知りたい
「タクシー、初めて乗ったよ」
初めて電車に乗った子供のようにはしゃぐ私。
「ちょっと、恥ずかしいから自重してくんないかな?」
「無理だよ。タクシーで移動とか憧れてたんだもん」
てっきり、羽田さんだと思ってたから残念だけど。タクシーに乗れたからいいや。羽田さん、悪く思わないでくれよ。
「はいっ、ここでーす。じゃあアッシーご苦労さま」
施設の前でタクシーを降りる。すると、夏宮さんも降りる。
「えっ?」
去ってゆくタクシー。
「知りたくなった。君をこんな風に育てた人を」
「そう、なんだ。なんか、親を紹介するみたいで恥ずかしいな……」
インターホンを鳴らす。
「原木爽果です。先生に会いたいって人がいて、連れてきちゃったんですけど……」
「いいわよー!どうぞ、上がって」
15年間過ごした、見慣れたドアを開ける。
「意外ときれいなんだな」
「毎日、チビ達が掃除してるからね。私もよく掃除したよ」
何もかもが懐かしい……応接間に案内する。
「あらー、イケメンじゃないの!爽果やるわね~コノコノォ」
肘でグイグイと突かれる。
「なにもやってませんからっ!恥ずかしいので座ってください」
「あー、君がババ臭い理由がわかった気がする」
わかんなくて結構ですぅううー。
「よっこいしょっと、園長の佐伯和美と申します。永遠の17歳でぇす!」
アハハ……相変わらずのテンション。よく見ると老けたなぁ。
「ぷっ……面白い人のもとで育ったんだな。夏宮誠といいます」
笑いをこらえようとしているのだろうが、声にでる。
「まこっちゃんって呼ばせていただくわ。私の事は和美ちゃんって呼んでもいいわよ」
今にもハートが飛び出しそうなウインクを付ける。
「挨拶はそこそこに、先生。無事に大学入りました!ブイッ」
ピースサインを突き出す。
「おめでとうっ!コレ、少しだけだけどお祝い」
私を抱きしめ、私の胸に封筒を押し付ける。
「いやいや、報告しに来ただけだから!いらない、逆にコレみんなで食べて」
折り菓子を差し出す。
「わかったわ。よく、頑張りました……ゆっくりしていってね」
しぶしぶと封筒をしまい、お菓子折りを受け取る。そして、私の頭を優しくなでた。
それが、いつも気張っている私の心を溶かす。
「うん!久しぶりにみんなに会ってこようかな~」
私は、こぼれた涙を見せないよう背を向けて歩き出した。