学校生活の始まり
春の風が肌を撫でる。
少し暖かいその風は桜の花びらを運んでくる。
イザナギという異国の木であるという桜は、桃色の華やかな花を咲かせて鮮明に春を彩る。
これから始まる生活への憂鬱感は風に流されるように消えていった。
代替わりするような期待感を胸に、白くシルクのように汚れのない色の校舎へと向かう。
今日は国立第1高等軍学校の入学式だ。
俺はタクヤ・クロミネ。
変わった名前だと言われるが、この名は父がイザナギ出身だったためだ。
イザナギでは一般的な名前なのだという。
といっても両親は既に他界してしまっている。
だから俺は普通の高校ではなく軍学校を選んだという訳だ。
身寄りがいなかった訳では無いが、いつまでも面倒をかけたくなかったのだ。
軍学校ならば将来も軍部に身を置けば良いし、何より高校生から給料が出るのは魅力的だと思う。
これなら多少訓練がきつくてもお釣りが来るだろう。
体力には結構自信があるし、勉強だってそこそこできる方だと自負している。
上手くやって行けるだろう。
そう思って自分のクラスのドアを開けるのだった。
教室に入るとまだあまり人は集まっていなかった。
1クラス40人くらいかと数えながら電子黒板に書いてあった自分の席へと歩いていく。
この学校は人気校なのだ。
鋼鎧甲冑科の設立と共に国は軍部の待遇等を厚くした。
それにより軍人は人気の職業の1つとなり、学校の環境や数も改善したのだ。
また、ここ100年は戦争が全くない。
今になって戦争が起きるなんてこと考えていないのだろう。
クラスはA〜Tまでの20あり、これが3学年だから単純計算1校2400人いるということになる。国立軍部学校は全5校あるが、800人という広い門なのにも関わらず倍率は高い。
それほど人気なのだ。皆期待して入学したのだろう。
自分の席に座ると、後ろに座った金髪の男子が声を掛けてきた。
「やぁ、僕はクルス・コールド。クルスって呼んでくれるかな?」
「分かったクルス。俺はタクヤ・クロミネだ。タクヤって呼んでくれ」
軽く挨拶を交わす。
「タクヤはどこから来たの?」
「俺はクオールだ。クルスはどこだ?」
「僕はアルカスだよ。クオールは海鮮で有名だよね」
「そうだな、アルカスもラクトニールに近くて羨ましいな」
ラクトニールはサンラクト共和国の首都だ。その横にアルカスがあり、クオールはもっと遠い海に面した地区だ。
「クオールだと寮が使えるよね、いいなぁ」
「クルスの家からここまではどのくらいかかるんだ?」
「1時間くらいかな」
この学校は生徒が多いため全寮制には出来ない。そのため可能な者は家から登校させているのだが、あまりに遠い者は寮を使わせている。
ボーダーラインは2時間で、1時間程度だと寮は使えない。
寮は学校の隣にあり、遅刻する心配もないため家から来る生徒は羨ましがるのだ。
しばらくクルスと話していると担任の教師が教室に入ってきた。
白髪の老兵のような外見をしている。
「席につけ。これからお前達の担任となるマーク・アンダーソン軍曹だ。これからお前達の上官となるため、肝に銘じておけ。」
この学校の教員は現役の軍人なのだ。ちなみに士官学校だともっと階級は上の軍人が担任である。
「では階級証を配る、受け取ったら直ぐに付けるように」
そして階級証を配り始めた。この学校の制服は多少高校生向けにアレンジされた軍服だ。
階級証を付ける場所が用意されており、学年によってバッヂの色を変えたりする。
「本日は入学式の後解散だ。入寮する生徒は一三○○に寮の前集合だ。遅刻することがないように」
そう言うとアンダーソン軍曹は廊下に出て整列するように指示を出す。
俺達は軍曹の先導に従って入学式のある体育館へ向かう。
「しかしすごく広いなこの学校は。卒業までずっと迷いそうだ」
俺は前に並んで歩いているクルスに話しかける。
「この学校は軍学校だから校庭がすごく広いんだよ。生徒の数も普通の高校とかとは比較にもならないし、その分校舎も広くなったんだって」
「格納庫もあったよな」
この学校は鋼鎧甲冑科という新兵科の増強を目的として去年改築された。
だから鋼鎧甲冑の訓練モデルの格納庫があるのだ。
「整備も整備科の生徒がほとんどやってるらしいよ。流石に高圧縮バッテリーは本業の整備士にやってもらってるみたいだけど」
鋼鎧甲冑は電力駆動のため、バッテリーが利用される。しかし、兵器であるが故高い容量が求められ、より複雑かつ危険なものとなっている。
危険な作業を生徒にやらせないのは当たり前だ。鋼鎧甲冑は高コストなのだから。
「俺ら鋼鎧甲冑科が1番大変だな」
「まぁね」
クルスは少し憂鬱そうに言った。
初めまして、白い六角柱と申します。
元々SFが好きだったので書き始めて見ました。
基本的にロボット系の話となりますので設定など諸々ややこしくなってくると思いますが、どうか読んでいただけると嬉しいです。
書くのは全くもって初心者なので、誤字脱字、変な表現などが見られるかもしれませんが、その時は申し訳ありません。