鋼鎧甲冑の世界
入学式の翌日、今日から授業がはじまる。
今は6時、もっとのんびりと寝ていたかったが校内放送に叩き起されてしまい、やることも無いので今はランニングをしている。
この軍学校は全寮制ではないため、朝の訓練は無い。
その代わり放課後はフル活用されてしまうため、どうしても体力的にきつくなりそうだった。
だから自主的にランニングをしようかなと考えたのだ。
4、5周済ませると、部屋に帰って身支度をする。
鞄を持って食堂に行くと結構な人数が並んでいた。
並んで出てきた料理を持って席を探していると
「おーい!こっちだよー!タクヤくーん!」
またあの元気な声が聞こえてきた。
声のする方を向くと、ミリシアと座っているエリスがこちらに手を振っている。
その席まで歩いていくと、もう1人横に座っているのに気づいた。
「おはよう、その子は?」
「おはよう!この子はねー、ミリシアちゃんのクラスメイト!」
「…ナオ・カミガヤです。おはようございます…うぅ…」
辛そうにカミガヤさんは返事する。
「俺はタクヤ・クロミネ…ってカミガヤさん大丈夫?」
「…ナオでいいです…大丈夫です…」
まだ辛そうなんだが…
「ナオさんは私の隣の部屋なんですが、フラフラ廊下を歩いていたので気になって声をかけたんです」
「あの…これは体調不良じゃなくて…寝不足なんです…」
ナオの気持ちはよく分かる。俺も朝は苦手な方で、寝起きは凄まじく悪い。
布団が妙に暖かく感じて、出るに出れずにそのまま二度寝してしまうことがよくあった。
「確かに朝は辛いよな」
「頭がボーッして…眠い…くー…」
寝始めたぞ。器用に寝るもんだ。
ナオは頭を少し傾けて可愛い寝息を立てている。
「今は寝かせてあげた方がいいかもしれませんね」
「そうだな、このままじゃ辛いだろうからな」
寝始めたナオを起こさずに食事を始める。
食事の間、ナオは一切起きなかった。
教室に入ると、既にクルスが来ていた。
席に鞄を置いて、話しかけた。
「おはよう、クルス」
「やぁ、タクヤ。おはよう。寮はどうだった?」
「綺麗だったぞ、部屋も広いし」
「いいなぁ、僕も家が近くさえなければ…」
本当に寮に入りたかったんだろう。とても羨ましそうだ。
「そう言えば、何でそんなに寮に入りたいんだ?」
クルスは少し言い淀んだ。
「通学が大変だからだよ。朝はゆっくり寝ていたいからね」
そう言うクルスの表情はどこか憂鬱そうに見えた。
1時限目は電磁投射砲の歴史についてだった。
出来て間もない鋼鎧甲冑自体にはなんの歴史もないのだが、サンラクトの軍人は電磁投射砲についてはよく学ばされた。
元々は軍事機密として扱われたデータも、殆どがルカルド連邦との情報交換時に公開された。
だから、階級が低くとも電磁投射砲についても教育されていた。
特にサンラクト共和国は電磁投射砲について長い年月をかけて研究してきた。
そして電磁投射砲の試作モデルが作られたのは100年以上前だった。
しかし、電力の不足により長年実用化には至れなかった。
そこで電磁投射砲の電力の消費に耐えられるバッテリーの開発と本体の使用する電力の削減を目指した。
そして完成したのがRC-Xシリーズである。
現在この国で生産・採用されているのは全てこのシリーズの電磁投射砲であり、威力も落さずに電力の削減に成功。
さらに大容量バッテリーの開発にも成功し、軍部に正式に採用されたRC-Xシリーズは連射性能の良いSMG、使い勝手の良いAR、そして威力の高いSRのバリエーションが開発された。
鋼鎧装甲に対しての有効性に注目され、もしもルカルド連邦との戦争が起きていた場合は有利に事を運べたと言われている。
しかし、実際の所はそんなことは無く、サンラクトの電磁投射砲が効果を発揮した鋼鎧装甲はルカルド連邦の偵察機が領空侵犯した際に、不時着した機体のものだ。
無人機とはいえこれが開戦の引き金とならなかったのは奇跡であった。
しかし、鋼鎧装甲の原理は鹵獲してなお解明できずにいたのだ。
サンラクトは未だ全ての兵器が従来の装甲であり、電磁投射砲が無くとも容易に破壊が可能だった。
対してルカルドは兵器の開発に悩んでいた。鋼鎧装甲を開発したはいいものの、自国の兵器では破壊ができなかった。
それこそ鋼鎧装甲を使用した兵器には自爆装置が標準装備だったほどである。
この二国が戦争をしても力は五分五分。勝利には戦術的に勝っていなければならなかった。
泥沼化することを予期した東国イザナギはそこに目を付けたわけだ。
イザナギの仲介による条約の締結で情報の交換が行われ、両国の技術を結集したのが鋼鎧甲冑である。
まさに鋼鎧甲冑は究極とも言える兵器なのだ。
こんにちは、白い六角柱です。読んでくださってありがとうございます!今回はクルスくんが久しぶりに出てきましたね。もっと出したいのですがどうにも上手くいかなくてですね…
少し闇を抱えてそうなクルスくんは一旦置いておいて、次回はやっと鋼鎧甲冑を動かします!うまく書けるか分からないですが、頑張りますのでよろしくお願いします!