速が出来るようになれば音声指令も必要なくなってくる。全ては慣れだ。毎日装着して身につけるように』
イメージで加速減速と言われても、特別驚いたりする人はいない。むしろ納得している人が多いだろう。
鋼鎧甲冑科の入学試験には本人の想像力を試す試験があった。
その理由がここに来て繋がったという訳だ。
そして合格しているということは適性があるということ。
最初は難しいかもしれないが、できない人は出ないだろう。
『それではこれより加速減速の訓練を始める。校庭の外に出なければいい。今日中に加速減速は出来るようにすること。できなければ居残り、それでも出来なければ退学だ。心して励め』
とんでもなくスパルタだな。しかし、そんなことはどうでもよかった。
俺はあのジェットエンジンの加速感に魅せられていた。
あの羽が生えたような感覚をもう一度味わいたかった。
俺は早速訓練を開始した。
その次の瞬間…
俺は空を駆けていた。
今回も読んで下さり、ありがとうございます!
やっと機体が登場しました。機体の見た目のイメージ的には某SFハーレムのラノベに出てくるI○に似ています。あれの肌の露出をなくしてマスクが着いた感じですかね、かなり大雑把に言ってしまえば。アレのように本来自在に飛んだりするための機体ではないのですが、タクヤくんは飛ばしたがります。ここから次の話へと繋げていくつもりですので、拙い文章ではありますが楽しんで頂けると幸いです。