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ドラゴンが見たい王女様


かつて。


ある世界にロイグ王国という国があった。

四方を海に囲まれた大陸の中心にあり、ほかの国々との交流もなく、ひっそりと歴史を重ねていた。


そのロイグ王国にリーナという王女がいた。

国王の一人娘だったので、それはもう大事にされていた。


ある日。

そんなリーナ王女が、夕食時にポツリと言った。


「私……ドラゴンというモンスターが見てみたいわ」


それを聞いた国王は、飲んでいた赤ワインをブッと空中散布。


ドラゴン。

その力は強大で、飛べば竜巻を起こし、火を噴けば街一つを消し飛ばすと言われ、彼らと出会って生きて帰れたものはいないと言い伝えられていた。


そんなドラゴンだから、もちろん国王だって見たことは一度もない。


しかし、そこは可愛い可愛いリーナ。

ドラゴンが見たいと言っているなら、なんとしてもドラゴンを見せてやりたい。



翌日。

国王は一週間後のタンゴの祝日、ロイグ王国にドラゴンを連れてきたものに賞金を出すと発表。


一週間後。

四方を海に囲まれたロイグ王国の港に、何百という数の船が来航した。

もちろん、世界に十頭もいないと言われているドラゴンだから、船からゾロゾロ出てくる全員がドラゴン持ちというわけではない。

祭りを楽しみに来た人、王女を一目見ようと鼻息を荒くしている人など実に様々だった。


しかし中には、なんとかして賞金をせしめてやろうという眼光が鋭く、どう見てもカタギじゃない連中もたくさんいた。



人々が城に集まり、大臣によって謁見の順番の整理券が配られる中、国王と王女のリーナは謁見の間にいた。


「いよいよ、ドラゴンが見れるのね。私、楽しみだわ。ドラゴンってどれくらいの大きさなのかしら。七面鳥くらい? やっぱり、火を吐いたりするのかなぁ!?」


なんてワクワクするリーナ王女をよそに国王は、もし誰も本物のドラゴンを連れてこなかったらどうしようと疑心暗鬼、思わず精神安定剤を飲んだ。


「では、整理券番号一番の方どうぞ」


大臣の声とともに、最初に国王とリーナの前に進み出たのは、でっぷりと太った商人風の男だった。


「国王様、王女様、私が捕らえたドラゴンをご覧ください」


そう言って、男はカモンと手招きをした。

すると入り口の方からズルズルズル。

一匹のドラゴンが「がおーがおー」と吠えながら地べたを這って入ってきた。


それは、まるで麻袋をかぶった人間のようなドラゴンだった。

というか、麻袋をかぶった人間だった。


茶色い麻袋からは、ぴょこっと二つの足がウサギの耳のように出ていた。

袋には絵の具で、目や鱗が描かれていたが左右がずれていたり、霞んでいたりで、仕事の稚拙さを伺わせた。


そして、中の人も恥ずかしいのか、


「がおーがおー」


と、全然声を張らず、しかも動きも同じ場所をくねくねするばかりのワンパターンで、獰猛さの欠片も感じられなかった。


「首を、はねなさい!」


王女は、首の前で手を横に切った。


「どちらの首をはねましょう」

「どっちもよ」


証人風の男と袋に入った人物を指さす大臣に、王女はバッサリ言い捨てた。

数秒後、ギロチンの音が謁見の間に響いた。


「では、次。整理券番号二番の方どうぞ」


次にやってきたのは、長い髪にポンチョを着たガンマン風の男だった。


「私のドラゴンをご覧くださいいいいい」


ガンマン風の男はポポポポポと言うと突然、羽織っていたポンチョをバッと脱いだ。

その下には下着もなにもなく、ポッコリしたお腹と小さなアレがあった。


そんなミミズのようなアソコをぴょこぴょこさせながら、ガンマン風の男は言った。


「これが、私のドラゴン。ネイキッドサマラスです! さぁさぁ、王女様優しくなでてry」

「首をはねなさい」


王女は食い気味に、そしてゴミを見る目で、スッと横に手を切った。

なぜか隣の国王の方が、モジモジ恥ずかしそうだった。


「どちらの首を切りry」

「両方よ」


大きいギロチンと小さいギロチンの音が、謁見の間に響いた。


その後も、昇り竜の入れ墨を入れたヤクザ、ドラゴンのイラストを持参した漫画家など、多種多様の人物が謁見の間を訪れたが、本物のドラゴンを連れてきた者は一人もおらず、そのたびにギロチンの音が城にこだました。



「ええい、賞金目当ての卑しい連中ばかりではないか! このままでは……」


リーナ王女の堪忍袋の緒が切れることを懸念した国王は、恐る恐る隣を見た。


すると、リーナ王女が立ち上がり自らのドレスの裾をビリビリ破ったかと思うと、どこから持ってきたのだろうか、ロングソードを腰に装備し、薬草やパンの入ったバックを肩にかけていた。


「リーナ? 何をしているのだ?」

「決まってるじゃない。ドラゴンに会いに行くのよ。誰も本物のドラゴンを連れてこないなら、私から会いに行くしかないわ。じゃあ、そういうことで、しばらく私は旅に出ます」


リーナ王女は、国王にペコリと頭を下げると、そそくさと城を出て行ってしまった。


しばらくして事の重要性、今まで大切に育ててきた箱入り娘が城を出たことに気づいた国王は、半狂乱で従者に姫の後を追わせたが、すでに姫は船に乗って国を出てしまっていた。


ショックのあまり国王は、その後しばらく寝込むことになり、ベッドの上でうわごとのように「リーナ……リーナ……」と繰り返し、まともな日常会話ができるまで数ヶ月を要した。


しかし、そんな国王とは対照的に、旅に出たリーナ王女は清々していた。


一人娘故に幼い頃より、純粋培養で大切に育てられてきた姫は、滅多に城の外へ出ることは出来ず友達も出来なかった。

成長するにつれ、その過保護っぷりに嫌気がさしたリーナ王女は、いつしか自由に外の世界を旅したいと思うようになっていた。


そこで姫は、ドラゴンが見たいと無理難題を言って、誰も連れてこなかったことをいいことに、ドラゴンに会いに行くという名目で城を出ることに成功。


そう。

彼女は、ただ国王の溺愛から解放されたかっただけで、別段、本気でドラゴンを見たいとは思っていなかったのである。



そんな茶番のために、ギロチンの犠牲になった男達のことを思うと、何とも言えない気持ちになる。

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