近状報告
「ハシゴか何か、持ってこようか?怖いおじさん付きで」
懐かしそうに笑う彼。
実は根に持ってるんじゃないの……?あの特徴的な前髪がなかったから、一言目では気づかなかったけど、声と会話で夏宮さんであることを確信する。
「夏宮さんじゃないので降りられますぅー」
その言葉通り、私はスルスルと木を下りていくが最後に足を滑らせ尻もちをつく。
「イタタタタッ」
フッ、バカにした響きの笑いが耳に届く。
「原木さん、変わらないな。久しぶり」
性格は変わらないか……
目の前に手が差し出される。大きい手、掴んで立ち上がる。
「優しくなったね。それから……背が大きくなったねぇ。手、ありがと」
笑いを一つこぼす。
「なんか、親戚のオバサンに会った気分。あと、笑い方ババ臭い」
「なっ……相変わらずバッサリ言うね、傷ついたわー。てか名前覚えてくれてたんだ。君、君しか言わないんだもんさ」
「まぁね」
話しながら説明会会場へとゆっくりと向かう。
「高校生活、どうだった?」
「夏希から聞いてないのか?」
「なんだかんだ、君の話はあんまりしないんだよねー。結構遊んだり、連絡は取ってるけど」
「そうか。高校生活か……退屈じゃなかったよ」
彼の顔を見ると、表情が緩んでいた。素直に楽しかったとか言えばいいのに。ツンデレなところ、あるよねぇ~。触れないでおいてあげよう。
「そういえば、夏希ちゃんはまだ高校生なんだよねー。心配だよね、変な虫がつかないか」
「ん?そうだな……」
虚を突かれたのか、おざなりな返事をする彼。
「にしても、国立に来るとは思わなかったな。頭良くないみたいだったし?」
カチンとした雰囲気が隣から伝わってくる。
「俺、センター満点なんだけど」
オレ呼びになってる。たびたび、時間のもたらす変化を見つけては嬉しくなる。確かに、親戚のオバサン気分だ。
「えぇ、頭良かったの!?」
「勉強は嫌いじゃない。あの時は授業を受けていなかったから」
うへぇ、勉強が嫌いじゃないって人好きじゃないわ。
「私は勉強なんて嫌い」
私はおもいっきり顔をしかめた。
「でもね、施設にいた人がね、勉強だけはしなさいって。這い上がりたいなら勉強しなさいって。無理にでも勉強を教えてくれたの。今となってはすごく感謝してる。今日はね、その人に大学入りましたよって言いに行くんだ」
「施設?」
「あぁ、孤児とかが行くところ。私の両親、早くから亡くしてね。たくさんの兄弟がいるって感じで楽しかったよ」
「そこが、好きなんだな」
ただ、微笑んで一言だけ、そう言った。
同情しない人初めてだ……
「まぁね」
私に駆け寄る人影を発見する。
「友達と約束してるから、ここで。友達、作れるよね?」
鼻笑を一つする彼。
「昔の俺じゃないんで。君を迎えに行ったとき、過去を克服したんだ。感謝している」
最後の言葉を耳元でささやかれる。
「それは、よかった……」
なんで、ドキドキしてるんだろう。絶対、顔赤いわ。声がいいからだ、そう声のせいだっ!
私は素早く、彼に背を向けて去った。