第一話 出会い
「あなたも新入生?」
透き通った声が横から聞こえてきた。
「そうだけど…… 君は?」
門の前に立っていたツバサは驚いて横を見る。
風が桜の木を揺すりながら、花びらが空を舞っている。そして長い髪をした女の子がツバサの目に映る。
「わたしの名前は有馬ルカ。君と同じ一年生。よろしくね」
「あぁ……。よろしく」
細い足に綺麗な顔立ち。
ツバサは少し戸惑っていた。
「君の名前は?」
「ツバサ… 東條ツバサです」
ツバサはいきなりの自己紹介に敬語になる。そしてすぐに恥ずかしいと思った。
「ツバサくんかぁ。よくある名前だね」
ルカは笑いながらそう言った。
初対面なのに、いきなり自分の名前に文句を付けられたツバサ。
「またどこかで会うかもね。引き止めちゃってごめんね」
そう言って駆け足で学校の中に入っていった。
「謝るなら最初から話しかけるなよ。変な奴……」
そう呟いてツバサも中に入っていった。
そして入学式が始まった。
◆◆◆
広い空間に集められた二〇〇人の生徒が同じ格好をして座っている。
「この度はご入学おめでとうございます」
理事長の遠山すみれが挨拶をした。
「みなさんが知っての通り、この学園『ノワール学園』は生徒個々の能力を高めること、そして国のために 貢献できる強い戦士を育てることを目的としています。現在、世界の多くの国は中立を守り平和状態にあります。しかし一部の国では互いに領土や資源を求めて争っています。この日本も例外ではありません。いつ大きな戦争になるかわからない状況です」
長い話が続く。
「この学園に入学したからには互いに高め合い、より良い学生生活を送ってください」
長い話が終わり、一斉に人が動き出す。
ツバサも自分のクラスに向かった。
教室に入ると何人か生徒は席に座っていた。
ツバサは教室全体を見渡し、自分の席に座った。
「入学おめでとう」
そう言いながら担任の先生が入ってきた。
「入学式は話ばかりで面倒だなぁ」
ツバサはすでに話を聞く気はない。聞いているふりだけした。
「―今日はこれで終わりだ。明日から本格的に授業が始まるからな。しっかり学校に来るように」
「あっ そうそう明日はチームを決めてもらうからな」
「チーム?」
一人の生徒がそう言った。
「そうだ。四人一組で作ることになっている。まぁ今日中にクラスの奴らと仲良くなっておくのもいいかもな」
そう言って先生は教室から出ていった。
クラスがざわつく。
しかしツバサはそんなことは気にしない。さっさと教室から出た。そして廊下を歩いていると東條と呼ぶ声が聞こえた。ツバサは振り返る。
「誰ですか?」
ツバサは興味なさそうだった。
「おいおい、君は担任の顔も知らないのか。さっき会ったばかりだろ」
「は……い……」
「わたしは楓だ。担任の顔と名前くらい覚えてもらいたいね」
少し怒った表情で言った。
「ところで君はチームは決まったか?」
「あぁ…… その話ですか。決まってませんよ。そもそもチームなんて何の必要が」
ツバサは不満そうだ。
「まぁそんなこと言うな。意外に学校が楽しくなるかもしれんぞ。その前に学園のルールだから従ってもらうがな」
笑いながら楓は言った。
「君は入試の筆記試験と実技試験が優秀だったな。総合で三位だそうじゃないか。」
「はぁ……」
「クラスは試験の結果で分かれている。どのクラスも平等になるようにな。そしてクラスは三年間固定だ」
ツバサには楓の言いたいことがよくわからない。
「君はランクAだ。クラスにはランクAの奴らはそんないない。チームを作るのは君にとっては難しいかもしれんがチームから学べることもある。たぶん」
楓はツバサを納得させるためにベタなことを言った。
またしてもツバサは、
「はぁ……」
呆れた声を出した。
「まぁツバサくん頑張りたまえ。はっはっはっはぁ。」
そう言って楓は去っていった。
ツバサが門を出ようとしたとき
「ツバサくーん」
またしても声をかけられた。
「なんて日だよ」
ツバサは少しイラついていた。
「また会ったね。てか同じクラスだよね?」
「え、あぁそうだね。」
名前は思い出せなかったがとりあえず話を合わせた。
「ねぇねぇ。チーム決まった?」
「またその話かよ」
内心ではそう思いながらも、
「いや、まだだけど……」
「そうなんだ! よかったらわたしとチーム組もうよ!」
ルカは声を大きくして嬉しそうにそう言った。
「なんで?」
「だってツバサくん無感情でやる気なさそうな感じじゃない」
「は?」
相変わらず失礼な人だ、そう思った。
「わたしはそういう人を世話するのが好きなの。ついでにわたしの能力は回復なの。壊れたものをもとに戻すことができるの。例えば怪我を治したりとか。でもランクCだからあんまり大きい怪我とかは無理なんだけどね」
笑いながら言うルカをツバサは見る。
聞いてもいないことをべらべらと話すなと思いながらも、
「考えておく」
そう言ってさっさと寮に帰ってしまった。
この学園で全寮制である。三年間のカリキュラムがすべて決められており、生徒はこのカリキュラムを受けて卒業する。卒業した生徒のほとんどが国のために戦う戦士となる。学園は生徒が持つ特殊な能力を向上させ、より強力な戦士を作ることが目的である。能力には様々な種類があり、風を操るもの、水を操るもの、回復させるものなどたくさんある。また、同じ能力を持つ人間が複数存在することも珍しくない。しかし、すべてが同じというわけではない。能力にはランクというものが存在する。ランクは一番上がS、次にA、B、C。そして能力なしというようになっている。学園の一年生はAランクからCランクのいずれかに分けられることになっている。戦士になる人間のほとんどは能力者だ。もちろん、有利だからである。しかし、能力を持たない人間でも剣術や銃の技術を磨き、戦士となる人間もいる。
◆◆◆
翌日、ツバサは遅刻してきた。教室に入るとみんなが席に座っていた。楓先生が授業をしている。
「重役出勤だな」
「寝坊ですよ。すみません」
ツバサは先生の顔を見ていない。そしてそのまま席に座った。
「まあいい。気をつけろよ、ツバサ」
授業は能力コアについてであった。
能力コアとは能力者が持つもので、脳の一部分に属している。この能力コアから放出される物質が能力の源となる。
「そういえばお前たち、チームは決まったか。決まってないやつがいるなら今日中に決めてわたしに伝えるように。授業は終わりだ。」
楓先生は教室から出ていった。
ツバサはルカがこちらに近づいてくるのが見えた。すぐさま机に顔を伏せて寝てるフリをした。
「ねぇねぇ、ツバサくん。よろしくね」
「は?」
ルカはすでにツバサを同じチームにしていた。
「だからまだチームになるとは言ってないんだけど……」
「まぁいいじゃん! みんなもうチーム決まってるみたいだし! わたしたちはあまりものだよ。」
「ったく……」
「はい、決定ね!」
「あのー……」
二人の会話に急に声が入ってきた。
「ん?」
ツバサとルカは振り返る。
「僕たちも仲間にしてくれないかな。もう組む人いないんだよね」
「わーい! みんなよろしくね!」
ルカは満足そうだ。
「僕は春川俊。よろしくお願いします」
俊は緊張しているようだ。
「わたしは早川恵。仲良くしてくださいね」
「わたしは有馬ルカで、こっち東條ツバサくん」
ルカはツバサを見て、満面の笑みで説明する。
「勝手に決めやがって」
内心ではそう思ったが、ないも言わなかった。こうしてあまりものでできたチームが完成した。
ルカは楓先生に報告するために職員室に走った。
チームはE組五班と名付けられた。




