第十一話 後期
夏休みが終わり、学園は後期に入った。そして、同時にアイが退院した。
ツバサは病院に行っていた。
「退院おめでとう」
「ありがとうございます。いつもお見舞いに来てくれたこと感謝しています」
「いや、怪我をさせてしまったのは俺のせいでもあるし」
「わたしもご迷惑をおかけして……」
「これからは研究機関にいくんだっけ?」
「はい、能力コアの研究をしようかなと」
「応援してる」
「ありがとうございます。あの……」
「ん?」
「また会ってくれますか……?」
「あぁ。いつでも」
アイは顔を真っ赤にしていた。
「ではまた」
「じゃあな」
学園に着くと、ルカと俊が待っていた。
「ツバサどこ行ってたの?」
「いや、別に……」
「あやしい……」
ルカはじっとツバサの顔を見てくる。
「アイさんの所じゃないの?」
空気を読まない俊の発言で、ツバサはドキっとした。
「あっ、あぁ」
「ふーん。だいぶ仲良くなっちゃったみたいで」
ルカはすこし気に食わない様子だ。
「仲良いとかそんなんじゃないけど、責任あるし」
「ふーん。責任ねぇ」
「なんだよ……」
「べつにーーー、ただ会いたいだけなんじゃないのー」
「そんなわけないだろ」
ツバサは少し焦っていた。
「ま、いいけど」
ルカはそう言って自分の席に戻った。
「ルカさん怒ってますね」
「なんで」
「さぁ」
俊は笑っていた。
「じゃ、僕も戻ろうかな」
◆◆◆
後期が始まって数週間が経った頃、ツバサの携帯にアイから連絡が来ていた。それは、お話がしたいという内容だった。しかも二人きりで。
ツバサは学校が終わったら、ファミレスで会うことに決めた。
「ツバサくん、またアイさんに会いに行くの?」
「あぁ、連絡が来たんだ」
「へーえ、二人きりでデートかぁ」
「デートと言うか……」
「ま、どうでもいいけどね」
「何で機嫌悪くなるんだよ」
ルカは知らんふりしている。
「まぁまぁ二人とも」
こういう時にいつも間にはいいて止めるのは俊の役割だ。
「じゃ、俺は約束があるから、先行く」
「わかった。じゃあねツバサくん」
「……」
ツバサは待ち合わせ場所のファミレスに向かった。
ファミレスにはすでにアイの姿があった。
「待たせたね」
「いえ、今来たばかりです。こんにちは」
「こんにちは」
「何か頼みますか?」
「じゃあ、コーヒーで」
「わかりました」
「で、何か用があったんじゃないのか?」
「用がなかったら誘ってはいけないんですか?」
「そういうわけじゃ……」
「冗談ですよ。まぁお礼したいなって思っただけですよ。ツバサさんにはお世話になりましたし、しっかりとお礼を言いたいなと」
「そんなこと気にしなくても……」
アイは少し恥ずかしそうだった。
「それと、一つお願いがありまして……」
「なに?」
「わたし今、能力コアの研究をしているのですが、このたびイギリスとの共同研究をすることになりまして……」
「へー。すごいな」
「わたしがすごいのではないんですけど、機関の上層部の方とイギリスに行かなければならないのですが……」
「イギリスに?」
「はい、研究内容の確認とあちらで研究施設を作りに」
「なるほど」
「そこで、ツバサさんも一緒に来てくれませんか?」
「えっ、なんで俺が?」
「やはり外部から情報を狙ってくる人もいますし……」
「そういうのはちゃんとした護衛がいるんじゃないのか?」
「そうですけど…… わたしが決めても問題はないんです」
「なんで俺が?」
「ツバサさんはお強いですし、それにわたしが知っている方の方がいいかなと思いまして」
「なるほど…… でも俺は学校があるし」
「学校のことは問題ありませんよ。わたしから機関を通して伝えます」
「わかった」
「ありがとうございます」
アイは嬉しそうだ。
ツバサは護衛ということの他にも、これは良い機会だと思った。日本だけでなく外の世界を見るチャンスだと。それに、アイへの償いでもあった。
「ではまた改めてご報告しますね」
「よろしく」
外はすっかり日も暮れ、寮の門限も近づいていた。
◆◆◆
それから数日後、アイから連絡が来た。それはイギリスに行く日の確認だった。
ツバサはルカたちには方向しといたほうがいいと思った。
「ルカ、俊。話があるんだ」
「どうしたの?」
ルカが不思議そうな顔をしている。
「少しの間、学校を休むことになった」
「どうしたの?」
俊が聞く。
「イギリスに行くことになった」
「どういうこと? 留学?」
「いや、付き添いで」
「誰の?」
ルカが質問する。
「アイの話しただろ。アイは研究機関で能力コアについて研究してるらしい。それで、イギリスに行くことになって、それだけ……」
「それだけって」
ルカは強い口調で言い、教室から出ていった。
「なんだよ……」
「ツバサくん。もうちょっと考えてあげなきゃ」
「何を?」
「何をって、うーん…… 僕たちはずっと一緒だったから、ツバサくんがいなくなるのは寂しいんじゃないかな」
「ルカがそんなこと思うか?」
「とにかく! ルカさんと話した方がいいんじゃないかな」
「わかった」
「うん! ルカさんのこと頼んだよ」
「ルカ……」
「何?」
「悪かった」
「何が?」
「いや、その…… 相談もせずに……」
「ふーん、悪いと思ってるんだ……」
「う、うん…… だから怒るなよ……」
「別に怒ってるわけじゃないわよ…… ただ……」
「ただ?」
「なんでもない! 少し心配なだけよ…… 気を付けてね」
「あ、ありがと」
ツバサは予想外の言葉にびっくりした。
「うん。わたしにどうこう言われたくないでしょ。ツバサが決めたことだしね。しっかりアイちゃんを守りなさい!」
「ありがとう」
◆◆◆
理事長との話も終わり、イギリスに行く準備ができた。出発は三週間後、滞在期間は約一か月である。
ツバサはアイの研究機関に呼ばれた。
「君がツバサくんだね」
「はい」
「悪いねぇ。わざわざ来てもらって」
そう挨拶するのは研究機関の所長だった。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「アイさんから聞いてるよ。君はとても優秀なんだって期待してるよ」
「ありがとうございます」
「アイさんはまだ入ったばかりなんだけど、とても優秀でね、あの子が推薦した人なら信用ができるし」
アイはやっぱりすごいんだなと思った。
「わからないことがあったら聞いてね。じゃ、わたしはまだ仕事があるから」
「はい」
ツバサはアイの研究室を見学させてもらえることになった。
「ツバサさん!」
アイの声だった。
「やぁ、忙しそうだね」
「まぁそれなりのです。これがわたしたちの研究です」
その部屋にはあらゆる機械があり、ツバサには見たことないものばかりだった。
「よくわかんないけど、すごいんだろうな」
「そんなことないですよ」
それからツバサは一時間ほど話をして研究機関を後にした。
寮に着くとツバサは荷物の準備を始めた。
「なにが必要なのかわからないな」
そう呟きながら、少しずつ準備を進めた。




