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アクアツアー

「次のアトラクションは、と言いたい所ですが……大丈夫ですか?」


 まだ噂に関連するアトラクションは4つある。残りも案内していきたいとウラビィは思っているが、異常な体験の連続に、男は参ってしまったように見えた。


「問題ない。……次はどこだ?」


 頬を張り、意識を切り替えた男は次に向かうアトラクションを問う。


「アクアツアーへ行きましょう」


 オーナーの仕様変更によって、多くのアトラクションは来園者が死ぬ事を織り込んだものとなった。

 ウラビィが知る限り、アクアツアーは残り4つの中でも一般的な感覚で楽しむ事ができ、なおかつメリーゴーラウンドを機能させる可能性が低い。

 異常なアトラクションが合わないのは仕方がないとしても、せっかく来園してくれたのだからウラビィとしては少しでも楽しんでもらいたかった。




 アクアツアーの船着場は、建物の劣化具合こそ他の場所と変わらないが少々雑然としている。船に使う道具その他が散らばっているからだ。


「足元にご注意ください」


 散らかった屋内のみならず、桟橋もところどころ破損があり転倒や落下などの危険がある。男の手を引いたウラビィは、いくつかあるボートの一つに乗り込んだ。

 彼には好きな席に座るよう促し、それは船を動かす準備を始める。


 計器の状態、破損がないかの確認。ふたのついたパネルを開け、裏のアトラクションへの切り替え操作をする。

 好きな席にと言われた男だが、放置されていたシートは汚れていて座るのがためらわれる。準備をしているウラビィに言うと、首の穴からクッションを取り出し渡してきた。


 渡されたそれに座って男が待つ事数分、ようやく準備が終わる。


「お待たせしました。それでは出発しましょう」


 それの言葉と共に、船が桟橋を離れ水路へと向かう。


「ここは普通の感覚でも楽しめるって話だったが、どうなんだ?」

「ふふん、それをこれからお目に掛けましょう。驚きますよぉ」


 ふたをされていた操作盤のスイッチが押されると、船の進行方向に霧のようなものが出現する。


「ジェットコースターみたく、どこかに飛ぶんだな」

「察しが良いですね」


 霧の中を抜けた先には、アトラクションの水路とは異なり広く水面が広がっていた。


「海か」

「ただの海じゃあありません。これであの辺りをご覧ください」


 陸地の一部を指で示され、男はウラビィが渡してきた双眼鏡でそこを見る。

 彼の目に映ったのは大型の爬虫類、恐竜だった。


「……ここはいったい何時なんだ」

「私にも大昔としか」


 裏のアクアツアーは時間を越える。元々は、異空間に珍しい生き物を放し飼いにしてそれを見せるというものだったが、メリーゴーラウンドの導入とそれに伴う仕様変更で今の形になった。


「オーナーは変わった趣味の持ち主ではありますが、これはご理解いただけるでしょう?」

「ああ、まさか時間旅行が楽しめるなんて」


 他も行ってみましょうかと、ウラビィは再び霧を出現させて船をその中へ進めた。霧を抜けた先は、元のアクアツアーに近いある程度大きな川だ。

 先程までいた海上と違い、岸が近いので陸に住む生物が双眼鏡を使わずとも見える。


 男は恐竜に特別興味がある訳ではなかったが、生きた姿を見る事が出来るならそれを目に焼き付けたい。幼い子供に戻ったかのように周囲を見回していた彼は、様子がおかしいことに気がつく。


「なぁ、俺の気のせいかもしれないが……」

「どうされました?」

「恐竜が船の近くに集まってきてないか?」


 ウラビィも周囲を見回すと、確かに小型の恐竜が集まってきていた。しかも良くないことに、それらは興奮しているように見える。

 見慣れないものに対する興味や警戒というのは当然の反応だが、下手に刺激して攻撃を受けてしまってはたまらない。


 別の場所へ移動するため、ウラビィが船を操作しようとしたその時、恐竜が船に飛び移ってきた。

 小型とはいえ、それは人間よりも少し大きいくらいの体格だ。当然相応の体重があるため、大きくはない船が着地の衝撃で揺れる。


「うおっと」


 男は揺れにより転倒してしまい、そんな彼に飛び移ってきた恐竜が近づく。


「お客様危ない!」


 ウラビィは取り外した頭を脇に抱え、頭の穴から何かを射出し恐竜を水中へ突き落とす。

 一体目に続いて恐竜は続々と飛び乗って来るが、穴から発射された何かで同じように川へ落とされていった。


「ああもう、きりがない」


 ウラビィは耳の部分をつかんで自身の頭を上下に振り、中のものを床へ落とす。銃器、ショットガンや猟銃らしいそれが何丁か出てきた。


「お客様、これ持って時間稼ぎをしてください」

「無茶言うなよ!」


 彼は銃なんて生まれてこのかた扱った事は無い。やらなければまずいと理解はしているが、はいやりますとは返事が出来ない。


「簡単ですよ。脇閉めて、狙って、引き金を引く!」


 ウラビィは男に銃を持たせ、使い方を実演して見せた。弾を受けた恐竜が大きな音を立てて船から落ちる。


「船を操作する間だけ、お願いします」


 そう言ってそれは操作パネルへと向かった。


 一度発砲した流れで、男は恐竜たちに応戦し始める。

 彼らを突き落とすだけのパワーがある割に、ウラビィが出した銃は殆ど反動がない。弾が散弾なのか、見当違いな方を狙わなければ彼の技術でも十分に当たる。


「おい、早くしてくれ!」

「もう少し、もう少しだけ頑張ってください」


 周辺から集まってきているのか、攻撃に加わる恐竜が増えてきた。今の時点でもう余裕が無い男は、いつ対応しきれなくなるかと気が気ではない。


 実際、破綻するまでにそう時間はかからなかった。弾切れか、誤作動か。引金を引いても弾が出なかったため、彼は恐竜のぶちかましを食らいはね飛ばされる。他の銃を交換する前だったため、彼の手元に有効な武器はもう無い。


「あっちへ行け!」


 そこに、まずいと判断したウラビィが介入した。自身の頭部を床に落とし、下部の穴からマジックハンドを出して恐竜を殴り飛ばす。その間も首から下は操作を続け、ついに逃げる準備が整った。

 霧が再び船の前に発生する。


 ウラビィは落とした頭を拾い、穴の部分を恐竜たちに向ける。

 そこから現れたのは、弾丸をばら撒く回転式の銃身。四方八方に射撃をし、首の穴からは小型のミサイルを撃ち出して爆発を起こす。


 過剰な火力で恐竜たちを追い払い、彼らは霧の中へと逃げ込んだ。


「ふぅ、危なかった」


 ウラビィは頭部から出した銃身を引っ込め、同じくそこから出した銃器を片付ける。一方男は、放心状態から回復してそれに歩み寄った。


「なぁ」

「お客様、……申し訳ありませんでした」


 このアトラクションには複数の動作モードがある。時間を越えて絶滅した生物を見る以外にも、異空間に放し飼いにした希少生物や実確認生物を見る、生態系の異なる異世界へ行く等々。

 見るだけに限らず、戦う事もできる。船に搭載された装置が周囲の生物を挑発し、モンスターパニック映画のような体験を提供するのだ。


「出発時に、生き物を怒らせる機能を切り忘れていたんです」


 そういう事だったのかと男が納得すると同時に、船が霧を抜ける。見渡す限り水面で、陸が周囲に見当たらない。


「ここは?」

「どこでも良いからと適当に飛んだので……」


 今いるのが何時のどこなのか知るため、それは計器の表示を確認する。


「ここは、異世界の一つですね。怪獣くらい大きな水棲生物がたくさんいますよ」

「とっとと元の場所に戻ってくれ」


 もうこのアトラクションは十分だ。そう言う彼に促され、再びウラビィは操作を始めた。慣れない事をして疲れた男はおとなしく座って作業の完了を待つ。

 しばらくはぼんやりと風景を見ていたが、ある事に気がついて不安になった彼は、確認を取る事にした。


「なぁおい」

「何でしょう?」

「生き物を怒らせる機能、切ってあるんだよな」

「あっ」


 まだ装置は起動中で、ここは超大型生物だらけの空間である。長居をすればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。


「急いで切れ!」

「はい!」


 船が大きく揺れ始めた。巨大な何かが船の近くを移動している。彼らはすぐにでも逃げたかったが、揺れがひどくて操作どころではない。つかまっているだけで精一杯だ。

 一応それは、ここの生物に有効な武装を持ってはいたが、今の位置で使用したら男が巻き込まれる。

 生物が水上に顔を出し、大きな口を開けて船に迫る。あと少しで飲み込まれるという所で、彼らはメリーゴーラウンドに飛ばされた。


「何とか帰ってこれましたね」

「次はこんな事、無いだろうな?」

「……保証しかねます」

「ここの噂、何が原因だったんだ?」


 確認できなかった噂の元について、男はウラビィに質問をする。


「多分なんですけど……」


 アクアツアーの水路は、空間がゆるくなっている。行き来をしやすいよう意図してそうした事に加えて、高い頻度で空間に穴を開けていたためだ。


「そのせいで、勝手に別の時間や場所につながる事があるようなんです」


 危険な大型生物が行き来できるほどではないが、ある程度小さい生き物ならそのつながりを通る事が出来る。

 こちらに来た生き物が人に目撃された結果、噂が生まれたのではとそれは推測している。


「それ、ちゃんと捕まえて戻してるのか?」

「別部署の事なので何とも……。人手が必要だって言うんで参加した事はあるんですけどね」

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