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王様、燃える

とある世界のボンズという国に、カルスラ王という王様がいた。



ボンズ王国は寒冷地帯に属していて、年がら年中雪が降っていた。

日中でも気温は一桁で、家々の屋根から氷柱が消えることはなかった。


特に高台にあるボンズ城は、その寒気をもろに受け、城の半分は白く雪に覆われていた。


城の内部も容赦なく北風が吹きすさび、特に大きく開けた謁見の間は、まるで四方に大型扇風機。

冷気を纏ったすきま風が、ビュンビュンビュン。


謁見の間を訪れた商人や旅人は、その寒さ故に十分ともたずに城を後にしていった。


そんな具合だから、一日の大半を謁見の間で過ごすカルスラ王は、たまったもんじゃなかった。


謁見のまでは王様は基本、椅子から動くことはない。

筋肉運動のないところに、容赦なくすきま風が差し込み、老体のカルスラ王の体は悲鳴を上げ、歯はガチガチガチ。


おまけに王様が座っている石造りの椅子は、すきま風でキンキンに冷えて、まるで氷の上に座っているようだった。


「このままじゃ、ワシはすきま風と椅子に殺されてしまうわい」


身の危険を感じた王様は、「【急募】謁見の間の寒さを何とかしてくれる者」という御触れを城下町に出した。


すると、すぐさま一人の男が謁見の間を訪ねてきた。


「私は、大工のユウタといいます。王様の寒さを解消します」

「おおユウタよ。死んでしまうとは情けない」

「死んでません」

「おおそうか。してユウタよ。どのようにして寒さを和らげようというのだ?」

「簡単なことです、こうするのですよ」


と言うとユウタは、王様が座っている石造りの豪華な椅子の後ろへ潜り込み、金槌とノミを使ってトントントン。


あっという間に座席の下に人一人が潜り込むくらいの空洞を拵えた。

しかし、だからといってユウタはその中に潜り込むことなく、空洞に薪をくべると、それに火打ち石を使って火をつけた。


椅子の裏は、さしずめ暖炉のようになり、薪がパチパチと音を立てた。

さらに、それにまじってパチパチという拍手が聞こえてきた。


拍手の主はカルスラ王だ。


「素晴らしいぞユウタよ。尻の辺りがものすごく暖かい! これで何時間でも椅子に座っていられる!」

「あざっす。けど王様、一度にくべる薪はせいぜい3本くらいにしてくださいよ」


そう言うと、ユウタは大臣から金を受け取って去って行った。


それからというもの王様は薪を焚いた通称「暖炉椅子」に座って、快適に謁見のまでの公務をこなしていった。



さて、そんなある日。

魔王討伐を計る勇者一行がボンズの国を訪れた。


国の最高峰であるオリオット山に登るための許可を求めてやってきたのだ。

その日は、いつにもまして寒かった。


王様は、勇者の前でブルブル震えてトイレに行くなんてことがないよう暖炉椅子の薪を多めに焚いた。

なんとユウタに「薪はせいぜい3本くらい」と言われていたのに10本以上も投入してゴウゴウ燃やしたのだ。


勇者一行が謁見の間に到着したときには、すでに王様の周りは熱気に包まれていた。


「おお勇者よ。よくきてくれた。其方達の冒険の話を聞かせてくれ。いくら時間をかけても構わないぞよ。ここはこんなに暖かい」

「ええ……では、ポータルの街で旅の仲間に出会ったところから……」


勇者は、これまでの旅のプロセスを事細かく話して聞かせた。


十数分後。


「それで? カースドラゴンに武器を奪われた勇者達はどうしたのじゃ?」

「ええ、そこで先ほどのキーワード"小手先"が出てくるわけですよ」


勇者の冒険譚は佳境を迎えていた。


「おお、そこで"小手先か"。白熱してきおったわい」


そう言って王様は額の汗をぬぐう。


そのとき、勇者の後ろに控えていた魔道士が異変に気づいた。


「何か焦げ臭くね?」


続いて武道家が、思わず立ち上がる。


「あ、あ、燃えてるううう!」


そう。

3本までと言われているのに欲張って10本も投入したもんだから、火が強すぎて王様のズボンに引火したのだ。


「あばばばばばばばば」


火はあっという間に、王様の足下から全身に燃え広がる。


「早く消火! 水、水!」


勇者や大臣は慌てて火を消そうとするが、井戸水なんかは凍りついていて使い物にならない。

結局、城外から雪をかき集めてきて燃えさかる王様にぶっかけて何とか鎮火したが、時すでに遅し。


王様はブーストした薪の火力により消し炭同然になってしまい、暖炉椅子の上に白骨が転々としていた。



こういうこともあるので、他人の忠告はキチンと守らなければならない。

それは、どの世界でも同じである。

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