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君と僕の心世界  作者: エンゼルケーキ
8/18

君と僕の日

 私と一緒に今回の聖戦を戦ってみよっか、私の信徒(騎士)くん。

 満面の笑みで差し伸べられた手を、僕は握り返して君に答え返した。


「あはは、僕で良ければ一緒にお供しますよ、僕の神徒(お姫)さま。って、僕が聖戦に出るんですか!? 足手纏いになりませんか……?」

「ちょっとー、何で格好良く返してくれたのに急に素に戻るの君は! まぁ、いいや。でも、強くなるんでしょ? だったら心の力に触れる機会が多い聖戦が好い筈だよ!」


 どうやら彼女は、役を演じ切れなかった僕にご立腹したようだった。

 心の力に触れる場である事は確かだ。

 これから聖戦は避けては通れない上に僕は彼女の信徒だ、僕は強くならないと。


「……わかりました、それじゃあ行きましょうか。」

「うん、良い返事だね。まあ、私の傍にいれば怪我なんてしないから安心して!」


 彼女の心の特性だろう、確かに護る事に関しては相手の心の力を弾き消す彼女の心の力は完全防御と言っても良い代物だ。

 それに汎用性もあり彼女の心の使い方は攻守どちらにも長けている、さすがは神徒に選ばれる人だと僕は思う。 

 そして僕達は神徒と信徒として始めて一緒に聖戦へと街へ聖域せんじょうへと繰り出したのだった。


「うーん、それにしてもまだ時間が早いからねー。まだ生徒もほとんどいないでしょー。あはは、もしかしたらこのまま2人で塔まで辿り着けて願いを叶えられちゃうかもね!」

「そんな簡単でしたら皆さん願い事叶えてますって、あはは――――って、あれ? 塔の位置が……」


 エンゼルさんが冗談を含めて軽く辺りを視察していると、僕は塔のおかしな点に気が付いた。

 この街に着いた時に街の中央の広場から見えた聖戦時の塔の位置は、北側に位置していたはずだが今は街の中心から見て北東やや東よりに位置している。


「あ、あのエンゼルさん、塔の位置が変わってるんですけど……?」

「ああ、それね。聖戦が行われる度にこの広い街の何処かに現れるようになってるの。毎回同じ場所だとずっとそこにいれば到達できるからね、変によく考えられてるのよねー。」

「そうだったんですか……」

「それに誰かが、もうすぐって所まで近づいていくと急に塔の位置が変わったりしてよくわからないんだよ、あれ。そのせいで未だに誰も辿り着けてないみたい。願いを叶えた人はどうして辿り着けたのか、みんな疑問に思ってるみたい。」


 街に現れる塔の位置は毎回変わる、まるで幻か蜃気楼のような塔みたいだ。


「まあ、それでも何かの拍子か条件で塔へと辿り着けるかも知れないから、毎回みんな聖戦を頑張ってるって訳かな?」


 その塔は意思を持ち、辿り着く者を選んでいるのかと思わせるような感じだ。

 そして僕達は街の中央の広場まで着いた、ここから塔の位置まで直線で行けるのだろう。


「ニャル様ぁー、待ってくださいー。早すぎですよぉ、また心の力を使い切っちゃいますよ!」


 遠くから誰かが叫ぶ声が聞こえてきた、声がする方を振り向いて見ると家々の屋根を跳んで伝い渡ってる女性の生徒の姿がそこに見えた。


「にゃにゃ、エンゼルじゃないか! さすが願い事に熱心なだけあるにゃあ。でも残念だったにゃ、今回こそはニャルが塔へ到達するにゃ。」

「貴女の方がよっぽど熱心よー、ニャル。」


 近くの家の屋根からこちらへと声を掛けてきた人物は、どうやらエンゼルさんと知り合いのようだった。


「お知り合いですかエンゼルさん?」

「うーん、知り合いって言うか。ただの野良猫かな?」

「の、野良猫ですか……?」


 僕は意味がわからなかった。


「にゃあああ、ニャルは猫じゃないにゃー!」


 あ、猫だ。きっと彼女は前世が猫の人だったのだろう、凄い特徴的だった。

 うん、よく見ると茶色い毛並みの髪と仕草も表情も猫っぽい。


「もう怒った、エンゼル。今日は勝負するにゃ!」


 猫と言われ怒った彼女は何かを唱えだした。


「自由の風、遮るモノを吹き荒らし風の祝福を与えよ、天より抱きし聖靴、ニャルの心の姿を具現化(あらわ)すにゃ。」


 この呪文みたいなモノは確かカイルさんが心装具ハーティファクトを取り出した時にそっくりだ。

 そして彼女の両足が光り出すと同時に、羽ような装飾が施されている脚装具の様な物が取り憑いていた。


「ちょ、ちょ、ちょっとニャル様なんでこんな所で心装具ハーティファクトを?! って、そこにいるのは第6のティファレトの神徒さん!」


 ニャル様と呼んで彼女を追いかけてた女の生徒だ、この場まで追いついたようだ。おそらくニャルと呼ばれている彼女が神徒であり、この女性はその信徒なのだろう。


「エンゼルが、ニャルのこと猫ってまた言ったから今日は勝負するにゃ。だから先に行くにゃあ。」

「えっ、でもニャル様って猫みたいな所が可愛らしいって言うか、私はそこを信仰してます!」

「…………なんでにゃあああああああああ! もう皆吹き飛べばいいにゃああああ!」


 すると彼女は家の屋根上から跳び出した。

 シフォン達とこの場に追いついた女性の信徒との間の地面に勢い良く着地し、それと同時に風が吹き荒れ巻き起こり全てを吹き飛ばすほどの力がこの場を突き抜けた、そして周囲に襲い掛かった。


「うわっ、何だ!?」


 その場を退しりぞきそうになったシフォンだったが、エンゼルがシフォンの手を取り自分の元へと抱き寄せた。


「わわ、エ、エンゼルさん、どうしたんですか!?」

「私から離れないでね、彼女の心装具ハーティファクトよ。君に怪我でもされたら困るから傍にいて。」


 彼女に抱き寄せられ緊張し慌ててた僕とは反面、彼女は真剣な表情をしていた。


「あわわわ、ニャル様、ごめんなさいぃ~~~。」


 女性の信徒が、この吹き荒れる風の中で謝りながら遠くに飛ばされているのが見えた。

 味方なのにそれでいいのか、それより大丈夫なのか少しだけ心配になったが様子からして大丈夫そうだと思った。

 僕達はエンゼルの心の壁により風の力で吹き飛ばされる事はなかった、どうやらこれは心の力によって引き起こされた風なのだろう。


「ちょっと、ニャル。大人気ないんじゃない、こっちは新入生を抱えてるのよー。」

「なに? ふむふむ。にゃにゃ、その男が胸に付けてるのは第6のティファレトの徽章! エンゼルが信徒を取るなんて明日は魚が振ってくるにゃあ!?」

「それを言うなら槍なんじゃ……」


 僕は思わず突っ込みを入れてしまった。


「エンゼルがお気に入りを見つけたなんて大事件にゃあ、どれくらい強いか二人とも掛かってくるにゃ。」

「ふふーん、聖域せんじょうで出会って、私に勝負を仕掛ける以上は後悔しないことね!」


 エンゼルが言い終えるとニャルと呼ばれている女性に手を向けた、相手を弾き飛ばす視えない攻撃を仕掛ける気なのだろう。


「弾き飛びなさい、ニャル!」


 視えない光の壁がニャルを襲うと同時に、彼女は弾き飛ばされた――――いや違う、彼女は弾き飛ばされる前に自ら跳ぶ事で回避行動を行っていた。


「にゃははは、エンゼルの心の力(ハーティスト)はわかりやすいにゃあ。手を向けてる方向と風がニャルに教えてくれるから避けるのが簡単だにゃ!」


風が教えてくれる――――それはエンゼルが視えない光の壁を相手に向け飛ばす際に起こる風の乱れだろうか、それを彼女は察知しているのだろう。


「ちょっと避けるんじゃなーい! ちゃんと当たりなさいニャル。」

「いや、それはちょっと無理なんじゃ……」

「無理じゃない、私の為に当たればいいの!」


 どうやら勝負始めたせいかエンゼルさんは興奮しているようだ、かなり無茶な事を言っている。


「そこよ、当たりなさい、ニャル!」

「にゃにゃにゃ、今のは危なかった。それなら今度はこっちから行くよ――――かまいたちッ!」


 ニャルが叫ぶと同時に回し蹴りをその場で行うと、脚でくうを蹴り斬ったところから風の刃が繰り出されシフォン達に向け襲ってきた。

 だが、当たり前かのようにその風の刃はエンゼルの心の壁によって弾き消された。


「ふん、無駄よ! そんな程度じゃ私達には届かないよーだ。それに貴女はイタチじゃなくて猫でしょ!」

「むっかー、本当に今日のエンゼルはむかつくにゃ!」


 あれからエンゼルとニャルは同じ攻撃を仕掛け続けているが、ニャルの機敏さと心装具ハーティファクトによる空中での跳躍行動によってエンゼルの攻撃は全て回避され続けている。

 しかし、エンゼル達は2人で共に行動しているせいで回避行動を起こせずその場で全てニャルの攻撃を受け止めている。

 心の力(ハーティスト)を連発し続け、そして敵の心の力(ハーティスト)を受け続けたエンゼルは段々と疲れの色が見え力弱くなってきてきる。


「ハァハァ、本当に素早いんだから......まったく。」

「エンゼルさん、あの、僕は一度離れるんで動き回って戦ったほうがいいんじゃないんですか?」

「駄目よ! 君はニャルの心の力(ハーティスト)を防ぎ切れないし、私の近くから離れたら心の力を発現し続けるのも辛くなるでしょ?」


 そうだった、僕が心の力の負担が掛からずに発現していられるのは彼女の傍にいるお陰だ。

 ん? 心の負担が掛からない......。そうだ、今朝練習した心の力(ハーティスト)を負担無く使えるって事じゃないか!


「そうだ、エンゼルさん! 今朝に僕が試した心の力(ハーティスト)を使おうと思うんですけど良いですか?」

「君の心の力(ハーティスト)? つい最近やっと発現するのにも操作コントロールきいてなかったのに大丈夫なの?」

「はい、確かに今朝は負担が掛かって危ない物だったんですけど......エンゼルさんと一緒なら、その……負担も無くなると思うんです、たぶん。」

「ふーん、そっか。そうだね、元々は君が強くなる為の機会だから試したいことがあるならいいよ。」

「はい、ありがとうございます!」


 僕は今朝のことを思い出し心で想像した、目標を目視して確認しその場に僕の力を作用させる。


「やっと、そっちの男の子も戦う気になったかな? 新入生って言ってたけど、ニャルに通じるかにゃー?」

「ふふーん、今に見てなさいよ。私の信徒くんは強いんだから! 猫如きなんて片手でちょちょいのちょいよ!」

「まーた、ニャルの事を猫って言ったにゃあああああ! もう遊びは終わりだにゃ!」


 ニャルを中心に周囲から風が集まりだし、そして脚部に憑いている心装具ハーティファクトが風を吸収し始めた。

 また別の攻撃を仕掛けてくるのだろうか、シフォンはそれを抑え付ける為に力を放った。


「にゃに!? この感じは上から? 下? 左右!? どっちから来るんだ、おかしいにゃ!?」


 僕の力を感じ取った彼女だったが、力を作用させるのは彼女本人に向けてなのだから力は彼女を中心に起きていた。

 そして狼狽えている彼女に僕の心の力が襲い掛かった。


「にゃっ!?――――」


 一声を出すと同時に地面へと叩き抑え付けられた。


「ぐぬぬ、身体が重いにゃああああ――――こんな心の力(ハーティスト)なんて卑怯だにゃあああ!!」


 どうやら心の力(ハーティスト)を上手に扱えたようだ。想像通りだ、僕への負担はエンゼルさんの心の壁によって遮断され失くなって自身の身体に負担が掛かることなく操作コントロールが円滑に行えた。

 

「凄いよ、君! もうこんな凄い心の力(ハーティスト)を上手に使えるなんて、やっぱり私が興味を持っただけあるよ!」

「あはは、ありがとうございます。でも、これはエンゼルさんが僕の事を護ってくれているから使える心の力(ハーティスト)なんですよ。」

「君と私って本当に相性が良いよね! そういう訳だからニャル、降参しなさい。でないと私の力も当てちゃうからね~。」


 エンゼルは喜びと同時に、ニャルへ手を向けた。そして降伏を呼びかけた。


「――――にゃにゃ……二人掛かりなんて……ずるいにゃあああ……わかったにゃ、降参するぅ……」


 後が無くなった彼女は最初に自分が言っていた事とは違うことを言っていた。

 ニャルの降伏勧告を聞き取ったシフォンは、心の力(ハーティスト)を解いた。


「っふぅー、そこの信徒! お前の名前はにゃんて言うにゃ!」

「えっ、僕ですか? 僕はシフォン・ケーキです。」


 突然と名前を尋ねられ僕は少し驚いた。


「ニャルの名前はニャル・クァトネル。第7のネツァクを冠する神徒だにゃ! 今日これで勘弁してあげるけど今度は二人とも倒す、覚えとけ!」

「はいはい、猫ちゃん。また遊びましょうね~。」


 エンゼルが煽りを入れるとニャルは悔しそうにその場を去っていった。


「あの、もしかして僕って目を付けられたんですか……?」

「んー、どうだろう。あのは気まぐれだから次会ったら忘れてるんじゃない? そんな事よりさ、君ってすっっっごく格好良かったよ!」


 彼女は突如と歓喜の声を上げて、僕の両手を手に取ってはしゃぎ始めた。


「君となら願い事を必ず叶えられそうだよ、これからも私と一緒に頑張ろうね!」

「は、はい、僕もエンゼルさんと一緒に頑張りたいです!」


 やっとだった、初めてだ。僕がこの街に来てから、初めて人の役に立て頼られたのだろう。

 何より僕は彼女に少しは力になる事ができたはずだ、僕の心の憂いが少しだけ解けた様な気がした。


「よーし、この調子でどんどん塔へ向かって進もーう! 君と私が一緒なら無敵だー!」

「あは…あははは……(何だが調子が良くなったみたいだけど、さっきの心の力の使い過ぎが心配だ……)」

 

「今だ、全員で囲め! 奴は心の力を消耗しているぞ!」


 僕達がそのまま広場から塔の方向へと向かおうとすると、一人の生徒が声を上げて合図を出した。

 何処に隠れていたか、十数人ほどの生徒が僕達を囲み始めた。


「ええええ。あ、あのエンゼルさん、囲まれちゃったんですけど!?」

「うーん、そうだねー。この人達はたぶん……」


 僕が慌てふためいていると、彼女は何かを考えているようだった。


「今日こそは今までの身勝手な振る舞いに対しての報いを受ける時が来たな! それと神徒の座は明け渡してもらおう。」


 この集団の代表とも思われる人物がエンゼルに対して報いなど、神徒の座を明け渡せ等と言ってきた。


「あの、もしかしてこの人達ってエンゼルさんを良く思ってない生徒たちなんですか?」

「うーん、詳しくは聖戦が終わったら話すよー。今はとりあえず片付けちゃおうか、私は疲れちゃったから君に任せるよ!」

「えっ!? いきなり任せるって言われても、こんな大勢を相手しきれないですよ!」

「うーん? 違う違う、君に任せるって何も一人ずつ相手にするんじゃ無くて君の心の力を抑えるのを止めるだけで良いんだよ。」


 彼女が言っているのは僕が心の力を発現する事で周囲に作用する力を利用して全体を巻き込んで倒すって事なのだろう、それをするにあたって心の力の抑制を止めればいい訳だが。


「でも、ただでさえ意図的に抑えてる物なのにそんな使い方したら危ないんじゃ……?」

「そこはほら君の調整に任せるよ! 大丈夫だって、みんな心の力は発現してるんだし怪我までする事は無いよ!」


「何をごちゃごちゃと話している! 第一陣一斉射、火球放つぞ!」


 シフォンが躊躇していると周囲を囲んでいる数人の生徒達の目の前に火の玉が現れ、シフォン達へ向けて放たれた。

 当然の如くシフォン達に火の玉が届く事はなく、エンゼルの心の壁により阻まれ弾き消された。


「熱っ、もー乙女の柔肌に火傷でもしたらどうするのよ! まったく、ほら早くやっちゃってよ君!」


 だが彼女の心の力が弱ってせいだろう、弾き消されたはずの火球から小さい火の粉が飛び火しエンゼルに届き手に軽く触れた。


「ふん、小賢しい。まだ心の力を維持できていたのか!ならば、次行くぞ――――」



――僕の大切な君を傷つけたな。絶対に許さないぞ、殺してやる――



 『ぐあああああああああああ。』『うわあああ、何だ何が起きてる!? 身体が潰れるぅぅぅぅ。』『助けて! 死ぬぅぅぅ。』『うわああああ。』『誰かああ助けてくれぇぇぇええ。』


 突如として周囲から沸き立つように悲鳴が散乱する、まるで辺りは死屍累々と化す寸前だ。


「ちょ、ちょっと君、何してるの!? や、やりすぎだよ抑えた方がいいよ!?」

「……」

「ねえ君!? 聞いてるの!? それ以上は駄目だよ、大変なことになっちゃうってば!」

「…………」

「シフォンくん! やめよ! やめてってば!」


「もう、やめて!!」



――もう、やめて――



「わっ驚いた、どうしたんですかエンゼルさん!? って、何ですかこの状況は!?」


 僕が周囲の異変に気が付き心を解いた時には、すでに大勢の生徒達が地に伏している状態だった。


「き、君、もしかして無意識だったの?」

「ご、ごめんなさい、何を集中してたのか自分でもわからないんですけど……気がついたら。」


 『おい、何だこの状況。』『おいあの二人がやったのか、あれって第6の神徒じゃねぇか。』『もう一人、誰かいるよ。』


 どうやら聖戦に参加し始めてきた生徒や信徒達が、この場所まで辿り着いてきたようだ。

 通りかかった者もいれば、騒ぎに気が付きここへ訪れた者もいる。


「ねえ、君! とりあえず、いったんこの場を離れましょう。」

「は、はい!」


 シフォンとエンゼルは、逃げるようにしてこの場を離れた。

 そして鳴り響く聖戦の終わりを告げる鐘の音、太陽の位置からして時刻は正午あたりだ。


「あっ……聖戦終わっちゃいましたね……」

「うん……ねえ、君はさっきどうしてあんな風になったの?」


 おそらく僕が心の力を抑えきれずに酷い力の使い方になってしまった事についてだろう。


「わかりません、エンゼルさんが火の粉を受けたときにたぶん焦ってて頭の中が真っ白になっちゃって。たぶん、心を抑えるのに失敗したんだと思います。……ごめんなさい。」

「そっか、ごめんね無理させちゃって……あの時の君の心はまるで昔の――――ねえ、ちょうどお昼頃だし街のどこかに食べに行かない?」


 小さく何かを言いかけた彼女は聖戦が終わったのを良いことに、街で食事をしようと誘ってきた。


「……そうですね。今回の反省会も含めて、一緒に昼食を食べて行きましょう。」


 そうして2人は街へと繰り出し適当な店へと入っていった。


「いらっしゃい、学園生さんかい? 好きな所に座りな、金は取らねぇぜ学園から付けとくよ。」


 店の主人だろう。僕達が制服を着ているのを見て理解してくれたようだ、この街では学園寮を含めて学園生の施設利用の金銭は全て学園が持ってくれる事になっている。

 見たところ店内は小洒落た感じの珈琲と木々の香りがする落ち着いた雰囲気のお店だ、お昼頃には珍しくお客さんも少ない、隠れた名店と言った所だろう。


「あのね、聖戦が始まる前に学園の屋上でさ。私の問題とそれに対しての周りからの私への反感について話そうとしたじゃない?」

「ええ、そうですね。僕はエンゼルさんの願い事の意味を皆に伝えてないから、それで敵視されているのかとしか思ってなかったのですが……?」

「実は言うとね、それだけじゃないんだ。少し私の昔のことから話す事になるのだけど――――」


 彼女から聞いた話はこうだ。

 エンゼルさんは気が付いたら何かを探すかのようにこの街を徘徊していたらしい、記憶も何も覚えていない状態で。親からは自身の心の力のせいで邪魔者として扱われ、捨てられたと思っているらしい。

 しばらくして学園の者に保護され特例として学園の者では無いのに関わらず寮に住む事が許されたらしい、それからそのまま学園に通うことになったみたいだ。


「学園に入ってから聖戦と世界の願いについて聞かされた時に私は願い事で探し物を見つけ出す事に決めたんだ。」

「探し物ですか……?」

「そう、気が付いた頃にはこの街で宛ても無く彷徨ってずっと何かを探すようにしてた物。それまでは良かったんだけどね、当時の私はかなり心が荒んでてさ。その為に聖戦では他人なんて御構いなしに平気で酷い心の使い方をしてたんだ。」


 酷い心の使い方、それは彼女が相手の事を考えずただ自身の目的と願いの為に力だけで捻じ伏せていたらしい。

 まるでさっきの広場で起きた惨状を作り出すように、ただただ自身の目的の為に他人を傷つけ進み続けて。


「それでね、ある日の事だったの。この街の教会に立ち寄ってた時に聞いた話なんだけど、世界の始まりの詩――――あの、天使について謳われている詩なんだけど、それを聞いたとき私の探していた者が何なのか少しだけわかった気がしたの。」

「世界の始まりの詩……あの、2人の天使のお話ですか?」


 僕が毎日、教会で育ちマザーに聞かされていた詩の事だ。


「そう、それを聞いた私は天使を探しているような気がしたの。何故だかわからないけど、でもそれから自分が私は天使になる事を願い事として生きてきたの……」


 天使を探している、そして自身が天使になる事を願いとしている。

 それは、まるで片一方の天使である自分が自身の半身でもあるもう片方の天使を探しているような話だ。


「そして私は何かを想い出そうとするように空を眺めるが増えたの、そしたら荒んでいた心が段々と穏やかになってきて私が今までしてきた事を後悔し始めた。こういうのを心が洗われるって言うのかな、あははは。」


 彼女は笑っていたようだけど、どこか悲しそうだった。


「だからね、もう他人を巻き込む事は止めて今は極力は人を避けていたんだ。でも、以前の私に巻き込まれた人はそうも行かないって訳だね。たぶん広場で囲んできた生徒達は私に何か恨みでもあるんだと思うよ。」


 以前の彼女は傍若無人な振る舞いで人の恨みを買っていた、そして恨みはやがて悪評となり学園で噂になった。

 そうなれば、例え彼女が何をし何を始めても、もう周りの人にはもう何も認められなくなる事だと僕は思った。


「それで願いが自分が天使なる事に目指す事なった、それとほぼ同じくらいの時期かな? 何故か神徒として選ばれちゃったって訳で、それからさらに反感を買っちゃうようになったってとこかな。」

「そうだったんですか……」


 悪評が広まったが最後、どんな些細な事でも嫌悪感を抱き抱かれるそれは人の性と言う物だろうか。

 食堂で騒動を起こした男の生徒は言っていた”仲間を傷つけられた”と、それは聖戦では当たり前のある光景なのだろうが『彼女から受けた』事はまた違う物として見えたのだろう。


「ごめんね、変に隠し事なんかして。そのせいで君の友達が巻き込まれて怪我したり、君まで危険な目にあったりした。だから本当は君が信徒になってくれた時に全部話して止めさせれば良かった。」


 きっと彼女は過去に後悔しているせいで、他人と関わる事が不安で堪らないのだろう。

 なら彼女の為に僕ができる一番の事は安心させてあげること、それが恩返しにも、彼女の助けにもなるはずだ。


「確かに以前の事は何も知らないで僕は信徒になりました。だけど僕は今のエンゼルさんの信徒です、過去がどうあれ僕は僕の意思で貴女の信徒になりました。だから僕に対して何も心配や不安がる必要は無いです、僕が君の為に傍で支え続けていきます。」


 僕は最初と同じように彼女を安心させる為に言い切った。

 すると彼女は目を見開いて驚いた後に、笑い出した。


「あははは、何だか求婚プロポーズされてるみたい。何々、もしかして私の事口説いてる? ふふふ。」


 僕は自分の言った事を考えてみたが、まるでその通りだった。だけど彼女が笑ってくれるならそれでも良いと思った。


「そっか、ありがとう。それならもう心配するのも不安になるのも、やーめた。君が私の傍にいてくれるなら大丈夫かな? これからはどんどん願い事に向かって進むから付いて来てね!」

「はい!」


 僕は――――僕達は改めて神徒と信徒の契りを交わしたかのようだった。

 それは互いに互いを求め傍に置くことで不安を消し去り、自分自身の存在を認めてくれる関係を欲する自然なことだったのかもしれない。

 自分の心に空いている隙間にそっと置くことのできるモノを探していた、君は天使を、僕は君を?

 わからない、これからわかる、君の傍にいる時間を大切に大切に感じていこう。




――また始まる、君と一緒に存在すること。それは全てが素敵な日々となる心の魔法ようなモノ。――

 



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