番外編 お金持ちの家にご挨拶
今日は誠の親に挨拶する日。
誠曰く、「変人だし、気楽にしてていいと思うよ」だそうで。
無理だよぉ~。てか、一度会ってるんだよね。メイド募集のときに……
「はぁ」
チュッ
「ため息つくと幸せ逃げるぞ」
最近、彼はキス魔で甘えん坊ということがわかった。
家で大学のレポートをしていると抱き着いて来たり、髪をいじったり。正直、手伝えや、とか思う。が、手伝われたらそれはそれで癪に障るので彼は手伝おうとはしない。彼はよく私の事を理解してくれているのだ。
「キス魔め……」
「口の悪い子にはお仕置きかな?」
近づいてくる顔を両手で挟む。
「バーカ。もう着くよ」
豪邸が見えてきた。
今の私の気分は、ラスボスを倒しに行く勇者の気分だ。決して、ワクワクしているわけではない。
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「おかえりなさいませ」
これが使用人……おばさん……ちょっぴり、がっかりした。
それを見透かしたのか、誠はお得意の鼻笑をかます。
「残念だったな」
「ベーだ」
「はしたない」
「イタッ」
デコをはじかれる。
「ふふふ、仲のよろしいことで。人の前で、こんなにも自然体の坊ちゃまは珍しいのでございますよ」
広い玄関を通り、広い部屋へ通される。玄関にはシャンデリアがあった。
ガチャ
「まぁ、原木爽果さんじゃないですか」
「誠のお世話役だった方かしら?」
歳を感じさせない、誠の両親が席に着く。
「夏宮誠さんと、結婚前提にお付き合いさせてもらっています。原木爽果と申します。不束者ですが、よろしくお願いします!!」
勢いよく立ち上がり、その勢いのまま頭を下げる。
「あらあら、座ってくださいな。まさか、付き合うとはね。もしかして、あの時にはもう付き合っていたのかしら?わたくしのことは綾ちゃんって呼んで頂戴ね。爽果ちゃん、と呼んでもいいかしら?」
「はい」
優雅に微笑む、綾……ちゃん、さん。
あの時とは、メイドを辞退した時のことだ。
「貴女なら大歓迎です。僕たちは本当に感謝しています。本当にありがとう」
「私たちは事が起こったとき、誠の気持ちも聞かずお金で事をもみ消し、誠を腫物のように扱ってしまった。誠が今のようになったのは貴女がいたからこそ。だから、どうか、誠をよろしくお願いします」
二人して深々と頭を下げる。
「そんなっ!頭をあげてください。ただ……夏宮家がやっている会社を私はお手伝いすることができません!!私は自分で会社を立ち上げたいと思っているんです」
「あぁ、そういうことは気にしなくていいんだよ。ウチの会社は世襲制じゃないしね。ただ、3代夏宮家の者が選ばれて社長をやっているだけだから。誠にも好きなようにしなさい、と言っているしね」
誠に目線を向ける。
「あぁ、好きなようにさせてもらう」
よかった……
「ちなみに、どんな会社を立ち上げようとしているんだい?」
「まだぼんやりとしているのですが…」
私のやりたいことを話す。
「なるほどね。でも、その経営方針だといつか、ガタが来てしまうよ。もう少し柔軟に考えた方がいい」
「もぅ、パピーったら仕事大好きなんだからぁ」
「ごめんよ、マミーつい気になってしまってね」
二人の世界を展開し始める。
「ごめん、誠。ちょっと引くってか……ついていけないや」
「俺もだ……」
「そうだ、もう籍を入れましょうよ。結婚式も早めにやりましょうよ!思い立ったが吉日よ」
急にこちらの世界に戻ってくる。
両手を合わせ、目をキラキラさせる、綾ちゃんさん。
「あ、いえ……結婚というか……結婚式はちょっと……」
お金持ちになって、借金を返すまでは待ってほしい……
「母さん。結婚するのは俺たちだし、籍を入れるのも、結婚式をあげるかどうかも俺たちが決める」
察したのか助船を流してくれる。
「でも、こんないい子、逃したら絶対に後悔するわ。爽果ちゃんを信用してないわけじゃないのよ?あと私、ずっと娘が欲しくて……」
シュンとする綾ちゃんさん。
「わ、わかりました。籍だけは入れます。でも、結婚式を挙げるタイミングとかは決めさせてもらいたいです。待たせるとは思いますが……ダメ、ですか?」
「何か事情があるのね?わかったわ」
「僕は何でもいいよ。自分たちのタイミングって大事だよね」
「ありがとうございます!!」
「父さん、母さん。ありがとう」
「今日は泊まっていかないかしら。たくさん、爽果ちゃんとお話したいわ」
キラキラビームを放つ綾ちゃんさん。
これに弱いんだよねー、私。
誠を見ると、誠が小さくうなずく。
「わかりました。ご厄介になります」
「もちろん、お部屋は誠と一緒がいいわよね。それから……」
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「はぁ~~。楽しかったけど、疲れたぁ」
ふかふかのベットに倒れこむ。
「お疲れ」
誠が優しく頭をなでてくれる。
「誠の親が快く受け入れてくれてよかったよ。明るい親御さんだね。一緒にいると明るくなる」
「そうだな。爽果を引き合わせてくれた親には感謝してる」
優しく微笑む誠。それを最後に私は眠りの海に沈んだ。
「う…ん……」
「寝たのか……生殺しだな。おやすみ」