勇者が雷の口真似をしたら
かつて、世界を掌握しようとたくらむ魔王に、勇敢にも立ち向かおうとする勇者がいた。
名前をパブロ大貴といい、仲間の少女二人とともに打倒魔王の旅を続けていた。
少女たちの名前は、オレアとジーマ。
オレアが剣士で、ジーマが魔法使いだった。
勇者パブロも、そこそこに剣術や魔法を使えたが、オレアとジーマは群を抜いて達人。
あらゆる生物に対する特効を備えた剣撃とチート魔法で屍の山を築いていた。しかし、そんなめちゃめちゃ強い最強の剣士と魔法使いにも弱点があった。
話は勇者パブロたちが、旅を始めた頃にさかのぼる。
ある夜。
パブロが宿で休んでいると雨が降り出し、突然ドーンと雷が鳴った。
すると、隣のオレアとジーマの部屋から、
「きゃー!」
なんともかわいらしい声。
びっくりして隣に行ってみると、オレアとジーマが身を寄せ合ってガタガタ震えている。
「ど、どうしたの?」
「雷が……きょわいの」
狼狽する勇者パブロに、ジーマが涙目でいった。
きゃわたん!
普段は冷静にモンスターを蹂躙するオレアとジーマが、なんと雷が怖いなんて!
あまりのギャップ萌えにパブロは気絶しそうになったが、オレアとジーマはもっと意識がぶっ飛ぶようなことを口走った。
「ねぇ、パブロ……雷こわこわだから、今日は一緒に寝ていい?」
「べべべ、別に一緒に寝て言い訳じゃないのよ!」
口の前に握りこぶし二つとべべべツンデレでオレアとジーマは、パブロに詰め寄った。
花のようないい匂いがして、パブロの頭は沸騰しそうになった。
そこから先は、あああああああああああ!
桃源郷に両手両足どっぷし。
部屋に戻って狭いベッドに三人、川の字で身を寄せ合い横になったが、結局オレアのおっぱいやらジーマのうなじやらが気になってパブロは一睡もできなかった。
それからというもの、勇者パブロは天候が崩れるのが楽しみで仕方なくなった。
雷が鳴れば、オレアたちと一緒にベッドインできる。
そこで、わざと雨が降りそうな地方を旅したり、毎日のようにてるてる坊主を窓際に縛り付け、雨乞いのダンスを踊ったりした。
もはや魔王を倒すことより、仲間の女の子と寝ることが目的になっていた……!
しかし、そんな勇者の期待を裏切るように雨が降らない日が続いた。
来る日も来る日も、空に太陽どかっ晴れ。
当然雷も鳴らないので、オレアとジーマと一緒に寝ることもできない。
勇者パブロは、毎晩てるてる坊主を飾った窓から見える星空に枕を濡らしていた。
だが、いくら枕を濡らしても雷は鳴らない。
パブロは、とうとう自分で雷を落とす決心をした。
どうやって? 自らの声で!
そう、自分自身の声で雷の口まねをすれば、オレアとジーマが怖がってくれると考えたのだ。
しかし、リアルな雷音を出すのは並大抵のことではない。
次の日から、迫真のゴロゴロ音のためのトレーニングが始まった。
まず勇者パブロは、度数の高い酒で喉を焼いてダミ声が出るようにした。
次にレベル上げをしてくると嘘をついて森にこもり、青巻紙赤巻紙黄巻紙。
声優の養成所並みに発声と滑舌のボイストレーニング。
滝などを観察して音の反響、広がりといった物理的要因を徹底的にリサーチした。
そして苦節十日。
とうとう雷の極意をマスターした勇者パブロは、意気揚々と山を降りた。
その夜、オレアとジーマが食事を終えて部屋へ入るのを確認してから、パブロは意を決して自らの部屋へ戻った。
さらに、そのまま抜足差足。
こそこそベランダへと出ると、フーッと小さく息をついた。そして、
「ゴオオロゴオオロロロロドロロロドロオオガアアオオオ!!」
腹の底から声を出して、特大の雷ヴォイスを奏でた。
それは、まさに雷そのものだった。
地鳴りのような重低音が勇者パブロの部屋に、いや泊まっている宿に、いやいや滞在している町全体に轟いた。
家の窓が次々に割れ、家々が波のようにぐわんぐわんと揺れた。
「キャーッ! なになになに今のマジでやばいやばいやばい!」
「ちょ、ちょ、ほんとまぢむり! ちょ、隣いこっ! パブロの部屋いこっ!」
勇者パブロの計画通り、すぐに隣の部屋からオレアたちの阿鼻叫喚が聞こえてきた。
それを聞いた勇者パブロは、ベランダでガッツポーズ!
やったぜ! これで毎日、オレアとジーマと同じベッドで寝れる! いやいや、寝かせねーよ!
なんて一人でウッキウッキ。
さっそく、オレアたちを迎え入れようとベランダから部屋へ戻ろうとした。そのとき、
ゴロゴロ……!
突然、どこからともなく雷が鳴った。
あれ? 俺、何も声発してないんだけど?
首を傾げる勇者パブロ。
見ると上空に、みるみる厚い雲がかかり、次にその雲の中心がピカッと光ったかと思うと、大きなドラゴンのような特大の雷がドーンとパブロの目の前に落ちた。
パブロは、その衝撃をもろに受け、ベランダから部屋の中へふっとばされ壁に激突、失神。
泣きながら部屋に入ったオレアとジーマは、部屋の隅でチリチリパーマになって伸びている勇者パブロを見て怖かったのを忘れて大声で笑ったのだった。