王様、食われる
これも、ありふれた世界の話だが、オリオール王国にブナ王という王様がいた。
病に伏すことが多かったブナ王は常々、
「私が死んだら棺は墓に入れるのではなく、海に流して欲しい。私は生まれてこの方、海に行ったことはない。せめて死んでから大海を泳ぎたいのだ」
と言って、ゴホゴホしていた。
そんなブナ王が亡くなったのは、冬の足音が聞こえる11月のことだった。
葬儀は国を挙げて盛大に行われた。
3日後。
王子や大臣は、ブナ王の言いつけ通り亡骸をいれた棺を船に乗せて大海原へ旅立った。
その日は快晴で波も高くなく、海は穏やかだった。
「きっと王の想いが海に通じたのでしょう」
と王子が言うと、大臣はじめ従者は涙を流した。
大臣達は、港から2kmほど進んだ沖合でブナ王の棺を海に下ろした。
水に浮くよう設計された棺は、ゆらゆらと海面を漂い、やがて波の流れに乗って船から離れていく。
(ブナ王様、どうか良き旅を)
船に乗った誰もが心の中でブナ王を尊び、小さくなっていく棺に向かって膝をついて祈った。すると、次の瞬間。
ゆらり。
ブナ王の棺が漂う海面が揺れたかと思うと、突然ザバアアアアン!
なんと海の中から体長50mはあろうかという恐ろしいワニのようなモンスターが顔を出し、王様入りの棺をバクンと飲み込んだのだ。
ワニのようなモンスターは、そのままザパンと水しぶきを上げて海中に潜り姿を消した。
大海原を泳ぎたいというブナ王の夢は、あっけなく終わってしまった。
王子や大臣達は、あまりにショッキングな出来事に誰も口をきけず、気まずい空気が流れていた。
するとしばらくして、従者の一人がハッとしたように言った。
「きっと、アレですよ。王様は生まれる前、母上であるユリナ様のお腹にいました。そして亡くなった今、再びお腹の中へ還っていかれたのです、相手はモンスターですけど」
それを聞いた王子達は、
「あ……ああ、なるほど」
「確かに」
なんて一応相づちは打ったが、いまいちピンと来ず、気まずい空気はいつまでたっても消えなかった。