夢の中の日
暗闇の中で聴こえて来るのは時計の針が時を刻む音。シフォンは部屋の明かりも点けずにベッドの上で横たわり休んでいる。
どのくらいの時間が経ったのだろうか、食堂での騒動の後にすぐに自室へと戻り何をする事もなく天井を見つめている。
「……フェン、大丈夫かな。あの時、僕はどうすればフェンを護れたんだろう。」
あれから僕はずっと考えていた、あの時に僕は何ができたのだろうか。
僕はただ呆気にとられていただけだったがフェンは違った、あの男の生徒が喋りながら近づいてきた時には不穏に思ったのだろうかすぐに立ち上っていた。
「きっと今の僕には足りない物が多すぎている。一つずつ一つずつ、まず心の力から補っていこう。そうすれば何か見えてくるはずだ。」
僕が反省を含め物事に取り組む事を一つ選び取り、口にしていると部屋の扉を軽く叩く音が聞こえた。
「誰だろう、今は何時なんだ。」
ベッドから起き上がり壁に掛けてある時計を確認すると、すでに日付が変わりそうな時間だった。
僕は部屋の扉を開き、来訪者を確認してみた。
「よっ、もしかして寝てたか? 悪いなこんな時間によ。ジェラに聞いたらお前が思いつめてたって聞いたもんでさ。」
「フェン!! 身体は大丈夫だったの!?」
こんな時間に部屋に訪れた人はフェンだった、僕は喜びと心配のあまりに大きな声を出した。
「しっ、馬鹿っもう消灯時間だろうが。あんまり大きな声を出すなって、身体は大丈夫だってさ。」
「っそっか、ごめん。」
「まぁいいや、それより一言だけ言っておくが俺がぶっ倒れたのはお前のせいじゃないからな。むしろ、油断してた俺がかっこわりぃってかそんな感じだ。気にするなよ?」
フェンは自身の事よりもシフォンの気遣いを優先しに来たようだった。
「でも、あの人は僕が第6の信徒だったから問題を起こした訳で……」
「だーかーら、違うだろう。そうだとしてもジェラから聞いたんだろ? 誰のせいでもあるけど仕方が無かった事だって。つってもお前のことだから思い悩むだろうから言いに来た、俺達は弱かったから今回の件はこんな風になっちまった。だから強くなるぞ!」
彼は凄かった、僕が延々と思い悩んで決めた事をすでに当たり前の様に想っていた。
「うん、ありがとう。僕はきっと強く頼れる人になるから頑張るよ!」
「おう、その粋だ! あんまり自分を追い込むなよ、それじゃあ悪かったなこんな時間によ。それと俺の心配はいらねーからな。んじゃ、また明日な。」
「うん、わかったよ。また明日だね。」
二人は別れの挨拶をして、シフォンは再び自室に戻りベッドの上へと転がった。
「フェンは凄いな……あんなに僕は思い悩んでいたのにフェンにあっただけで元気みたいなのが出てきちゃったよ。」
心配してた相手から逆に心配され元気付けられる、これほど安心できることは他にない。
「よし、明日は早く朝起きて学園で……少し心の練習をして……から講師の人に……見て……もらおう…………」
そんな中でシフォンは安堵したのか段々と眠りにつくのだった。
そして彼の意識が途絶えると身体がぼんやりと柔らかな光を纏いだした。
(あれここは何処だろう、身体がふわふわしている。夢? 夢か、夢なんて見るのはいつぶりかな。)
「夢じゃないよ、ここは僕の心の中だよ。」
何処か知らない不思議な場所、身体が足を付かず宙に彷徨っている感じのようである。
そんな中で、シフォンに誰か知らない人のような形をした黒い光が語り掛けてきた。
(僕の心の中? 君は誰? なんだか不思議な夢だなー、身体が浮いてて面白いな。あははは。)
「僕は僕だよ。はぁ、それにしても今見る僕の様子だと何だか楽観的なのか悲観的なのかよくわからなくなってくるね。それより僕はどうして自分を責め、それでいて心を虐げたりするんだい?」
僕は僕、そのモノが言っている意味が僕にはよくわからなかった。そしてその質問すら僕には理解できないでいた。
(自分を責める? 心を虐げる? 君は何の事を言ってるの。)
「無意識か、僕は運が良いよ。僕を助け支えてくれてる周りの人に感謝しないとね、でなければとっくに僕は壊れていたよ。」
何かがシフォンの内面を引き出したかのように狂わせた。
(そうだ、僕は助けて貰ってばかりだ。僕が誰かを助けないと、僕が皆を護らないと。これ以上、僕が迷惑を掛けちゃ駄目だ。僕が頼りにされるようにならないと。僕が今まで生きて来れた、恩返しをしないと僕が……)
「ふう、本当に僕はわかりやすいね。自分じゃ何も気付けてない、それだと恩返しするどころか周囲に迷惑を掛け続けいつの日か心を殺すだろうね。でも、それだと困るだろう? 僕が手助けをしてあげるよ、あまり力を与え過ぎると僕が壊れるから抑え目にしてあげるから安心してくれ。」
人の形をした何者かわからないモノは手と思わしき部分をシフォンに向けた。
(僕が……僕が……僕が……僕が……僕が……)
「おやすみ、僕。いつかわかり合う、その時間まで頑張ってくれよ。」
鈍い音と同時にシフォンは身体全体に黒い光に包まれ、存在が無くなった様に消え去った。
「うわあああああああああああ!?」
シフォンは自らの悲鳴に気が付き驚いたかのように、目覚めた。そして辺りを確認してみるとそこは自室だった、窓のカーテンから微かな光が漏れ出し外では鳥の囀る音が聴こえてきている。
「あれ、何だ。何だろう夢を見ていたような、それにしても驚いたな……寝ぼけてたのかな?」
何の夢を見ていたのだろうか、少し気になるけど僕は時計の時刻を見て一度考えを止める事にした。程よい時間帯だ、これなら早めに学園で心の力を練習できるぞ。
そしてシフォンは支度をして食堂へと朝食を食べに行くことにした。
「うーん、なんだったんだろう? 何の夢だっけなぁ、気になるなー。それにしても何だか身体が軽いような、今日はちょっと調子が良さそうだ。」
「まぁ、いいや、早く食べて学園に行こうかな。」
朝食を摂りながら、僕は今朝の事を思い出しつつ夢について考えていたが何も思い出せずにいた。
シフォンはすぐに朝食を食べ終え、寮を出て学園へと向かった。
「うーん、それにしても早起きは気持ちが良いな。身体も軽いし、今日は何だか良い日になりそうだ!」
天気が良いせいか学園へと向かっているシフォンもまた能天気だった。
そして空を見上げたシフォンは、この街の空に浮かんでいる島を見た。
「塔に登って空に浮かぶ島で願い事か、これから僕は頑張らないとな。今のままじゃ何もできそうにない。」
一度は足を止めたシフォンだったが再び学園へと向かった。
「さてと、着いたけど。学園どの辺りが心の力を安全に使う練習ができるかな?」
学園の敷地内を探索していると、何処からか人の発声する声が聞こえた。
こんな朝早くから何をしているのだろう?
「ハッ、フッ! フンッ! そこだ!」
声をする方へと近づき何をしているのか確認し行くと、そこにはエンゼルさんと衝突していた槍の心装具を使っていた男の神徒が棒状の物を振り回し訓練をしている様子だった。
確か彼はカイル、とシェリルさんに名前を呼ばれていた様な気がする。
「むっ、誰だ。そこにいるのは?」
どうやら覗き見ていることがばれてしまったようだ。
「おはようございます。声がしたようなので気になって、近づいて見てたのですけど邪魔をしてしまいましたか?」
「ああ、おはよう。いや気にすることは無い、それに学園の敷地内だ。誰が何処にいようが俺の決めることではない。」
お互いに挨拶をして、僕が彼に心の練習をするのに適切な場所を聞こうとした時だった。
「其の胸に付けている徽章、もしやお前は第6のティファレトの信徒なのか?」
迂闊だった、この人はエンゼルさんと元々対立して争いあってた人なのだから僕が近づくべき人ではなかった。そう考えつつ昨日の食堂で起きた問題を思い出していた。
僕はいつ戦いになっても良い様に心の力を少しだけ発現したが、予想外にも彼は何もして来なかった。
「そう構えるな、別に奴の信徒だろうが俺は食って掛からん。それにしても珍しい事があるのだな、あの女が信徒を取るなんてな。」
「えっと、あのエンゼルさんの事を良く思ってないんですよね?」
「勘違いするな、俺は奴自身の事は今は悪くは思わん。ただ願いが気に食わないだけだ、あれだけの力を持ってして何故に他を思わぬかが不思議でならんからな。」
不思議だった、あれほど争っていたのにまるで元から人を憎まず願いだけを憎むそんな一貫とした考えを持っていたのだから。
「あの聞いてください、彼女は別に自分の為だけじゃないんです。彼女なりの考えがあって、あの願い事を選んでいるんです。」
「……お前は、名は何て言うんだ?」
急ぎ口調で僕が彼女の願いについて説明をしようとすると、彼は意を介さず名前を尋ねてきた。
「えっ、僕はシフォン・ケーキです。」
「そうか、俺は第9のイェソドを冠する神徒のカイル・ディストだ。」
僕の名前を聞いたと同時に、彼は自分が神徒であることを含めて名乗りだした。
唐突な自己紹介に僕は意味を理解できなかったが、話を続けることにした。
「ですから彼女の願いについてなのですが、実は――――」
「はっはっは、お前は面白いな。俺が神徒であり第6のティファレトの神徒の願いを快く思ってないにも関わらず、お前は彼女の為に願いについて申開きするか。」
どうやら先程の突然な自己紹介は僕を試していたのだろうか、彼が神徒であるのを知って僕が態度を変えるのかどうかを。
「いや、いい。わかった、お前の熱意は伝わった。その願いの真意は俺が彼女に直接聞こう。」
「えっ、でも……」
「心配するな、また戦いを挑む事などしない。それよりもお前はこんな朝早くから何かすることがあって学園にいるのだろう?」
そうだった、僕は心の練習をしてから講師に心の発現見せないといけないんだ。
「あの、カイルさんはいつもここで練習をしてるのですか?」
「ああ、俺はこの時間はここで稽古をすると決めているのだ。」
「そうでしたか……それじゃあ僕もそろそろ自分のするべき事をします。」
「ああ、そうするといい、ではな。」
最初に見た彼とエンゼルさんの対立のせいで、彼の印象が問答無用な人と思っていたけどそうでも無かったようだ。
意外にも彼は話せば理解してくれた、もしかしたら昨日の食堂での男の生徒も話せばわかってくれたのだろうか。
「あっ、そうだ心の力を練習するのに良い場所を聞きそびれた。まぁ、いいか周りに人がいないのを見て取れる場所で適当に始めちゃおう。」
再び僕は学園の敷地内で何処か適切な場所を探すことにした。
「ここなら大丈夫かな、周辺も見やすいし人が来てもすぐに対応できそうだ。」
学園の玄関先からは、かなり離れた位置をする場所だが周辺に物等は無く巻き込む事は無いだろう。
「よし、周りに小石を何箇所にも置いてっと。」
自分の心の力は視えないから確認するために周囲に一定感覚で小物を置くしか無かった。
そして僕は昨日の事を思い返し考えた、あの時フェンが殴られそうになった時に僕は何ができれば良かったのかを。
第9のイェソドの神徒であるカイルさんのように話を聞いて貰えればきっと、相手を抑え制止させる様な力があれば......。
そうだ、周囲に作用する抑え込むような僕の心の力を一定の範囲か相手に向けて瞬時に放てる様になればいいんだ。そうすれば、相手は僕見たく身体に負担が掛かかって抑え込めて話ができるかもしれない。
「よし、そうと決まれば実践あるのみだ!」
シフォンはゆっくりと心の力を発現させた、まだ当然のように身体が鉛のように重たくなる負担が掛かる。
「ふぅ、ちゃんと発現させられるけど……やっぱりこの重さは厳しいなぁ。周りの小石は今のところ異常無しだね、よしよし。そしたら広がる力を一点に向け範囲を絞る様にしてみるんだ……」
シフォンは自分の想像を膨らまして、心の力を操ってみた。すると周り置いてある小石の一箇所だけ揺れ動き潰れ砕けた、おそらくそこだけに力が作用してたのだろう。
「やった! 想像通りに心の力を扱えて――――――」
思い通りに行ったと思った、その瞬間。心の力を発現させるだけとは比べ物にならない力の負担が身体を押さえ込み、シフォンを襲った。
「ぐぅっ、あああああ。なん……だ、これ。身体が……動かない……」
まるで力の大きさやそれを使い操り扱う事の難しさに比例して、シフォンの身体に負担が掛かるようだった。
そしてシフォンは急いで心の力を解いたが、その場で膝をついた。
「はぁ……はぁはぁ……はぁ、苦しかった……で、でも想像した通りにはできたんだ……後は力加減に慣れていけば。」
その後、何度も繰り返したが少しでも気を抜くと地面へと身体を叩き付けられたりしてシフォンはぼろぼろに成り果てていた。
「痛ててて、はぁはぁ……疲れた。で、でも、耐えれるくらいの力加減にはなったのかな? とりあえず、使える様になったのなら良い。これで護れる様な力を手に入れたんだ、きっと。」
本来ならとても扱いこなし耐えれているような物では無かったが、シフォンはまるで何かに取り憑かれたように力を手にしたと思い込んだ。
現実から目を逸らしているが、それは身体にはかなりの負担を掛けつつ行使されている心の力であった。
「よし、とりあえずこれで良いか……よし、そしたらもう大丈夫だ。時間も良い所だし講師の下へ言ってクラスを見て貰おう。」
そしてシフォンは心の力の練習を止めて、学園内と入り講師がいる下へと出向いた。
「うお、何だね君はぼろぼろじゃないか!? もしかして、喧嘩でもしていたのか?」
「い、いえ、ちょっと心の力の練習をしてたら失敗してしまいまして……」
そうだった、あまりに力の使い方に集中していたせいで自分の身形を気にしてなかった。
よく見ると制服は乱れて、土埃を被っている状態だ。
「それで昨日の講習の時に心の力の発現を見せれなかったので、見てもらいに来たのですが。」
「ああ、そうだったね、それじゃあお願いするよ。」
シフォンは目を閉じ、いつも以上に集中することにした。そして、心の力を発現させ始めると、柔く黒い光が身体を包みこんだ。
「おお、す、凄いぞ君。こんな心の力を見たのは、久しぶりだ……! これなら間違いなくAクラスはあるぞ。」
「えっ!? 僕がAクラスですか!? 何かの間違いじゃ......」
シフォンが驚き目を見開くと、心の力は発現してはいるが身体に纏っていた黒い光は消えた。
「いやいや間違いない、君の心の力強さは淀みなく大きい何かがある。新入生でAクラスなんて今までの神徒達ぐらいしか見たこと無いよ。もしかしたら神徒の素質があるのかもな君は! だが、気をつけてくれて学園に来て間もないのに過ぎた力持っていると取り返しのつかない事故にだって繋がる事がある。」
「……! はい、気をつけます。」
過ぎた力による取り返しのつかない事故。
ふと僕は今朝の心の練習風景を思い出した、もしもあの練習が僕の思い通りの物に行かず力が暴走でもしたら手足の一本は簡単に折れ下手をしたら昔みたいに自分の力で死の淵を彷徨う事になっていたかもしれないと。
その一言で瞬と冷静になって思い返したシフォンは、自分のしていた行いがどれほど危険だったのかも知れなかったのかと肝を冷やした。
――僕が、手助けしてなかったら壊れていたよ。――
「えっ?」
「ん? どうしたのかね、まだ何か質問でも?」
「い、いえ、なんでもないです。ありがとうございました。」
何処からか何か声がしたような、でも何を聞いたのだろうか、わからない。
僕は礼をすると講師のいた部屋から出て、しばらく学園の廊下で立ち止まって考えていた。
「今のはなんだったんだろう、確かに声がしたような気がしたんだけど。」
学園の屋上へ空を見に行こうと思った、僕は悩む時や考え事する時は空を見る。
シフォンはすぐに学園への屋上へと向かった。
「ふぅ、風が気持ちいい。空も綺麗だ……それにしても、今日は起きてから何かおかしい。起きてから? 何か違う、夢――そうだ夢を見てからかな?」
何の夢だったのかわからない、でも思い返してみると誰かと話していたような気がする。
さっきだって誰かの声が僕の中に届いたような気が……。
「なんだったんだろう……」
「何が?」
座り込み、空を見上げていた僕の顔の真上からエンゼルさんが顔をひょこりと出した。
彼女から垂れ下がるその白銀の綺麗で長い髪が、僕の頬を撫でて少しくすぐったかった。
「うわっ、エンゼルさん!? お、驚いた。お、おはようございます。」
「うん、おはよう。どうしたの、こんな朝早くから屋上なんて? また何か悩み事や考え事なのかな。」
どうにも彼女には僕の事は何でもお見通しみたいだ。でも、それはすでに彼女が僕が空を見て悩み考える事を知っているからだろう。
「い、いえ、クラスが決まったんで。余韻に浸ろうと空を見に来てたんです。」
「へー、そうなんだ。それでクラス決まったんだ、君。ねぇねぇ、クラスは何だった?」
彼女は僕の隣に座り込みだし身を近づけ興味津々のようだった。微かに漂ってくる彼女の良い香りが、僕を少しだけ緊張させた。
「それが、僕はAクラスらしいんですよ。何かの間違いかと思ったんですけど……」
「あー、やっぱりか私はそんな気がしてたな。だって君って心の力を発現するだけで周囲に力が漏れ出すんでしょ? 私もそうで最初はAクラスになったからね。」
どうやら彼女も初めて学園に訪れ、あの心の力のクラス分けをした時にはAだったようだ。
「ふふーん、私の信徒として、私はとっても鼻が高いかな!」
「あはは、これからもエンゼルさんの信徒として頑張りますよ。」
愛らしい仕草を取る彼女を見て僕は愛おしいと思ってしまう錯覚に陥った。
だが、次の途端に彼女の表情が一転した。
「そういえば、聞いたよ。私のせいで、昨日の寮で問題に巻き込まれたって、その事で君の友達が怪我をしたって。……ごめんね。」
どうやら誰からか人伝に聞いたのだろうか、彼女も寮生なのだから耳に入るのも当たり前かと思った。
「違うんです。僕の他の友達が言っていたのですけどあれは仕方が無かったんですよ、誰のせいでもあったって。それに僕はその巻き込まれた友人と約束したんですよ、こんな事にならないように強くなろうって。」
「ふふっ、そうなんだ、ありがとうね。そっか、強くなるか......でも、そんな事を考えられるなんて君達はもう十分強いのかもね。」
彼女は何かを思い詰める様な表情をして決心したようにこちらに顔を向け直した。
「あのさ、もう巻き込んじゃってから言うのもおかしな事だけど私の問題をちゃんと説明するね。どうして私が周りから良い様に思われて無いのか……」
「えっ、それって神徒で自分勝手な願いって周りから思われてるせいなんじゃないんですか?」
僕が以前聞いた話をそれじゃないかと聞いてみたが、彼女は首を横に振った。
周囲の空気が凄く重たくなるような、緊迫とした時が訪れた気がした。
「あのね、私は元々はこの街で捨て――――」
心に鳴り響く鐘の音、これはこの街に最初に訪れた日に中央の広場で聞いた鐘の音。
そうだ、これは――――――この街が聖域と化し聖戦が開始しされる合図だ。
「まったくもー、何て間の悪い聖戦なんだろう。折角、私が頑張って話そうとしたのに。」
先程とは打って変わって彼女の纏う雰囲気が穏やかになった。
「あっ、ちょうどいいかもね。ねえ、君って強くなるんでしょ! それなら手っ取り早い方法があるよ。」
彼女は立ち上がりこちらへと手を差し伸べてきた。
何か面白いことでも思いついたのだろう、彼女は満面の笑みだ。
「私と一緒に今回の聖戦を戦ってみよっか、私の信徒くん!」
差し伸べられた手に、僕は無意識に手を取り同じく立ち上がった。
こうして僕と君の最初の聖戦の始まりが幕を開けた、僕にとって信徒としての始めての聖戦。
――僕は間違いに気が付けた。なら他の間違いにだって気が付ける。彼女と一緒なら大丈夫だ。――