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女戦士の手作り弁当


これも、とある世界。


魔王を倒すために旅をする勇者一行がいた。

メンバーは、勇者、女戦士、アーチャー、魔道士の4人。


勇者とアーチャー、魔道士の三人は、「世界に光を! 民に希望を! 何としても魔王を倒す」みたいな感じの意識が高い連中だった。


しかし、そんな意識高い勇者達に対し女戦士のラミカは、「魔王とか別にどーでもいいんだよねー」みたいなスタンスで旅を続けていた。


なぜなら彼女が勇者の旅の仲間に加わったのは、魔王を倒すためでも、世界に光をもたらすためでもなく、旅の仲間をスカウトするために酒場に出入りしていた勇者に一目惚れしたからだった。


勇者の仲間になったラミカは、モンスターとの戦闘なんか二の次で、何とか勇者の気を引こうとパンチラや腕に胸を押しつけたりなど色仕掛けをした。


しかし、魔王を倒すために全神経を集中させている勇者は全くなびかなかった。


そこで、ラミカは色仕掛けではなく、胃袋を掴むことで勇者を堕とそうとした。

名付けて「手作り弁当作戦」。



ラミカは、日が昇る前に勇者一行が泊まっていた宿屋の台所を借り、せっせと弁当を作成。

その弁当を風呂敷に大切に包んで、冒険に持参したのだ。


その日、宿屋を出た勇者達は、次の街を目指して街道を歩いていた。


「くそ~。結構モンスターが多いなぁ!」


そう言いながら、勇者がモグラタイプのモンスターを叩き切った瞬間。


「ぐ~」という間抜けな音が、勇者の腹から漏れた。


するとラミカは、待ってましたと言わんばかりに、風呂敷に包まれた弁当箱を差し出す。


「勇者♪ 実は私……お弁当を作ってきました~☆」


もちろん、その際に胸をキュッと寄せて谷間、上目遣いでアヒル口のあざとさを忘れてはいない。


「べべべべべ、弁当!?」


勇者の顔が、パッと明るくなった。


(うふふふふ、やはり男はみんな料理を作ってくれる女に弱いのね)


「さてさて、勇者さま♪ ラミカの愛情弁当を召し上がれ♡」


風呂敷をクルクル解きながらラミカは言った。

しかし、勇者はそれを制し、


「ありがとう。けど、ここは相変わらずモンスターがいっぱいだから、向こうの丘で食べようっ!」


そう言って、少し遠くに見える小高い丘を指さした。


「いいですな! 丘の上でピクニック」

「ラミカの手作り弁当を食べれるなんて、勇者の仲間になってよかった」


周りでアーチャーと魔道士が、やんやん盛り上がる。

そんな二人をラミカは、キッとにらみつけた。


(勇者以外に食わせる弁当なんてねぇんだよ!)


心の中で呟いてから、ラミカは勇者の後を追って歩き始めた。



しかし街道には意外とモンスターが多く、勇者達は目的の丘にたどり着けないまま時間が過ぎていった。


太陽は真上に昇って正午。


勇者だけでなく、ラミカのお腹も鳴った。

すると、ふと食欲をそそる良い匂いが、ラミカの鼻孔をくすぐった。

手には、弁当が入った風呂敷。


「ぐ~」とラミカの腹が、いっそう大きく鳴る。


……。

……。


「味見くらいは、いいわよね」


ラミカは小さく呟くと、モンスターと戦っている勇者達をよそに、木の陰にかくれて風呂敷を解き、弁当箱をパカッと開けた。


小さく湯気が上がって、タケノコご飯、アスパラベーコン、タコさんウインナー、唐揚げ、卵焼きが姿を現す。


ラミカは、勇者達の目を盗んでタコさんウインナーをパクッ。

パリッと焼けたウインナーの薄皮が弾けて、油が口の中にひろがった。


「おいひ~! 私、天才~♪ 他のおかずも試してみよっ!」


完全に食欲エンジンが全開になったラミカは、もう止まらない。


少し歩いては、アスパラベーコンをパクッ。

モンスターと戦うふりをしては、タケノコご飯をモグモグ。


そして丘に到着した頃には、勇者のために作った弁当は、空っぽになってしまった。


(どないしよ、どないしよ)


空の弁当箱を手にあたふたするラミカ。


「あ~、腹減った~! 弁当♪ 弁当♪」


当の勇者は、ラミカが弁当を食べたとは知らずウキウキしている。


「こ、こうなったら……」


意を決したか腹を括ったか、草むらへ入ると、空の弁当箱に犬の糞がついてそうな雑草、不気味な色合いのキノコ、ハエがたかったモンスターの死肉をぎゅうぎゅうに詰め込んだ。


そして、


「はい、勇者。お弁当♪」


ラミカは、わざとらしい作り声をして弁当箱を開けた。

中身は、先ほど詰め込んだ雑草、キノコ、腐った肉、その他謎の物体が、ぐちゃぐちゃに絡み合っていた。


「……」


それを見た勇者の顔が、目に見えて曇った。

が、もはや恋は盲目。


「あーん!」


勇者の胃袋を掴むこと、もとい勇者の胃袋に何かを詰め込むこと以外に考えてないラミカは、弁当箱からモザイク必至の紫色の肉を箸でつまむと、勇者の口に無理矢理押し込んだ。


「んぐっ」


勇者も、そんな腐った肉はすぐに吐き出せばいいものを、意識が高いというか真面目というか、普通にモグモグ嚙んでゴクンと飲み込んだ。


その様子にすっかり気分がよくなったラミカは、次々に野糞のついた雑草を「あーん」、謎キノコを「あーん」して、勇者は涙目でそれらを頬張った。


そんな地獄絵図のような光景を仲間のアーチャーと魔道士は、ガクガク震えながら傍観していた。



数分後。


突然、何の前触れもなく猛毒、麻痺、混乱、暗闇、感電、凍結、下痢、嘔吐の状態異常を発症した勇者は、意味不明な言葉を発しながら錯乱して死んだ。


不幸にも勇者の旅の終着点になってしまったその丘は、「ラミカの丘」と呼ばれ、そこで弁当を食べると必ずお腹を壊すと言われている。

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