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ダンジョンのものづくり

 ゴーレムの精製にはキャパシティがある。

 低級ゴーレム一体に付き100MPが必要だ。



 あるとき俺は自分の手足として動かせるゴーレムを生産できる事に気がついた。

 現在作れるゴーレムには3種類がある。

 主に物資の生産や設備を建設できる【生産ゴーレム】。外敵などを攻撃できる【戦闘ゴーレム】。ダンジョンの外へ出ることのできる【探索ゴーレム】だ。



 はじめ外への好奇心から探索ゴーレムを作ってしまい、なにも考えずに外へ送り出したところ――魔物か何かにやられたのだろう、そいつが帰ってくることはなかった。


 今手元にいるゴーレムは2体。

 低級ゴーレムは手乗りサイズで、どちらも生産ゴーレムだ。おそらく他の二種に関しては低級では殆ど役に立たないと思われる。


 彼らには洞窟の拡張をお任せている。

 なにせ休みもいらず、俺は見ているだけでいいのでMPを消費せずに済むのだから使わない手はない。


「まあ流石にコイツラでは小さすぎて進みは遅いけどな……」


 ゴーレムたちが掘り出すのは鉱石ばかりで、この頃は魔石にはほとんどお目にかかれない。


 あれからずいぶんな月日が流れ、洞窟の規模は現在20メートルほど。今では奥へ掘り進むことより横に広げたり、途中の部屋を作ることに腐心している。それらは一杯になった鉱石貯蔵のための新しい置き場だったり、特に必要とも思えないがゴーレムの休憩部屋だったり。

 あとはタヌさんの子どもたちの部屋も一匹ずつ別に作ってあげた。いつもMPを提供してもらっているんだからこれくらいはしないとね。実際タヌさんがここに来てくれなければ今頃どうなっていたことやら。そう思うとぞっとしない。


「ふむ。……考えてみればここは少々不用心じゃないか?」


 タヌさんのプライバシーをどうしようかなどと考えているときに、今更ながらその可能性に思い至った。

 今まで悪意ある侵入者は現れなかったが、言うなればここは俺の家。おうちには鍵をかけるものだ。

 ところがこの洞窟ときたら鍵どころか、まずもって門扉がない。


 ただこれにも事情があって、なにせここを閉じてしまうとこの洞窟は全くの暗闇になってしまうのだ。もちろん20メートルも進めばずいぶん暗いが、まったく光がないのとあるのとでは大違いだ。というかまず呼吸ができなくなるのではないだろうか。

 用心はしたいが、入り口を塞ぐことはできない。


「どうしたものか……」


 塞がずに隠すのはどうだろうか。

 例えば入り口から少し離れたところに壁を立てて直接穴の入り口が見えないようにするとか。

 良さそうだが…いや、それでもやはり光量は減ってしまうだろう。それに結局の所侵入を防ぐことはできない上に、こちらが相手の接近に気づけないとなるとややデメリットが勝るようにも思う。


「……トラップ、……そうだ、罠を作ろう!」


 思いつたが吉日、今回は急ぎなので俺が直接穴を掘る。

 オーソドックスに落とし穴を作ることにしたのだ。

 これを入り口に何箇所か設える。実際俺やタヌさんたちが入り口に近づくことはあまりないのでさほどの不便もない。


 発達した前足の爪で俺は穴を掘る。


「お?」


 いくらか掘ると爪の先にコツンという硬い手応え。

 これはもしや……?


「魔石だ!そうか、入口の近くにはまだ掘り残したのが残ってるんだ!」


 一気にやる気の出た俺は明らかに不必要な大きさの落とし穴を作ってしまった。

 都合今回の掘削で出た魔石は7つ。ココ最近のことを思えば大量も大量だ。


「それに何より収穫なのはコイツだ!」


 古代の魔石:大


「初めて見る大きさ、輝き……なんて美味そうな匂いなんだろう……」


 というのはもちろん空想で、魔石に匂いなどないし美味くもない。

 それでもこれ一つで俺のMPは3700。

 今まで到達したことのない数字だ。


「おお……ウマウマ」


 気を良くした俺は残りは全てタヌさんたちに分け与えた。

 タヌさんはどうやら一定のMPが貯まると大きくなるか子供を生むか選択できるらしい。


 ピーン!

 タヌさんたちの食事を眺めていると頭の中で覚えのある効果音が鳴り響いた。

 何か初めてのことが起こると時々なる音だ。最近だとゴーレムを獲得したときなんかに聞いたのが記憶に新しい。


 ”一定の条件を達成しました。【リンデルン】=個体識別呼称「タヌさん」は進化が可能です”

 進化先:ネオリンデルン/灰色熊


「おおお!?タヌさん、進化出来るのか!?」


 しかしどちらが正解なのか見当もつかない。

 順当に考えれば【ネオリンデルン】が一般的のように思えるが、名前的には熊のほうが強そうな……。


「タヌさんや、どちらがよろしいか?」


 フイッっとタヌさんが向いたのは左側。


「よぉし、ネオリンデルンだ!」


 頭の中で選択するとタヌさんの体が闇に包まれる。


 なるほど、魔物だから進化するときは黒い光に包まれるんだな。

 そしてわずかばかりの時間でその闇も消えていく。


 ペーン!


「こ、これは……!ふむ、……ちょっと大きくて毛の長いタヌさんだな」


 正直あんまり変わってないけど名前から行くと直系の上位種っぽいしこんなものなのか。

 俺としてはもふもふ度が上がって愛嬌は当社比20%増しだ。


 ピーン!

 ”【ネオリンデルン】=個体識別名称タヌさんはスキル【わめきちらす】を獲得しました”


 なんかジャリっぽいスキルを獲得したらしい。

 屋内ではやめてね。



 それから程なくして落とし穴は完成した。

 先だって掘った大きな横穴に落とし口が3箇所。つまりどの穴から落ちても行き着く先は階下にあるひとつの同じ大穴というわけだ。

 この構造に全く意味はなく、単に魔石目当てに掘りすぎてつながっちまっただけだ。

 それでももし誰かが誤って落ちてしまったとき助け出すのが便利だし、これはこれでいいだろう。


 そういうわけで階段を付けて、掘削中に発見した大岩で中からは動かせない感じで蓋をした。一応こういった石ころなんかもまとめてストックしているのだ。

 そんで最後に穴にバレないような蓋をしなければならない。


 俺は口からゲル状の粘液を出してそれを土と混ぜ合わせて薄く塗り固めるという方法で穴に蓋をした。


「よし、これで完璧」


 ちなみに俺自身はトラップの位置を可視化でき、配下の魔物と共有できるらしい。


 満足した俺は土で床にいい感じの傾斜を作ってそこで数日を寝て過ごした。

 もふもふ度の上がったタヌさんを傍らに侍らせてなかなかいい気分だ。



「……木がほしい」


 木というのは森に生えている頭が緑色で胴体が黄土色の植物の総称だ。

 そう、何でか俺は知っている。

 どうやら俺にあある程度の教養があるらしい。ただそれは知識としてあると言うだけで、それがどういったものなのかはわからない。実物を見たとき初めてそれが何なのかわかるという程度なのであまり賢いというわけではない。


 考えてみれば木があれば穴の蓋も口をカラカラにして泥を固めなくても薄い木を張れば簡単だったはずだ。それ以外にも用途はたくさんあると思われる。

 そういうわけで俺は木がほしい。


 俺の目測が正しければ、今の俺の行動範囲約20メートル内に生えている木は3本。これをどうにかして確保したい。しかしもちろん安全上の問題が生じる。

 ヤドカリ殻を出るが如しとは正にこのことである。


 言っていても始まらないので、とりあえず例の魔石で得たMPで【探索ゴーレム】を一体作ってみることにした。

 地面に手を当ててゴーレムを呼び出す。

 形は自由に規定できるが、今回は蜘蛛にしてみた。

 自由にできるが俺の知らない形状のものは作れない。俺は洞窟で何回か蜘蛛を食べたことがあるのでこの形は余裕だ。


 さっそく周囲の探索に送り出す。


「あ、コケた」


 ゴーレムも生まれたては少々どんくさいところがある。

 俺はゴーレムから受け取った情報で状況を確認できるのだが、ゴーレムも個であって、視覚や感覚を共有できるというわけではない。要は思念による伝聞といったところだろうか。

 ところでゴーレムは似ているのは形だけで材質や色は土丸出しなので、なんか遠目に見ると切り離された掌がのたくっているみたいでちょっと不快だ。


「どうやら周囲に魔物や動物はいないようだな」


 前にズタ袋が飛んできたことから考えても近くに何者かいる可能性は否定できないが、こればっかりは出会ってしまったときに考えるしかない。今の俺にこれ以上仔細に周囲の状況をしる術はないのだから。


「おお……眩しい!」


 久しぶりの外界に俺は目を眇める。

 何という開放感だろう。俺は決して洞窟が嫌いなわけじゃないし、どちらかというと気に入っているのだがやはりこの開放感は得難いものがある。

 しばらく感動に浸った後、本来の目的を達成すべく行動を開始する。


 俺の身体構造上木を切るというのは逆立ちしたってできやしない。なので今回はお得意の穴掘りで根っこを掘り返して文字通り根こそぎ木を持ち帰ることにした。


 俺は発達した前足の爪を地面に突き刺した。

 どうやら地質は洞窟より柔らかいらしく、根が絡まっているとは言え掘削は容易だった。


「ん?」


 掘り進めるために下生えをどかそうと掴んだときだ。何やら覚えのない情報が頭に流れ込んできた。


 どうやらこの草は傷薬として効果があるようだ。

 もちろん俺はそんなことは知らなかった。どうやら触れるか、ある程度集中すると持っている知識とパスができてそれが何なのか分かる能力があるらしい。


 ちなみに木は何の反応もないので特殊な効果はないのだろう。

 今にして思えば魔石が魔石だとわかったのもこの効果なのかもしれない。多分当時の俺は知能が低くてそんな事を考える知性はなかったのだろう。

 せっかく見つけたのでなにかの役に立つかもしれないと採集することにした。


 それから程なくして木を倒した俺はまる一日がかりでどうにかこうにかそれを洞窟の入り口まで運んだのだった。



 木を持ち帰ったところで加工の術がないことこのときの俺はまだ知らない……。



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