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アードモア大魔王が大浴場でやらかした


ここでも、世界は混乱と混沌にあふれていた。

120年前にアードモア大魔王が降誕して以降、大地は荒廃し、モンスターは凶暴化、人類は衰退の一途を辿っていた。


そんな世界の果て。

死の大地にある魔王城。


牛弦の刻(午後11時)。


「では、魔王様。明日、ハリキリ村を襲います。村には、かつて神が封印したという伝説の剣が存在します。しかる者が、その封印を解いて、魔王軍に仇なす前に村ごと滅ぼしたいと思います」


玉座の間にある大きな瓶に水が張ってあり、水面に魔王軍四天王、龍鬼デストームの顔が写っている。

一見、どこにでもある平凡な甕だが、その正体は内側に高度な術式文字がビッシリと刻まれた通信装置だった。

その甕をのぞき込みながら水面の龍鬼に魔王は言った。


「龍鬼デストームよ。其方の働き、期待しておるぞ」

「御意。アードモア大魔王様に栄光あれ! 通信終わり」


龍鬼がそう言うと、その姿は水面から消え透明な水。

玉座の間は、水を打ったような静寂に包まれた。


「ふふふ、これで今日も世界征服に一歩近づいたな。明日は、もっと世界征服に近づけるといいな」


なんて、とっとこハム太郎のロコちゃんみたいなことを言いながら、アードモア魔王はニヤリ。

そして、さてさてさて今日はもう夜も遅い。明日に備えて寝るとしよう。


と、魔王なのに健康的な思考とともに、アードモア魔王は自らのベッドに赴いたが、2・3歩てくてく歩いてから、ふときびすを返して玉座の間を出た。


龍鬼との通信時、甕をのぞき込んでずっと腰を曲げていたことにより背中辺りがとてもだるくなっていたので風呂に入って疲れを取ろうと思ったのだ。


玉座の間にも風呂はあったのだが、ユニットバスのような狭さだったので完全に疲れはとれないだろうと判断した魔王は、モンスター達が共同で使う大浴場に行くことにした。


大浴場は、城の地下。

魔王は、超伝導エレベーターに乗ってあっという間に、大浴場までたどり着くと、フンフン鼻歌なんかを歌いながらのれんをくぐった。


入り口に赤い札がかかっていることを完全にスルーして……。



「ふはははは、最高だわい♪」


だだっぴろい湯船の中で、鋭い角が生えた頭の上に手ぬぐいを乗せたアードモア魔王は、太い腕を大きく伸ばした。


深夜の大浴場は、魔王一人の貸し切り状態だった。


ふはははは、貸し切り! 何と良きことかな!


大声で歌っても文句を言われない、まぁ、文句を言うような輩がいたらワシの極限魔法で葬り去ってやるがな!

そして、貸し切りだから、こうして泳いでも……!


なんて、魔王が体を水平にしてバシャバシャしようとした。そのとき、


「あ~、疲れた~!」

「マジ乙~。今日の冒険者達しつこすぎてマジ萎えたわ~!」


仕事帰りのOLみたいな声が聞こえたかと思うと、大浴場の入り口。

巨大な顔のような岩石扉がズズズと開いて、ゾロゾロとモンスター達がはいってきた。


大浴場なのでモンスターが入ってくるのは当たり前で、危ない危ない。

危うく泳ぐ姿を部下達に見られるところだった。


水面から顔を上げて平静を装うとした魔王だったが、湯気の中からあらわになったモンスター達の姿を見た瞬間、再びバシャッと湯の中に顔を突っ込んだ。


大浴場に入ってきたモンスター達。



クイーンゴブリン、ドラゴンアマゾネス、エロホーネット、プレイキャット、悦子。



名前からも分かるとおり、モンスターの性別は全員♀だった。


魔王城の大浴場は混浴ではない。

時間によって男湯、女湯に切り替わるのだ。


そして、魔王が大浴場に入った時、大浴場は紛れもなく女湯の時間だった。

入り口にかかっていた女湯のサインの赤札を完全に無視してしまったのだ。



ぶくぶくぶくぶく、しまったしまった!

ワシとしたことが、広い風呂に入ること一心で魔王にあるまじきイージーミス!

勇者に世界の半分どころか、大陸全部、おまけに海までプレゼント並の大誤算。


魔王が女湯の時間に入ってたなんて話が仲間内で広まったら士気にも関わって、結果的に世界征服に支障をきたしかねない。


逃げよう!


魔王は水中を移動して何とかバレないように湯船から上がろうとしたが、いかんせん筋肉隆々の巨体!

すぐにクイーンゴブリンはじめ、♀モンスター達に見つかってしまった。


「あ、先客がいたんだ」

「この時間に珍しいね。乙~! 今日は何人くらい人間ぶっ殺した~?」

「……」


あっさり見つかった魔王は、声で気づかれるので質問に答えずだんまり。


「ちょっと~、もしも~し! 何人くらいぶっ殺したかって聞いてるんですけど~!?」

「もうやめなよ。みんながアンタみたいに好戦的じゃないのよ」

「何よ、クイーンゴブリン。良い子ぶっちゃってさ!」

「そうそう殺すより、奴隷にする方がいいわよねぇ。もちろんエッチな♪」

「アンタはいちいち、エロいんだよエロホーネット!」

「にゃんにゃんにゃんにゃん!」

「プレイキャット! 静かにしなっ!」

「草」

「おだまり、悦子!」


なんてキャッキャッキャッキャ。

女の子はどこでも一緒。


キャッキャッキャッキャかけ湯をして、次々と湯船にざぶん。


「うひーっ、極楽、極楽!」


なんて口々に言う♀モン達とは対照的に、ちっとも極楽ではない魔王は、風呂から出ることができずに湯船の奥にある口からダバダバ湯を吐き出すドラゴン彫刻の前で地蔵。


にっちもさっちもいかず出来ることと言えば、♀モンスターたちの会話を聞くことくらい。


「あっ、そういえば聞いた? ハリキリ村のこと」

「ああ、明日、龍鬼が襲うんでしょ?」


うんうん。


「そうそう。龍鬼は小さい村だから簡単に滅ぼせると思ってるらしいんだけど、実は数日前に勇者が来て抜いてるんだよね」

「あ~、まぁ勇者だって抜きたいときはあるでしょ、シコッと」

「バカッ! そっちじゃないわよ! 伝説の剣よ。村に伝わる伝説の剣を勇者が抜いたのよ。これ、確かな筋の情報な」


ええええええええ!?


「えええええええ!? じゃあ、龍鬼やばいじゃん!?」

「にゃー! にゃー!」

「そー、そー、きっと余裕をかましながら村に突入して勇者に返り討ちよ」

「うはwww」

「で、そのことを龍鬼には伝えたの?」

「伝えるわけないじゃん。アイツ何かムカつくし!」

「あっはっは、だよねぇ!」


だよねぇ、じゃないわ!

伝説の剣を装備した勇者がハリキリ村に!?

攻め込む龍鬼を余裕綽々返り討ち!?

脳天さくっと真っ二つ!?


あああああああ、なんてこった!

四天王の龍鬼がやられたら我が魔王軍の戦力は大幅にダウンだ!

それなのに、コイツらときたらそのことを龍鬼に伝えてない!? 

ムカつくだと!?

何て自分勝手な奴らだ!

己が魔王軍の一員であるという意識が低すぎる!


本来なら、然るべき拷問に処して態度を改めさせるところだが、今は一刻でも早く玉座の間に戻って龍鬼にピロロロロロ通信して伝えなければ。

ハリキリ村に勇者がいること、そして伝説の剣を装備していること!

しかし、ここで湯から上がってはコイツらに我の存在がバレてしまう。

頼むからさっさと湯から上がってくれ! 拷問とかしないから!


魔王は心の中で叫んだが、♀モンたちの会話はその後、次の休みの日にどこにいくに始まり、勇者が魔王城までたどり着けるかの賭け、魔王城の売店のスイーツの値段が高すぎる件、この中で誰が一番モテるかなどなど止まるところを知らない。


壁に備え付けられたドラゴン像は相変わらず熱湯を吐き続けている。

風呂に入ってからどのくらい経っただろう。


もともと赤い魔王の顔は、今やお湯の熱でさらに真っ赤っか。

その上、チラチラと横目に♀モンたちの白い肌や"うなじ"や豊満な胸が見えたりして、鼻血までタラりんちょ。


次第に魔王の頭はボーッとしていき、♀モンたちの会話も遠く。

そして、プレイキャットのニャンニャンニャンという山びこのような鳴き声を最後に、魔王の意識は途切れた。


数分後。


「ぎゃあああああああ!」

「なにこいつ!? え? ま、魔王様!?」


湯船にぷかぷか浮いているところを♀モン達に発見された魔王は、すぐさま湯船から引き上げられ何とか意識を回復。

しかし、その際にイチモツを見た♀モン達から怒号とともに手厚い"介抱"を受け、全身打撲で一週間寝たきり。


龍鬼への通信もできず、龍鬼は勇者に倒された。

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