第十話 真相
翌日から学園は夏休みに入っていた。
ツバサはまた、病院に行っていた。
病室には伊吹アイの姿があるが、依然として眠ったままだ。
「本当のことを教えてくれよ……」
そう呟く。
ツバサはほぼ毎日のように通っていた。病院内では、ツバサは伊吹アイの兄ではないかという噂が立つほどだ。
結局、この日も何もなかった。しかし、それから二週間たったとき、ツバサにある連絡が届いた。それは、伊吹アイの意識が戻ったという連絡だった。
ツバサは部屋から飛び出し、病院へ向かった。
伊吹アイの病室の前に着いたとき、ツバサは少し躊躇った。
「コンコン……」
「どうぞ……」
ツバサは中に入る。
「あなたは?」
「東條ツバサ……」
「そうですか。あなたがいつもここに来てくれてたんですね」
「知ってたのか?」
「いえ、なんとなくですよ。それにあんなにしつこくされたら嫌でも覚えますよ」
アイはツバサを見て微笑んだ。
「あぁ。悪かった」
「謝らなくても…… それにわたしに用があってここに来たんじゃないんですか?」
「聞きたいことがあるんだ」
「どうぞ」
「事件のことについて…… 君は覚えているのか?」
「……えぇ。全てではありませんけど」
アイの言うことは信用できるわけではない。しかし、聞く価値はあるとツバサは思った。
「聞かせてくれないか」
「わかりました」
そう言って、アイは話し始めた。
「わたしはある学園に通っていた生徒でした。その学園はほとんどが非能力者で、能力者はわずかしかいません。わたしは入学当初から戦士になることを目指してました。でもわたしには能力がない。それでもわたしは諦めませんでした。小さい頃から習っていた剣道を武器に、わたしは剣術で戦士の道を切り開こうと。幸運にも、わたしには剣の才能があったみたいで、初めは順調で、学内なら剣でわたしに勝てる人はほとんどいなかったと思います。しかし…… わたしにも勝てない存在がいました。わかりますかツバサさん?」
「能力者……」
「そうです。能力者は能力が使えるだけでわたしたち非能力者を見下すんです。ただ運よく能力が使えるだけで。わたしたちがどれだけ努力しても決して届かない……」
確かに能力者は非能力者よりも優遇されている。戦場でも、非能力者は消耗品にしか思われてない。ツバサはそう思った。
「ツバサさん、あなたは非能力者の気持ちがわかりますか? 能力というこの差だけでわたしたちは差別されるんです。でも、それは仕方がないことだとも思っています」
ツバサは何も言えなかった。
ツバサ自身が非能力者を見下してきたわけではないが社会的風潮はそのとおりである。能力者が高い地位を独占している。この現実は間違えではない。
「ツバサさん。そんなわたしたちが能力者に勝てる機会が与えられたらどうします? ほとんどの非能力者はどんなことを思うのでしょうか。その結果がこれだと思います」
「どういうことだ?」
「ある日、わたしは一人の男に声を掛けられました。君は能力者ではないなと。そしてある廃ビルに連れていかれたのです」
「あの廃ビルか」
「そうです。そこにはたくさんの非能力者が集められていました。そして、ある計画が提案されました。」
「どんな計画?」
「それは、能力者を捕まえるというものです。」
「なんのために?」
「わかりません。しかし、非能力者にとっては復讐するチャンスと考える人も少なくないでしょう」
「そういうことか」
ツバサはなんとなく理解した。
つまり、ある男が非能力者を集めて能力者に復習しようと計画したということだ。
「わたしは見返してやりたいと思いました。けれど別に傷つけるつもりはなかった。そしてターゲットにする能力者を調べたりしました」
「でも君は実際に人を殺した……」
「わかってます。でもあれはわたしの意志ではない!」
アイは必死になって言った。
「どんどんわたしは計画に従ううちに、自分がわからなくなっていったんです。本当です!」
ツバサはアイが嘘をついているようには見えない。しかしどこかやるせない気持ちだった。
「信じてもらえるとは思ってませんよ」
「いや、きっと本当だと思う」
「なんでそう思うのですか?」
「理由なんてないよ。でも嘘ついてるようには見えないから……」
「そうですか…… わたしが覚えているのはこれだけです」
「ありがとう。話せてよかった」
「いえ」
「これからどうするんだ?」
「とりあえず今はゆっくり休みます。学校ももう行けませんし……」
この事件後、アイは罪に問われることはなかったが、学校は退学処分となった。
「じゃ、俺は帰るよ」
「はい、わかりました」
ツバサは病院を後にした。
◆◆◆
それから一週間後のことだった。
ツバサは理事長から連絡を受けていた。その内容は伊吹アイの検査結果であった。
理事長から言い渡されたのは、能力の痕跡だった。伊吹アイとそのほかの加害者に脳神経を操作した痕跡が見られたのだ。それもかなり高度な操作であった。つまり、今回の事件は非能力者を誰かが操ったということだ。
ツバサはそのことを病院にいるアイに伝えた。
「君の言っていたことは本当だった」
「そうですか……」
「誰かが意図的に非能力者を操っていたようだ」
「つくづくわたしたちは利用されますね」
アイの瞳の奥は悲しみに包まれているようだった。
「でも、恵さんの命を奪ってしまったのも事実です。本当に申し訳ありません」
「君がそう思ってくれてるのなら……」
「ツバサさん。わたしのことを気にかけてくれてありがとうございました。でもわたしはもう大丈夫です。」
「あぁ。俺こそ悪かった。嗅ぎまわったりして」
「いえ」
「まだ入院なのか」
「はい。まだ調べることがあるみたいで……」
「そうか」
「それに、わたしにはやることが見つかったので……」
「やること?」
「はい。ある機関が声を掛けてくださいまして」
「そこで?」
「はい、研究をしようと思います。こう見えても、頭いいんですよ、わたし。うふふ」
ツバサも自然と笑顔が出た。
「そうか。よかったよ」
「心配してくれてありがとうございました。またどこかで会ったら声かけてくださいね」
「そうするよ」
ツバサは心のなかがすっきりしていた。そしてこのことを俊とルカにも話した。




