異世界生活(休日)
初めての休みが来た。
いつもは目覚ましにやってくるメイドは今日は遠慮してくれたのか来る気配はない。
ここ1週間毎日毎日修練の日々だった。
まだ基礎である為、まだ楽なのかもしれないが今まで部活もしたことのない俺にとっては苦痛でしかなかった。
そんな苦痛の日々も今日は一旦お休みである。
こちらに来てから初めて心が弾んでいると感じる。
本当ならこのまま二度寝を敢行したい所だが、残念ながらそういうわけにもいかない。
ベットから身体を起こし、寝巻きを脱ぎ、クローゼットの中から服を取り出す。
服を着替えると食堂に向かう。
食堂にはまばらにしか人はおらず、いつもと違いそれぞれで食事を楽しんでいるようだ。
俺もそれに倣い食事を黙々と済ませる。
食事を終えると一旦部屋に戻り呼び鈴を鳴らす。
この鈴もまたクローゼット同様に各部屋に置かれているもので、この鈴は魔法がかかっていて鳴らすと直ぐにメイドが来てくれる仕様になっている。
鈴を鳴らして1分程で扉からノックが聞こえて来た。
どうぞと声をかけると扉を開けメイドがやって来た。
「どういった御用件でしょうか?」
「本を読みたいんですけど、この城に図書室はあります?」
「はい、ございます。今からでもご案内出来ますがどう致しましょうか?」
「是非お願いします。」
そう、週に一度しかない休みを俺は図書室で過ごすことを選んだのだ。
こちらに来てから戦い方は教えてくれても、この世界のことは全くと言っていいほど教えてもらっていない。
今後教えてくれる機会があるのかもしれないが、その機会があると確実にいえない以上不安要素は無くしておくべきだろう。
週に一度しかない休みを勉強で潰したくはないが、これもこの城を脱出する為と割り切る。
ふと自分の真面目さに変な笑いが込み上げてきた。
これまで自分から勉強をする事なんてテスト前にしかせず、この目を手に入れてからはそれすら無くなった。
修練もそうだ。今まで体育でしか運動しなかったのに今では修練の復習すらする様になった。
ある意味人として健康的になったとも言えるが、原因があれのせいだと考えると………………………なんだか気分が悪くなってきた。
頭を振り彼女のことは努めて忘れる様にする。彼女のことを思うと胸が苦しくなる。恐怖などの悪い意味で。
そんな事を考えながら歩いていると図書室の前に着いた。
案内してくれたメイドはお辞儀をした後、去って行った。
中に入ると図書室は学校のとは比べられないほど大きく、また本も多く存在した。テレビでみた大学の図書館に少し似ている様に思えた。
ただ、大きさに比べ人が殆どいない。
こちらとしては好都合なのだが、それでも少し寂しさを感じてしまう。
周りにはクラスメイトの姿もない。
居るのは大人びた美人なメイドとそれはそれは美しい絶世の美女な王女様がいる。
・・・・・・・・・・・・・王女様?
悲鳴をあげなかった自分を褒めたかった。
子鹿の様に震える自分にエールを送りたかった。
アイリス王女だ。アイリス王女が、マリアというメイドを引き連れて図書室で、本を読んでいる。
だが、まだこちらには気づいていない様で、無心に本を読んでいる。
(今なら逃げれる‼︎)
今入って来たばかりの為、出口は5mも無い位置にある。
彼女を監視しながらゆっくりと物音を立てずに後ろ向きに歩く。
ジリジリ
残り4m
足を滑らせるように一歩また一歩後ろに進める。
ジリジリ
残り3m
目線は彼女からは離さずゆっくりと下がって行く。
ジリジリ
残り2m
彼女もそして、その隣にいるメイドもまだ気づいていない。
ジリジリ
残り1m
彼女が本を読み終えてしまう。たが、ここで慌ててはいけない。確実に逃げる為には時には慎重に
ジリジリ
残り0m
後ろ向きに歩いていた為、ドアノブの位置がよく分からないが、扉までやっと辿り着いた。
勝った!
そう思い振り返ってドアノブを掴む。その時、
ガチャ‼︎
目の前の扉が急に開いたのだ。勿論そんなもの避けれず真っ正面から食らう。
ガッという鈍い音が静かな図書室に多く響いた。
「お待たせしました。アイリス王女様‼︎
不肖このカンナただいま戻りました‼︎・・・あれ?今何かぶつかったような?
あぁ‼︎大丈夫ですか?もしかしてドアを開けた時に?」
目の前に現れた少女はとても大きな声でこちらを心配してくれている。
勘弁してくれ。
「大丈夫ですから、そんな大きな声を出さないでください。」
「でも、あの、その、えっと」
今彼女は言葉に詰まっている。
まだだ、まだ間に合う筈……
「カンナ何かあったの?あら、そちらの方は………」
鈴の音が聞こえた。人の声とは思えないとても綺麗な鈴の音が
「あぁ、思い出しました。1週間ぶりですね。目片祐也さん」
彼女は眩しい笑顔で、俺の名前を呼んだ。