それから
病院の外に出ると、周りにある桜は綺麗に葉桜に変わっていた。
「私はね、桜だったら葉桜が好き。花はすぐに散るけど、太陽に向かって生い茂る緑の葉は元気の象徴みたいで好き」
立ち止まり、葉桜を見上げる。
「だから?僕に言ってどうするの」
夏宮さんは立ち止まることなく、スタスタ歩く。
相変わらず冷たいなぁ。
トホホな気分で歩き出そうとしたとき、夏宮さんは立ち止まり振り向く。
「君のアドバイス通り、転校することにしたよ」
ズンズンと近づいてくる彼。
「あとコレ。ウチでやってる奨学金。返さなくていいヤツ。短い間だけど、ありがとうございましたっ!」
勢いよく、折りたたまれた紙を手渡される。もう用は済んだとばかりに早足で先へ進む。
照れてるのかなぁー。なんか、微笑ましいや。自分の顔、ニヤけてるんだろうな。
「ありがとぉーーーーー!」
随分離れた所にいる夏宮さんにお礼を言う。
「僕はタクシーで帰るっ。君は羽田さんに送ってもらえっ!」
なっ、そんなに照れるものなの?てか、タクシーとかボンボンめ。
これが、最後に交わした会話。
しばらく、クラスではぎこちなかったけれど。ななみんが居てくれたおかげでどうにかなった。彼女は私の話を信じてくれたのだ。
夏希さんの面会にはちょくちょく行くけれど、なぜか、彼と会うことはなかった。葉桜が枯れ、落ち葉となるころ、夏希さんはそろそろ退院する。
本当に彼と会うことも、見かける可能性すらもなくなると思うと、少し寂しくなった。
「会おうと思えば会えるんだけど……」
夏希さんの連絡先は知っているのだから、彼女を通して会おうと思えば会える。
寮の自室からは冬化粧した桜の木が見える。時期は冬、私は受験生になった。
私はお金持ちになるため、シャーペンを動かした。
高校生編完